踏切
踏切(ふみきり)とは鉄道と道路が平面交差する場所。法律上は踏切道という(踏切道改良促進法など)。
目次
1 概要
2 各国の踏切
2.1 日本
2.1.1 踏切の設備
2.1.2 種類
2.1.2.1 第1種
2.1.2.2 第2種
2.1.2.3 第3種
2.1.2.4 第4種
2.1.2.5 事実上の踏切
2.1.3 ケーブルカーの踏切
2.1.4 構内踏切
2.1.5 踏切の位置・数の管理方法
2.1.6 踏切動作反応灯
2.1.7 踏切における道路交通
2.1.8 道路標識
2.1.9 踏切の弊害
2.1.10 併用軌道としての踏切
2.1.11 無踏切の鉄道路線
2.2 ニュージーランド
2.3 台湾
2.4 大韓民国
2.5 インド
2.6 イギリス
2.7 アメリカ合衆国
3 鉄道以外での踏切
4 動物の衝突事故防止用の踏切
5 脚注
6 参考文献
7 関連項目
8 外部リンク
概要
鉄路と道路の交差には平面交差(踏切)と立体交差がある。国によっては地図上に「Over crossing」、「Level crossing」(踏切)、「Under crossing」と区別して表記されていることもある[1]。
日本では列車の通行が優先される構造(遮断機はレールと平行)の踏切がほとんどだが、日本国外では鉄路が遮断される構造(遮断機は道路と平行)の踏切も多く存在する。明治においては日本も同じ構造であった。現在、鉄路が遮断される形態の踏切は、阪神電気鉄道武庫川信号場(武庫川駅至近)から本線へ出る連絡線上にあるものや、東京メトロ銀座線上野検車区入り口付近に設置されているものなどが挙げられる。ただし、いずれも通過は列車優先である。
上野検車区入り口付近にある踏切。通常は線路側が仕切られている。
フル規格新幹線車両の通過する踏切(浜松工場入出庫線)
桑名駅の隣にある踏切。3種の軌間を渡る踏切がある。
列車運行本数が多くない国では、遮断機や警報機がない踏切[2]や、道路ではなく鉄路側が遮断される踏切、時間になると踏切警手が手動で操作するものが多い。また、日本の踏切は警戒色である黄色と黒の縞々のカラーリングがほとんどであるが、外国では白黒のカラーリングや門形の踏切[3]などもある。
各国の踏切
日本
日本の現行法令では、踏切道は踏切保安設備(踏切警報機と遮断機、または踏切警報機のみ)を設けたものでなければならないとされている[4]。ただし、以前から存在するものについてまでその義務を新たに課したものではない[5]。
遮断機が完全に降りてから列車が到達するまでの時間は、日本では標準20秒、最短で15秒と定められている[6]。大手私鉄のほとんどと、JRのATS-P設置路線の一部では、列車選別装置が設置され、列車種別に関わりなく列車の到達時間はこの程度となる。
日本において、踏切道の数は2017年度で33,250か所である[7]。現行法令では踏切の新設は厳しく制限され[8]、連続立体交差事業による鉄道の高架化や地下化などにより、2010年度から2017年度にかけて、一貫して減少傾向にある[7]。
その一方で、踏切が新設される場合もある。阪急電鉄では、2010年12月5日より西宮北口駅8号線上に、駅南側東西の往来を円滑にする目的で新たに踏切を設置した。この8号線は今津線車両の入出庫のみに使用される回送線であり、1日の列車の通過は早朝・夜間・深夜のみで10本にも満たない(2011年時点でのダイヤでは、1日4本のみ)ことから、設置が認められた[9]。また、平成時代に開業した鉄道新線でも、土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線や、井原鉄道井原線には、踏切が設置されている所もある。このほか、可部線において廃線区間の一部を復活させる事業でも、踏切の新設が認められている。
踏切の設備
踏切の主な設備は次の通りである[10]。これらの設備類を総称して「踏切保安装置」と呼ぶ[10]。
- 踏切制御装置
- 設置された列車検知用の軌道回路や列車検知器からの列車検知情報により踏切警報機や遮断機を作動させ、遮断が完了すると遮断反応灯や動作反応灯を点灯させ、踏切障害物検知装置による自動検知や踏切支障報知装置の押しボタンによる手動での操作により踏切支障報知装置を作動させる装置である。装置は主にリレー(継電器)の使用より制御されるが、最近ではコンピューターのマイクロプロセッサの使用により制御される電子踏切制御装置が使用されている。
- 踏切警報機
- 道路を通行する歩行者や車両運転者などに対して踏切の存在を知らせ、列車が接近した場合は音と光で警報して道路交通を停止させる装置[11]。日本の現行法令では踏切には必ず設ける必要がある(ただし前述の通り以前から存在するものまでその義務を新たに課してはいない)。
- 踏切支障報知装置
- 踏切内で非常事態が発生したことを列車の運転士に知らせる装置[12]。操作装置(非常ボタン)、障害物検知装置、現示装置(特殊信号発光機など)から構成される[13]。
- 遮断機
- 列車接近時に道路を遮断するための装置。
- 踏切動作反応灯
- 踏切警報機と遮断機が正常に動作していることを列車に対して知らせるもの[14]。なお、JRグループではこの設備が存在せず、代わりに踏切故障検出器によって自動的に踏切の故障を把握する[14]。
種類
踏切は保安設備により下記に分類される[15]。現在一般的なのは第1種甲である。第3種は第1種甲に転換され数が減ってきている。信号機によって道路交通を規制する踏切は路面電車や比較的運行本数の少ない専用鉄道などで見られる。
国土交通省による2017年度末時点での集計によると、内訳は第1種が2万9801カ所、第2種がゼロ、第3種が723カ所、第4種が2726カ所である[16]。
第1種
自動踏切警報機と自動遮断機を設置するか、踏切保安係を配置して、列車が通る際に道路の交通を遮断機によって遮断するもの[17]。
- 第1種甲:通過する全ての列車または車両に対して、道路を遮断するもの。
- 第1種乙:始発列車から終列車までの時間内の列車または車両に対して、道路を遮断するもの[18]。
第2種
一部の時間帯のみ踏切保安係が遮断機を操作する踏切[17]。つまり、踏切保安係のいない時間帯は第4種と同じになる[17]。遮断機作動の有無を示すため踏切保安係がいる時間が掲示されている。第1種などへの置き換えにより、現在は完全消滅している。1980年には国内に20カ所存在した(国鉄は0)が、1985年には皆無になっていた[19]。
第3種
遮断機はないが踏切警報機が設置されているもの[17]。
第4種
踏切警報機や遮断機が設置されておらず、踏切保安係も配置されていないもの[17]。地方ではローカル線で多く見られるのみならず、列車の速度が高い幹線にも存在し[20]、特に自動車の通行できない小規模の道路に多い。
2018年時点では大手私鉄でも東京急行電鉄(世田谷線の若林踏切)、京成電鉄、名古屋鉄道に1カ所ずつ存在している。2017年時点までは西武鉄道でも第4種踏切が存在していたが、最後まで残っていた第4種踏切は当時休止していた安比奈線の踏切であった。これは休止中の路線であっても国土交通省の書類の記録に存置していたために、第4種踏切の数に安比奈線の分が計上されていたに過ぎず、実質的には西武鉄道での第4種踏切は他の路線を含めて消滅していた。
2000年代までは近畿日本鉄道(近鉄)でも第4種踏切が減少しながらも存在していたが、支線区では路線の他社への譲渡や経営移管の他、踏切の廃止および第1種化で、本線区は踏切の廃止および第1種化で消滅した。踏切を模した木型や「とまれみよ」(近鉄や南海電気鉄道では「とまれ」)との標識などが立てられているのみで、実際に列車が接近していて危険ではないかの判断は通行者の目視等にゆだねられているため、事故が発生しやすい。また、信号機によって道路交通を規制する方式の踏切もこれに分類される(前述「東急世田谷線若林踏切」はこれに該当)。
事実上の踏切
鉄道事業者によって認められた踏切のほかに、小さな路地や畔道、山道などの里道やいわゆる赤道(あかみち)と鉄道線路が交差している場所がある。このような場所は踏切ではなく、本来は一般の人の立ち入りは禁止されており、線路を横切って人が通行することはできないが、実際には近隣の住民が勝手に通行しており、事実上の踏切となっている。一部のメディアではそのような場所を勝手踏切と呼んでいる[21][22][23]。
このような場所の中には、もともと近隣住民が利用していた生活道路が後から建設された線路によって分断された歴史的経緯がある場所もある。鉄道事業者側としてはあくまで線路内立ち入りを黙認しているという扱いで、線路内に立ち入らないよう注意書き看板などを設置している。踏切ではないので踏み板などもないが、鉄道事業者によっては非公認を前提としつつ踏み板を設置した例がある[22][24]。
また、このような場所を正式に踏切にすることは踏切を新設することになり、鉄道技術基準省令39条に抵触する[22][24]。このため、複線化などの改良工事の際に閉鎖されることもある[25]。
2016年(平成28年)11月1日付の『読売新聞』の報道によると、こうした場所が日本全国に於いて、正規に認可された踏切数(取材時点で3万3,432ヵ所)の約6割に相当する約1万9,000ヵ所にも及ぶことが、国土交通省の調べで判明したとしている[24]。
第1種甲踏切(JR西日本片町線 放出街道踏切)
第1種手動踏切(名鉄名古屋本線・神宮前1号踏切):2012年7月1日午前0時をもって廃止済み
第3種踏切(樽見鉄道樽見線 本巣南踏切)
第4種踏切(一畑電車北松江線 秋鹿町駅近くの踏切)
紀州鉄道 学門駅近くの踏切(2009年5月撮影):遮断機や警報機は無く、標識も設置されていないが、踏み板はある
ケーブルカーの踏切
ケーブルカーのうち、近鉄生駒鋼索線と近鉄西信貴鋼索線では踏切が設置されており、中には自動車が走行可能な踏切もある。なお、踏切部分のケーブルは露出したままとなっている。
近鉄生駒鋼索線(山上線)霞ヶ丘1号踏切。
同(宝山寺線)鳥居前3号踏切。普通自動車も通行可能。
構内踏切
鉄道事業者による定義では、停車場構内にある道路と交差する踏切を指す。自動車が通過できる構内踏切も多数存在する。構内にあるため、列車通過以外に過走防護や入換車両のために遮断される回数が多く、開かずの踏切になりやすい特徴を持つ。
地上駅の構内で駅舎やホーム間を行き来するために設けられた通路に存在する警報機などの存在する箇所を(一般的な呼称であり厳密には上記定義に該当しないが)構内踏切、もしくは渡線道・構内通路・旅客通路と称する場合もある。しかしあくまでも道路交通との交点ではなく(したがって踏切ではなく)、運輸局への届け出上では渡線路となっているのが通例である。跨線橋や地下道の整備、駅舎の橋上化や高架化などによって、このような渡線路は減少傾向にある。
また、ホームの設備として“列車がきます”の表示灯と警報音を備え、渡線路を持たない第3種に似たものや、警報機や遮断機がはなく、渡線路のみで構成された第4種に相当するものもあるが、これも構内踏切の一種となっている。
しかし、地方の駅ではバリアフリー化のため京福電気鉄道嵐山線帷子ノ辻駅や伊予鉄道高浜線古町駅、JR九州肥薩線人吉駅、日豊本線川南駅のように構内踏切を復活させた事例[26]もある。
日本国有鉄道が設置した構内踏切においては、駅目の前の道路上の踏切の警報音が列車接近の役目も兼ねている関係上、道路上の踏切よりも警報音が低めに設定されている。これは、JRグループが新規に設置した鉄道駅の一部や、国鉄やJRの路線を引き継いだ第三セクター鉄道の駅にも同様のものがそのまま使われている。
また、東京都区内でも、下町のローカル線等で用いられている場合がある(東武鉄道亀戸線亀戸水神駅など)。
網走駅構内の踏切。構内踏切である旨の注意書きがある(JR北海道石北本線・川向踏切)
渡線路。いわゆる構内踏切(JR北海道石北本線・女満別駅)
京成金町線柴又駅の構内踏切(渡線路)
肥薩線人吉駅に新設された構内踏切
踏切の位置・数の管理方法
以下の3種のいずれかが使用されている。これらの名称または番号は、踏切に記されている事が多い。番号を使う方式の場合、踏切が廃止されても番号は詰められず、欠番のままとなる。また、名前の由来となった事象が消滅した場合(町名変更など)も、基本的に名前の変更は行われない。
- 国鉄とそれを継承したJR各社では始発駅から終着駅まで1・2・3…と番号を割り振る方式が多く、私鉄では東武鉄道にも見られる。このため近年に開業した踏切の少ない路線でない限り番号は増え続け、100位は当たり前、長大路線では1000位も珍しくない。
- 私鉄で番号を割り振る場合、駅を過ぎるごとに番号を1からリセットする方式が多い。例えば始発駅をA駅とすると、A駅1号踏切、A駅2号踏切、A駅3号踏切…次のB駅を通るとB駅1号踏切、B駅2号踏切…という具合である。通称としては、B駅から始発駅方向に数えてB駅逆1号、B駅逆2号という数え方も存在する。A駅から数えて4つ目で、B駅から数えて2つ目の踏切なら、A駅4号踏切だが、通称としてB駅逆2号踏切とも呼ばれることがある。この方式の場合も、後から駅が追加になった場合やホームが移転した場合でも踏切名は基本的に変更されない(A駅とB駅の間にC駅ができても、CB駅間の踏切はA駅○号となる)。また土地区画整理事業などによる道路の付け替えで、既存の踏切間に踏切が新設された場合、枝番号を付けて区別する例もある[27]。
- それぞれの踏切に固有名詞(「中央通り踏切」「住吉踏切」「鈴木家踏切」など)を付けているJR(国鉄)・私鉄の路線も存在する。
踏切動作反応灯
公営・民営鉄道では、1956年に制定された「自動踏切遮断装置の構造基準」において、遮断装置動作反応灯を設けることと規定されており、第1種踏切の遮断機が正常に降下が完了していることを知らせる踏切動作反応灯[28]を設置している。現在は設置義務はなく、JRから経営分離して民鉄となった路線では、新たに設置した会社も設置していない会社も存在する。踏切動作反応灯でも従来の白熱電球に代わり発光ダイオード (LED) が使用されるようになった。
事業者により、その形状も異なる。
- 4本の棒がX字形に点灯するもの
叡山電鉄、西武鉄道以外の関東の大手私鉄、北総鉄道、江ノ島電鉄、箱根登山鉄道、秩父鉄道、流山電鉄、鹿島臨海鉄道、遠州鉄道、JR東海の一部の踏切、西日本鉄道(西鉄)などに設置されている。1960年代初頭頃までは、西武や南海も標準デザインだった。- 白色灯2個が交互に点灯または連続点灯するもの
- 西武鉄道(上下2灯が交互に点滅)、近江鉄道(遮断機鳴動中は下灯点滅、遮断棹閉鎖後に上灯点灯)、近畿日本鉄道(上下2灯が同時点灯)、高松琴平電気鉄道、一部の東武鉄道の踏切(左右の2灯が交互に点灯)
- 白色灯1個がX字状に点灯・点滅するもの
山陽電気鉄道、神戸電鉄、広島電鉄、水間鉄道、京阪電気鉄道
- 白色灯1個が連続点灯するもの
第三セクター鉄道の多くの路線、関東鉄道、銚子電鉄、地方のJR線の一部の踏切・旧国鉄- 白色灯1個が点滅するもの
名古屋鉄道、豊橋鉄道、阪神電気鉄道(○字型に点滅)、阪急電鉄、能勢電鉄
- 白色灯5個が連続点灯するもの
南海電気鉄道、阪堺電気軌道、泉北高速鉄道、和歌山電鐵、京阪電気鉄道
一部の事業者は、特殊信号発光機と一体にしたものもある。
4本の棒がX字形点灯(小田急)
白色灯2個が交互に点灯(西武)
白色灯5個が点灯(南海)
白色灯2個が点灯(近鉄)
踏切における道路交通
日本の道路交通法では、自動車用の信号機付きの踏切(いわゆる踏切信号)で青信号が表示されている場合を除き、踏切の種類や列車の運行時間に関係なく踏切手前での一時停止と左右確認が義務付けられている。遮断機・警報機付きであっても例外でないのは、遮断機や警報機が故障している可能性があるためとされている[29]。また、保線などに使用される保守用車は、信号機や踏切に無用な影響を与えないようにするため絶縁車輪を用いている関係で軌道回路で検知できないため、除雪車等、一部を除き線路上を走行しても遮断機・警報機が作動しないようにしている(詳しくは線路閉鎖、モーターカーを参照)。
道路標識
道路標識のひとつに「踏切あり」という警戒標識がある。1986年(昭和61年)まで蒸気機関車のマークが踏切を意味していたが、観光やイベント目的以外での蒸気機関車牽引列車の営業運転が終了して久しくなったうえ、国鉄分割民営化もあって、同年から電車のマークを表示した新しいデザインの標識に順次取り替えられている。しかしながら蒸気機関車マークの標識もまだ少なからず残っているため、自動車運転に関する教本などでは両方掲載されている。注意を強調するため、「踏切注意」や「注意」の補助標識を付加していることもある。
そのほか、非電化区間の踏切用にパンタグラフを消して気動車を表したものや、踏切を通過する鉄道車両を色つきのイラストで描いたものも存在する。ただし標準として定められたデザインではないため、非電化区間の踏切でも電車デザインの標識が設置されている場合が多い。昭文社発行の道路地図の中で「SiMAP」を採用した一部のシリーズにもこの踏切標識が掲載されているが、非電化線の踏切も電車のマークのデザインで掲載されている。さらに1万分の1・7千分の1・5千分の1の拡大図には、歩行者専用踏切を示すものとして、マークのデザインを電車から人間の足跡に代えたものを掲載されている(ただし、実際にはこのデザインの踏切標識は存在しない)。
「踏切あり」の道路標識(蒸気機関車のデザイン)
「踏切あり」の道路標識(電車のデザイン)
「踏切あり」の道路標識(気動車のデザイン)
踏切の弊害
踏切は鉄道車両と自動車、自転車、歩行者がともに通過・進入して交通が錯綜することから事故が起こりやすく、渋滞の原因ともなる。事故については、列車の接近を認識しながら無理な横断を図った場合以外に、イヤホンで音楽を聴き入っていたことなどによる不注意、歩行や視覚・聴覚に障害があるケースなど様態は様々である。国土交通省によると、第3種・第4種踏切での事故は100カ所あたり0.94件で、第1種の1.4倍に達する。運輸安全委員会は2014年度以降、死亡者が出た踏切事故の全件で現場調査・分析を行っている。その度に報告書で対策を求めているが、第1種への改修は特に中小私鉄やローカル鉄道事業者にとって費用負担が重く、踏切の廃止は上記「事実上の踏切」と同様に周辺住民からの反対が強く、あまり進んでいない[16]。
また特に大都市圏において列車本数や線路数が多い踏切では、朝ラッシュ時など時間帯によっては(ダイヤが乱れた場合も含む)、開いている時間が閉まっている時間よりも短く(1時間に数分しか開いていない踏切もある)、開かずの踏切となってしまっているものもある。そのため、特に交通量の多い箇所を中心に、道路や鉄道の高架化または地下化を目的とした連続立体交差事業によって踏切の除去が進められている。なお、踏切が開いている時間は、列車がわずか数秒遅れる程度でも開かなくなることがある(対向列車及び同一方向の列車間隔が主な理由)ほか、ダイヤが乱れると列車間隔が短くなって開かなくなることもある。この時間は普段は通れるから、と安易な考えでいると実はダイヤが乱れていて、予想外の待ち時間になる場合がある。また、遮断機が故障して上がらなくなることで、道路交通に支障が生じるケースもある[30]
更に、渋滞原因の一つである自動車の踏切一時停止義務も、日本国外では警報機・遮断機つき(国によっては警報機のみの場合も)の場合はほとんど規制されていない[31]ことから、第1種踏切については日本の国会でも廃止すべきか検討されたことがある[32]。しかし、2000年8月9日に秩父鉄道において、落雷により警報機が故障した踏切で電車と踏切に進入した自動車との事故が発生した[33]。踏切信号機を設置した踏切で青信号が表示されている場合は一時停止が不要なため、交通量の多い一部の踏切では踏切信号機を設置し、一時停止義務をなくして交通の円滑化が図られている。だが、これにも弊害があり、踏切部分の道床の劣化が早まってしまう場合がある。福島交通飯坂線平野踏切では、交差する国道13号を重量のある大型車両が絶えず高速で通過するため、想定を超える道床からの打ち返しにより、レールの金属疲労が大きくなり、レールが破断する事態となった。
その上、その踏切が線路の曲線上に存在する場合、カントにより道路側に段差が生ずる。このような線路を複数またぐ踏切ともなれば路面が洗濯板状となってしまう。そのため、例えば『交通バラエティ 日本の歩きかた』で取り上げられたケースにおいては段差を越える際の振動により「自転車のカゴから荷物が落ちる」「積み荷が破損する」、段差そのものにより「自動車の底部や路面に傷ができる」「(開かずの踏切だった場合に急いで通過しようとして)バランスを崩したりローライダーの如くクルマが跳ねたりする」といった弊害が発生していた。
道路法および鉄道に関する技術上の基準を定める省令に道路と鉄道が交差する場合は原則として立体交差としなければならないと定められているため、新幹線[34]や武蔵野線や湖西線など、モータリゼーションによる道路整備が進んだ後に新規に開業した多くの路線では、道路との交差地点は全て立体交差とし、踏切を設けていない。例外的に踏切の新設が認められる場合として、停車場に近接した場所で道路と交差する場合で、立体交差とすることによって道路又は鉄道の効用が著しく阻害される場合などが道路法施行令で定められており、新設路線でも既設路線との接続駅付近に踏切が設置されている場合がある。→立体交差も参照
また、大地震発生時において、地震によって踏切の遮断機が上がらなくなり、避難行動や緊急自動車の走行に支障を生じるケースもあり、東日本大震災や大阪府北部地震などで問題となった。いずれのケースも、鉄道事業者側が設備の安全確認に追われる余り、遮断機を手動で昇降させる要員が足りなかったためとされる[35][36]。
併用軌道としての踏切
特殊な踏切の例として、普通鉄道(路面電車でない鉄道)が併用軌道を走行する際、長大な踏切として扱われるという解説がよく言われるが、実際には鉄道側が運輸局に対して、敷設許可申請[37][38]を行い、それに対しが許可が与えられる。その後、道路管理者の道路占用許可を別途受けている[39]。その道路占用許可は道路法施行令第9条の定めにより10年以内の期限を定めて許可されるため、線路が維持される限り期限の更新を受けている[40]。つまり、併用軌道は長大な踏切などではなく、本項の踏切の分類には該当しない。
なお、併用軌道は走行速度が低く設定されている場合が多く、ダイヤの設定の上で障害にもなっている。さらに道路の交通量が増加し車の渋滞や、車と鉄道車両との接触事故の問題などから、現在では普通鉄道の列車が併用軌道を走る区間はほぼ消滅している。
しかしながら、江ノ島電鉄線、熊本電気鉄道藤崎線では依然としてこの形態が残っている。この両者は当初軌道法で敷設された後、鉄道線に切り替えたためにこの形態となったものである。しかし鉄道事業法では原則併用軌道は認められていないため、この両者は国土交通省の許可を受けた路線となっている(いわゆる「特認」)。なお道路占用許可の関係で10年ごとに申請をし、都度、許可を受けることになる。
無踏切の鉄道路線
JR在来線:湖西線、海峡線、JR東西線、京葉線、武蔵野線、根岸線、大阪環状線、本四備讃線。
私鉄(構造上、道路と同一面で交差しないモノレール、新交通システム、地下鉄を除く)
仙台空港鉄道仙台空港線、東武大師線、西武有楽町線、東急田園都市線、京王相模原線、小田急多摩線、相鉄いずみ野線、首都圏新都市鉄道つくばエクスプレス、名鉄空港線、東海交通事業城北線、横浜高速鉄道みなとみらい線、神戸電鉄公園都市線、神戸電鉄神戸高速線、南海空港線、阪急神戸高速線、阪神神戸高速線など。
ニュージーランド
警報・遮断機は自動、中には警報機だけのものもある。自動車は一時停止なしで通過できる。日本製の遮断機、警報機も存在する。
台湾
遮断棒は自動化されたタイプと踏切警手の扱うタイプが混在している。踏切警手が遮断機の前まで出てくる場合もある。
台湾鉄路管理局の踏切道の数は2017年度で435カ所である。[41]
次の3種に分かれる。
- 第一種:自動踏切警報機と自動遮断機を設置するか、踏切保安係を配置して、列車が通る際に道路の交通を遮断機によって遮断するもの。
- 第二種:一部の時間帯のみ踏切保安係が遮断機を操作する踏切。遮断機作動の有無を示すため踏切保安係がいる時間が掲示されている。
- 第三種甲:自動踏切警報機と自動遮断機を設置する、列車が通る際に道路の交通を遮断機によって遮断するもの。
台湾国鉄は元々、日本統治(台湾総督府)時代に鉄道部によって整備されたため、制度も日本に準じている。ただし、第四種は廃止されている。
警報機の色は黄と黒の縞模様が用いられるが、遮断棒の色は白と赤の縞模様となっている。
大韓民国
次の3種に分かれる。
- 1種:遮断機と警報機、交通安全標識が設置されているか、踏切案内員配置または自動遮断機が設置されている踏切。
- 2種:警報機と安全標識が設置されている踏切。
- 3種:安全標識のみ設置されている踏切。
広域電鉄化を中心とした路線改良などにより近年は一貫して減少傾向にある。2017年現在で韓国国内の踏切は965ヶ所存在し、内訳は1種が867ヶ所、2種が5ヶ所、3種が93ヶ所である[42]。
遮断棒は赤白のカラーリングである。
インド
警報機や遮断棒は自動のものが導入されつつあるが、踏切警手が操作する踏切も多い。地元住民は警報機が鳴り響こうが列車が来るまで平気で遮断機をくぐる光景が度々目撃されている。踏切に接近する列車はその際、警笛を何度も鳴らす。
イギリス
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日本と異なり、軌道側を遮断し車道を通過させる方式になっている。遮断機が上がっている場合、車両は進入してはならない。遮断棒の色は白と黒の縞[43]。
アメリカ合衆国
アメリカでは早くから色灯を組み合わせた警報(警鐘)機が採用されていた。これはウィグワグ (Wigwag)と呼ばれるもので、振り子型のアームの先端に、赤い色灯を組み込んだ白い丸型の標識を取り付け、警報の鳴動と共に左右に振り視認性を確保する構造になっていた。日本ではアメリカ発の映画で度々目にすることが出来た。
蒸気機関車牽引の列車が主流だった頃には問題なかったが、やがて鉄道・自動車の双方が高性能化するにつれ、遮断機がなく視認性も劣るという理由から、日本や欧州と同じく交差した板の標識に交互点滅の色灯を設けた、遮断機つきの警報機へと置換えが進んだ。しかし、一部の市民からは慣れ親しんだウィグワグを擁護する声も大きい。イリノイ州のイリノイ鉄道博物館やカリフォルニア州のオレンジエンパイア鉄道博物館など鉄道車両運行を行っている鉄道博物館の一部では、車輌とともにこのウィグワグも「動態保存」している事例が見受けられる。
日本とは異なり、アメリカではほとんどの州で踏切前の一時停止を義務付けられていない(ただし大型車は徐行して通過する。また州によっては普通車に対しても徐行義務が課せられている)。このため、不用意に一時停止すると追突される恐れすらある。しかし、長距離トラックなどの踏切突破によって事故が起きるケースが増えるなど、問題もある。
アメリカでは踏切に接近するたびごとに長・長・短・長の4回連続で警笛を鳴動させることが多くの鉄道で行われており[44]、歩行者などへの注意喚起に努めている。また、アメリカ型の機関車は伝統的にベルを備えており、現在でも市街地通過時には連続して打ち鳴らしている。
アメリカの道路標識では、踏切があることを知らせるものに限って丸型のものを使用している(「車両進入禁止」も標識のイラストデザイン自体は日本のものに類似した丸型のものだが、アメリカでは四角い看板に丸型のイラストデザインを描いたものになっている)。
鉄道以外での踏切
小規模の飛行場や運河の可動橋でも鉄道用の踏切警報機・遮断機を設置している場合がある。
変わり種としては山口県宇部市にある宇部興産専用道路と一般道路が交差する部分に鉄道用の踏切警報機・遮断機を設置しており、一般車両が専用道路を通過する大型トレーラーを通過待ちする光景が見られる。また、鉄道用の遮断機が設置されているものは、バス専用道路に例がある。
また、道路を遮断する交通機関が鉄道ではない踏切も存在する。ジブラルタル国際空港では、飛行機対道路で踏切が設置されている。かつてはロンドン・ヒースロー空港にも存在したほか[45]、日本国内でも2004年に廃港となった群馬県の大西飛行場には、滑走路中央付近を横断する道路に対して踏切が設置されていた。
かつてロンドン・ヒースロー空港に存在した踏切
ジブラルタル国際空港にある踏切
大西飛行場にあった踏切
動物の衝突事故防止用の踏切
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近畿日本鉄道のシカと列車の衝突事故防止設備[46]。防護ネットの一部に隙間を空け、そこに始発から終電までシカが嫌う超音波を流して線路への侵入を防止し、夜間には横断できる。試験で効果がみられ、今後は設置場所を広げる予定。
脚注
^ 小川裕夫『踏切天国』秀和システム、2010年、90頁
^ 日本でいう第3・4種踏切
^ 警報機は無い。普段は線路が遮断されているが、列車が近づくと道路側に遮断機が動く。
^ 鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年国土交通省令第151号)40条および62条。
^ 下級裁判例 平成20(ワ)8 損害賠償請求事件 (PDF) - 裁判所
^ 鉄道に関する技術上の基準を定める省令62条の解釈基準 - 日本電気鉄道技術協会
- ^ ab“鉄軌道輸送の安全に関わる情報(平成29年度) (PDF)”. 国土交通省鉄道局. p. 37. 2019年1月24日閲覧。
^ 鉄道に関する技術上の基準を定める省令39条、道路法31条、道路法施行令35条による。
^ 阪急今津線高架橋の完成にともない 西宮北口駅 今津方面ゆき 新高架ホームを12月5日(日)より供用開始します (PDF) - 阪急電鉄 2010年11月2日
- ^ ab日本鉄道電気技術協会 2015, p. 142.
^ 日本鉄道電気技術協会 2015, p. 149.
^ 日本鉄道電気技術協会 2015, p. 153.
^ 日本鉄道電気技術協会 2015, pp. 153-155.
- ^ ab日本鉄道電気技術協会 2015, p. 158.
^ 「地方鉄道及び専用鉄道の踏切道保安設備設置標準について」(昭和29年4月27日鉄監第384号鉄道監督局長から陸運局長あて通達)。ただしこの通達には、第1種甲と第1種乙の区別はない。
- ^ ab「遮断機ない踏切 手つかず/安全対策 費用が壁/住民反対 廃止も困難」『読売新聞』朝刊2018年8月18日(社会面)。
- ^ abcde日本鉄道電気技術協会 2015, p. 144.
^ 『鉄道ピクトリアル』No.675 p.50。民営鉄道協会・鉄道用語辞典も参照。
^ 『鉄道ピクトリアル』No.675 p.50。
^ 北海道空知地方の函館本線や新潟県内の羽越本線など。
^ 「勝手踏切」廃止へ 京都・宇治のJR奈良線(京都新聞ニュースHP 2014年05月17日 13時30分)
- ^ abc“放置される「勝手踏切」、危険なのに閉鎖できず正式踏切にも昇格できない理由…あの「江ノ電」は全区間10kmに100カ所超も”. 産経新聞. (2014年4月26日). オリジナルの2015年2月12日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150212064152/http://www.sankei.com/west/news/140426/wst1404260083-n1.html 2014年4月26日閲覧。
^ News Up 日常に潜む危険! 勝手踏切(NHK NEWSWEB)、2016年9月9日。
- ^ abc「勝手踏切」1万9000か所、正規の6割も 読売新聞 2016年11月1日
^ 「勝手踏切」を閉鎖、住民反発「墓参りが大変」 京都(朝日新聞デジタル)、2016年8月10日。
^ エレベーターを設置するよりも構内踏切を設置した方がコストを抑制できる、という理由が大きい。構内踏切になる前は、帷子ノ辻駅と古町駅では地下道、人吉駅と川南駅では跨線橋であった。
^ 西武新宿線の入曽駅〜狭山市駅間の踏切は、入曽1-1号、入曽1-2号、入曽2号の順に並んでいる。
^ 事業者により、踏切合図灯、踏切反応灯など呼称が異なる。
^ 実際に故障していたため踏切事故が発生した事例においても、鉄道事業者側のみならず、自動車の運転者の責任も免れないとされた。
^ JR踏切の遮断機、3時間上がらず…さいたま 読売新聞 2017年1月28日
^ 『クルマの渋滞 アリの行列 -渋滞学が教える「混雑」の真相 -』によると、自動車の踏切一時停止義務を設けているのは日本と韓国のみである(参考…交通安全公団 - 交通安全公団。2010年2月24日から第一種(または第二種)普通免許の運転免許試験の場内試験では一時停止をする必要がなくなった。2011年6月10日からはコースから踏切を廃止。第一種大型免許は従来どおり一時停止が必要。)
^ 『踏切横断「止まらずOKに」 自民有志が法改正検討』- 朝日新聞東京版 2005年2月5日
^ 「熊谷の踏切事故・落雷で遮断機下りず」 - 読売新聞 2000年8月11日
^ ミニ新幹線と浜松工場構内を除く。
^ “地震渋滞 招いた「想定外」 踏切通れず、救急車遅れる”. 日本経済新聞 (日本経済新聞社). (2018年6月21日). オリジナルの2018年6月20日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180620193345/https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32038440R20C18A6AC8000/ 2018年10月27日閲覧。
^ “地震で遮断機下りたまま、救急搬送7分が42分”. 読売新聞 YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2018年6月27日). オリジナルの2018年6月27日時点によるアーカイブ。. http://archive.today/2018.06.27-231614/http://www.yomiuri.co.jp/national/20180627-OYT1T50039.html 2018年10月27日閲覧。
^ 鉄道事業法第61条第1項ただし書きおよび、鉄道線路の道路への敷設の許可手続を定める政令第1条。
^ https://www.mlit.go.jp/onestop/061/images/061-001.pdf
- ^ abhttps://www.hido.or.jp/14gyousei_backnumber/2009data/0906/0906senyouQ&A.pdf
^ 道路と交差する踏切道の場合も同じく道路占用許可を必要とするが、鉄道事業法第61条第1項ただし書きの適用は受けない。[39]
^ 台湾鉄路管理局の踏切道の数(2017年度)
^ 2017 철도통계연보(2017 鉄道統計年報) - 国土交通部・韓国鉄道公社・韓国鉄道施設公団(朝鮮語) 1部 550ページ
^ バージニア・リー・バートン作、村岡花子訳・挿絵『いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう』
^ Trains Magazine. “Whistle signals”. 2016年10月11日閲覧。
^ イカロス出版『月刊エアライン』通巻383号 p.79
^ “シカの「踏切」開発=超音波で接触事故防止―近鉄”. 時事ドットコム. 時事通信社 (2016年8月3日). 2016年8月4日閲覧。
参考文献
- 『信号システムの進歩と発展 = 近年20年の展開と将来展望 =』日本鉄道電気技術協会、2009年。ISBN 978-4-931273-98-6。
- 『鉄道信号』 日本鉄道電気技術協会、2015年1月27日。ISBN 978-4-904691-39-7。
関連項目
- 踏切警報機
- 遮断機
平面交差 (鉄道同士の平面交差や、飛行機と道路の踏み切りも含む)- 信号保安
- 鉄道信号機
- 日本の鉄道信号
- 軌道回路
- 列車選別装置
- 踏切障害事故
- 開かずの踏切
ジブラルタル(対鉄道ではなく、対飛行機の踏切がある例)
大西飛行場(日本唯一の飛行場の踏切があった。現在は閉鎖)
外部リンク
なぜ「必要悪」の踏切が存在するのか――ここにも本音と建前が - Business Media 誠(ITmedia)