地方交通線
地方交通線(ちほうこうつうせん)とは、国鉄・JRの鉄道路線の分類の一つ。
目次
1 概要
1.1 実態との乖離
2 運賃計算
2.1 JR北海道・JR東日本・JR東海・JR西日本
2.2 JR四国・JR九州
3 営業中の地方交通線一覧
3.1 JR北海道
3.2 JR東日本
3.3 JR東海
3.4 JR西日本
3.5 JR四国
3.6 JR九州
4 経営分離・廃止された路線
4.1 JR北海道
4.2 JR東日本
4.3 JR西日本
5 脚注
6 関連項目
概要
国鉄の末期、「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」(国鉄再建法)に基づいて国鉄の路線は幹線と地方交通線に分類され、異なる運賃を適用することになった。これらの分類のうち、地方交通線は、「幹線鉄道網を形成する営業線として政令で定める基準に該当するものを除いて、その運営の改善のための適切な措置を講じたとしてもなお収支の均衡を確保することが困難であるもの」と定義されている。具体的には、以下のいずれの条件にも当てはまらない路線を指す(日本国有鉄道経営再建促進特別措置法施行令第1条・第2条)。
- 1980年3月末現在で人口10万人以上の都市(=主要都市)を相互に連絡し、旅客営業キロが30kmを超え、すべての隣接駅間の旅客輸送密度(=1977年 - 79年度3年間平均の1日1kmあたりの輸送人員)が4,000人以上である区間を有する線。
- 1.の条件にあてはまる営業線と主要都市とを相互に連絡し、旅客営業キロが30kmを超え、すべての隣接駅間の旅客輸送密度が4,000人以上である区間を有する線。
- 旅客輸送密度が8,000人以上である線。
- 貨物輸送密度(1977年 - 79年度3年間平均の1日1kmあたりの輸送貨物トン数)が4,000t以上である線。
1981年4月、国鉄は175線(10,169.5km)を地方交通線として運輸省に申請し、承認された。さらに、地方交通線の中でも旅客輸送密度4,000人未満の路線は、原則として廃止対象の特定地方交通線に指定された(詳細は該当項目参照)。
従来全線で一律だった国鉄運賃は、幹線と地方交通線とで異なる運賃を適用されることになり、その分類はJRにも引き継がれている。制定以降に開業した路線については、利益予測を元にするなどして幹線・地方交通線の別を決定[1]している。
一般的な月刊冊子型の時刻表に記載されている索引地図では、地方交通線は青の太線で表示されている。
実態との乖離
幹線と地方交通線の分類は1981年の制定以来原則として改訂が行われていないので、秋田新幹線が毎日10数往復するようになった田沢湖線や、青函トンネルを越える高速貨物列車が多数運転される津軽線[2]、閑散区間の廃止が行われた可部線[3]、後に当時の「幹線系線区」となる輸送密度の基準(8,000人/日以上)を上回った武豊線・八高線や東金線などが地方交通線のままになっている。また逆に貨物輸送の実績で幹線に指定されたものの、その後貨物列車が削減された美祢線が幹線のままであるなど輸送実態の変化に合わなくなった事例も生じている。
2016年3月22日以降定期旅客列車の設定がなくなった海峡線は旅客営業規則上は引き続き地方交通線として残されている[4]が、多くの部分で線路を共用する北海道新幹線の奥津軽いまべつ - 木古内には幹線運賃が適用される形となった。
運賃計算
北海道旅客鉄道(JR北海道)・東日本旅客鉄道(JR東日本)・東海旅客鉄道(JR東海)・西日本旅客鉄道(JR西日本)の4社では国鉄時代の運賃計算方法を踏襲しているが、四国旅客鉄道(JR四国)・九州旅客鉄道(JR九州)の2社では1996年1月10日に実施された運賃改定により制度が改められているため、計算方法が異なる。
なお、日本貨物鉄道(JR貨物)では、地方交通線を経由する貨物列車に対して割増の運賃が適用されることはない[5]。
JR北海道・JR東日本・JR東海・JR西日本
幹線用の運賃表と別に地方交通線用の運賃表(概ね幹線の約1割増の額)が用意されている。
地方交通線のみを乗車する場合は地方交通線用の運賃表が適用される。通過連絡運輸により他社線を跨いだ場合でも、乗車するJR線区間が全線地方交通線であれば地方交通線用の運賃表が適用される。
幹線と地方交通線とを乗り継ぐ場合は、地方交通線については営業キロを約1割増した換算キロを用い、これと幹線の営業キロとを合算した運賃計算キロを元に、幹線の運賃表で運賃を求める。ただし、全乗車区間の営業キロが10km以下の場合は営業キロで地方交通線の運賃表を適用する。
- 例:水郡線(JR東日本・地方交通線)常陸津田駅と常磐線(同・幹線)勝田駅の相互発着の場合(水戸駅経由)、常陸津田駅 - 水戸駅間の営業キロは4.1km、と水戸駅 - 勝田駅間の営業キロは5.8kmで合計9.9kmとなるため、地方交通線10km以下の210円となる。水郡線の換算キロ(この場合4.5km)と常磐線の営業キロを足した運賃計算キロ(10.3km、240円)とはならない。
JR東日本・JR東海・JR西日本の本州三社の地方交通線の運賃は同額だが、JR北海道は本州三社より少し高い運賃となる。JR東日本ではICカードを利用して乗車した際は別の運賃が適用される。
JR四国・JR九州
運賃表は単一であり幹線・地方交通線で分かれていない。
地方交通線の運賃計算には営業キロを約1割増した擬制キロを用いる。ただし、乗車区間の擬制キロと営業キロの値によっては、特定運賃が適用される。
幹線と地方交通線とを乗り継ぐ場合は、地方交通線については擬制キロを用い、これと幹線の営業キロとを合算した運賃計算キロを元に、運賃表で運賃を求める。
JR四国とJR九州では運賃が異なる。
営業中の地方交通線一覧
JR北海道
路線名 | 区間 | 営業キロ | 愛称名 | 備考 |
---|---|---|---|---|
宗谷本線 | 旭川 - 稚内 | 259.4km | | 日本最長の地方交通線 |
石北本線 | 新旭川 - 網走 | 234.0km | | |
釧網本線 | 網走 - 東釧路 | 166.2km | | |
富良野線 | 旭川 - 富良野 | 54.8km | | |
留萌本線 | 深川 - 留萌 | 55.1km | | 留萌 - 増毛16.7kmは2016年12月5日廃止。 |
札沼線 | 桑園 - 新十津川 | 76.5km | 学園都市線 | 電化区間の桑園 - 北海道医療大学間に限れば輸送密度は1万7023人(2013年)と可部線に匹敵する[6] |
日高本線 | 苫小牧 - 様似 | 146.5km | | |
海峡線 | 中小国 - 木古内 | 87.8km | 津軽海峡線 | 国鉄分割民営化以後に開業。2016年3月26日の北海道新幹線開業後も、旅客営業規則上は地方交通線として存続している[4]。 |
JR東日本
路線名 | 区間 | 営業キロ | 愛称名 | 備考 |
---|---|---|---|---|
津軽線 | 青森 - 三厩 | 55.8km | | 1988年3月の海峡線開通から2016年3月の北海道新幹線開業までは、青森-中小国間に「津軽海峡線」の愛称が設定された。 |
大湊線 | 野辺地 - 大湊 | 58.4km | はまなすベイライン大湊線 | |
五能線 | 東能代 - 川部 | 147.2km | | |
男鹿線 | 追分 - 男鹿 | 26.6km | 男鹿なまはげライン | |
花輪線 | 好摩 - 大館 | 106.9km | 十和田八幡平四季彩ライン | |
八戸線 | 八戸 - 久慈 | 64.9km | うみねこレール八戸市内線(八戸 - 鮫間) | |
山田線 | 盛岡 - 釜石 | 157.5km | | 東日本大震災で被災した宮古 - 釜石間は、復旧後に三陸鉄道へ移管予定 |
田沢湖線 | 盛岡 - 大曲 | 75.6km | | 秋田新幹線の一部区間としても使用 |
北上線 | 北上 - 横手 | 61.1km | | |
釜石線 | 花巻 - 釜石 | 90.2km | 銀河ドリームライン釜石線 | |
気仙沼線 | 前谷地 - 気仙沼 | 72.8km | | 東日本大震災で被災した柳津 - 気仙沼間は、BRTで復旧・運行している。 |
大船渡線 | 一ノ関 - 盛 | 105.7km | ドラゴンレール大船渡線 | 東日本大震災で被災した気仙沼 - 盛間は、BRTで復旧・運行している。 |
石巻線 | 小牛田 - 女川 | 44.9km | | |
陸羽東線 | 小牛田 - 新庄 | 94.1km | 奥の細道湯けむりライン | |
陸羽西線 | 新庄 - 余目 | 43.0km | 奥の細道最上川ライン | |
米坂線 | 米沢 - 坂町 | 90.7km | | |
左沢線 | 北山形 - 左沢 | 24.3km | フルーツライン左沢線 | |
磐越東線 | いわき - 郡山 | 85.6km | ゆうゆうあぶくまライン | |
水郡線 | 水戸 - 安積永盛 | 137.5km | 奥久慈清流ライン | |
上菅谷 - 常陸大田 | 9.5km | | | |
烏山線 | 宝積寺 - 烏山 | 20.4km | | |
日光線 | 宇都宮 - 日光 | 40.5km | | |
鹿島線 | 香取 - 鹿島サッカースタジアム | 17.4km | | |
東金線 | 大網 - 成東 | 13.8km | | |
久留里線 | 木更津 - 上総亀山 | 32.2km | | |
八高線 | 八王子 - 倉賀野 | 92.0km | | 電化区間(八王子-高麗川)については、輸送密度が20,610人/日である。[7] |
吾妻線 | 渋川 - 大前 | 55.6km | | |
只見線 | 会津若松 - 小出 | 135.2km | | |
越後線 | 柏崎 - 新潟 | 83.8km | | |
弥彦線 | 弥彦 - 東三条 | 17.4km | | |
飯山線 | 豊野 - 越後川口 | 96.7km | | |
小海線 | 小淵沢 - 小諸 | 78.9km | 八ヶ岳高原線 | |
大糸線 | 松本 - 南小谷 | 70.1km | | 南小谷 - 糸魚川間はJR西日本管内 |
JR東海
路線名 | 区間 | 営業キロ | 愛称名 | 備考 |
---|---|---|---|---|
身延線 | 富士 - 甲府 | 88.4km | | |
飯田線 | 豊橋 - 辰野 | 195.8km | | |
武豊線 | 武豊 - 大府 | 19.3km | | 2008年(平成20年)度現在、地方交通線では輸送密度が2番目に高い[8] |
太多線 | 多治見 - 美濃太田 | 17.8km | | |
高山本線 | 岐阜 - 猪谷 | 189.2km | | 猪谷 - 富山間はJR西日本管内 |
名松線 | 松阪 - 伊勢奥津 | 43.5km | | |
参宮線 | 多気 - 鳥羽 | 29.1km | | |
JR西日本
路線名 | 区間 | 営業キロ | 愛称名 | 備考 |
---|---|---|---|---|
大糸線 | 南小谷 - 糸魚川 | 35.3km | | 松本 - 南小谷間はJR東日本管内 |
高山本線 | 猪谷 - 富山 | 36.6km | | 岐阜 - 猪谷間はJR東海管内 |
氷見線 | 高岡 - 氷見 | 16.5km | | |
城端線 | 高岡 - 城端 | 29.9km | | |
七尾線 | 津幡 - 和倉温泉 | 59.5km | | 和倉温泉 - 穴水間28.0kmは1991年9月にのと鉄道に運営移管(JRは第三種鉄道事業者)。 穴水 - 輪島間20.4kmは、1991年9月にのと鉄道に運営移管(JRは第三種鉄道事業者)後、2001年4月1日廃止 |
越美北線 | 越前花堂 - 九頭竜湖 | 52.5km | 九頭竜線 | |
小浜線 | 東舞鶴 - 敦賀 | 84.3km | | |
舞鶴線 | 綾部 - 東舞鶴 | 26.4km | | |
桜井線 | 高田 - 奈良 | 29.4km | 万葉まほろば線 | |
和歌山線 | 王寺 - 和歌山 | 87.9km | | |
加古川線 | 加古川 - 谷川 | 48.5km | | |
播但線 | 姫路 - 和田山 | 65.7km | | |
因美線 | 東津山 - 鳥取 | 70.8km | | |
姫新線 | 姫路 - 新見 | 158.1km | | |
赤穂線 | 相生 - 東岡山 | 57.4km | | |
津山線 | 津山 - 岡山 | 58.7km | | |
吉備線 | 岡山 - 総社 | 20.4km | 桃太郎線 | |
福塩線 | 福山 - 塩町 | 78.0km | | |
芸備線 | 備中神代 - 広島 | 159.1km | | |
木次線 | 宍道 - 備後落合 | 81.9km | | |
境線 | 米子 - 境港 | 17.9km | | |
可部線 | 横川 - あき亀山 | 15.6km | | 非電化区間(可部 - 三段峡間46.2km)は2003年に廃止。そのうち、可部 - あき亀山(旧河戸付近)間1.6kmは電化の上2017年3月4日に復活した。 2008年(平成20年)度現在、地方交通線では輸送密度が日本一[3][8] |
岩徳線 | 岩国 - 櫛ヶ浜 | 43.7km | | |
山口線 | 新山口 - 益田 | 93.9km | | |
小野田線 | 居能 - 小野田 | 11.6km | | |
雀田 - 長門本山 | 2.3km | | |
JR四国
路線名 | 区間 | 営業キロ | 愛称名 | 備考 |
---|---|---|---|---|
鳴門線 | 池谷 - 鳴門 | 8.5km | | |
牟岐線 | 徳島 - 海部 | 79.3km | 阿波室戸シーサイドライン | |
徳島線 | 佐古 - 佃 | 67.5km | よしの川ブルーライン | |
予土線 | 若井 - 北宇和島 | 76.3km | しまんとグリーンライン | |
内子線 | 内子 - 新谷 | 5.3km | | |
JR九州
路線名 | 区間 | 営業キロ | 愛称名 | 備考 |
---|---|---|---|---|
日田彦山線 | 城野 - 夜明 | 68.7km | | |
後藤寺線 | 新飯塚 - 田川後藤寺 | 13.3km | | |
筑豊本線 | 若松 - 原田 | 66.1km | 若松線(若松 - 折尾間) 福北ゆたか線(折尾 - 桂川間) 原田線(桂川 - 原田間) | |
香椎線 | 西戸崎 - 宇美 | 25.4km | 海の中道線(西戸崎 - 香椎間) | |
唐津線 | 久保田 - 西唐津 | 42.5km | | |
大村線 | 早岐 - 諫早 | 47.6km | | |
久大本線 | 久留米 - 大分 | 141.5km | ゆふ高原線 | |
豊肥本線 | 熊本 - 大分 | 148.0km | 阿蘇高原線 | 電化区間(熊本-肥後大津)に限れば輸送密度は10,655人で、 |
三角線 | 宇土 - 三角 | 25.6km | あまくさみすみ線 | |
肥薩線 | 八代 - 隼人 | 124.2km | えびの高原線(八代 - 吉松間) | |
吉都線 | 都城 - 吉松 | 61.6km | えびの高原線 | |
日南線 | 南宮崎 - 志布志 | 88.9km | | |
指宿枕崎線 | 鹿児島中央 - 枕崎 | 87.9km | | |
経営分離・廃止された路線
※特定地方交通線は除外(該当項目を参照)。また、存続路線の部分廃止区間は一覧の備考欄を参照。
JR北海道
深名線:1995年9月4日廃止
江差線
木古内 - 江差:2014年5月12日廃止
五稜郭 - 木古内:2016年3月26日道南いさりび鉄道に移管。1988年3月の海峡線開通から移管までは「津軽海峡線」の愛称を設定。
JR東日本
岩泉線:2014年4月1日廃止(2010年7月31日より災害により全線運休)
JR西日本
富山港線:2006年3月1日廃止後、同年4月29日より富山ライトレールが運行(一部区間は経路変更)
三江線:2018年4月1日廃止
脚注
^ 例として、1988年開業の瀬戸大橋を渡る本四備讃線が幹線に分類された一方、青函トンネルを通る海峡線は地方交通線に分類されている。また、1986年に内子線を挟む形で開通した向井原 - 内子間および新谷 - 伊予大洲間は予讃線として幹線に分類された。
^ 江差線の五稜郭 - 木古内間も、2016年3月の経営分離までは同様であった。
- ^ ab現存区間の輸送密度は地方交通線で唯一10,000人/日を超える(データでみるJR西日本p58)。
- ^ ab別表第1号(第3条) 地方交通線の線名及び区間 (PDF) - 旅客営業規則(東海旅客鉄道ウェブサイト)2016年4月2日閲覧
^ 『2016貨物時刻表』、公益社団法人鉄道貨物協会、2016年3月、208 - 210頁。貨物運賃計算で使うキロ程は旅客運賃の営業キロと同じであり、割増された換算キロ・擬制キロは使用していない。
^ “平成26年3月期決算について” (PDF) (プレスリリース), 北海道旅客鉄道, (2014年5月9日), http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2014/140509-1.pdf 2014年9月17日閲覧。
^ “路線別ご利用状況(2013~2017年度) (PDF)”. 東日本旅客鉄道株式会社. 2018年9月15日閲覧。
- ^ ab沿線人口が鉄道の輸送量に及ぼす影響と各路線の集客能力の指標 (PDF) pp.3 - 4 - 高知工科大学工学部社会システム工学科
^ “路線別ご利用状況 (PDF)”. 九州旅客鉄道. 2017年12月9日閲覧。
関連項目
- ローカル線
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