貧困線
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貧困線(ひんこんせん、英: poverty line、poverty threshold)は、統計上、生活に必要な物を購入できる最低限の収入を表す指標。
それ以下の収入では、一家の生活が支えられないことを意味する。貧困線上にある世帯や個人は、娯楽や嗜好品に振り分けられる収入が存在しない。
目次
1 概要
2 絶対的貧困
3 相対的貧困
3.1 日本
3.1.1 国民生活基礎調査(厚生労働省)による相対的貧困率
3.1.2 全国消費実態調査(総務省)による相対的貧困率
3.1.3 貧困の要因
4 国民貧困線
4.1 米国
4.2 英国
4.3 インド
4.4 日本
5 脚注
6 関連項目
7 関連書籍
8 外部リンク
概要
貧困線[3]は、社会学や経済学の指標であり、貧困状態にある住民を減らすため、必要な社会政策を決定するのに有効である。貧困線以下にある住民が多い社会は、最低限の生活を送る必要があるため、経済発展が阻害される。このため、近代的な国家の目標は、社会の全ての構成員を貧困線を上回る収入を生活保障や雇用保険の失業等給付を通して、保障することにある。
貧困線を計算する基本の手法は、1人の成人が1年間に最低限必要な物の購入費用を積み立てていく方法がとられる。「住環境に費やす費用が収入のもっとも大きな割合を占めることが多い」ことから、歴史的に経済学者は、物件価格や賃貸費用の変動に注目してきた。個人の年齢や家族構成により貧困線は上下する。多くの先進国では、娯楽や嗜好品なども貧困線を算出する際に加算している。これは「単に衣食住が満たされる状況は、貧困状態未満である」という認識を持つため。
ただ、貧困線は、厳密な指標ではなく、国や機関によって異なる。そのため、貧困線を若干上回る収入の層とやや下回る収入の層の間に、実際には大きな生活水準の差はない場合もある。世界貧困線[4]は、現在は「2011年の購買力平価(PPP)が1人当たり1日1.9$以下の層」と設定されている。[5]また、最初に世界貧困線を定めたのは、1990年の時である。世界銀行の研究者グループは、世界の貧困層の数を把握するため、世界最貧国の基準を用いた測定法を提案した。彼らは、当時の最貧国数カ国の国別貧困ラインを検証し、購買力平価(PPP)を用いてそれらを米ドルに換算し、その平均値を算出した結果、1人当たり約1ドル/日という数値を出した。[6][7]2005年、当時の世界最貧国のうち15カ国の国別貧困ラインの平均を用いて国際貧困ラインの改定が行われ、この改定後の貧困ラインが、1人当たり1.25ドル/日という数値となった。[7]そして2015年10月、国際貧困ラインを1.25ドル/日から1.90ドル/日に改定した。この改定は、物価の変動を反映させることで、より正確に貧困層の数を把握する目的で行われ、2011年に世界各国から新たに集められた物価データに基づいて設定された。[8]
絶対的貧困
絶対的貧困[9](ぜったいてきひんこん)とは、食料・衣服・衛生・住居について最低限の要求基準により定義される貧困レベルである[10]。1970年代に「人間の基本的必要の充足」を開発の目的であるとしたロバート・マクナマラ総裁時代の世界銀行で用いられはじめた概念で、低所得、栄養不良、不健康、教育の欠如など人間らしい生活から程遠い状態を指す。この指標は絶対的なものであるため、各々の国家・文化・科学技術水準などに関係なく、同じレベルでなければならないとされている。こういった絶対的指標は、各個人の購買力だけに着目すべきであり、所得分布などの変化からは独立していなければならない。
絶対的貧困を示す具体的な指標は国や機関によって多様であるが、2000年代初頭には、1人あたり年間所得370ドル以下とする世界銀行の定義や、40歳未満死亡率と医療サービスや安全な水へのアクセス率、5歳未満の低体重児比率、成人非識字率などを組み合わせた指標で貧困を測定する国際連合開発計画の定義などが代表的なものとされている。国連ミレニアム宣言により制定された『ミレニアム開発目標』ではこうした世界の絶対的貧困率を2015年までに半減させることが明記された。
国際連合開発計画の委託を受けた2000年度『人間開発報告書』によると、1999年に1日1ドル以下(365日365ドル・366日366ドル)で生活している絶対的貧困層は、1995年の10億人から12億人に増加しており、世界人口の約半分にあたる30億人は1日2ドル未満(365日730ドル・366日732ドル未満)で暮らしていた。[11]また、2011年基準の米ドル購買平価ベースの場合、1日2ドル未満の絶対的貧困層は、6億400万人(世界人口の30.9%)であった。[2]
世界銀行は、2013年4月に開催されたIMFとの合同総会で、2030年までに極度の貧困(1日1.25ドル未満)で生活する人の割合を2030年までに3%まで減らし、所得の下位40%の人々の所得を引き上げ繁栄を共有するという2つの目標を掲げた。[12][13]更に、2015年10月に国際貧困ラインを2011年の購買力平価(PPP)に基づき1日1.90ドルと設定、これは年換算で365日693.5ドル・366日695.4ドル(2015年10月以前は2008年に2005年の購買力平価に基づき設定された1日1.25ドルと設定されていた、これは年換算で365日456.25ドル・366日457.5ドル)。
そして2015年、極度の貧困は過去20年にわたり大幅に減少した。1990年には開発途上 国の人口の半数近くが1日1.25ドル未満で生活していたが、2015年にはその割合が14%まで低下し、約3分の1となった。世界全体では、極度の貧困の中で暮らす人の数は、1990年の19億人から2015年には8億3,600万人と半数以下に減少した。進展の多くは2000年以降に見られ、ミレニアム開発目標を達成することが出来た[14][15]但し、極度の貧困率の世界的な低下の大部分を中国とインドが占めていること、更に人口が急増したため、「貧困者の数」そのものの減少は、はるかに小さい。2010年時点で世界には、約10億人の極度の貧困者がいた。中国とインドを無視すると、残りの開発途上国では、1990年から2010年までの間に貧困から脱却した人の数はわずか1億5,000万人程度であり、実際には、サハラ以南のアフリカの貧困者数は1990年から1億2,000万人増えていた。[16]
貧困率(1日1.90ドル未満)は、2015年時点で、7億3,600万人(世界人口の10.0%)である。貧困層の半数強がサブサハラ・アフリカ地域に集中しており、85%以上がサブサハラ・アフリカ地域もしくは南アジア地域に、また残りの15%(約1億600万人)がそれ以外の地域に住んでいることになります。サブサハラ地域以外での貧困率の平均値は1.5%から12.4%なのに対し、サブサハラ・アフリカでは約41%が貧困ライン以下となっており、地域別の貧困率には偏りがでている。特に中東・北アフリカ地域での極度の貧困率の増加が顕著となっている。また、1日3.20ドル未満の場合は、19億2,300万人(世界人口の30.7%)であり、1日5.50ドル未満の場合は、33億7,000万人(世界人口の53.7%)であった。1日5.50ドル未満の貧困層は、サブサハラ・アフリカで84.5%、南アジアは2013年の値であるが、84.2%であった。[2][17]
しかし、ここ数年、貧困削減のペースには減速が見られており、2013年から2015年にかけての年間貧困率の減少は0.6ポイントであった。2030年までに極度の貧困(1日1.90ドル未満)撲滅を達成するには、所得の下位40%の人々を8%以上にまで所得拡大させる必要がある。現在のペースのままでは、2030年までに極度の貧困率は5%を超えることが予想されている。[17]
日本の場合、総務省の平成26年全国消費実態調査(2016年10月31日発表)で、世帯人員総数1億1,519万6,894人を対象に、以下のような結果となった。[18]また、年間可処分所得とは、世帯員ごとの年間収入額から、年間の税額及び社会保険料を推計し、控除した所得である。そして、世帯員ごとに計算された年間可処分所得を合算し,世帯の年間可処分所得を計算した。 更に、世帯当たり所得が同水準であっても世帯人員によって1人当たりの効用水準が異なることを考慮して、世帯の年間可処分所得を等価世帯人員で調整する。等価世帯人員(equivalent household member)とは世帯人員に等価弾性値(0~1の値をとる)を累乗したものである。なお、等価弾性値が0のときは世帯所得がそのまま各世帯員の効用(等価可処分所得=世帯員ごとに計算された年間可処分所得の合算)となり、1のときは1人当たりの所得が各世帯員の効用(等価可処分所得=世帯員ごとに計算された年間可処分所得の合算/世帯人員)となる。[19]
- 絶対的貧困世帯を対象として1984年の年間可処分所得の中位数(実質値)である247万3,326円(等価弾性値=0.5の場合)を基準値とした場合、中位数(実質値)50%未満世帯の平均所得は約86万8,000円、収入ギャップは70.159%であり、ジニ係数0.194であった。
- 中位数(実質値)60%未満(148万3,995.6円未満):世帯員分布13.410%
- 中位数(実質値)50%未満(123万6,663円未満):世帯員分布8.451%
- 中位数(実質値)40%未満(98万9,330.4円未満):世帯員分布4.704%
- 中位数(実質値)30%未満(74万1,997.8円未満):世帯員分布2.409%
- 1984年の年間可処分所得の中位数(実質値)である1,23万4,379円(等価弾性値=1の場合)を基準値とした場合、中位数(実質値)50%未満(61万7,189.5円未満)世帯の平均所得は約43万円、収入ギャップ69.629%、ジニ係数0.206となる。
- 中位数(実質値)60%未満(74万627.4円未満):世帯員分布9.386%
- 中位数(実質値)50%未満(61万7,189.5円未満):世帯員分布5.620%
- 中位数(実質値)40%未満(49万3,751.6円未満):世帯員分布3.000%
- 中位数(実質値)30%未満(49万3,751.6円未満):世帯員分布1.564%
このように絶対的貧困は、一定の指標を定め、その基準に沿って一律に定義される。しかしながら、こうした貧困の定義に対しては、何が必要かをめぐる社会的・文化的個別性や、ニーズを充足する手段の獲得における社会内部での階層化(たとえばピーター・タウンゼントが相対的剥奪という語で示そうとした状況)、そしてまた貧困状況をもたらす社会構造に対する批判的視点も必要ではないかとの批判も存在する。
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相対的貧困
相対的貧困[20](そうたいてきひんこん)の定義は「等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分に満たない世帯員」であり、この割合を示すものが相対的貧困率である。ただし、預貯金や不動産等の資産は考慮していない[21]。
実収入-非消費支出=可処分所得
可処分所得÷√世帯人員=等価処分所得
※等価弾性値=0.5(平方根)。現物給付、預貯金、資産は考慮しない。
絶対的貧困率と違い数学的な指標なので主観が入りにくいとされるが、国によって「貧困」のレベルが大きく異ってしまうという可能性を持つ。この為、先進国に住む人間が相対的貧困率の意味で「貧困」であっても、途上国に住む人間よりも高い生活水準をしているという場合と先進国においては物価も途上国より高く購買力平価を用いた計算をすると途上国よりも生活水準が低い場合が存在する。
国民生活基礎調査における相対的貧困率は、一定基準(貧困線)を下回る等価可処分所得しか得ていない者の割合をいう [22]。
最新のデータであるOECDの2017年の統計[23]によれば、相対的貧困率は下記の表となる。総合で高い国は高い順に、南アフリカ共和国、コスタリカ、アメリカであり、逆に低い国は低い順に、アイスランド、デンマーク、チェコである。18歳未満で高い国は高い順に、南アフリカ共和国、コスタリカ、トルコであり、逆に低い国は低い順に、デンマーク、フィンランド、アイスランドである。18~65歳で高い国は高い順に、南アフリカ共和国、コスタリカ、アメリカであり、逆に低い国は低い順に、チェコ、アイスランド、スイスである。66歳以上で高い国は高い順に、韓国、エストニア、ラトビアであり、逆に低い国は低い順に、アイスランド、デンマーク、オランダである。
国 | 総合(%) | 18歳未満(%) | 18~65歳(%) | 66歳以上(%) | 統計年 |
---|---|---|---|---|---|
オーストラリア | 12.1 | 12.5 | 9.4 | 23.2 | 2016 |
オーストリア | 9.8 | 11.5 | 9.6 | 8.7 | 2016 |
ベルギー | 9.7 | 12.3 | 9.3 | 8.2 | 2016 |
カナダ | 12.4 | 14.2 | 12.4 | 10.5 | 2016 |
チェコ | 5.6 | 8.5 | 5.0 | 4.5 | 2016 |
デンマーク | 5.5 | 2.9 | 7.0 | 3.1 | 2015 |
フィンランド | 5.8 | 3.3 | 6.8 | 5.0 | 2016 |
フランス | 8.3 | 11.5 | 8.5 | 3.4 | 2016 |
ドイツ | 10.1 | 11.2 | 10.0 | 9.6 | 2015 |
ギリシャ | 14.4 | 17.6 | 15.4 | 7.8 | 2016 |
ハンガリー | 10.1 | 11.8 | 10.0 | 8.6 | 2014 |
アイスランド | 5.4 | 5.8 | 5.8 | 2.8 | 2015 |
アイルランド | 9.8 | 10.8 | 9.9 | 6.4 | 2015 |
イタリア | 13.7 | 17.3 | 13.9 | 10.3 | 2016 |
韓国 | 13.8 | 7.1 | 8.5 | 45.7 | 2015 |
ルクセンブルク | 11.1 | 13.0 | 11.2 | 7.7 | 2016 |
メキシコ | 16.7 | 19.7 | 13.9 | 25.6 | 2014 |
オランダ | 8.3 | 10.9 | 8.8 | 3.1 | 2016 |
ニュージーランド | 10.9 | 14.1 | 9.7 | 10.6 | 2014 |
ノルウェー | 8.2 | 7.7 | 9.3 | 4.4 | 2016 |
ポーランド | 10.3 | 9.3 | 10.7 | 9.3 | 2016 |
ポルトガル | 12.5 | 15.5 | 12.6 | 9.5 | 2016 |
スロバキア | 8.5 | 14.0 | 7.8 | 4.3 | 2016 |
スペイン | 15.5 | 22.0 | 15.4 | 9.4 | 2016 |
スウェーデン | 9.1 | 8.9 | 8.4 | 11.0 | 2016 |
スイス | 9.1 | 9.5 | 6.4 | 19.5 | 2015 |
トルコ | 17.2 | 25.3 | 13.5 | 17.0 | 2015 |
イギリス | 11.1 | 11.8 | 10.1 | 14.2 | 2016 |
アメリカ合衆国 | 17.8 | 20.9 | 15.5 | 22.9 | 2016 |
エストニア | 15.7 | 9.6 | 11.9 | 35.7 | 2016 |
イスラエル | 17.7 | 23.2 | 14.3 | 19.4 | 2016 |
スロベニア | 8.7 | 7.1 | 8.2 | 12.3 | 2016 |
日本 | 15.7 | 13.9 | 13.6 | 19.6 | 2015 |
チリ | 16.1 | 21.1 | 14.2 | 16.3 | 2015 |
ラトビア | 16.8 | 13.2 | 13.1 | 32.7 | 2016 |
リトアニア | 16.9 | 17.7 | 14.2 | 25.1 | 2016 |
コスタリカ | 20.4 | 27.3 | 16.7 | 25.5 | 2017 |
南アフリカ共和国 | 26.6 | 32.0 | 23.9 | 20.7 | 2015 |
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日本
日本の貧困率について表した最新のデータであるOECDの2017年の統計によれば、日本の相対的貧困率(2015年)は総合が15.7%で、同じ年の2015年に調査された34か国の中では、チリ(16.1%)に次いで10番目に相対的貧困が高い。18歳未満の場合は13.9%であり、34か国の中ではスロバキア(14.3%)に次いで、14番目に相対的貧困が高い。また、18~65歳の場合は13.6%であり、34か国の中ではカナダ(14.1%)に次いで、11番目に相対的貧困が高い。66歳以上の場合は19.6%であり、34か国の中ではリトアニア(20.4%)に次いで、9番目に相対的貧困が高い[23][24]。
これは、日本の貧困率が先進国の中でもかなり高い部類に入っていることが示されている。日本より貧困率が高いトルコ、チリ、ラトビア、エストニアはいずれもOECDには加盟しているが、先進国とはっきり言える経済力ではないため、その点を踏まえると、日本は先進国の中でイスラエル、アメリカに次いで3番目に貧困率が高い国という見方もできる。逆に、西欧諸国の大半が10%以下の国であり、2015年の総合で34か国中もっとも低いアイスランドの5.4%とデンマークの5.5%を筆頭に、北欧諸国の貧困率が低い。
国民生活基礎調査(厚生労働省)による相対的貧困率
日本の相対的貧困率は、以下の表より2015年の時点で15.7%であり、データが存在する1985年以降、3年ごとの調査の中で4番目に高い数値となっている[25]。
相対的貧困率( % ) | 1985年 | 1988年 | 1991年 | 1994年 | 1997年 | 2000年 | 2003年 | 2006年 | 2009年 | 2012年 | 2015年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
全体 | 12.0 | 13.2 | 13.5 | 13.8 | 14.6 | 15.3 | 14.9 | 15.7 | 16.0 | 16.1 | 15.7 |
子どもの貧困率 | 10.9 | 12.9 | 12.8 | 12.2 | 13.4 | 14.4 | 13.7 | 14.2 | 15.7 | 16.3 | 13.9 |
子どもがいる現役世帯 | 10.3 | 11.9 | 11.6 | 11.3 | 12.2 | 13.0 | 12.5 | 12.2 | 14.6 | 15.1 | 12.9 |
子どもがいる現役世帯 [大人が1人] | 54.5 | 51.4 | 50.1 | 53.5 | 63.1 | 58.2 | 58.7 | 54.3 | 50.8 | 54.6 | 50.8 |
子どもがいる現役世帯 [大人が2人以上] | 9.6 | 11.1 | 10.7 | 10.2 | 10.8 | 11.5 | 10.5 | 10.2 | 12.7 | 12.4 | 10.7 |
中 央 値 ( 万円 ) | 216 | 227 | 270 | 289 | 297 | 274 | 260 | 254 | 250 | 244 | 244 |
貧 困 線 ( 万円 ) | 108 | 114 | 135 | 144 | 149 | 137 | 130 | 127 | 125 | 122 | 122 |
2017年6月27日発表の国民生活基礎調査では、日本の2015年の等価可処分所得の中央値名目値245万円の半分名目値122万円未満の等価処分所得の世帯が、相対的貧困率の対象となる。2015年調査では1985年基準実質値の掲載は無かった。各名目値で単身者では可処分所得が約122万円未満、2人世帯では約173万円未満、3人世帯では約211万円未満、4人世帯では約244万円未満に相当する。
1年の総労働時間を法定労働時間2096時間~2080時間とすれば、可処分所得(「実収入」から「非消費支出」を差し引いた額で,いわゆる手取り収入。賃金などの就労所得、資産運用や貯蓄利子などの財産所得、親族や知人などからの仕送り等。公的年金、生活保護、失業給付金、児童扶養手当てなどその他の現金給付を算入する。)が名目値で122万円の年収に達する時給は約583円~587円以上となり最低賃金水準を下回る、2人世帯では時給約826円~832円以上となり、3人世帯では時給約1,007円~1,015円以上、4人世帯では時給約1,165円~1,174円以上で可処分所得名目値に達する。これに非消費支出(直接税や社会保険料、資産運用の必要経費など世帯の自由にならない支出及び借金利子など。)分を加算した金額が相対的貧困線以上の実収入(一般に言われる税込み収入。世帯員全員の現金収入を合計したもの。)となる。※現物給付(保険、医療、介護サービス等)、資産の多寡については考慮していない。
子どもの貧困率は13.9%、子供がいる現役世帯の貧困率が12.9%。貧困率は子供がいる現役世帯のうち大人が一人50.8%、大人が二人以上の貧困率が10.7%となっている。※世帯とは、住居と生計を共にしている人々の集まりをいい、大人とは18歳以上の者、子供とは17歳以下の者をいい、現役世帯とは世帯主が18歳以上65歳未満の世帯をいう[26][27][28]。
全国消費実態調査(総務省)による相対的貧困率
総務省の平成26年全国消費実態調査(2016年10月31日発表)で、世帯人員総数1億1,519万6,894人を対象に、以下のような結果となった。[18]
- 等価弾性値を0.5(平方根)とした場合の年間可処分所得については相対的貧困世帯を対象として、中位数の50%未満を基準値として定義する場合、平均所得約926,000円、収入ギャップ70.366%、ジニ係数0.188となる。
- 中位数の60%未満:世帯員分布15.636%
- 中位数の50%未満を:世帯員分布9.865%
- 中位数の40%未満:世帯員分布5.431%
- 中位数の30%未満:世帯員分布2.734%
- 等価弾性値を1(世帯員数)とした場合の年間可処分所得については世帯総数115,196,894件、相対的貧困世帯を対象として、中位数の50%未満を基準値として定義する場合、平均所得約557,000円、収入ギャップ71.658%、ジニ係数0.176となる。
- 中位数の60%未満:世帯員分布17.231%、
- 中位数の50%未満:世帯員分布10.640%
- 中位数の40%未満:世帯員分布5.767%
- 中位数の30%未満:世帯員分布2.534
平成26年の貧困線は、下記の表より、等価可処分所得の中央値263万円の半分の額132万円となっており,相対的貧困率(貧困線に満たない世帯人員の割合)は9.9%となり、前回2009年調査結果の10.1%から0.2ポイント低下している(表Ⅱ-1)。注)世帯主の年齢階級別及び世帯類型別の相対的貧困率は、統計表[(全国)分析表:第84表][18]から計算している。また、子どもの相対的貧困率(17歳以下)は、貧困線132万円を用いて場合は7.9%となり、前回2009年調査結果の9.9%から2.0ポイント低下している(表Ⅱ-2)[29]。
相対的貧困率(%) | 1999年 | 2004年 | 2009年 | 2014年 |
---|---|---|---|---|
全体 | 9.1 | 9.5 | 10.1 | 9.9 |
子どもの相対的貧困率 | 9.2 | 9.7 | 9.9 | 7.9 |
世帯主の年齢階級別 | ||||
30歳未満 | 15.2 | 15.7 | 15.6 | 12.0 |
30~49歳 | 7.1 | 7.2 | 7.7 | 6.6 |
50~64歳 | 7.7 | 8.4 | 9.6 | 9.5 |
65歳以上 | 15 | 14.1 | 13.7 | 13.6 |
世帯類型別 | ||||
単身 | 21.5 | 19.6 | 21.6 | 21 |
大人1人と子供 | 62.7 | 59.0 | 62.0 | 47.7 |
2人以上の大人のみ | 7.2 | 7.9 | 8.3 | 8.9 |
大人2人以上と子供 | 7.5 | 7.8 | 7.5 | 6.6 |
中央値(万円) | 312 | 290 | 270 | 263 |
貧困線(中央値÷2) (万円) | 156 | 145 | 135 | 132 |
前項の国民生活基礎調査の相対的貧困率と違う値を示す理由は、①回収率、②調査系統、③対象母集団、 ④標本の復元・補正方法の違いといった統計技術的な点が影響している可能性があることと、両調査における貧困線の水準に大きな違いがない中、150万円未満の所得で生活する65歳未満の2以人以上世帯の割合の違いなどが貧困率の差につながっている可能性が考えられる。 [30]
貧困の要因
山形大学の戸室健作は人文学部研究年報第13号で2012年の都道府県別の貧困率、ワーキングプア率、子どもの貧困率、捕捉率を算出した[31][32]。
日本は、かつての調査では北欧諸国並みの水準で「一億総中流」と言われたが、1980年代半ばから2000年にかけて貧富格差が拡大し相対的貧困が増大した[25][33]。
なお、ジニ係数と相対的貧困率は定義が異なるので一概に比較は出来ないが、単身世帯を含めたすべての世帯における年間可処分所得(等価可処分所得)のジニ係数で国内格差をみると日本はアメリカ・イギリス・オーストラリア・カナダの英語圏諸国より格差が小さく、フランス・ドイツとほぼ同程度の格差であった。
相対的貧困率は、1980年代半ばから上昇している。この上昇には、預貯金や不動産を所有しつつも収入は年金しかない「高齢化」や「単身世帯の増加」、そして1990年代からの「勤労者層の格差拡大」が影響を与えている。「勤労者層の格差拡大」を詳しくみると、正規労働者における格差が拡大していない一方で、正規労働者に比べ賃金が低い非正規労働者が増加、また非正規労働者間の格差が拡大しており、これが「勤労者層の格差拡大」の主要因といえる[34]。
経済学者の大竹文雄は、日本で相対的貧困率が高くなっている要因として、1)不況、2)技術革新、3)グローバル化、4)高齢化、5)離婚率の上昇を挙げている[35]。
国民貧困線
各国家の国民貧困線は、世帯調査に基づいて人口加重したものによって作成されている。そのため国家間で定義は異なるため、その数字を国家間で比較することはできない。例えば豊かな国では貧しい国よりも、貧困の基準がより寛大になっている。
米国
2017年の米国では、65歳未満を対象とした貧困線は年収12,752ドル、4人家族で18歳未満の子供が2人の世帯では年収24,858ドルであった[37]。米国国政調査庁は、2018年9月に、2017年の国民貧困線は約12.3%(約3,969.8万人)であると発表した[38]。
2017年の貧困率の内訳は、
- 年齢別 18歳未満:約17.5%(1,280.8万人) 18~64歳:11.2%(2,220.9万人) 65歳以上:約9.2%(468.1万人)
- 男女別 男性:約11.0%(1,736.5万人 ) 女性:約13.6%(2,233.3万人)
- 人種別 白人(非ヒスパニック):約8.7%(1,699.3万人) ヒスパニック:約18.3%(1,079.0万人) 黒人:約21.2%(899.3万人) アジア系:約10.0%(195.3万人)
- 学歴別(25歳以上) 全体:約10.1%(2,216.3 万人) 高卒未満:24.5%(548.5万人) 高卒:12.7%(794.2万人) 大学中退もしくは大学学科履修中:約8.8%(507.5万人) 大卒以上:約4.8%(366.1万人)
- 出身国 アメリカ:約11.9%(3,309.5万人) 外国(帰化):約10.1%(221.3万人) 外国(末帰化):約18.6%(439.0万人)
- 両親の有無 両親がいる世帯:約4.9%(300.5万人) 片親(母)世帯:約25.7%(395.9万人) 片親(父)世帯:約12.4%(79.3万人)
である。[38]
また、貧困線より半分以下が約5.7%(1,854.4万人)、1.25倍までの人を含めると約16.7% (5,401.0万人)、1.5倍までの人を含めると約21.0%(6,759.9万人)、2.0倍の人を含めると約29.7%(9570.2万人)である。[38]
英国
2018年の英国の最低所得基準(minimum income standards) は、単身者は年収18,390ポンド、4人家族で子供(4~7歳)が2人の世帯では年収39,992ポンドであった。[40]
2015年度の英国の最低所得基準[2015年の場合は、単身者は17,102ポンド、4人家族で子供(4~7歳)が2人の世帯では40,047ポンド]を下回る層は29.7%(約18.9百万人)である。
また、最低所得基準は、一般市民からの意見聴取を元に、必要最低限の生活水準に要する財・サービス等の構成やその費用を見るもので、これに基づいて、多様な家族構成毎に想定される生計費を算出し、人口比の加重平均により求められる平均的な生計費から、時間当たりの生活賃金額が設定される。算出する際、単身・カップルの別や、子供の数・年齢などにより17タイプの家族構成が想定され、それぞれについて、消費支出、住宅の賃料、カウンシル税(住宅用財産にかかるイギリスの地方税)、交通費、託児費用を算出する。なお、成人の構成員が週37時間のフルタイム労働に従事していることが前提とされる。[41]
最低所得基準以下の貧困層の内訳は
- 年齢別 18歳未満:44.3%(約5.9百万人) 18~64歳:29.0%(約11.1百万人) 65歳以上:15.4%(1.9百万人)
- 世帯別 片親(子供:1~3歳)世帯:75.0%(約2.3百万人) カップル世帯(子供:1~4歳):35.0%(約3.6百万人) 両親世帯:37.1%(約5.7百万人) 単身世帯:37.3%(3.1百万人)
カップル世帯:15.8%(2.3百万人) 年金受給者(単身)世帯:25.5%(約1.1百万人) 年金受給者(カップル)世帯:9.5%(0.7百万人)
である [42]。
2017年4月のイギリスでは、全労働者の18.1%(約485.5万人)が時給8.30ポンド以下(中央年収の3分の2)の給与であった。また、グループ別の割合でみると、年齢別の場合、一番高い層は16~20歳は約72%(約98.0万人)、低い層は、66歳以上の約11%(約12.0万人)である。男女別では、男性は約14%(約191.0万人)、女性は約22%(約294.5万人)であった。また、フルタイムの場合は約11%[男性:約9% 女性:約13%](約209.0万人[男性:約109.0万人 女性:約100.0万人])であり、パートタイムの場合は約36%[男性:約43% 女性:約34%](約277.0万人[男性:約82.0万人 女性:194.5万人])であった。産業別では、一番高い産業は宿泊業で58%(約91.0万人)、低い産業は金融業の2%(約2.0万人)であった。企業別では、一番高いのは従業員数10人未満が約32%(66.5万人)であり、一番低いのが従業員数250人以上5,000人未満が約16%[101.5万人]であった。 職業別では、一番高い職業は運搬・清掃・包装等従事者が52%(約161.0万人)であり、低い職業は、専門的・技術的職業従事者の約1%(約5.5万人)であった。[39]
被用者全体に占める相対的低賃金層(賃金の中央値の3分の2未満の賃金水準)の数は、前述した被用者の18%に当たる490万人に減少、2003年以来の低い水準にある。これには、25歳以上層向けの新たな最低賃金制度として、昨年導入された「全国生活賃金」が影響しているとみている。全国生活賃金は、25歳以上の労働者について、従来の全国最低賃金額(21歳以上に適用、2016年4月時点で時間当たり6.50ポンド)より高い最低賃金額(7.20ポンド)を設定したもの(2020年までに平均賃金の6割の水準への引き上げが目標とされている。)。制度導入時点の2016年4月には、低賃金層がおよそ30万人減少したとされる。[43]
低賃金層の比率が高い業種は、前述した宿泊・飲食サービス業(58%)の他に、卸売・小売業(33%)、農業(31%)など。また、パートタイム労働者では前述の4割弱(36%)が低賃金層に属すると推計されている(フルタイム労働者では11%)。[43]
今後も最低賃金の引き上げにより、低賃金層の減少は継続するとみているものの、2020年にも依然として400万人以上が低賃金職種に従事していると予測、最低賃金の引き上げのみでは政策的対応として不十分との見方を示している。[43]
また、近年の最低賃金の引き上げにより、国内の低賃金層の比率は減少したものの、こうした層の賃金水準は持続的に低迷している状況にある。報告書「Low Pay Britain 2018」はその要因として、より賃金の高い仕事への移行のしにくさや、少数の企業による寡占、また特に女性労働者において賃金水準が向上しにくい傾向などの3点を挙げている。[43][39]
具体的には、一つは、低賃金職種における昇進のしにくさだ。例えば、代表的な低賃金職種である小売業の販売補助職では、「売り場から最上階へ」(from shop floor to top floor)という表現でしばしば成功のストーリーが語られるものの、実際により高い職種に移行している層はごくわずかであるという(5年後に監督あるいは管理的職種に昇進している比率は4%)。[43]
また、少数の企業が支配的な業種や地域では、賃金水準が低迷する傾向にあり、低賃金層は特にその影響を強く受ける傾向にあるとしている。例えば、国内企業のごく一部にすぎない従業員規模5000人以上の企業が、低賃金労働者の28%を雇用している。あるいは、全国でも低賃金労働者の比率が高い(全国平均の18%に対して24%)ノッティンガムでは、わずか5社が、低賃金層の5人に1人を雇用している。[43]
加えて、低賃金労働者の比率が高い女性労働者(就業者に占める低賃金労働者の比率は、女性で22%、男性では14%)では、より顕著に低賃金への滞留の傾向がみられるという。転職する場合にも、他の低賃金の仕事に移る場合が多く、また男性の低賃金層に比べて、少数の大企業に雇用されている比率が高い。[43]
報告書[39]は、しばしばみられる低賃金労働者への依存は不可避であるとの論調に対して、2点を挙げて転換の可能性を論じている。一つは、他の先進国における低賃金労働者の比率はイギリスよりずっと小さいが、失業者がその分多いわけではなく、また低賃金業種における生産性はイギリスより低い状況にある点だ。加えて、全国生活賃金の導入により極端に賃金水準の低い層のみが減少し、中間的な賃金水準の労働者との間の格差が減少していることを挙げている。[43]
更に、低賃金水準未満の労働者が減少したことは、必ずしも賃金水準の低い層全般の減少を意味するわけではない、と報告書「Low Pay Britain 2017」[44]は指摘する。低賃金業種を中心に、最低賃金相当額の賃金水準の労働者はむしろ増加しているとみられることが理由である(従来の生活賃金[全国生活賃金より高い金額を設定]を下回る賃金水準の被用者数は、2015年の600万人から2016年の620万人に増加している[被用者全体の23%])。報告書は、低賃金水準未満の労働者の比率は2020年までに被用者全体の16%(430万人)まで低下すると予測、ただし同時に、最低賃金相当額の賃金水準の労働者は190万人から370万人に倍増するとの予測を示している。
また、貧困問題を扱うジョセフ・ローンツリー財団は、全国生活賃金の引き上げなど(全国生活賃金のほか、所得税免除額の引き上げが低所得世帯の所得水準向上に関連する施策として考慮されている。)による低所得世帯の所得水準へのプラスの効果は、物価上昇や社会保障給付の削減などで相殺され、結果として低所得世帯の所得水準は必ずしも改善しない、と指摘している。特に、従来の低所得層向け給付を統合する制度として現在導入が進められているユニバーサル・クレジット[45]をめぐっては、歳出削減に伴う制度内容の変更により、給付水準が従来の給付制度を下回るとみられること[46]や、申請から支給まで最低でも6週間前後、または手続きの遅滞等によりそれ以上の待機期間が生じ、その間申請者が収入のない状態に置かれること、などが問題として指摘されており、このまま全国での導入(2022年を予定)を進めれば、低所得層にさらなる経済的な困難を招きかねないとの懸念がある[47]。[48]
また、2018年時点で、生活賃金(最低限の生活水準の維持に要する生計費から、必要な賃金水準を設定したもの)未満の労働者は、約575万人で、全体の約22%を占める。また、フルタイムの場合は約250万人で、フルタイム全体の13%を占めている。それに対して、パートタイムの場合は約320万人で、パートタイム全体の43%を占めている。更に内訳として、
・性別
男性 約17%(約225.0万人 フルタイム:約11%[約130.0万人]、パートタイム:約47%[約95.0万人])
女性 約27%(約350.0万人 フルタイム:約16%[約120.0万人]、パートタイム:約41%[約230.0万人])
・年齢別
年齢層 | 全労働者数(千人) | 中央時給(ポンド) | 平均時給(ポンド) | 生活賃金未満の割合(%) |
---|---|---|---|---|
18-21 | 1,227 | 8.10 | 8.89 | 68 |
22-29 | 4,367 | 11.60 | 13.34 | 25 |
30-39 | 6,059 | 14.71 | 17.51 | 16 |
40-49 | 6,014 | 15.21 | 19.17 | 15 |
50-59 | 5,566 | 13.68 | 18.00 | 17 |
60歳以上 | 2,154 | 11.78 | 15.78 | 25 |
・職種別
生活賃金未満の比率が多い職種 上位3位(カッコ内には、報告書に記載されている生活賃金未満の人数とその職種の中央時給)
バーのスタッフ 約86%(約13.8万人 中央時給:7.83ポンド)、ウェイター・ウェイトレス 約81%(約17.0万人 中央時給:7.83ポンド)、クリーニング職 約80%(約1.4万人 中央時給:7.93ポンド)
生活賃金未満の人数が多い職種 上位3位(カッコ内には、報告書に記載されている生活賃金未満の比率とその職種の中央時給)
販売補助や小売店のレジ係 75.6万人(約64% 中央時給:8.20ポンド)、キッチンスタッフ 42.9万人(約75% 中央時給:7.96ポンド)、未熟練の清掃職種 38.7万人(約69% 中央時給:8.16ポンド)
である。[49]なお、時間当たりの生活賃金の金額は2018年10月末時点で、ロンドンで10.55ポンド、ロンドン以外の地域では9.00ポンドである。[50]
インド
インドの公式貧困線は、最低ニーズバスケット(minimum needs basket)方式によって定められている。この方式は、特に食料消費を中心に最低水準の生活を維持するために必要なコストをもとに算出される。都市部と農村部で別々の基準で定めており、必要なカロリーを都市部では 2,100kcal、農村部では 2,400kcalを満たすために必要な食品の組み合わせである食料バスケットを設定し、その食料バスケットに含まれる食品を購入するために必要な金額で基準を定めている。また、各州の貧困線は物価調整を行いそれぞれの州で算出される[51]。
2011-2012年ではインド政府が定めた基準の場合、都市部の基準は月収1,000ルピー(約13.9ドル)、農村部の基準は月収816ルピー(約11.4ドル)で計算されている。州別での貧困線では、都市部の場合、最高は1,302ルピー(ナガランド州)~最低849ルピー(チャッティースガル州)であり、農村部は最高1270ルピー(ナガランド州)~最低738ルピー(チャッティースガル州)である。[52]。
インド全体では、貧困率は21.92%(約2億6978.3万人)であり、都市部は13.70%(約5312.5万人)、農村部では25.70%(約2億1665.8万人)である。州別では、一番高い州はチャッティースガル州の39.93%(約1041.1万人)、一番低い州はアンダマン・ニコバル諸島 連邦直轄領の1%(約0.4万人)である。都市部の場合、一番高い州はマニプール州の32.59%(約27.8万人)、一番低い州は0%の州を除いてラクシャディープ連邦直轄領の3.44%(約0.2万人)である。農村部は、一番高い州はダードラー及びナガル・ハヴェーリー連邦直轄領の62.59%(約11.2万人)、一番低い州は0%の州を除いてアンダマン・ニコバル諸島連邦直轄領 の1.57%(約0.4万人)である[52]。
指定カースト・指定部族の貧困率は、農村部では指定カーストが42.26%であり、指定部族は47.37%である。また都市部の場合は、指定カーストは34.11%であり、指定部族は30.38%である[53]。また、地域別に見ると、ビハール州とチャッティースガル州の指定カーストと指定部族の貧困率は約3分の2である。更に、マニプール州、オリッサ州、ウッタル・プラデ シュ州では彼らの貧困率は5割を超えている[54]
また、2011年9月20日にインド計画委員会(the Planning Commission of India)がインド最高裁判所に提出した資料(affidavit:宣誓供述書)に示された貧困線の値があまりに低すぎると物議を醸し、NGOなどが計画委員会副委員長モンテク・アルワリアの辞任を迫るなど、問題がひととき先鋭化した。
計画委員会は、2011年6月の時点では、5人からなる家計を想定すると、一カ月あたり、農村部で3905ルピー、都市部で4824ルピーの支出に達しない家計(当時それぞれ6000円、7500円ほど)が貧困線以下であると最高裁に報告した。この値はすぐに、メディアなどにより、一人あたり一日あたりに換算されて広く報道された。つまり、一カ月30日として計算すると、農村部では一日26ルピー以下、都市部では32ルピー以下である場合に(当時それぞれおよそ40円、50円)貧困線以下と定義できると計画委員会は決め、それ以上を支出している者は、政府の貧困線以下の人々をターゲットとした福祉プログラムへのアクセスを認められなくなる、というようなニュースとしてインドを駆け巡った。なお、都市部の貧困線32ルピーのうち18ルピーが食料、14ルピーがそれ以外、農村部の貧困線26ルピーのうち16ルピーが食料、10ルピーがそれ以外という内訳である。食料については、自ら生産し消費するものの値段も含まれる。
この計画委員会の提出した貧困線の値に対して、インドにおいて「飢えからの自由」を実現しようという運動を推進するインフォーマルなネットワークであるThe Right To Food Campaignはアルワリアに宛てた公開書簡で、計画委員会の委員に「一日25ルピー/32ルピーで生活せよ、この額が基準として『十分(adequate)』であるとする根拠を公衆にわかりやすく説明できるようになるまで。もし説明できない場合には、くだんの宣誓供述書は取り下げられるべきであり、あるいはあなたたちは辞任すべきである」と激しく挑戦した。有力紙もこの問題を大きく取り上げ、街かどで飲めるチャイ(紅茶)一杯すら7ルピーから10ルピーするというのに、市井の感覚と今回示された貧困線がいかにかけ離れているか、「ひどい冗談だ(cruel joke)」などと報道した。また、中央政府の連立政権の中核である会議派の総裁ソニア・ガンディーが委員長を務めるNational Advisory Councilの委員(2004年6月4日~20145月25日の間に存在した連立政権(統一進歩戦線)によるマニフェスト(Common Minimum Programme)の実施を監視するために、政府が設置した政府機関であり、委員長には中央政府の閣僚と同じランクと地位を認められていた。委員は元官僚(Saxenaら)、社会活動家(Aruna Royら)、学者(Jean Drezeら)など15名ほどで構成されており、いわばソニア・ガンディー委員長のブレインであった。)のなかにもこの定義に疑義を呈するものがおり、たとえばN.C. Saxenaは「32ルピーでは犬や動物のみが生存できるにすぎない」とコメントした。
こうした非難の高まりをみて、連立政権は腐敗問題やインフレ問題でこのところ窮地に立たされていることもあり、本件でさらに支持率を失うことを避けようと、すぐに火消しに努めた。政府(農村開発省)と計画委員会は、共同声明を10月3日に発表し、「計画委員会の方法を用いる現在の州別貧困推計が、さまざまな政府のプログラムやスキームに含まれるべき世帯数の上限を課することに用いられることはないであろう」と記した。 また、貧困線の値自体についても、計画委員会は、今回の数値は2004年度の貧困線をインフレの分だけアップデートしただけの暫定値であり、2011年の全国標本調査(National Sample Survey: NSS)の消費支出データに基づく最終的な数値の計測は2011年度のNSSが完成したのちにのみ計測可能だとも繰り返し強調した。さらに、アルワリアは、今回発表した貧困線を「事実上は正しい(factually correct)」と擁護し、同時に、「Tendulkar委員会の貧困線により、本来ならば特別な支援をうる資格がある家庭が排除される結果になると危惧する理由はどこにもない」、「政府により助成される食料や他のベネフィットの受給資格は、貧困線とは切り離され、より多くの人々に広げられるだろう」と述べるなど、一方で、計画委員会が独自の計算をしているのではなく、専門家委員会であるTendulkar委員会の提案した貧困線の推計方法が現在は公式に採用されており、これに依拠していることを確認し、他方で、今回の提出された貧困線は政府の福祉プログラムの受給資格としては用いられないことを強調して、事態の鎮静化に努めていた。
アルワリアが触れているTendulkar委員会は2005年に貧困の推計方法を検討するために設けられた委員会で、2009年に報告書を計画委員会に提出していた。計画委員会は、1979年に、農村部で一日あたり2400kcal、都市部で2100kcalの摂取を基準とし、これに必要な財・サービスの消費バンドルを農村部および都市部につき特定して、このバンドルを購入するための支出を推計し、1973年度のNSSをもとに最初の貧困線を決定した。このときの貧困線は農村部で一カ月49ルピー、都市部56.4ルピーであった。その後は、この消費バンドルは一定のまま、さまざまな物価指数を使って、この値をアップデートしてきた。
貧困線のアップデートをするには、消費バンドルは一定のままでよいのかなどいろいろな問題があるが、そのうちの一つに、消費者物価指数が生活費を必ずしも正確には反映せず、そのために設定された貧困線では実際に摂取できるカロリーが下がってきているという問題があります。それゆえ、計算上形式的には2004年度の貧困線の支出額も2400kcal、2100kcalの摂取を基準としていることになっているが、現実に2004年度の貧困線の支出額で摂取できるカロリーはおよそ1820kcalにすぎなかった。いいかえると、カロリー基準の貧困線は事実上はすでに放棄されているといってもよい乖離が存在している。いずれにしても計画委員会は、2004年度には農村部では一日12ルピー、都市部では20ルピー、人口の27.5%(農村部28.3%、都市部25.7%)が貧困線以下であると推計した。
2009年に提出されたTendulkar委員会の推計方法に関するレポートは、1973年度の消費バンドルのままで推計を続けていること、そして、1973年度の貧困線をアップデートするのに用いられているウェイトや個別の物価指数は、いずれも時代にそぐわなくなっていると指摘しつつも、基本的にはこれまでの計画委員会の方法を肯定し、とくに都市部の貧困線については計画委員会の2004年度の推計は基本的にそのままでよいとした。なぜなら国際連合食糧農業機関(FAO)が基準としている1800kcalに近いカロリーを摂取できること、また教育と健康にもそれなりの支出をでき、貧困線を定める消費バンドルのより良い定義を与えることも可能な額であるという理由だからである。これに対して農村部の貧困線については、農村と都市との価格差を調整した上で都市部と同じ消費バンドルが用いられるべきことを提案した。その結果、カロリー基準からは明確に遠ざかると同時に、農村部における教育や医療などへの支出がより大きく捉えられ、2004年度においては、貧困線は、都市部については計画委員会の推計値20ルピーに変更はなかったが、農村部については計画委員会の示した12ルピーではなく15ルピーであるとし、その結果インド人口の37.2%(農村部41.8%、都市部25.7%)が貧困線以下の生活水準となった。
計画委員会が2011年1月にTendulkar委員会の推計方法を受け入れると公表し、そのため貧困線以下の人口が、2004年度時点について27.5%から37.2%へとおよそ10%ポイントあまり増えた。そして今回発表された基準によれば現在の人口の32%が貧困線以下と見積もられ、それゆえに2004年度からは5%ポイント貧困が減少したということになる。
そもそも今回の貧困線の値は、2001年から公益訴訟として最高裁に係属している、通称「食料への権利(the Right to Food)」訴訟(この訴訟は、憲法21条の「生きる権利(the right to life)」には「飢えからの自由」ないし「食料への権利」が含まれると訴える市民団体によるもので、また、公開書簡を発表した前述のThe Right to Food Campaignもこの訴訟が進む過程で生まれた団体および個人のインフォーマルなネットワークである。 )のなかで提出を求められたいわば訴訟資料であり、通常の訴訟であるならば政策遂行上の根拠に直接になるものではないはずである。しかし、公益訴訟は対立する二当事者間の過去の権利関係の裁定に関する争いというよりも、将来に向けて不特定多数者の利害にかかわる立法政策的な特徴があり、今回の訴訟も実にそのような訴訟で、すでに訴訟開始から10年あまり経過しているものの最終判決はまだでておらず、これまでいくつかの重要な中間命令が下されている。例えば、すべての小学校で調理された昼食(cooked mid-day meals)を供給すること、公共配給制度(PDS)のアントダヤ食料計画の対象である1500万の最貧困層に一カ月35キロの穀物を十分に安価な助成価格で提供すること、などを最高裁は命じています。
この訴訟のなかで、最高裁は、2011年5月14日に、計画委員会が貧困線として定めている都市部20ルピー、農村部15ルピーでは、もともと設定されている2100kcal、2400kcalを摂取することは2011年の時点の物価水準では不可能であるというTendulkar委員会の報告に基づき、計画委員会に対して、2011年5月あるいはそれ以降の物価指数に基づき貧困線の改定を検討するよう命じた。
今回問題となった貧困線は、この最高裁による指令をうけて提出された宣誓供述書のなかで報告されたものです。つまり、訴訟資料として最高裁に提出されたものであるにもかかわらず、問題が即座に政治化したのは、公益訴訟においてまさに政策的な問題が争われていたからである。[55]。
なお、インド政府が定めた貧困線ではなく、1日1.9ドル以下(PPPベース)を貧困線とした場合、2011年5月時点では、約21.23%(農村部:24.83% 都市部:13.39%)であった。また、1日3.2ドル以下の場合は、60.40%(農村部:68.25% 都市部:43.29%)であり、1日5.5ドル以下の場合は、86.81%(農村部:92.05% 都市部:75.38%)となる[2]。
日本
日本には国民貧困線が公式設定されておらず、国民貧困率の試算も存在しない。実務上は生活保護基準などを元に運用されている[56]。
脚注
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^ 低所得層向けの複数の給付制度(所得調査制求職者手当、所得連動制雇用・生活補助手当、所得補助、住宅給付、就労税額控除、児童税額控除)を統合、簡素化し、就労所得の変化に応じた給付額の調整を従来より緩やかにするなど、就労へのインセンティブを高めることが意図されていた。2013年から一部自治体で試行的に導入が開始され、2018年には旧制度からの移行完了が予定されたが、制度運用の負荷から支給遅滞が生じたほか、ITシステムの整備不足などの問題に直面、移行完了の時期が延期され、現在は2022年の完了が目標とされている。
^ 当初示されていた案では、制度の再編と簡素化を通じて、給付受給よりも就労の方が経済的に利益となることを明確に示すことが主な目的の一つとして掲げられていたが、一定額までの就労所得について給付の減額を免除する制度(work allowance)の原則廃止(子供を持つ親や健康問題を抱える就労困難者に限定)や、給付額の改定凍結、児童加算の上限設定(対象とする子供の数を二人までに限定)などの変更が行われた。
^ 現在、議会の雇用年金委員会がユニバーサルクレジットの導入に関する検討会を実施しており、同制度が先行的に導入された地方自治体などがエビデンスを提供しているが、一部では、支給遅延の影響で住宅の賃貸料が支払えず、民事裁判に直面する受給者も出ているという。地方自治体は、家賃未納で退去を余儀なくされた受給者がホームレスとして増加する可能性に懸念を示している
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関連項目
- ジニ係数
- ミレニアム開発目標
- 相対的剥奪
- 社会的排除
- 子どもの剥奪指数
関連書籍
Debraj Ray 1998, Development Economics, Princeton University Press, ISBN 0-691-01706-9.
外部リンク
History of the U.S. Poverty Line(archive) by Tom Gentle, Oregon State University.- United States Department of Health and Human Services Poverty Guidelines, Research, and Measurement
- 2007 United States Department of Health and Human Services Poverty Guidelines
World Summit for Social Development Agreements(archive), United Nations
The "elimination" of poverty, Takis Fotopoulos
- 相対的貧困率等に関する調査・分析結果について : 経済財政政策 - 内閣府