和名類聚抄










和名類聚抄


和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)は、平安時代中期に作られた辞書である。承平年間(931年 - 938年)、勤子内親王の求めに応じて源順(みなもとのしたごう)が編纂した。略称は和名抄(わみょうしょう)。




目次






  • 1 概要


  • 2 書誌


  • 3 構成


    • 3.1 十巻本


    • 3.2 二十巻本




  • 4 諸本


    • 4.1 十巻本


      • 4.1.1 写本


      • 4.1.2 版本


      • 4.1.3 校注本




    • 4.2 二十巻本


      • 4.2.1 写本


      • 4.2.2 版本






  • 5 関連項目


  • 6 外部リンク





概要


名詞をまず漢語で類聚し、意味により分類して項目立て、万葉仮名で日本語に対応する名詞の読み(和名・倭名)をつけた上で、漢籍(字書・韻書・博物書)を出典として多数引用しながら説明を加える体裁を取る。今日の国語辞典の他、漢和辞典や百科事典の要素を多分に含んでいるのが特徴。


中国の分類辞典『爾雅』の影響を受けている。当時から漢語の和訓を知るために重宝され、江戸時代の国学発生以降、平安時代以前の語彙・語音を知る資料として、また社会・風俗・制度などを知る史料として日本文学・日本語学・日本史の世界で重要視されている書物である。



書誌


和名類聚抄は「倭名類聚鈔」「倭名類聚抄」とも書かれ、その表記は写本によって一定していない。一般的に「和名抄」「倭名鈔」「倭名抄」と略称される。


巻数は十巻または二十巻で、その内容に大きく異同があるため「十巻本」「二十巻本」として区別され、それぞれの系統の写本が存在する。


狩谷棭斎は、十巻本を底本としている。また、国語学者の亀田次郎は、二十巻本は後人が増補したものとしている。


なお二十巻本は古代律令制における行政区画である国・郡・郷の名称を網羅しており、この点でも基本史料となっている。


[例] 大和国葛下郡神戸郷・山直郷・高額郷・加美郷・蓼田郷・品治(保無智)郷・當麻(多以末)郷


但し、郷名に関しては誤記がないわけではなく、後世の研究によって誤記が判明した事例もある。例として、武蔵国児玉郡の黄田郷が実は草田郷の誤字だったなど。詳しくは、大田部身万呂#草田郷の発見を参照。



構成


本書の構成は大分類である「部」と小分類の「門」より成っており、その構成は十巻本二十巻本によってそれぞれ異なる。



十巻本


24部128門より成り、各部は次の順に配列されている。



  1. 天地部=天文・気象・神霊・水・土石

  2. 人倫部=人間・家族

  3. 形體部=体の各部

  4. 疾病部=病気

  5. 術藝部=武芸・武具

  6. 居處部=住居・道路

  7. 舟車部=船・車

  8. 珍寳部=金銀・玉石

  9. 布帛部=布

  10. 装束部=衣類

  11. 飮食部=食物

  12. 器皿部=器・皿

  13. 燈火部=燈火

  14. 調度部=日用品

  15. 羽族部=鳥

  16. 毛群部=獣一般

  17. 牛馬部=牛・馬

  18. 龍魚部=竜族、および魚類(ワニ、イルカなど含む)

  19. 龜貝部=亀類・海棲動物

  20. 蟲豸部=虫類

  21. 稻穀部=稲・穀物

  22. 菜蔬部=野菜

  23. 果蓏部=果物

  24. 草木部=草木



二十巻本


十巻本に比べ、部の分割・統合・付加、名称や配列の異同があり、32部249門より成っている。


配列は以下の通り。太字で示したものが二十巻本独自の部、もしくは名称の変更されている部である。




  1. 天部=天文・気象


  2. 地部=土石


  3. 水部=水


  4. 歳時部=暦


  5. 鬼神部=神霊

  6. 人倫部=人間


  7. 親戚部=家族

  8. 形體部=身体の各部

  9. 術藝部=武芸・武具


  10. 音樂部=音楽・楽器


  11. 軄官部=官庁・官職名


  12. 國郡部=国名・郡名・郷名

  13. 居處部=住居・道路


  14. 舩部=船


  15. 車部=車

  16. 牛馬部=牛・馬


  17. 寳貨部=金銀・玉石


  18. 香藥部=香

  19. 燈火部=燈火

  20. 布帛部=布

  21. 装束部=衣類

  22. 調度部=日用品

  23. 器皿部=器・皿

  24. 飮食部=食物

  25. 稻穀部=稲・穀類

  26. 果蓏部=果物

  27. 菜蔬部=野菜

  28. 羽族部=鳥類

  29. 毛群部=獣一般


  30. 鱗介部=爬虫類・両生類・魚類・海棲動物

  31. 蟲豸部=虫

  32. 草木部=草木


※「果蓏部」の「蓏」はくさかんむりに「瓜」2つ



諸本


本書には完本・零本(端本)も含めて、数多くの写本が存在する。


また江戸時代には版本の形でも刊行されているが、十巻本は当時写本の形で流布したためほとんど梓に上らず、二十巻本が重点的に刊行された。


以下、影印・複製や直接閲覧により閲覧可能なものを筆写年代・刊行年代順に挙げる。



十巻本


現在、十巻本の本文として最も流布しているのは、狩谷棭斎校注の『箋注倭名類聚抄』である。


ただし、『箋注倭名類聚抄』は下にも書く通り明治時代刊なので、それまでは写本による流布が主であった。


なお、十巻本の写本の中でも「下総本」とそれに連なる系統の本は、他の本と異なる記述を持つなど異質の本である。このため十巻本の写本には、しばしば下総本系の本を参照し、朱でその校異を書き入れているものも少なくない。しかし狩谷はこの下総本の本文を「後世の改竄によるもの」と見なし、「諸本の中で最も劣悪」として認めていない。



写本




  • 真福寺本=鎌倉時代写・巻一~巻二のみ(宝生院大須観音真福寺蔵)

  • 伊勢十巻本=室町時代初期写・巻三~八のみ(神宮文庫蔵)

  • 京本=江戸時代前期写・巻四~六のみ(東京大学国語研究室蔵)


  • 高松宮本=江戸時代前期写・完本(国立歴史民俗博物館蔵)

  • 松井本=江戸時代前期写・完本(静嘉堂文庫蔵)

  • 京一本=江戸時代後期写・巻七~十のみ(東京大学国語研究室蔵)

  • 狩谷棭斎自筆訂本=江戸時代後期写および校訂・完本(国立公文書館(旧内閣文庫)蔵)

  • 前田本=明治時代写・完本(前田尊経閣蔵)


※「下総本」系写本


  • 天文本=江戸時代後期写・完本(東京大学国語研究室蔵)


版本



  • 享和版本=享和元年(1801年)刊・稲葉通邦校訂(底本=真福寺本)

  • 楊守敬刊本=明治29年(1906年)刊・楊守敬校訂(底本=下総本系写本)



校注本


  • 『箋注倭名類聚抄』=文政10年(1827年)成立、明治16年(1883年)刊・狩谷棭斎校訂(底本=京本を諸本で校訂)


二十巻本


現在、二十巻本の本文として最も流布しているのは、那波道円校注の「元和古活字本」である。


ただし、「元和古活字本」は稀覯書で、昭和7年(1932年)に影印復刻されるまではほとんど世に出回らず、代わりに「慶安版本」「寛文版本」が広く用いられ、明治時代初期まで何度も刷を重ねた。


また、写本のうち「高山寺本」は、「國郡部」の後に古代律令制下の駅(うまや)を記しており、他の二十巻本には見られない独自の本文を持つほか、本文の異同も多く、特に「國郡部」を見る際に「元和古活字本」とともに参照される。



写本



  • 高山寺本=平安時代末期写・巻六~十のみ(天理大学附属天理図書館蔵)

  • 伊勢二十巻本=室町時代初期写・巻一~二および巻九~二十のみ(神宮文庫蔵)

  • 大東急本=室町時代中期写・完本(大東急記念文庫蔵)



版本



  • 元和古活字本=元和3年(1617年)刊・那波道円校訂

  • 慶安版本=慶安元年(1648年)刊

  • 寛文版本=寛文11年(1671年)刊



関連項目







  • 植物名彙

  • 水産名彙



外部リンク



  • 下総本系統本 - 早稲田大学図書館

  • 元和古活字本 - 国立国会図書館デジタル化資料

  • 狩谷棭斎旧蔵本 - 早稲田大学図書館

  • 箋注倭名類聚抄 - 近代デジタルライブラリー

  • 和名類聚抄郡名一覧(群馬県立女子大学北川研究室作成)





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