放射冷却
放射冷却(ほうしゃれいきゃく)とは、高温の物体が周囲に電磁波を放射し温度が下がる事。身の回りのあらゆる物においても日常的に見られる現象(例:熱いフライパンを放置すれば冷める)。また、非電化冷蔵庫にもこの原理が利用されていると言われている。
目次
1 気象
1.1 放射冷却の条件
1.2 放射冷却に伴う気象
2 出典
気象
日本では主に気象関係で耳にするくらいだが、地面の温度が下がり、気温が下がる程度が大きい時に特に使われる言葉(実際にはいつも放射冷却は起きている)。秋から冬を挟み春までのよく晴れた風の弱い夜間に気温が下がりやすい。天気予報では放射冷却による気温の著しい低下が予想される場合、冬を中心に低温に注意する旨の呼びかけが行われる(「低温注意報」として発表される)。また、秋(早霜)と春(晩霜)は霜に注意する旨の呼びかけが行われる(「霜注意報」として発表される。冬は霜注意報が発表されない)。そのため単に放射冷却と言った場合には、気象としての現象を指すことが多い。
放射冷却の条件
絶対温度が零度ではない全ての物体は、プランクの法則により電磁波を放射している。電磁波を放射している物体は温度が下がり、他から放射を受けた物体は温度が上がる。
昼間、太陽の光が地表面に当たっている時、地表面は太陽放射を受けて温度が上昇する。逆に夜間は、地表面から宇宙空間に向けての放射があり、地表面の温度は低下する。このとき、大気中に雲が存在すると、雲からの放射を地表面が受けることにより、地表面の温度低下が妨げられる。一方、大気中の水蒸気が少ないよく晴れた夜間(日本では冬季間が代表的)には、地表からの放射はそのまま宇宙空間に放出されるため、地表付近の温度が低下しやすい。この状態を放射冷却と呼ぶ。
風が強い場合には、放射冷却が起こっても空気が混合して上空の暖かい空気が降りてくるため、放射冷却は弱くなる。また、水は比熱容量が大きいため放射冷却が起こりにくい。海岸や湖岸などでは、風が弱くても海陸風や湖陸風によって自然と混合が起こるため、水辺に近いほど放射冷却が弱くなる。山や丘に囲まれた盆地や窪地では、低地に冷気が溜まって冷気湖となり、混合が抑えられるので放射冷却が強い。広大な大陸の内陸部では、盆地でなくとも放射冷却した冷気層が均一に広く存在するため、混合が抑えられて放射冷却が強い。
さらに、上空に寒気が流入するなど、大気上層から中層が冷たい場合は、それに応じて下層の温度低下も大きく、より放射冷却が強い。
放射冷却によって地表付近は冷える一方で、地中は地熱が保持されているため、地中深くなるほど放射冷却による温度低下が小さくなる。また、植物などの地面から離れたものは、地表面と違って地熱の伝導を受けないので、地表面よりも若干温度低下が大きい。ただし、断熱効果のある覆いなどを植物の上に被せると、覆いの温度が低下してもその下は保温され、温度低下が小さくなる。
一般的に、比熱容量の大小差により、湿った地面は温度低下が小さく、乾燥した地面や古い積雪はやや大きく、新雪はかなり大きい。新雪に関しては、空気を多く含むので地熱が伝わりにくいことが関係している。このため、砂漠や乾燥地の1日の気温差は著しい。
放射冷却による低温を注意喚起する場合は、強い放射冷却が起こったり起こることが予想される場合である。そのため、特に晴れた夜間に限って放射冷却が発生するかのような誤解も見受けられる。正確に言えば、放射冷却はどんな場合においても常に起こっている。
放射冷却に伴う気象
放射冷却によって地面付近の空気が急速に冷却されると、上空よりも気温が低くなり接地逆転層という種類の逆転層が発生することがある。
湿度が極端に低くないとき、放射冷却によって地面付近の空気が急速に冷却されて露点温度に達し、放射霧という種類の霧が発生することがある。また、川や海岸に近い海では、放射冷却された冷たい空気が暖かい水に接して、蒸気霧が発生することがある。地域差があるものの、少なくとも日本の多くの地域では秋から冬にかけて放射霧が多く発生する。このうえ、逆転層ができていて湿度が比較的低いときには、人の視界の高さ以下の地面付近にのみ薄い霧が発生する地霧が見られることもある。
霧が発生すると、雲と同じで地面放射を吸収して再放射するため、放射冷却が和らげられる。
また、霧が発生しなくても、空気中の水蒸気が飽和に近く、かつ地面付近の温度が0℃以下の場合、霜が発生する。また、地面がやわらかい土で豊富に水分が含まれていると、霜柱が発生する。森では、地面よりも木々の枝葉のほうが温度低下が大きいので、木々だけに霜が降りる樹霜が発生することもある。
出典
放射冷却と盆地冷却 - 近藤純正