航空母艦
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航空母艦(こうくうぼかん、英: aircraft carrier)は、航空機を多数搭載し、海上における航空基地の役割を果たす軍艦[1]。略称は空母(くうぼ)。
1921年のワシントン軍縮会議では、「水上艦船であって専ら航空機を搭載する目的を以って計画され、航空機はその艦上から出発し、又その艦上に降着し得るように整備され、基本排水量が1万トンを超えるものを航空母艦という」と空母を定義している[2]。1930年のロンドン海軍軍縮条約で基本排水量1万トン未満も空母に含まれることになった[3]。
目次
1 種類
2 特徴
2.1 戦略
2.2 構造
3 歴史
3.1 第二次世界大戦以前
3.2 第二次世界大戦
3.3 冷戦
3.3.1 アメリカ
3.3.2 アメリカ以外
3.4 冷戦後
4 現役の空母
5 脚注
5.1 注釈
5.2 出典
6 参考文献
7 関連項目
種類
- 満載排水量による分類
- 大型空母 (large aircraft carrier, CVB)
- 満載排水量5万トン以上の空母[4]。
軽空母 (light aircraft carrier , CVL)- 満載排水量2万トン以下の空母[5]。
- 設計による分類
正規空母 (aircraft carrier, multi-purpose aircraft carrier , CV)- 最初から空母として設計、建造された空母。日本海軍で用いられた分類。
改造空母(特設空母)- 空母以外の艦船を改造して空母にしたもの。
MACシップ(Merchant aircraft carrier 商船空母)、護衛空母
- 商船に飛行甲板を設けた艦船。日本海軍では護衛空母という名前で分類した[6]。日本陸軍でも全通式の飛行甲板を備えたタンカーの特TL型がある。
原子力空母 (nuclear-powered aircraft carrier, multi-purpose aircraft carrier (Nuclear-Propulsion) , CVN)
原子力船の空母。
- 役割による分類
護衛空母 (escort aircraft carrier , CVE)- 商船を敵潜水艦から護衛するための小型空母[7]。
- 対潜空母
- 対潜機を主に搭載する空母[8]。
- 攻撃空母
攻撃機を主力として搭載する空母[9]。
ヘリ空母(helicopter carrier , CVH)、ヘリコプター搭載護衛艦- 複数のヘリコプターを搭載し、それを離着させられる飛行甲板や格納庫などを備えた航空母艦[10]。ヘリ空母という名前は強襲揚陸艦や複数のヘリコプターを搭載する艦を指して使われることもあるが、これは新聞社やテレビ局が便宜上使用している名称である[11]。
- 類似する艦船
- 航空巡洋艦、重航空巡洋艦
- 空母の航行を禁止している海峡を通行するためにロシアが使用している空母の艦種名[12]。1936年締結されたボスポラス海峡とダーダネルス海峡の航空母艦通過禁止を定めたモントルー条約に対する政治的処置である。ソビエト連邦のキエフ級および「アドミラル・クズネツォフ」の公式分類。
- また、後半分を水上機母艦に部分改装された日本海軍の重巡洋艦「最上」も航空巡洋艦と呼ばれることがある。
- 水上機母艦
- 水上機を搭載し、その行動基地としての役割を持つ軍艦。水上機以外を搭載する航空母艦が登場する前の第一次世界大戦当時、航空母艦とは水上機母艦を指すのが一般的であった[13]。
強襲揚陸艦 (amphibious assault ship , Landing Helicopter Assault, LHA)- 全通飛行甲板を持ち、航空機を運用できる揚陸艦。搭載する主力が航空機ではなく、上陸する兵員であるため、空母とは呼ばない[14]。
- 航空戦艦
- 航空機の発艦を可能した戦艦。日本海軍の「伊勢」、「日向」がこれに改装された。艦尾の主砲2基を撤去して、その跡に格納庫とカタパルト2機を装備したが飛行甲板は持たず、攻撃機の発艦のみを行い着艦は行なわず、他の空母か陸上基地への着艦・着陸が前提であった。
- 潜水空母
- 日本海軍の伊四百型潜水艦の俗称。特殊攻撃機「晴嵐」3機を搭載できる潜水艦。
特徴
戦略
空母は第二次世界大戦で艦隊の主力艦としての地位を確立し、機動部隊等の中枢として活躍した。大戦後の核兵器、ミサイル、原子力潜水艦等の出現で空母の脆弱性、存在価値が議論されたが、海上作戦の実施には依然として各種航空兵力が必須であり、海洋のどこにでも進出できる機動性、通常戦や核戦争から平時におけるプレゼンスに至る様々な場面に対処できる柔軟性と、空母の防御力強化などによって海軍力の中心的存在の地位を保持している[15]。
空母の攻撃力の大半は空母そのものの性能ではなく、搭載する航空戦力の規模や力量に左右される[16]。攻撃の目的は主に、自国軍の陸上兵力の支援と攻撃してきた勢力の軍事施設などに爆撃する報復攻撃がある[17]。高度な電子頭脳を持ち、自動航行装置で長距離を飛行し、正確に目標に命中する小型高速ジェット機の「トマホーク巡航ミサイル」の出現によって、空母とその艦載機の戦術は、最初に巡航ミサイルで敵防空施設、対空装備を破壊し、対空脅威のなくなった後、艦載機が命中精度の優れた大威力の高性能爆弾を投下し、敵の重要施設や拠点を破壊する方法に変わった。これは偵察衛星、無人航空機による偵察活動と連携して行われる[18]。
アメリカが運用する空母打撃群の最大の役目は、制海権の獲得と保持にあり、その任務は、経済航路・軍事航路の防護、海兵水陸両用部隊の防護(進出から作戦地域内まで)、国家的関心地域におけるプレゼンスの構築の3点に集約される[19]。空母打撃群内での大型空母の任務は、示威行動、空中・海上・陸地に対する広域の攻撃力にある[20]。
空母打撃群の搭載機の役割には次のようなものがある。地上・対艦攻撃のため、防御システムを有する敵地や敵艦隊へ接近・侵攻し攻撃する能力を有するF/A-18C/D ホーネットまたはF/A-18E/F スーパーホーネット戦闘攻撃機。これらは対空戦のため、自部隊に接近する敵航空機を捕捉し撃墜する能力も有する。地上・対艦攻撃を効果的に行うために敵のレーダーや通信を無力化する能力を有するEA-6B プラウラー電子戦機。上空警戒・航空管制のため、高性能レーダーを有する航空機を艦隊上空や攻撃部隊の後方に飛ばして、空域の警戒と航空管制を行うE-2C ホークアイ早期警戒機。自艦の周囲に存在する潜水艦を探索して攻撃するためのSH-60F シーホーク哨戒ヘリコプター。救難活動や人員輸送に当たるHH-60H レスキューホーク、人員や荷物の輸送を担当するC-2A グレイハウンド輸送機及び後継機のCMV-22B オスプレイ(艦上輸送機型)。
アメリカ海軍では、1952年10月の艦種種別変更で、「攻撃目的任務の艦:CVA(攻撃型空母, attack aircraft carrier)」、「対潜目的任務の艦:CVS(対潜空母, anti-submarine warfare support aircraft carrier)」と名称を分類し、1961年の「エンタープライズ(CVN-65)」就役に伴い「CVAN(攻撃型原子力空母, nuclear-powered attack aircraft carrier)」が追加されたが、その後、1975年6月に、「多目的空母(正規空母):CV」、「多目的原子力空母(原子力空母):CVN」の2種類に統合している。
アメリカ海軍とカナダ海軍では、類別略号として「CV」を用いる。「CV」が何の略であるかは諸説ある。C=Cruiserとして「V」は、aViationのVという説、艦上機の主翼を前から見た姿がVの字だからという説、特に意味はなくCruiserのCで始める略号は既に多くの文字が使われており、あいていたのがたまたまVであったという説。CV=Carrier Vesselとする説もある[21]。ドイツにおいては正規空母はRB、軽空母はRLに類別されている。またポルトガル語圏のブラジルにおいては正規空母はNAe、軽空母はNAeLに類別されている。
構造
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- 飛行甲板
- 空母の最大の特徴は、舷側に寄せられたアイランド以外にさえぎるものの無い平らな甲板である。飛行甲板の面積は、着艦・離艦・エレベーターへの移動などを考えるとできるだけ広いことが重要である。空母黎明期は、イギリス式の多数の飛行甲板を持つ空母(「フューリアス」とグローリアス級が二段、竣工時の「赤城」および「加賀」が三段甲板)もあったが、アメリカやフランスは当初から広い一枚甲板を採用しており、後にイギリスや日本も航空機の大型化に伴い一段甲板に統一された。ハリアーを運用する空母やカタパルトを持たないロシア空母は、甲板の先端を上に反らせてスキージャンプ甲板としている。
- 飛行甲板には、艦の後部から左舷に向けて斜めに設けたアングルド・デッキがある。直線の甲板では発艦と着艦の動線軸が重なっているため、着艦の際に発艦待機中の搭載機と衝突する危険もあり、発着作業を同時に行うことができなかった。アングルド・デッキは空母の軸線から約9度ずらして設計されており、エレベーターや駐機スペースは着艦動線から外れた部分に設置されるため、事故も起こりにくく、デッキの先も海であるため、着艦に失敗した場合の緊急再離陸、緊急停止装置の使用、オーバーランも危険が少なく、発着艦作業も同時に行える(ただし、同時に行うことはほぼない)。1950年代にイギリスが考案し、1952年にアメリカがエセックス級空母「アンティータム」を改造してから装備が始まった[22]。ソ連のキエフ級空母にも斜め甲板が採用されたが、これは艦橋の前部にミサイルや砲塔などの固定武装を搭載したためで、発着を重視したアングルド・デッキとは意図が異なる[23]。アングルドデッキは垂直離着陸機を使用する軽空母では特に必要とされないため基本的には採用されない。
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F/A-18E/F (航空機)、離陸と着陸、カール・ヴィンソン
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F-35Bの映像(ワスプへの着艦)
- カタパルト
- カタパルトとは艦船から航空機を発艦させる射出機のことで、空母の艦載機の大型化とともに発達してきた。空母にカタパルトが装備されたのは、アメリカで飛行甲板の限られたスペースを有効活用するため、圧縮空気と油圧装置を介して航空機が加速する仕組みの油圧式カタパルトで、第二次世界大戦中、1934年就役の「レンジャー」や「ヨークタウン」級に初期型が装備され、エセックス級や護衛空母に使用された[24]。第二次世界大戦後、レシプロ機に代わりジェット機が台頭してきた。推進力を得るために長時間を要するジェット機を艦載機として使用するには、滑走距離が長くなる問題があった。そこで短距離で飛び出させるためにカタパルト技術の開発が進み、力量不足であった油圧カタパルトに代わり、蒸気カタパルトが登場した[25]。燃料や武器を搭載したジェット機を発艦させられる強力な蒸気カタパルトはイギリスで開発され、1955年に完成したアメリカの「フォレスタル」から実用化された[26]。次世代用に電磁式カタパルトが開発され、米中露の次世代艦より艤装が予定されている。
- アイランド
- 英語で島を意味するアイランドは、艦橋・マスト・煙突類が一体となった構造物。航空機の運用だけを考えれば無いほうが良いので、極力小型化して甲板の右舷側に寄せて設置される。現在まで左舷側にアイランドを設けたのは日本の「赤城」と「飛龍」のみ。太平洋戦争までの小型空母にはアイランドを設けない艦もあった(「アーガス」、「龍驤」など)。
- 格納庫
- 航空機を安全に保管し整備する場所。過去格納庫は1層式(アメリカとフランス)、2層式(日本とイギリス)、3層式(「赤城」と「加賀」)があったが、高さのあるジェット機を運用する現在は1層式が一般的。格納庫内では機体の整備ができる設備が整っている。
- 航空燃料タンク
- 空母は、揮発しやすく燃えやすい航空燃料を大量に搭載している。太平洋戦争では、「レキシントン」と「大鳳」の2隻が、航空燃料の引火爆発が原因で沈没した艦として有名。現在のジェット燃料はガソリンよりも引火しにくいが、一旦火がつけば大事故になる。そこで空母の航空燃料タンクとその配管は厳重な防火・防漏・消火対策が施されている。
- 弾薬庫
- 航空燃料タンクと同様、万全の防火・消火対策が施されている。航空燃料タンクと弾薬庫は、両方とも艦中央部の艦底付近(敵の攻撃による火災から最も遠い場所)に設置されている。
- 艦船用燃料タンク
- 原子力空母では自艦用の燃料タンクが不要になった事で、航空燃料や弾薬を多く積む事で継戦能力が高まった上に、随伴する水上戦闘艦艇へ補給する為の燃料を積載する事も可能となっている。
- 着艦誘導装置
電波誘導・光学式誘導・着艦誘導員のパドルによる合図等さまざまな装備が設置されている。アメリカでは1950年代ごろまでLSO(着艦信号士官)が両手にパドルを持ちそれによって誘導を行っていたほか、日本やフランスは後述する光学着艦装置の原型ともいえる着艦指導灯を使用していた。- アメリカやイギリスでも艦載機のジェット化に伴う着艦速度の高速化により、より遠くから正確に誘導する必要が出てきたため遠くからでも視認しやすいミラー・ランディング・システムが開発され、後にそれを発展させたFLOLS(フレネルレンズ光学着艦装置)が開発された。
- また各種の電子兵装が充実した正規空母であれば電波誘導により自動的に着艦させることも可能である。
- 油圧式着艦制動装置
- 甲板上に浮かせた状態で数本張られたアレスティング・ワイヤーを、着艦する機体のアレスティング・フックで引っ掛けて、強力なブレーキ力を発生させる。開発当時は縦索式と横索式の二通りがあり、縦索式はイギリスと日本が、横索式はフランスとアメリカが採用し研究していた。
- 縦索式は首尾線方向に百本ものワイヤーを張り、着艦機が主脚間に装備する櫛形フックに引っ掛けて摩擦力を利用する形式で開発が容易だったが制動力に著しく劣り事故が絶えなかった。そのため、イギリスでは1926年から1931年までは着艦制動装置禁止令を出してしまった。
- 一方、横索式は飛行甲板の左右方向に張られた数本のワイヤーを着艦機の後部に装備したフックに引っ掛けて停止する方式である。1911年1月18日に装甲巡洋艦「ペンシルベニア」に設置された仮設飛行甲板への世界初の着艦において既にこの仕組みは考案済みであったが、実用化には16年と長い年月が必要でフランスが実用化したのが1927年の「ベアルン」であった。後に日本、イギリスもフランスより技術導入して1931年までに横索式に切り替えることとなった。今日の空母が採用しているのも横索式である。
- 他に非常時に使う、機体全体を受け止めるバリケード(滑走制止装置)もある。
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F/A-18 航空機の着陸
- ブライドル・レトリーバー
- カタパルト延長線上の飛行甲板前縁斜め下方に角のように突き出した構造。初期のカタパルトはシャトルと艦載機の接続に、射出と同時に分離して前方へ投棄されるブライドル・ワイヤーと呼ばれる鋼索を使用していた。当初は発艦ごとの使い捨てだったこのワイヤーを回収するための装備である。現在では艦上機の脚部にカタパルトのシャトルと直接接続できる機構が備わっているものがほとんどとなったのでブライドル・ワイヤーが不要となり、新型・近代化改修を受けた最近の空母には見られないことが多い(またブライドル・ワイヤーが使い捨てだった時代の空母にも見られない)。
- エレベーター
- 下層にある格納庫甲板から最上甲板である飛行甲板に艦上機を上げるための装置である。通常は四角形だが、イギリスでは飛行機の形に合わせた十字型のものもあった。アメリカのエセックス級にもアングルド・デッキを備えるSCB-125近代化の際に第一エレベーターが長方形に前方をすぼませた六角形となったものがあった。第二次大戦期の多くの空母ではエレベーターは艦の中心線上にあったが、強度と航空機運用に問題があったため現在の大型空母は飛行甲板の両外側に舷側エレベーターを設置している。
- 小型の軽空母では舷側にエレベーターを設けると悪天候時に海水が格納庫に浸入する恐れがあるため、艦の中心線上にエレベーターを設けている。
- 中心線上へのエレベーター設置は格納庫面積を圧迫してしまう事になり、格納可能な機数が減少するデメリットでもある。なおイギリスでは「リフト」と呼ぶ。
歴史
第二次世界大戦以前
洋上航空兵器を運用する艦船は、気球母艦が始まりである。1849年7月12日、オーストリア海軍は気球母艦から熱気球を発艦させ、爆弾の投下を試みたが、失敗した。南北戦争ではガス気球が使用され、ガス発生装置を備えた艦が建造された。
1912年、フランス海軍が機雷敷設艦の「ラ・フードル」を改装し、水上機8機の収容設備と滑走台を設置し、世界初の水上機母艦を就役させた。
1914年7月、第一次世界大戦が勃発。日本海軍では、1914年8月に運送船の若宮丸を改装して特設水上機母艦とした。9月、若宮丸は青島攻略戦に参加。ファルマン水上機を搭載し、偵察行動を行う[27]。
第一次世界大戦当時、「航空母艦」とは水上機母艦のことであり、「航空母艦」と称するのが一般的であった[28]。水上機はフロートという飛行中には役に立たない重量物がある分、陸上機より性能が劣っていた。そのため、列強海軍で陸上機を運用できる母艦の研究が進められ、日本海軍のように「山城」の主砲の上に滑走路を設けて飛行機を発進させる方法やイギリス海軍のように「フューリアス」の前甲板の主砲を撤去して飛行甲板を設ける方法で実験が行われたが、これらは発艦させることはできても着艦させることはできなかった[29]。1910年11月14日、アメリカでは、軽巡洋艦「バーミンガム」に仮設した滑走台から陸上機の離艦に成功した。翌1911年1月18日には装甲巡洋艦「ペンシルベニア」の後部に着艦用甲板を仮設し、離着艦に成功した。
第一次世界大戦では陸上機を発着させられる軍艦(後の航空母艦)は出現しなかったが、戦後の1920年代初頭、日米英海軍は航空母艦と艦載機を開発した[30]。1918年9月、世界初の全通飛行甲板を採用した英海軍の「アーガス」が竣工した。第一次世界大戦終結の直前の時期であり、実戦には参加しなかった[31]。1918年1月、最初から空母として設計された「ハーミーズ」がイギリスで起工される(完成は1924年)。ハーミーズに遅れて起工したものの、世界初の新造空母になったのは、1922年12月27日に完成した日本の「鳳翔」だった[32]。
1921年、ワシントン軍縮会議において、「水上艦船であって専ら航空機を搭載する目的を以って計画され、航空機はその艦上から出発し、又その艦上に降着し得るように整備され、基本排水量が1万トンを超えるものを航空母艦という」とされ[33]、そこで締結されたワシントン海軍条約では、戦艦の保有比率が米英に対し日本はその6割と規定されたのと同じく、空母も米英が排水量13万5,000トンで日本は8万1,000トンと6割に当たる量であり、また、各国とも建造中止となる戦艦を二隻まで空母に改造することが認められた[34]。ワシントン海軍軍縮条約を受けた各国の空母建造状況は、以下の通り。
- 日本 - 「赤城」、「加賀」 - 最初は「赤城」と「天城」の予定であったが、天城は関東大震災で破損したため、代わりに解体予定だった加賀を空母に改装した[35]。
- アメリカ - 「レキシントン」、「サラトガ」
- イギリス - 「フューリアス」、「カレイジャス」、「グローリアス」
- フランス - 「ベアルン」
1930年、ロンドン海軍条約が締結され、基本排水量1万トン未満も空母に含まれることになった[36]。ワシントン海軍条約では基準排水量1万トン未満は空母の保有排水量の合計に含まれないとされたため、日本は基準排水量8,000トンの水平甲板型の小型空母「龍驤」を建造しようとしたが、ロンドン海軍条約で1万トン未満も空母にカウントされるようになると、設計変更をして飛行機の搭載可能数をできるだけ増加させた[37]。また、「蒼龍」、「飛龍」も当初は巡洋艦としての砲撃能力を持たせようとしていたが、この条約の影響で、島型艦橋を持つ空母として建造されることになった。さらに、水雷艇が転覆した友鶴事件や暴風雨による船体破損が起こった第四艦隊事件の影響で、武装による復元力低下、船体強度不足など基本性能の見直しがあり、「蒼龍」は基準排水量が増加した。「飛龍」は建造中にロンドン海軍条約の失効が確実となり(1936年に日本脱退)、「蒼龍」より無理のない設計となった[38]。同時期に、アメリカは排水量制限に余裕があり、無理のない設計で、「レンジャー」、「ヨークタウン」、「エンタープライズ」、「ホーネット」、「ワスプ」を建造している[39]。
1936年、ワシントン・ロンドンの両海軍条約が破棄され、自由な設計が可能になった。日本海軍は巨砲を持つ戦艦「大和」「武蔵」の建造とともに、基準排水量2万5,000トン、バルバス・バウ採用による高速化、炸薬量450キロの魚雷直撃に耐える防御力を図った「翔鶴」「瑞鶴」の建造に入り、1942年初頭に完成の予定だったが、アメリカとの情勢が緊迫し、工期を半年以上短縮した[40]。アメリカでは、基準排水量2万7,100トン、格納庫甲板65ミリ・機関室上部38ミリ、両舷102ミリの装甲、サイドエレベーター装備のエセックス級空母の建造に着手し、1942年末に竣工する[41]。
第二次世界大戦前、空母とその艦載機に期待されたのは、主戦力と見なされていた戦艦の補助戦力として、艦隊防空や戦艦同士の決戦の間に巡洋艦などと協同し機を見て雷爆撃を加えることだった[42]。
第二次世界大戦
1939年9月、第二次世界大戦が開戦。1940年11月、タラント空襲においてイギリス軍の戦艦を中心とした艦隊に所属していた空母イラストリアスの雷撃機がイタリアの戦艦を撃沈した。
1941年4月、日本は空母を主体とした第一航空艦隊を編制し、さらに、真珠湾攻撃のため、軍隊区分で他艦隊の補助戦力をこれに加え、史上初の用兵思想である「機動部隊」を編成した[43]。12月、太平洋戦争の開戦時、日本が真珠湾攻撃でアメリカ艦隊の戦艦の撃沈に成功すると、空母航空戦力の地位は一気に上がった。戦艦を失ったアメリカは、戦艦部隊の防空兵力として行動していた空母を空母部隊にして「ヒットアンドラン作戦」で日本の拠点に空襲を開始した。その後、珊瑚海海戦、ミッドウェー海戦で日本の機動部隊と交戦し、日本の進攻を阻止した[44]。
日本は戦前のワシントン海軍条約によって空母保有量を制限されていたとき、有事の際に短期間で空母に改造できるように設計された潜水母艦やタンカーを建造していた。それらは太平洋戦争が始まる前後から空母に改造され、潜水母艦「大鯨」は「龍鳳」として、給油艦の「剣埼」と「高崎」は「祥鳳」と「瑞鳳」として就役した。また、水上機母艦の「千歳」「千代田」も有事の際に空母に改造できるように造られていた[45](千歳、千代田はミッドウェー海戦後に改造が決定する)。
アメリカでは空母化を目的に特務艦艇を設計することはなかったが、太平洋戦争の開戦後、空母兵力の増強が必要になると、基準排水量一万トン以下のクリーブランド級軽巡洋艦の船体を利用して、インディペンデンス級空母9隻を建造している[46]。
1942年4月、セイロン沖海戦で日本がトリンコマリー攻撃中に、イギリス東洋艦隊の空母「ハーミーズ」を撃沈する。5月、珊瑚海海戦で、日本は軽空母一隻を撃沈され、アメリカは正規空母1隻及び駆逐艦1隻を撃沈された。史上初の機動部隊同士の海戦と言われる。この海戦によって日本の作戦は初めて中止された。6月、ミッドウェー海戦で、日本は空母4隻を失い、アメリカは空母1隻を失った。1942年7月、日本はミッドウェー海戦で壊滅した第一航空艦隊の後継として第三艦隊を編制する。
1944年3月1日、第二艦隊(戦艦を中心とした部隊)と編合して第一機動艦隊が編制された。航空主兵思想に切り替わったという見方もあるが、実態は2つの艦隊を編合したに過ぎないという見方もある。ただ、前衛部隊を軍隊区分によらずに指揮下の部隊から充当できるようになった[47]。アメリカで本格的な空母機動部隊が編成されたのは1943年の秋に始まる反攻作戦が開始された時期からだった[48]。アメリカ海軍は兵力を艦型別に編成するタイプ編成と臨時に作戦任務部隊を編成するタスク編成を導入し[49]、1943年8月、空母を中心とした艦隊であるタスクフォース38が編成される。
1944年6月、マリアナ沖海戦で、日本はアウトレンジ戦法を実施し、アメリカは日本の攻撃隊を迎撃。日本は空母三隻を撃沈され、艦載機のほとんどを失った。「マリアナの七面鳥撃ち」と揶揄されたこの敗北は、アメリカ海軍がレーダー、無線電話など電子技術を活用した艦艇戦闘中枢CIC活動で、攻撃防御両面で艦載機が空母CICの管制を受けながら戦闘可能だったことも要因であった[50]。11月、レイテ沖海戦では、日本は機動部隊の空母4隻全てを失う。11月15日、日本は第一機動艦隊及び第三艦隊を解体した[51]。1945年8月15日、日本が降伏し、第二次世界大戦は終結。
開戦後に日本が建造に着手した空母は、雲龍型6隻、軍艦や商船からの改造着手は8隻であるが、完成したのは、雲龍型3隻、千歳型2隻、「信濃」、「雲鷹」、「冲鷹」、「海鷹」、「神鷹」であった[52]。
この大戦では商船を改造した空母が使用された。アメリカは輸送船団をドイツ軍のUボートから守るために、貨物船やタンカーの船体を流用した護衛空母が建造された。商船を改造したものは55隻、商船とほぼ同じ設計の船体を使用したものが69隻であった。滑走路が短いため、カタパルトを装備搭載し、本来の船団護衛、対潜攻撃だけではなく、太平洋方面の上陸作戦にも使用された。日本での商船を改造した空母は、飛鷹、隼鷹など「鷹」の文字が艦名に使われた7隻であったが、建造数も少なく、速力不足を補うカタパルトも開発できなかったので運用する飛行機を制限された[53]。
冷戦
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アメリカ
1945年以降、冷戦が始まり、アメリカはソビエト本土への核攻撃能力を重要視し、比較的小型の航空機しか運用できない航空母艦の価値が低下したと考えられていた。海軍は海軍長官出身のジェームズ・フォレスタル国防長官の助けにより、核搭載可能な大型艦載機A3Dの運用を前提とした排水量65,000トンの大型空母「ユナイテッド・ステーツ」の建造を計画するが、この大きさでもジェット機の運用は困難とされ、空軍のB-36戦略爆撃機との比較の結果B-36に軍配があがり、「ユナイテッド・ステーツ」は起工から5日目に建造中止されてしまう。
1950年6月25日、北朝鮮が韓国へ侵攻し、朝鮮戦争が勃発する。韓国は総崩れとなり北朝鮮はさらに南へ侵攻、急遽アメリカは西太平洋に展開していたエセックス級「ヴァリー・フォージ」を朝鮮半島近海に進出させることを決定する。途中「ヴァリー・フォージ」はイギリス海軍コロッサス級「トライアンフ」と合流し北朝鮮近海に進出、開戦8日後の7月3日から作戦に入った。空軍機の展開により対空戦闘の中心は空軍機に譲るが、停戦までの間に11隻のエセックス級空母が参戦し、主に対地攻撃を担当した。このうち1951年以後に参加したエセックスを含む4隻はジェット機対応の改装を済ませており、ジェット機による攻撃を行った(他の7艦はプロペラ機を搭載)。朝鮮戦争の戦訓から、空母の任務として対地攻撃が重視されるようになった。空母は即時展開可能な航空基地として有効であると認識されるようになり、空母不要論は一応の終結を見ることとなった。しかし、依然としてジェット機運用には問題が多く、着艦速度が速くても正確に着艦させることができる誘導システムと、重い機体を十分に加速させることができるパワーのあるカタパルトが必要であった。従来の空母は甲板上から艦載機をすべて取り除かない限り、着艦のやり直しがきかなかったため、これも改善する必要があった。
1950年代、イギリスが発着を安全に行えるアングルドデッキを考案し、1952年にアメリカがエセックス級空母「アンティータム」を改造して最初に装備した[54]。燃料や武器を搭載したジェット機を発艦させられる強力な蒸気カタパルトがイギリスで開発され、1955年に完成したアメリカの「フォレスタル」から実用化された[55]。「フォレスタル」(6万トン)は、戦略核攻撃任務航空機を搭載し、アメリカ海軍はフォレスタル級の改善・就役を行いながら1968年までに8隻の通常推進型空母を建造した。
1955年、アメリカは艦船の原子力推進搭載第一号となる原子力潜水艦「ノーチラス」を完成させる。通常推進に比べて原子力推進の利点は下記の通り。
核燃料は1回補給すると少なくとも20年以上使えるため、航続距離が非常に大きくなる。通常動力型では大容量の燃料タンクが必要であったが、原子力推進艦ではその必要が無い。- 機関運転に際し大気中の酸素を必要とせず、排気も無い。潜水艦としては潜航し続けたまま長期の航海が可能。
この二点は隠密裏に長期の行動を要求される潜水艦にとって非常に有利であるが、原子力化は航空母艦にとっても大きな利点がある。
- 燃料消費を気にせずに長期間の高速航行が可能。また蒸気発生量に余裕があるので蒸気カタパルトの連続使用にも支障が無い。
- 自艦の燃料タンクが必要なくなるのでその分航空機の燃料などを多く積載でき、補給までの継続戦闘期間が長くできる。例えば通常動力推進のキティホーク級では自艦用の燃料7,828トンと航空機用燃料5,882トンを積載しているが[56]、原子力推進では自艦用燃料約8,000トンの積載量を航空燃料などの他の用途に回すことができる。
- 主機関に空気を送る送風システムと排気を煙突まで送る煙路が必要なくなるので、艦内配置に余裕ができる。更に通常推進艦では十分解決できなかった煙突からの高温排気による気流の乱れ(着艦機にとって重要な問題)の問題が解消される。
- マイナス面として、開発と建造・維持の費用が通常推進艦より高価であることが挙げられる。
1961年、就役させた3隻の空母のうち1隻を初の原子力空母(「エンタープライズ」)とした。また 同時に建造した原子力ミサイル巡洋艦「ロング・ビーチ」(15,111トン)、「ベインブリッジ」(7,982トン)と協同して原子力艦隊を作ろうとした。しかし「エンタープライズ」は建造費があまりにも高くなったため、次に建造された空母2隻は一旦通常推進型に戻された。
1964年から始まったベトナム戦争では「エンタープライズ」やほぼ同じ大きさの通常推進型のフォレスタル級やキティホーク級、より旧型で小さいエセックス級やミッドウェイ級など多数の空母が参戦し、その中で原子力空母のメリットが改めて確認された。その結果 1975年から「エンタープライズ」を更に改良したニミッツ級の量産建造が始まり、計10隻が建造された。ニミッツの建造に合わせてカリフォルニア級(10,150トン、2隻)やバージニア級(11,000トン、4隻)の原子力ミサイル巡洋艦が建造されたが、この種の艦の建造は1980年完成のバージニア級の4番艦で終了し、その後建造されたミサイル巡洋艦は全て通常推進のタイコンデロガ級(9,400トン、27隻)となった(原子力巡洋艦9隻は全て退役済み)。
1960年代後半には、アメリカ海軍の戦略核攻撃任務は弾道ミサイル潜水艦に任され、同任務に就いていた空母上のA-5超音速攻撃機は偵察機に改造されたが、A-4やA-6といった戦術攻撃機は1990年頃まで核攻撃能力を有していた。
アメリカ以外
イギリスでは、1950年代、ジェット機でも運用できる強力な蒸気カタパルト、ミラーランディングシステム、アングルド・デッキという現代空母の基礎となるものが開発され、空母の運用能力は大幅に向上した。しかし、イギリスでは、第二次世界大戦後に完成した4万トン級の「イーグル」や「アークロイヤル」等の正規空母の後継艦の建造を1960年代に計画するものの予算の面で断念、1970年代にはすべての正規空母は退役してしまった。
一時期、空母保有をあきらめたイギリス海軍は、哨戒ヘリコプター多数を運用する全通甲板型指揮巡洋艦を計画したが、この計画中に空軍で使用されていたホーカー・シドレー ハリアーに目をつけ艦上機型のシーハリアーを開発、これにより満載排水量20,000トン程のインヴィンシブル級軽空母でも固定翼機を運用することが可能となった。これを軽空母として定義づけした。
イギリスで建造されたコロッサス級とマジェスティック級は小型の軽空母であったが、蒸気カタパルトとアングルド・デッキの装備などの改装・改設計により最低限のジェット艦上機運用能力を持っていたため、1960年前後にカナダ・オーストラリア・インドなどのイギリス連邦諸国やオランダ・ブラジル・アルゼンチンに売却または貸与されたので、これらの国でも空母を運用している時期があった。1970年代終わりにこれらの小型空母が老朽化した際に大半の国では後継空母の取得を諦めたが、インドはイギリス軽空母「ハーミーズ」を購入し「ヴィラート」として空母戦力を維持、ブラジルはフランスより「フォッシュ」を購入して「サン・パウロ」として戦力を維持している。
1982年、アルゼンチンとイギリスとの間で行われたフォークランド紛争が発生。軽空母とシーハリアーの組み合わせで艦隊防空において「空戦での損失ゼロに対し撃墜23機」という予想以上の成果を上げたため、スペイン・イタリア・インド・タイなど他の多くの国で採用されることになったが、艦載機に早期警戒能力が無かったため、アルゼンチン攻撃機の低空攻撃を許した。後にSH-3 シーキングを改修し、現在までヘリコプターを早期警戒機として運用している。フォークランド紛争以後、ヘリコプターとV/STOL機(シーハリアー)の組み合わせでの運用が確立され、以後建造される軽空母の方向性を決定した。S/VTOL機を搭載する軽空母や強襲揚陸艦は、ハリアーの旧式化による退役で、第5世代機のF-35Bの搭載が主軸になる。
フランスでは、1961年以後自国技術により、3万トン級のクレマンソー級2隻を建造した。フランスは政治的にアメリカ追随ではなく独自の歩み方をすることを選択し(対米自立外交)、ド・ゴールが大統領時代の1966年に北大西洋条約機構から脱退した。以後フランスはアメリカに頼らない独自の空母戦力維持に力を注いでおり、現在は4万トンの原子力空母「シャルル・ド・ゴール」1隻を運用中である。
ソビエト連邦では、海上航空勢力の整備を目指し、まず垂直離着陸機とヘリコプターを運用する4万トン級のキエフ級航空母艦を1975年から4隻作った後、1991年に6万トンの重航空巡洋艦「アドミラル・クズネツォフ」を建造した。
冷戦後
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1989年のマルタ会談での冷戦終結を受け、1991年に戦術核兵器の撤去が始まり、1992年7月には当時のジョージ・H・W・ブッシュ大統領が航空母艦から戦術核兵器の撤去が完了したと発表した。
2000年以降、4万~6万トン級でCTOL機を運用する中型正規空母が各国で建造され、イギリスでは、ハリアー自体が旧式化したこともあり、このクラスの空母も次第に退役するか、空母自体は運用されていてもハリアーの運用を終了もしくは凍結して実質的にヘリ空母として運用されている。インヴィンシブル級でのハリアーの運用を2010年いっぱいで終了し、代わりに6万5,000トンクラスのクイーン・エリザベス級を建造。また、インドも軽空母にかわり4万トン級中型正規空母を建造するなど、軽空母保有国から脱却しつつある。一方、軽空母保有国でもイタリアの「カヴール」のような多目的空母としての運用や、スペインの「フアン・カルロス1世」など強襲揚陸艦での固定翼機の運用を行う国も現れている。
2006年、沖縄近海で護衛艦隊を伴った米空母「キティホーク」の8キロメートル範囲内に中国の宋級潜水艦が急浮上したが、このとき米軍は浮上まで同艦の存在にまったく気が付かなかった[57]。2009年、アメリカ海軍では最後の通常推進空母であった「キティホーク」が退役し、空母は全て原子力推進艦となった。
2015年、大型ジェット機も離着陸できるメガフロート空母という構想も出ているが、速力と防御力の面で問題がある為に実用化には至っていない。
空母への攻撃手段としては通常の対艦ミサイルの他、内陸から直接攻撃する対艦弾道ミサイルが登場している。
現役の空母
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空母あるいは空母に準ずる艦を保有し、もしくは保有を計画する諸国の近況を、以下に記す(あいうえお順)。
アメリカ合衆国
- 第二次世界大戦後に建造されたフォレスタル級を皮切りに、キティホーク級/「エンタープライズ」/ニミッツ級/フォード級と運用してきた空母は全て、超大型航空母艦(スーパー・キャリアーen:Supercarrier)である。さらに、2009年に最後の通常動力空母「キティホーク」が退役したことで、保有する空母は全て原子力空母となった。現在は11隻の空母が現役である。最新鋭艦の排水量は10万トンを超え、1隻で中小国の空軍以上の攻撃力を持つといわれる。原子力機関を搭載するため建造・維持・運用に莫大なコストを要求されるが、軍事上・外交上の切り札に位置づけられている。
- また、タラワ級以降の強襲揚陸艦にはV/STOL機の運用能力が始めから付加されており、ハリアー II攻撃機により、必要に応じて補助空母的任務を遂行可能である。現在保有する強襲揚陸艦にはF-35戦闘機のSTOVLタイプであるF-35Bへの対応改修も進められている。
- アメリカ空母の運用については2001年に報告された防衛方針QDR-2001に基づいた艦隊即応計画によると「6個空母打撃群が30日以内にあらゆる紛争地域に展開できる態勢を維持している」[58]。このような長距離即応体制には、航続力の長い大型の原子力空母が非常に有利である。将来的には予算の大幅削減に伴い、空母の運用状況にも大きな影響が出ると予想されている。
- 今後、就役中のニミッツ級をジェラルド・R・フォード級に順次置き換えていく予定であるが、2017年に第45代アメリカ合衆国大統領に就任したドナルド・トランプは現役空母を1隻純増し、12隻体制とすることを含めた海軍の拡張計画を協議していると表明した[注 1]。
ニミッツ級 - 10隻(内1隻は炉心交換作業のため戦列を離れている)
ジェラルド・R・フォード級 - 1隻、1隻建造中、1隻計画中
ワスプ級 - 8隻
アメリカ級 - 1隻、1隻建造中、4隻計画中
イギリス
- 艦載機がジェット機に代わって以降も、第二次世界大戦中に起工した空母に各種改装を行い運用していたが、財政難により維持するのは不可能となった。海洋国家であるイギリスにとって対潜航空兵力は依然として重要であり、代案としてペリコプターを運用する飛行甲板を備えた小型艦が計画された。そんな中で空軍で開発中の垂直離着陸機ハリアーに着目、通常機に劣り、搭載数も少ないが、戦力として有望と考えられた。結果、艦載機版シーハリアー に対応したスキージャンプ等の運用設備が追加されたインヴィンシブル級となり、ソ連のキエフ級と共に現代的な軽空母として高い評価を受ける。
- しかし、続く財政難により2010年に発展型のハリアーIIが運用終了、STOVL空母からヘリ空母へ変更して使用していたインヴィンシブル級も2014年に全て退役した。減少した攻撃戦力を補うため、陸軍が新たに導入したWAH-64 アパッチをヘリコプター揚陸艦「オーシャン」に搭載することで対応している。
- インヴィンシブル級3隻の代替として、6万トンクラスのクイーン・エリザベス級2隻を建造、建造計画は搭載予定のF-35シリーズの開発遅延により幾度かの計画変更を余儀なくされたが[注 2]、1番艦が2014年7月に進水、2017年12月7日に就役。イギリス分のF-35Bはアメリカでの訓練に使用されているため、当面はヘリ空母として運用される。2番艦は2017年9月8日に進水式、12月21日に出渠した。入れ替わりに「オーシャン」が2018年3月27日に退役した。
クイーン・エリザベス級 - 1隻、1隻艤装中
イタリア
- ヘリコプター巡洋艦の代替として建造したV/STOL空母2隻を運用している。「カヴール」は近年のトレンドとして、多任務艦の能力を盛り込まれている。
- また、全通甲板を有するサン・ジョルジョ級強襲揚陸艦(準同型艦の「サン・ジュスト」を含む)と「ジュゼッペ・ガリバルディ」の代替として、2017年から3万トン級強襲揚陸艦1隻の建造中である。
- ジュゼッペ・ガリバルディ
- カヴール
トリエステ - 建造中
イラン
- 2011年、イラン海軍副司令官が戦闘機とヘリコプターを搭載した空母の建造を明らかにしたことが報じられた[59][60]。
- 2015年2月25日に、ホルムズ海峡近くで行われたイラン軍の演習「偉大な予言者9」において、イラン海軍はアメリカ海軍のニミッツ級を模した空母の大型模型を、対艦ミサイルや小型高速艇からの攻撃で爆破するデモンストレーションを行った。この演習の様子はイランニュースネットワーク(IRINN)やテヘランのFARSニュースエージェンシーで放映・公開されている[61]。
インド
- イギリスよりマジェスティック級「ハーキュリーズ」とセントー級「ハーミーズ」を購入し、V/STOL空母「ヴィクラントI」、「ヴィラート」として運用していたが2017年3月6日時点で両艦とも退役している。
- 空母3隻保有を目指しており、まずヴィクラントIの代替として、旧ソ連のキエフ級を購入・改装の上MiG-29Kを搭載したSTOBAR空母ヴィクラマーディティヤを就役させている。続いてヴィラートの代替として、純国産のSTOBAR空母ヴィクラントII1隻を建造中である。さらにもう1隻、アメリカの技術協力を受けたスーパーキャリアクラスの国産空母の建造計画を構想している[62]。
- ヴィクラマーディティヤ
ヴィクラント - 艤装中
ヴィシャル - 計画中
エジプト
- ロシアへの引渡しが中止となった下記のミストラル級強襲揚陸艦2隻を購入。
ガマール・アブドゥル・ナセル級(ミストラル級) - 2隻
オーストラリア
- イギリスよりマジェスティック級「テリブル」、「マジェスティック」を「シドニー」、「メルボルン」として運用したが両艦とも退役している。「メルボルン」代替として、インヴィンシブル級を購入する計画もあったが頓挫している。現在はスペインの強襲揚陸艦「フアン・カルロス1世」の準同型艦2隻を運用している。V/STOL機の搭載は当面考えられていないが、スキー・ジャンプを備え、UAVの運用が考慮されている。
キャンベラ級 - 2隻
スペイン
- アメリカのインディペンデンス級「カボット」を購入、「デダロ」として運用後、その代替に制海艦構想の流れを汲んだV/STOL空母「プリンシペ・デ・アストゥリアス」1隻を運用していたが、両艦とも退役している。現在は2010年より、空母任務を考慮した強襲揚陸艦「フアン・カルロス1世」を運用しており、他国への準同型艦の販売も行っている。
- フアン・カルロス1世
タイ
- スペインに発注して建造された世界最小のV/STOL空母(「プリンシペ・デ・アストゥリアス」の縮小発展型)を1隻保有している。財政難の折、活動は不活発の模様。ハリアーは全機が保管状態にあり、実質的にヘリ空母としての運用下にある。
- チャクリ・ナルエベト
韓国
- 機動艦隊創設の一環として、本格的な全通甲板を採用した強襲揚陸艦「独島」を2007年に就役させた。3隻体制を目指しており、拡大発展型の韓国航空母艦(KCVX)等も構想されていたが、予算上の問題から3番艦及び空母の建造計画は破棄された。2番艦も予算や1番艦で発生した欠陥・事故から先送りされていたが、改良の上で2018年に進水、艤装が進められている。また、取り消しとなった3番艦についても建造事業再開が検討されている。
独島級 - 1隻、1隻艤装中、1隻計画中
中国
- スクラップとして他国の退役空母を数隻購入していたが、その中で1998年に購入した旧ソ連が建造中止した「ヴァリャーグ」を、練習空母として建造再開、2012年9月25日に就役させた。
- 本格的な空母艦隊建設構想を固めており、2020年頃には通常動力空母2隻と、原子力空母2隻を整備する構想とされる。また、中国は将来的に強襲揚陸艦や軽空母の建造も視野に入れていると言われている。[63][64]
- 国産空母は性質の異なるタイプが平行建造されている。2013年に大連造船廠にて1隻目の002型(遼寧(001型)の改良型であるため、一時001A型と呼ばれた)が起工、2017年進水し、早ければ年中に就役予定である。2隻目は江南造船所にて2015年に起工、こちらは排水量が拡大、カタパルト(蒸気式又は電磁式)を装備するとされている。また、2017年には滬東中華造船にて軽空母任務も考慮した強襲揚陸艦075型が2隻起工した[65]。さらに、大連造船廠では002型1隻、075型1隻の建造が始まっているのではないかとされている。
- 遼寧
002型 - 1隻公試中- 003型 - 1隻建造中
- 075型 - 2隻建造中
トルコ
- 将来的にV/STOL機運用を検討しており、2016年よりイスタンブールの造船所でスペインの強襲揚陸艦「フアン・カルロス1世」の2万トン級準同型のを建造している。
アナドル - 建造中
日本
- ほぼ全通飛行甲板を採用したおおすみ型が建造されたが、本型にはヘリコプター搭載能力はなかった。対潜ヘリコプター3機を搭載・運用するヘリコプター搭載護衛艦 (DDH)のはるな型、 しらね型の代替として、それぞれヘリコプター11機を搭載可能なひゅうが型2隻とヘリコプター14機を搭載可能ないずも型2隻が2017年3月22日時点で就役している。
- 今後、オスプレイと水陸両用装甲車の採用に伴い、離島防衛能力強化として、おおすみ型のエレベータや甲板等の大規模改修が計画されており、実施されれば強襲揚陸艦に近い能力を得ることになる。一時、本格的な強襲揚陸艦の導入の調査予算の計上や視察調査が行われたが、平成29年度時点で防衛大綱や建造費の予算化などの建造に向けた動きはなかった。
2017年12月、F-35Bの導入及びいずも型をF-35Bを運用可能な空母に改修する検討を開始したと政府関係者が話したと報じられた[66]。しかし、26日のこの報道に関する防衛大臣の会見では、そのような検討を防衛省では行っていないとしている[67]。
ひゅうが型 - 2隻
いずも型 - 2隻
ブラジル
- 第二次大戦直後にイギリスから購入したコロッサス級「ヴェンジャンス」を「ミナス・ジェライス」して長らく運用。次いでフランスから購入したクレマンソー級「フォッシュ」を「サン・パウロ」として、空母も艦載機も旧式ながらCTOL空母を運用していた。しかし、2017年2月14日にサン・パウロの運用終了、運用空母はなくなった。
- 2018年にイギリスから退役した「オーシャン」を購入することが決まり、イギリスにて改装が行われた後に「アトランティコ」として就役予定である。
フランス
- アメリカやイギリスから購入した旧型空母を運用後、国産のクレマンソー級を2隻建造したが、退役済みである。現在はアメリカ以外で唯一の原子力空母シャルル・ド・ゴールを1隻運用している。空母2隻体制を目標としているが、シャルル・ド・ゴール級の2番艦は財政難や設計ミスのため中止されており、その後にイギリスのクイーン・エリザベス級の準同型艦をフランス次期空母として2隻目の空母とする計画が持ち上がるが、こちらも 2013年に中止となった。なお、フランス海軍は現在も引続き空母による核戦略を中心に置いており、空母シャルル・ド・ゴールとその艦載機ともに戦術核兵器の搭載・運用能力を維持している。
- また、非空母型のフードル級を代替するため、全通飛行甲板を採用したミストラル級の建造を進めている。
シャルル・ド・ゴール(原子力空母)
ミストラル級 - 3隻、1隻計画中
ロシア
ソビエト連邦崩壊まではV/STOL空母キエフ級を4隻保有し、STOBAR空母アドミラル・クズネツォフ級2隻、カタパルトを備えた原子力空母ウリヤノフスク級2隻の建造を進めていたが、冷戦終結間際に就役したアドミラル・クズネツォフ1隻を除き、全て退役又は建造破棄されている。さらに、ソビエト連邦の空母を建造してきた黒海造船工場がウクライナの独立により接収されてしまい、空母の建造能力も失われてしまう事態となった。ロシアで維持・運用されたアドミラル・クズネツォフは財政難から2000年代初頭は極めて活動状況が鈍かったが、2007年頃から再び活発に外洋行動を繰り返すようになった。また、空母機能を強化する近代化改装がいくつか予定されており、そのための国内造船所の設備拡張、改修も進められている。また、比較的状態の良かったキエフ級の一隻はロシアのセヴマシュ造船所でSTOBAR空母へ改修を受けインドへ売却、アドミラル・クズネツォフ級の1隻はウクライナへ移管後に中国へ売却され、再建造されている。- 2005年初頭、ロシア海軍総司令官ウラジーミル・クロエドフ上級大将は、2010年までに新空母設計案をまとめて建造開始、北方艦隊配備の1番艦を2016年竣工、続いて太平洋艦隊配備2番艦を建造開始するという内容の新空母建造計画を発表した。2006年2月に後任のロシア海軍総司令官であるウラジーミル・マソリン大将が将来、5、6隻以上の航空母艦を展開させる計画を発表。さらに2008年、ドミートリー・メドヴェージェフ大統領は2015年までに2隻以上の新規原子力空母建造計画に着手すると表明した。新型空母の建造は近日中の予定はないが、2030年頃の就役を見込んでいるとされており、電磁カタパルトと新型原子炉RITM-200を備えた将来原子力航空母艦プロジェクト23000E「シトルム」のコンセプトが発表されている。
- また、強襲揚陸艦2隻以上の調達が決定され、フランスのミストラル級強襲揚陸艦が選定される。引き渡し直前まで建造が進むが、2014年ウクライナ騒乱により西側からの経済制裁が行われたことで資金調達が難航、建造を行ったフランスも制裁の一環として引渡しを無期限延期した。最終的にミストラル級のロシアへの受領は中止・返金補償(詳しくは該当項目)となり、完成していた艦はエジプトへの売却された。このため、ロシアは国内造船所でロシア版ミストラル級とも言える2万4千トンクラスの「ラヴィーナ」、規模縮小した1万4千トンクラスの「プリボイ」等の汎用揚陸艦の設計を進めており、2022年頃の就役を目指している。
- アドミラル・クズネツォフ
脚注
注釈
^ この案が通過した場合、ニミッツ級の置き換えは2027年頃の就役を予定しているジェラルド・R・フォード級3番艦9代目エンタープライズより行われることになる。
^ 運用や搭載機のコストの問題から一時は運用艦は1隻として、もう1隻は予備役とすることが検討された。当時、STOVL機であるB型の開発が最も遅れていたことから、搭載機をB型からCATOBAR機のC型に変更、C型の運用が開始される頃に就役する予定の2番艦にのみカタパルト等の固定艦載機用の装備を艤装し、2017年に就役する予定だった1番艦はそれら装備を持たないヘリ空母として建造、2番艦の就役に伴い即応予備役に移される構想となった。最終的に搭載機はB型に戻り、両艦ともSTOVL空母として航空機運用能力は維持されることとなった。
出典
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^ “護衛艦「いずも」空母化…離島防衛の拠点に (YOMIURI ONLINE)” (2017年12月25日). 2017年12月26日閲覧。
^ “防衛大臣記者会見概要 平成29年12月26日(11時15分~11時31分)” (2017年12月26日). 2017年12月26日閲覧。
参考文献
福井静夫『世界空母物語』 1993年3月 光人社
江畑謙介・堀元美共著『新・現代の軍艦』 1980年 原書房- 江畑謙介『最新・アメリカの軍事力』 2002年 講談社現代新書
梅林宏道『在日米軍』 2002年 岩波新書- 柿谷哲也『世界の空母』 2005年 イカロス出版
- 『世界の空母 ハンドブック』 世界の艦船別冊 海人社
- 『世界の艦船』 1991年4月号 「特集 アメリカの空母」 海人社
- 『世界の艦船』 1998年3月号 「特集 アメリカ空母の全容」 海人社
森本敏『米軍再編と在日米軍』2006年 文春新書
関連項目
- 航空母艦一覧
- 水上機母艦
- 機動部隊
- タスクフォース
- 航空艦隊
- 空母打撃群
- 海上自衛隊の航空母艦建造構想
- 気球母艦
- 歴史上初めて航空機を運用した艦船。19世紀後半から20世紀初頭にかけて運用された気球を運用するための艦船。
アクロン・メイコン
- 軍用機の移動基地として建造された飛行船。専用の軍用機をトラピーズと呼ばれる空中ブランコで発着させる。第一次世界大戦後、アメリカ海軍が全長240mほどの巨大飛行船として開発したが、悪天候下の事故で失われ、以後は飛行船を航空基地として運用することはなくなった。
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