双曲線関数
数学において、双曲線関数(そうきょくせんかんすう、英: hyperbolic function)とは、三角関数と類似の関数で、標準形の双曲線を媒介変数表示するときなどに現れる。
目次
1 概要
2 定義
3 双曲線関数の性質
3.1 基本性質
3.2 加法定理
3.3 微分公式
3.4 冪級数展開
4 無限乗積展開
5 三角関数との関係
6 逆双曲線関数
6.1 微分公式
7 関連項目
8 外部リンク
概要
三角関数は単位円周を用いて定義することができる。
- 以下、説明を簡単にするために第一象限(x ≧ 0、かつ、y ≧ 0)の話に限る。
単位円周上の点 A (cos θ, sin θ) と x 軸上の点 B (1, 0)、原点 O を考える。線分 AO、 BO と弧 AB によって囲まれた領域の面積は θ/2 である。
この性質を用いて逆に三角関数を定義することもできる。すなわち、単位円周上の点 A と x 軸上の点 B (1, 0)、 を取り、線分 AO、BO と弧 AB によって囲まれた領域の面積が θ/2 であるとき、 A の座標を (cos θ, sin θ) として、三角関数を定義することができる。
単位円の定義式は
- x2+y2=1{displaystyle x^{2}+y^{2}=1}
であり、標準形の双曲線の定義式は y2 の符号を変えただけの
- x2−y2=1{displaystyle x^{2}-y^{2}=1}
である。単位円の面積で三角関数を定義したのと同じように双曲線を用いて双曲線関数を定義することができる。
標準形の双曲線上の点 A と x 軸上の点 B (1, 0) を取り、線分 AO、BO と双曲線の囲む領域の面積が θ/2 であるとき、 A の座標を (cosh θ, sinh θ) として、双曲線関数 cosh, sinh が定義される。
ちなみに、三角関数の定義に現れた θ は、弧度法における角度に対応していたが、双曲線関数では角度には対応しない。
このように三角関数と双曲線関数は非常に似通った関数として定義され、いろいろな場面でその類似性が現れる。定義に双曲線を用いる関数を双曲線関数と呼ぶことにあわせて、定義に単位円を用いる三角関数の事を円関数 (circular function) と呼ぶこともある。
定義
双曲線関数は指数関数 ex を用いて
- sinhx=ex−e−x2,coshx=ex+e−x2{displaystyle operatorname {sinh} x={e^{x}-e^{-x} over 2},;operatorname {cosh} x={e^{x}+e^{-x} over 2}}
と定義される。sinh, cosh をそれぞれ双曲線正弦関数 (hyperbolic sine; ハイパボリックサイン)、双曲線余弦関数 (hyperbolic cosine; ハイパボリックコサイン) と呼ぶ。他にも三角関数との類似で双曲線正接・余接関数
- tanhx=sinhxcoshx,cothx=1tanhx{displaystyle operatorname {tanh} x={operatorname {sinh} x over operatorname {cosh} x},;operatorname {coth} x={1 over operatorname {tanh} x}}
や、双曲線正割・余割関数
- sechx=1coshx,cosechx=1sinhx{displaystyle operatorname {sech} x={1 over operatorname {cosh} x},;operatorname {cosech} x={1 over operatorname {sinh} x}}
も定義できる。また、例えば cosh を cos hyp や cos{displaystyle {mathfrak {cos}}} などと表すこともあり cosech は長いので csch と書くこともある。
このように定義された、双曲線正弦関数、双曲線余弦関数、双曲線正接関数、双曲線余接関数、双曲線正割関数、双曲線余割関数を総称して双曲線関数という。
指数関数 ex は x を複素変数に拡張できるので、指数関数で定義されている双曲線関数自体も x を複素変数にとってもよい。
双曲線関数はいずれも名称が長いため、読むときは省略されて、sinh はシャインあるいはシンチ、cosh はコッシュあるいはコシャインとも読まれる。
双曲線関数の性質
基本性質
指数関数を偶関数の部分と奇関数の部分に分けた時、
- ex=coshx+sinhxe−x=coshx−sinhx{displaystyle {begin{aligned}e^{x}&=cosh x+sinh x\e^{-x}&=cosh x-sinh xend{aligned}}}
となり、偶関数部分が cosh x で、奇関数部分が sinh x であることが分かる。
また (cosh x, sinh x) は、双曲線 x2 − y2 = 1 上の点であり
cosh2x−sinh2x=1{displaystyle cosh ^{2}x-sinh ^{2}x=1}
加法定理
三角関数の場合と同様に次の加法定理が成立する。
- sinh(α+β)=sinhαcoshβ+coshαsinhβsinh(α−β)=sinhαcoshβ−coshαsinhβcosh(α+β)=coshαcoshβ+sinhαsinhβcosh(α−β)=coshαcoshβ−sinhαsinhβtanh(α+β)=tanhα+tanhβ1+tanhαtanhβ{displaystyle {begin{aligned}sinh(alpha +beta )&=sinh alpha cosh beta +cosh alpha sinh beta \sinh(alpha -beta )&=sinh alpha cosh beta -cosh alpha sinh beta \cosh(alpha +beta )&=cosh alpha cosh beta +sinh alpha sinh beta \cosh(alpha -beta )&=cosh alpha cosh beta -sinh alpha sinh beta \tanh(alpha +beta )&={frac {tanh alpha +tanh beta }{1+tanh alpha tanh beta }}end{aligned}}}
微分公式
- ddxsinhx=coshxddxcoshx=sinhxddxtanhx=1−tanh2x=sech2x=1cosh2xddxcothx=1−coth2x=−csch2x=−1sinh2xddxcschx=−cothxcschxddxsechx=−tanhxsechx{displaystyle {begin{aligned}{frac {mathrm {d} }{mathrm {d} x}}sinh x&=cosh x\{frac {mathrm {d} }{mathrm {d} x}}cosh x&=sinh x\{frac {mathrm {d} }{mathrm {d} x}}tanh x&=1-tanh ^{2}x=operatorname {sech} ^{2}x={frac {1}{cosh ^{2}x}}\{frac {mathrm {d} }{mathrm {d} x}}coth x&=1-coth ^{2}x=-operatorname {csch} ^{2}x=-{frac {1}{sinh ^{2}x}}\{frac {mathrm {d} }{mathrm {d} x}}operatorname {csch} x&=-coth xoperatorname {csch} x\{frac {mathrm {d} }{mathrm {d} x}}operatorname {sech} x&=-tanh xoperatorname {sech} xend{aligned}}}
したがって、 sinh x と cosh x はいずれも二階の線型微分方程式
- d2dx2y(x)=y(x){displaystyle {{rm {d}}^{2} over {rm {d}}x^{2}}y(x)=y(x)}
の解であり、この微分方程式の基本解系の一つになる。
冪級数展開
双曲線関数のテイラー展開あるいはローラン展開は、以下の式で与えられる。ただし、Bn, En はそれぞれベルヌーイ数 (B2 = 1/6, B4 = −1/30, …)、オイラー数 (E0 = 1, E2 = −1, …) である。
- sinhx=∑n=0∞x2n+1(2n+1)!=x+x33!+x55!+x77!+⋯coshx=∑n=0∞x2n(2n)!=1+x22!+x44!+x66!+⋯tanhx=∑n=1∞22n(22n−1)B2nx2n−1(2n)!=x−x33+2x515−17x7315+⋯,|x|<π2cschx=1x+∑n=1∞2(1−22n−1)B2nx2n−1(2n)!=1x−x6+7x3360−31x515120+⋯,0<|x|<πsechx=∑n=0∞E2nx2n(2n)!=1−x22+5x424−61x6720+⋯,|x|<π2cothx=1x+∑n=1∞22nB2nx2n−1(2n)!=1x+x3−x345+2x5945+⋯,0<|x|<π{displaystyle {begin{aligned}sinh x&=sum _{n=0}^{infty }{frac {x^{2n+1}}{(2n+1)!}}=x+{frac {x^{3}}{3!}}+{frac {x^{5}}{5!}}+{frac {x^{7}}{7!}}+dotsb \[1ex]cosh x&=sum _{n=0}^{infty }{x^{2n} over (2n)!}=1+{frac {x^{2}}{2!}}+{frac {x^{4}}{4!}}+{frac {x^{6}}{6!}}+dotsb \[1ex]tanh x&=sum _{n=1}^{infty }{frac {2^{2n}(2^{2n}-1)B_{2n}x^{2n-1}}{(2n)!}}=x-{frac {x^{3}}{3}}+{frac {2x^{5}}{15}}-{frac {17x^{7}}{315}}+dotsb ,quad |x|<{frac {pi }{2}}\[1ex]operatorname {csch} x&={frac {1}{x}}+sum _{n=1}^{infty }{frac {2(1-2^{2n-1})B_{2n}x^{2n-1}}{(2n)!}}={frac {1}{x}}-{frac {x}{6}}+{frac {7x^{3}}{360}}-{frac {31x^{5}}{15120}}+dotsb ,quad 0<|x|<pi \[1ex]operatorname {sech} x&=sum _{n=0}^{infty }{frac {E_{2n}x^{2n}}{(2n)!}}=1-{frac {x^{2}}{2}}+{frac {5x^{4}}{24}}-{frac {61x^{6}}{720}}+dotsb ,quad |x|<{frac {pi }{2}}\[1ex]coth x&={frac {1}{x}}+sum _{n=1}^{infty }{frac {2^{2n}B_{2n}x^{2n-1}}{(2n)!}}={frac {1}{x}}+{frac {x}{3}}-{frac {x^{3}}{45}}+{frac {2x^{5}}{945}}+dotsb ,quad 0<|x|<pi end{aligned}}}
無限乗積展開
双曲線関数は以下に示す無限乗積に展開される。(→証明)
- sinh(πz)=πz∏n=1∞(1+z2n2)cosh(πz)=∏n=1∞(1+z2(n−1/2)2){displaystyle {begin{aligned}sinh(pi z)&=pi zprod _{n=1}^{infty }left(1+{frac {z^{2}}{n^{2}}}right)\cosh(pi z)&=prod _{n=1}^{infty }left(1+{frac {z^{2}}{(n-1/2)^{2}}}right)end{aligned}}}
三角関数との関係
複素変数で定義された三角関数と双曲線関数を比べてみると
- sinhx=−isin(ix)coshx=cos(ix){displaystyle {begin{aligned}sinh x&=-isin(ix)\cosh x&=cos(ix)end{aligned}}}
という関係にある。
これは、それぞれの指数関数による表現を比べても分かるし、テイラー展開を比べても分かる。
逆双曲線関数
双曲線関数が指数関数で表せるように、その逆関数である逆双曲線関数は対数関数を用いて表示することができる。等式 x = sinh y や x = cosh y などを考えれば、これらは ey に関する二次方程式であるから解くことができて、次の表示を得る。
- sinh−1x=log(x+x2+1)cosh−1x=log(x±x2−1)tanh−1x=12log1+x1−x{displaystyle {begin{aligned}sinh ^{-1}x&=log left(x+{sqrt {x^{2}+1}}right)\cosh ^{-1}x&=log left(xpm {sqrt {x^{2}-1}}right)\tanh ^{-1}x&={frac {1}{2}}log {frac {1+x}{1-x}}end{aligned}}}
逆関数 sinh−1, cosh−1 などはそれぞれ area sin hyp, area cos hyp (area は「面積」の意)もしくはそれを略して ar sinh, ar cosh と書いたり、逆三角関数と同様に arcsinh, arccosh などと書いたりすることもある。
微分公式
- ddxsinh−1x=1x2+1ddxcosh−1x=1x2−1ddxtanh−1x=11−x2{displaystyle {begin{aligned}{frac {mathrm {d} }{mathrm {d} x}}sinh ^{-1}x&={frac {1}{sqrt {x^{2}+1}}}\{frac {mathrm {d} }{mathrm {d} x}}cosh ^{-1}x&={frac {1}{sqrt {x^{2}-1}}}\{frac {mathrm {d} }{mathrm {d} x}}tanh ^{-1}x&={frac {1}{1-x^{2}}}end{aligned}}}
このことから、(1−x2)1/2 を含む有理関数の原始関数を求めるために x = sin t などと三角関数を用いた置換積分を考えると有用である場合が多いのと同様に、(x2+1)1/2 を含む有理関数の積分に双曲線関数を用いた置換積分を考えることは有用であることが多い。
arcsinh のグラフ
arccosh のグラフ
arctanh のグラフ
関連項目
- 三角関数
- 媒介変数
- 指数関数
カテナリー曲線 - cosh
シグモイド関数、ロジスティック関数 - tanh
双曲線正割分布 - sech
グーデルマン関数 - 双曲線関数と三角関数の組合せ
外部リンク
- Weisstein, Eric W. "Hyperbolic functions". MathWorld(英語). CS1 maint: Multiple names: authors list