アルペンスキー
アルペンスキー (英語: Alpine Skiing) は、ヨーロッパアルプス地方で20世紀になって発展したスキー技術である。アルペン(Alpen)とは、ドイツ語で「アルプスの」という意である。スキーの原型であるノルディックスキーから分化し、ビンディングの踵を固定することにより滑降に特化して発達したスタイルである。雪の斜面をターンを繰り返し、ときには直滑降をおり混ぜつつ滑る。斜面は斜度0度から40度以上までのさまざまな斜度で構成されるが、大半の愛好者は斜度10度ぐらいから20度ぐらいまでを好む。滑走速度はレジャー目的では40km/hから60km/h程度までだが、高速系競技では100km/hを越える。大半の愛好者はスキー場で滑走するが、自然の、整備されない山を登って滑り降りる山岳スキーの愛好者も多い。
目次
1 用具
1.1 スキー板
1.1.1 構造
1.1.2 形状
1.2 ビンディング
1.3 プレート
1.4 スキーブーツ
1.4.1 構造
1.5 ストック(ポール)
1.6 ワックス
2 服装
2.1 スキーウェア
2.2 ゴーグルまたはサングラス
2.3 スキーグローブ
2.4 帽子またはヘルメット
2.5 プロテクター
3 滑走技術
3.1 直滑降
3.2 プルークファーレン
3.3 片プルーク
3.4 シュテムファーレン
3.5 プルークボーゲン
3.6 斜滑降
3.7 横滑り
3.8 プルークターン
3.9 シュテムターン
3.10 パラレルターン
3.11 ショートターン(ウェーデルン)
3.12 ステップターン
3.13 スキッディングターン
3.14 カービングターン
3.15 クローチング
3.16 ジャンプターン
3.17 キックターン
3.18 階段登行・開脚登行
4 SAJ バッジテスト・SIA 技術検定
5 競技
5.1 概要
5.2 種目
5.3 大会
5.4 コース
6 チェアスキー
7 著名なプレイヤー
8 註
用具
アルペンスキーでは以下のような用具を用いて滑走する。
スキー板
アルペンスキーのスキー板は、2本の細長い板からなる。
構造
スキー板は、芯材、ソール(滑走面)、エッジ、トップシート、サイドウォールなどから構成される。
芯材はスキー板のもつべき剛性や弾性を実現する中心的な素材である。伝統的には木材が用いられてきたが、近年は発泡樹脂も用いられており、また、ケブラー、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、ポリエチレン繊維などの化学繊維やチタン合金やマグネシウム合金のような金属により強化することで天然素材そのままでは実現できない力学的特性を実現している。
ソールは、スキー板が雪面と接する部分である。現在のスキー板では高密度ポリエチレンが用いられている。特に、上級モデルや競技モデルのスキー板のソールは焼結ポリエチレンを用いることで、滑走時に塗布するワックスがよりよく吸収されるようになっており、雪面に対する摩擦系数の低下による滑走性の向上を図っている。また、競技モデルを中心として、グラファイト粉末を混入して静電気の発生の低減を図ったものも用いられている。
エッジは、アルペンスキーにおけるターンの実現に欠かせない部品である。硬い金属、一般には鋼を素材とする細長い形状のもので、ソールに沿ってスキー板の左右に、板の先端(トップ)から後端(テール)まで配置される。現在はトップからテールまで、ひと続きとなったエッジがほとんどだが、板の柔軟性を優先するために、数cmごとに切れ目の入ったクラックドエッジも一部で用いられている。エッジは90度、ないしそれよりやや鋭角に研がれているのが一般的であり、ターン時に雪面、ときにはアイスバーンを削ってターン中の足場を確保する。
トップシートとサイドウォールは、スキー板の上面や側面を保護するための部材である。近年は、その形状や材質を工夫することで、スキー板の性能向上につなげている場合が多い。また、スキー板の構造は、もともとはソール、芯材、トップシートを重ねて貼りあわせて側面にサイドウォールを接着したサンドイッチ構造のものが多かったが、トップシートとサイドウォールを一体化したボックス構造、あるいはキャップ構造を採用する板も近年は多い。そのほか、トップシートの上に振動吸収を目的とした小さな部材を取り付けた板も存在する。
形状
アルペンスキーのスキー板は、ターン技術を用いた滑走に適した形状をしている。スキー板の先端と後端が太く、ビンディングを介してブーツと繋がる中央部分が細くくびれた形状となっている。滑走時に、スキーヤーがスキー板を傾けて板の上から圧をかけることで、スキー板はたわみ、エッジが雪面に食い込んで足場をつくることで、スキー板全体は雪面に対して弧を描いて接することとなり、その結果、スキーヤーはターンすることができる。
また、スキー板は単体でソールを下にして水平面に置くと、先端近くと後端近くで水平面に接し、中央部分が浮いた弓なり状となっている。これは、人がスキー板を履いて平らな雪面に立つことでソール全体が雪面に接するようになっていて、安定した直滑降を可能にしている。なお、スキー板の先端部分は上に持ち上がっていて、滑走時に雪面に刺さりにくい形状になっている。後端部分はほとんど平らとなっている板が多いが、フリーライド用途のものではツインチップと呼んで後端も先端と同様に持ち上がった形状とすることで逆方向への滑走にも対応したものがある。
アルペンスキーのスキー板の長さは、1980年代までは2m前後のものが一般的であった。レジャー目的の場合、その長さはスキーブーツではなく一般的な靴などの履き物を履き、または素足で直立し、腕を真上に上げ、手首を「へ」の字に曲げ、スキーの先端が曲げた手首の下に納まるのが一般的とされ、素足の場合は靴底の厚さに相当するものを加えた長さと考えて良く、長さの許容差は1-1.5cm以内程度が身長に合った適切なものとされた。1990年代のカービングスキーの登場とその一般化という技術革新のもと、扱いやすい 150cm から 180cm 程度が一般的となり、2mを越える長さの板は高速系競技と一部のファットスキーでのみ見掛けるという状況になった。また、100cm から 130cm 程度のショートスキーや、70cm 程度のファンスキーまたはスキーボードと呼ばれるものもあり、これらは滑走特性の違いから独自のジャンルとして位置付けられている。
ビンディング
ブーツをスキー板に固定させるための器具。爪先を固定するトーピースと、かかとを固定するヒールピースからなる。ビンディングとスキー板は、直接、あるいはプレートを介してトーピースとヒールピースがそれぞれ別に固定されるものが多いが、トーピースとヒールピースが別の部品を介して一体のものとなっていて、その部品がスキー板と固定される場合もある。
1970年代以降のアルペンスキーでは、滑走中の転倒などによるけがを防ぐためブーツから一定以上の力が加わるとブーツを外すリリース機構がついているセイフティビンディングが一般に用いられるようになった。ただし、おおむね1m未満のショートスキー板の場合、板の重量が軽いことや転倒時の脚への負荷の違いを考慮して、セイフティビンディングでない、簡易なものが用いられている。また、山岳スキーでは登行時にかかとが上がることが求められるため、リリース機構がついていない、あるいはトーピースのみにリリース機構がついたものが長年用いられてきたが、2000年ごろから、ゲレンデスキーにおけるカービングスキーの流行やそれに伴う滑走速度の高速化を山岳スキーにおいても実現したい人々の要望に応じるよう、トーピースとヒールピースの両方にリリース機構を有する、ゲレンデスキー用のセイフティビンディングと安全性において匹敵するような山岳スキー用ビンディングも普及するようになった。セイフティビンディングでは、解放時にスキー板が流れるのを防止するためのスキーブレーキがヒールピースに備えられているが、ショートスキー用の簡易ビンディングでは存在せず、また山岳スキー用の場合はまちまちである。スキーブレーキを備えていない場合、スキーヤーは流れ止めと呼ばれる長いひもで身体とビンディングを結びつけて、スキー板が流れ続けることがないようにする必要がある。
セイフティビンディングは、現在の主流はステップイン式とターンテーブル式に二分される。
どちらもトーピースは同様の機構となっていて、ブーツの爪先のコバを前上左右から固定する。固定部材は上下軸によって左右に動くのだが、左右の力に対してはばねの弾性で一定の力までは耐えるが、それを越えると解放する。上方向や斜め方向の力については、とくに考慮していないものと、解放するものとがある。
ヒールピースは、ブーツのかかとのコバを上から抑えつけて固定する。ステップイン式は、ブーツを固定している部材が左右軸によって前方向に倒れることでブーツのかかとのコバを上から固定し、またヒールピースの位置によって後方からも固定する。固定された部材はばねの力で引っ張られており、指定された強度を越える力がかかることで解放する。ターンテーブル式は、ヒールピース全体が上下軸で動くターンテーブルの上に乗っていて、左右に少し動くことが特徴となっている。ブーツを固定する部材は左右軸によって動くが、ステップイン式とは異なり、部材を持ち上げた状態で上後方から圧縮されたばねの伸長力で固定する。
両方式について、ターンテーブル式のほうが正確に解放するとも言われるが、ステップイン式のほうが扱いやすさに優るため、市場のシェアはステップイン式のほうが大きいが、上級者を中心としてターンテーブル式にも根強い支持があり、両方式とも用いられている(現在ターンテーブル式は準競技用モデルが残るのみ)
なお、セイフティビンディングについては安全性やブーツとの互換性のため、ブーツのコバ高や、個々のビンディングで設定する解放強度に対応する解放力や解放モーメント、スキーヤーにとって適切な解放強度の算出方法などが規格化されており、先行して規格化を行ったDINになぞらえてDIN規格と呼ぶことが多いが、現在はISOで規格化されているものを各メーカーとも用いている。
プレート
スキー板とビンディングの間に取り付けられる板。材質はステンレスやアルミニウム合金などの金属、プラスチック、あるいは木材であり、長さはビンディングの固定場所より前後に少し長い程度のものが多く、幅はスキー板と揃うものが一般的である。厚さは、目的によりさまざまである。
スキーにおけるプレートの利用は比較的新しく、1990年代からである。高速系競技での振動吸収を目的とした金属製プレートが最初となる。このプレートはスキー板とは前後の2ヵ所で固定され、その上にビンディングが取り付けられた。主な目的は、振動吸収にあった。高速系競技では雪面の細かい凸凹とスキー板がぶつかったときの細かい振動がスキーヤーに返ってくることがあり、それはスキーヤーの操作ミスを引き起こして事故や速度低下の要因となる。そのような滑走に有害な振動を低減させる工夫のひとつとしてプレートが考案され、利用された。この時点でのプレートはもっぱら本格的な競技スキーヤーのみのためのものであった。
しかし、ほどなくして、プレートの高さがカービングターン(後述)にとって有効であることが見出された。その有効性のひとつは雪面とスキーブーツの接触抑止である。カービングターンでは脚をターンの内側に大きく傾けることになるが、このときプレートをつけていないスキー板を利用していると、ブーツの側面が雪面とぶつかることになる。これはスキーヤーにとって減速要素となるとともに、スキー操作を誤らせる要因ともなるが、プレートを利用するとスキーブーツが雪面から遠くなるために、雪面との接触を防ぐことができ、より大きく脚をターン内側に傾けることができるようになる。もうひとつの有効性は、てこの原理により雪面に板を食い込ませやすくなることである。硬いアイスバーンを含む雪面にスキー板を食い込ませようとした場合、力点となるスキーヤーの足裏がエッジから遠くなるほど、大きい力をかけることができるようになる。こうした知見とカービングスキーの一般化に伴って、プレートの利用も一般スキーヤーにまで広がることになった。一方、プレートを高くし過ぎることは、転倒や操作ミスのさいに本来とは異なる場所を支点としたてこでの応力がスキーヤーの脚にかかることにもつながり、実際に事故も起きている。そのため、現在ではアルペン競技ではプレートの高さについて、雪面からの高さで制限を設けて規制している。この規制は当初はスキーブーツの裏にプラスチック板を貼ることで高さを稼ぐ、という抜け穴の発明を促したが、現在ではスキー板にブーツを取り付けた状態でのインソールまでの高さも規制対象とすることで抜け穴は塞がれている。
技術系競技用のプレートや高速滑走用以外の一般スキーヤー向けのプレートは、振動吸収に求める内容が異なり、あるいは重視しないため、重い金属製のプレートではなく、軽いプラスチック製、あるいは複数の素材を複合したプレートが用いられる。また、1990年代後半に流行したエクストリーム・カービングのような、カービングターンのみを目的とした滑走では、高さを稼ぐことを主眼として木製のプレートが使われることもあった。これは、加工や成型が容易であり小規模な企業や個人でも製作が可能であったからである。
プレートとスキー板の固定方法は、多様である。前後2ヵ所で固定する場合もあれば、中央の1ヵ所のみ、あるいは前後のいずれか一ヶ所のみを固定する場合もある。さらに、2ヵ所の固定の場合でも、片方は完全な固定ではなくスキー板のたわみにあわせて可動するものもある。こうした取り付け方法の工夫は、スキー板のたわみを阻害しないためにさまざまな工夫が行われている。
プレートの利用が一般化するにつれて、スキー板の各メーカーも設計段階からプレートの利用を前提とした設計をし、プレートを取り付けた状態でスキー板を販売するようになった。これには、プレートが完全にスキー板と一体となっている場合も含む。こうした一体販売は、技術的な長所の追求とともに、スキー板メーカー以外のサードパーティのプレートを買わせない、という販売政策の面も伴う。実際、一体型プレートにあらかじめビンディング取付用のビス穴を備えておき、そのビス穴は自社、あるいは提携先のビンディングのみ対応する、というメーカーも多い。ときとして、自社製品であっても古いモデルとは互換でないビス穴を用いることでスキー板よりも製品寿命が長いビンディングの再利用を拒む場合すらある。
なお、プレートはモーグル競技や山岳スキーでは用いられない。前者は、てこの原理の活用の裏返しとしてターンに必要な脚の動作が大きくなるため、早い切り返しを多用した細かいターンが要求されるモーグル競技に不向きであるため、後者は、単純にプレートの重量がスキー板を脱いで持ち歩くことが少なくない山岳スキーには不向きであるためである。
スキーブーツ
スキーの際に人が履く履物。スキー靴とも呼ぶ。スキーブーツはビンディングを介してスキー板と接続される。1930年代以前は登山靴などが用いられていたが、ビンディングでよりしっかりと固定可能な専用靴として開発されたものである。[1]
アルペンスキーのスキーブーツは、ブーツとしては脛までを覆う長さ、膝下というにはやや短い程度となっている。足首からすねにかけての広範囲が柔軟性に乏しいスキーブーツに覆われることによって、スキーヤーは足首捻挫を起こすことなく、スキー板からの力を受け止め、あるいは積極的にスキー板へ圧力をかけるべく運動することができる。スキーブーツのソールの形状はISOで規格化されており、どのセイフティビンディングとも互換性が保証されている。
1970年代前半までは皮革製が一般的であったが、1960年代後半に登場したプラスチックブーツが1970年代後半には一般的となった。ほとんど全てのスキーブーツは、外側を覆うシェルと、足が直接触れるインナーブーツの二重構造になっている。シェルの素材としては、ポリウレタンが弾性などの力学的特性の良さから好んで用いられている。なかでも、ポリエーテルポリオールを原料とするポリエーテルポリウレタンが上級者モデルでは好まれるが、ポリエステルポリオールを原料とするポリエステルポリウレタンも広く用いられている。ポリウレタンは加水分解などにより徐々に分解するため、長期間の利用によりスキーブーツは割れたり崩壊することがある。実際にどれくらいの期間で破損に至るかは組成や利用頻度・保管条件などによりまちまちだが、業界団体(日本スポーツ用品輸入協会・スキー靴部会)では製造から5年程度を目安として、滑走中の破損による事故を防止するためにチェック項目を含めて広報している。なお、初級者モデルでは、より柔かいポリエチレンなどが用いられる場合もある。インナーは、シェルと足の間を埋め、適度なクッション性と保温の効果をもたらすために存在する。主な素材は合成樹脂による発泡フォームであり、足と接する内側には起毛やパイル地などの保温性の高い柔かい布が、シェルと接する外側にはすべりのよい合成繊維の布や薄いプラスチック板が用いられていることが多い。
構造
現在のアルペンスキーのスキーブーツの構造は、フロントバックル型と呼ばれるものがほとんどとなっている。このほか、フロントバックル型の派生として3ピース型やミッドエントリー型と呼ばれるもの、あるいはソフトブーツといったものがあり、また、全く異なる構造のものとしてリアエントリー型が存在する。以下、フロントバックル型の構造について説明し、ついで他の型についても説明する。
フロントバックル型は、プラスチックブーツに移行する前の皮革製のころからのスキーブーツの基本型で、甲とすねにあるバックルでシェルを締めて足をブーツに固定するのが最大の特徴である。シェルは、多くのものはソール(靴底)と一体となってくるぶしまでを覆うロワシェルと、くるぶしからすねにかけてを覆うアッパーシェルの2つに分かれており、両者がビスで接合されている。シェルは、ロワシェルとアッパーシェルの両方とも前になる部分が開き、かつ左右から重ね合わさる形状となっていて、そこにバックルとバックル受けが取り付けられている。このような形をとることで、バックルを締めることで足を固定することができるようになっている。バックルはロワシェル部分、アッパーシェル部分それぞれについて1〜3つ存在するが、多くのものは各2となっている。また、アッパーシェルのバックルの上、ブーツの最上部にベルクロテープつきのベルトを備え、これでさらに足を固定するものが近年は多い。ロアシェルの下部はソールが一体となっている。ソールはセイフティビンディングにハメ込むためのコバがトゥとヒールの前後両側に大きく張り出している。一部のメーカーのソールは摩耗時の対策としてビス留めのトップリフトをトゥとヒールの両方に備えており交換可能としている。ロアシェルの内部では、安価な初級モデルを除いて硬質プラスチックや金属製によるミッドソールが入っており、インナーブーツを載せる台の役割を兼ねている。硬いミッドソールは革靴におけるシャンクと同様に強い力がかかったときにソールがゆがむことを防ぐ。これは滑走時に大きな力がかかるスキーブーツではビンディングの誤解放を防ぐ意味でも重要である。なお、革靴のシャンクと異なり、アルペンスキーのスキーブーツでは足指にあわせてソールが屈曲するようにはなっていない。山岳スキー用の兼用靴やテレマークスキー用のブーツでは足指にあわせてソールが曲がるように作られているが、アルペンスキーでは歩行やテレマーク姿勢を考慮する必要がないためである。フロントバックル型のブーツのインナーブーツは、インナーブーツ本体とタンから構成される。インナーブーツ本体は甲から脛の部分が大きく開いていて、タンが下部で固定されているという形状が通常である。タンにはインナーブーツ本体よりも固い素材を用いることが多い。なお、インナーブーツ内には、通常、インソールが入っていて、足裏とフィットするようになっている。
フロントバックル型のバリエーションのひとつは、3ピース型と呼ばれるものである。これは、シェルをロアシェルとリアシェルとフレックスタンの3つから構成するものである。ロアシェルとリアシェルが通常のフロントバックルのシェルに対応するが、前部が大きく開いた形状となる。そこに、蛇腹状に成形されて柔軟性を高めたプラスチックのタンが覆いかぶさり、これをワイヤーのみ、あるいはワイヤーとバックルの両方で締めて固定する。インナーブーツは通常のフロントバックル型とほぼ同様である。特許や金型の問題から、製造は1社のみだが、根強いファンが存在している。
フロントバックル型のバリエーションのもうひとつは、ミッドエントリー型と呼ばれるものである。これは、快適性を重視したもので、フロントバックル型のシェルのアッパーシェルが前後に分かれて開くものである。フロントバックル型のブーツは、前述のようにオーバラップしたシェル素材で覆われているため、足を出し入れするさいにはブーツを手などで押し開く必要があり、この手間はスキー初心者などには受け入れがたいものだとされることが多い。また、一般にフロントバックルブーツのアッパーシェルは、滑走時の姿勢を重視した角度でロアシェルに取り付けられているが、これは休憩時などに立ったままでいたり歩くのに不便である。ミッドエントリー型はこうしたフロントバックル型の欠点を取り除くために開発されたものだが、性能面の問題で熱心なスキーファンを引きつけるものとならなかったこともあり市場に定着できていない。
いまひとつのバリエーションは、ソフトブーツである。フロントバックル型のスキーブーツが快適でないのは、足入れのしにくさとともに、シェルが固いことそのものにもある。そこで、スキーを滑るのに必要な剛性を確保するフレームのなかに柔かいインナーブーツを固定するという形でスキーにおけるソフトブーツが2000年代初頭に実現され、市場に出た。性能面の問題から市場に定着せず、2007年現在は新モデルとしてみることはなくなっているが、レンタルスキー用具としては使われている場合がある。
最後に、フロントバックル型とは全く異なるリアエントリー型である。リアエントリー型は、シェルがフロントシェルとリアシェルの2つに大きく前後に分かれる。リアシェルはふくらはぎからかかとにかけてのブーツ後方の部分となっており、そこが下部をヒンジとして大きく開く。ソールは全てフロントシェルに属している。リアエントリーのブーツでは、リアシェルを開いた状態でインナーブーツも後方が大きく開口していて、そこに足を入れ、リアシェルを閉じてふくらはぎのバックルで締める(リアシェルの内側にはインナーブーツの蓋がついているため、足に直接接する部分はインナーブーツである)が、製品によってはフロントシェルとリアシェルをワイヤで繋ぎ、リアシェルに取り付けたダイヤルでワイヤを巻いて締め付け、開放はボタンを押してワイヤを緩めるタイプもあった。フロントバックルやそのバリエーションのブーツでは、足はシェル全体の締め付けで固定される。それに対して、リアエントリーのブーツのバックルで締め付けられるのは、すねとふくらはぎのみとなる。スキー滑走では足全体がブーツに固定される必要があるので、リアエントリーブーツでは、固定用のプレートをシェルに内蔵し、足首はプレートを介してワイヤーで締めつけてブーツに固定し、足の甲に対してはプレートをねじを用いて押しつけるように固定するものが多い。リアエントリーは1980年代に席巻し、一時はトップスキーヤーまでもが用いるモデルが登場したが、1990年代になってその利用が衰退した。リアエントリーブーツは足首を曲げづらく、スキー技術において足首を使えないのは致命的であるためである。ただ、構造上、スキーヤーの足に細かくフィットした形状でないと不快感が出やすいフロントバックル型と異なり調整範囲が極めて広いことや、容易に脱着できること、爪先や甲が浸水してぬれることがないことから、初級スキーヤー向けのレンタル用品としては残り続けている。
一時的なリアエントリー型の爆発的普及の要因として考えられるのは、当初のフロントバックル型ブーツのバックルは完全にシェルに固定され、そのために締め付け調節が限られた範囲でしか出来ず、体格差、特にふくらはぎが太い人はバックルが全く届かなくて締め付ける事が出来ない場合があるという致命的欠点を抱えており、その点、リアエントリー型は可動範囲が広い事でふくらはぎの太さの対応範囲にかなりの余裕があるので、ふくらはぎが太い人を中心に好まれ、特にトップアスリートとなると必然的に脚全体の筋肉が発達してふくらはぎも太くなるため、その点でも好まれたという事である。その当時であっても、スキーショップによってはフロントバックル型ブーツのシェルに別穴を開けてバックルを付け直すケースも見られたが、強度の低下が懸念されるためにその後は勧められなくなった。なお、現在のフロントバックル型ブーツのシェルは、最初からふくらはぎのほぼあらゆる太さに対応出来るよう、あらかじめ専用の工具で取り外し・再取り付けしてバックル位置が調節可能なビス穴がいくつか付けられた設計となっている物もある[2]。
ストック(ポール)
素材や構造などはストックを参照。
アルペンスキーにおけるストックの役割は山スキーやクロスカントリースキーの使用目的と若干異なる場合がある。
初中級スキーヤーがレジャースポーツとして楽しむ場合、リフト乗降場において身体を前進させるための手がかりや待機時にバランスをとる杖代わりという認識が多い。
しかしストックは、スキースクールにおいて一般的に教わるターン始動のきっかけを作るストックワーク以外に、左右前後のバランスを取るために重要な役割を果たしている。簡単に言うとやじろべえの左右の腕の役割をストックが担っており、ストックを握っている手の位置によって前後のポジショニングがほぼ決まると言える。
特にコブ斜面でのバランスはストックによる影響が大きいためストック自体のバランス、振りやすさ、および長さが重要なポイントとなるが、上級者は更なるバランス感覚を磨くためにあえてコブ斜面をノーストックで滑る事がある。
また山スキーやクロスカントリーでは新雪での歩行が伴うためバスケットも比較的大きいが、新雪や深雪斜面であっても滑り降りるだけのアルペンスキーでは大きさの大小は特に気にする必要はない。しかし新雪で転倒した場合、小さいバスケットでは潜ってしまう事もあり、自身のスキースタイルと技量によって選択する必要がある。
アルペン競技のスラローム競技では、ストック本来の使用方法以外に可倒ポールから自身の体を守りつつポールを倒すプロテクタ的な役割もはたす。尚、競技用バーン(斜面)は、水や硫安、塩カリの散布により、スケートリンクのように硬いアイスバーンとするため、石突は鋭利で硬質、バスケットは非常に小さいものが装着される。(高速系競技用のストックの場合、円錐形やピンポン玉形状のバスケットとは呼べないものが付いているものもある)
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ワックス
ワックスはスキーの滑走性の向上と、滑走面の保護のために使用する。
固形のもの(アイロンで溶かして塗りこむ)、液体のもの(スプレータイプとリキッドタイプ)、パウダータイプのものがある。
固形のハイドロカーボン(パラフィン)、フッ素などでできたワックスは、専用のアイロンで溶かしてスキーの滑走面に垂らしてからアイロンを動かしてまんべんなく塗りこむ。冷えて固まった後、プラスチックの厚い定規のようなスクレーパーで余剰分を削り落とす。この一連の作業をホットワックスという。滑走面に浸み込んだ汚れがワックスで浮き出るクリーニング効果もある。雪温に応じてフッ素の配合率が違う複数のタイプを使い分ける。春先など雪温が高くなるほど水分が多くなるので高雪温用はフッ素配合率が高い。
スプレー式のワックスはホットワックスに比べて手軽だが持続性に欠ける。スプレーした後、コルクや専用のブラシで滑走面を磨くようにして塗りこむと良い。
パウダー式のワックスは主にスタートワックスとも言われ、アルペンレースなどのスタート直前に滑走面にふり、スプレー式と同様にコルクで磨いて塗りこむ。持続性はなく、スタート直後、最初の1〜2ターンしか持たない。フッ素100%配合であるため通常のワックスよりも非常に高価である。固形タイプやリキッドタイプのものもある。
コンマ1秒を競う競技の場合はその日の雪の状況や雪温を調べ、それに最も適したワックスを塗る。
初心者などの間では「ワックスを塗るとスピードが出て危険だ」という誤解が生じがちだが、むしろスキーは滑らなければ、スキーの板に雪がくっついてしまい、転倒する危険がある。そのため初心者でも、スキー板の表面にワックスを塗ることはとても大切である。
服装
また、スキーヤーは、以下のような服やアクセサリーを身につけるのが一般的である。
スキーウェア
防寒具としてはもとより、一般のスキーヤーの間ではファッションとしての要素も併せ持つ。かつては蛍光色や原色などの、雪の白に対して映える色使いが主だったが、近頃はスノーボーダーの影響からか、ストリート系、ルーズファッションと呼ばれる街着に近い型が流行している。硬い雪面等から身を守れるよう、堅牢な作りとなっている。
- レーシングスーツ
- レース時に着用されるウェアである。空気抵抗を減らすため、ポリウレタン混紡等の薄い伸縮性生地を用い、身体に密着するように製作される。表面はカレンダー処理等の方法で高い平滑性を持たせたり、空気の流れを整えるためのパターンが着用時に浮き出るような特殊な加工が施されることもある。テレビジョン中継等、各種メディアへの露出度が高いことから、各チームの個性を演出すべく目立つデザインのプリントがされている場合が多く、選手のスポンサー企業のロゴなどがあしらわれることもある。通常上下一体のワンピース型であり、レーシングワンピースとも呼ばれる。その保温性はスキーが行われるような環境で着用するには全く不十分であり、スタートの直前までは防寒用のスキーウェアをレーシングスーツの外側に重ね着しておくことが普通である[3]。スーパー大回転、大回転、回転競技用のスーツには、ポールへの衝突から身体を保護するプロテクターを組み込んだものもある[4]。1970年代には表面をビニルコーティングしたスーツが用いられていたが、スピードが出すぎて危険なこと、また汗が内部から蒸散せず、皮膚障害の原因になりかねないことから、国際スキー連盟により通気性[5]の素材を用いなければならないルールが制定された。重要な公式大会の滑降、スーパー大回転、大回転競技では、あらかじめ国際スキー連盟による通気性等のテストを受け、プロンブと呼ばれる合格証を取り付けたスーツでなければ着用できない。プロンブが不要の回転競技では、ツーピースタイプのレーシングスーツを着用する場合もある。
ゴーグルまたはサングラス
速度が出るごとに威力が増す降雪や気流、雪面から照り返す強い太陽光から目を守るために装着する。吹雪などで前方の視界が確保できないことは危険であるし、また強い太陽光は目を傷める可能性がある。
ゴーグルの中にはレンズが着色されていてサングラスの機能を兼ねるものも多くある。安価なゴーグルやサングラスの中には、色つきでも紫外線を遮断しないものがあり、かえって目を傷める(可視光が遮られて瞳孔は拡大するが紫外線量は変化しない)ため注意を要する。
また水平方向から目に入る紫外線以外に、雪面(海ならば海面)からの照り返しと呼ばれる反射によって斜め方向から目に届く紫外線があり、偏光サングラスおよび偏光グラスのゴーグルは斜め方向から入射される紫外線から目を保護する。
サングラスの場合、ゴーグル程の冷気や雪の吹き込みなどを防ぐ効果は無いが、逆に通気性の良さから、大汗をかきやすいためにゴーグル内部が汗による水蒸気で曇りやすい人には割と好まれている。この場合、ベンチレーター(換気装置)付きのゴーグルでも曇りが取れないとか、曇り止めを使うと防げるが、水蒸気がレンズ全面に貼り付いて水膜を生じ、視界が悪化するというケースもあって、後述する特別な事情がない限りは特に好まれる。
全日本スキー連盟(以下、SAJ)では、事故の際に割れたサングラスで顔面を負傷する事例がある事からゴーグルの着用が勧められていて[6]、義務では無いものの、スキーバッジテスト・SAJスキー指導員及び準指導員検定(実技)・全日本スキー技術選手権大会においての受験者や選手はほぼ全員ゴーグルを着用している。
スキーグローブ
低温下でも指先の感覚を失わないよう、分厚い作りになっている。手のひら側には革や樹脂などの滑り止めが施され、ストックを安定して掴むことができるよう工夫されている。
帽子またはヘルメット
競技では、ときに時速100kmにも達する速度で滑走するため、転倒時などに頭を守るためのヘルメットを着用する。髪の空気抵抗を抑える役割も持つ。回転競技では可倒式ポールとのコンタクトが強いため、顔面保護のためにチンガードがつくものもある。
一般のスキーヤーでは無帽の者も珍しくないが、転倒したところへ他のスキーヤーが衝突し、エッジで頭を切ったり衝突時の衝撃を受ける等で頭部から出血する事もあるため、怪我の予防から帽子をかぶる事が望ましいが、なるべくならヘルメットを着用する事が、後述する点からも特に望まれている。
一般的に、海外からのスキーヤーに比べ、日本のスキーヤーのヘルメット着用率は低く、欧米における一般スキーヤー着用率が80%と言われているのに対し、日本におけるスキーヤーの事故発生受傷時のヘルメット着用率は37%[6][7]となっており、前述のゴーグル同様にSAJではヘルメット着用を勧めていて、検定等受験者や選手はほぼ全員着用している。
SAJは国際スキー連盟(以下、FIS)に準じていて、アルペンスキー用のヘルメット規格は「CE EN1077」または「ASTM F2040」が推奨されている。なお、アルペン競技用はFISの規定にのっとって「CE EN1077」のみ認められている[6]。いずれの場合でも、サイズがフィットする物でゴーグルと相性が良いものを選ぶのが良く、使用前の点検は欠かせない。
スキー用に限らず全てのヘルメットに言える事だが、一度でも衝撃を受けたヘルメットは衝撃吸収力が損なわれている事から使用しない方が良い。また、安全上分解・切削・加工等の改造を行ってはならない[6]。
プロテクター
主に競技用。転倒時の硬い雪面や、ターンする際のポールから体を守るために装着する。すね当て、臀部、大腿部、下半身全体を防護するもの、全身を防護する鎧のようなものまで様々。ウェアの下に装着し、外見ではプロテクターが目立たないタイプも普及している。
一般向けには初心者や小児の怪我防止に簡易な膝当てなどが使用されることがある。
滑走技術
直滑降
板を平行に保ち、斜面をフォールライン方向にまっすぐ降りていく技術。アルペンスキーに限定されない全てのスキー運動の基本となる。緩斜面において初心者が初めに学ぶ滑降技術でもある。斜度がきつくなりスピードが高速になるにつれ、直滑降を維持して滑走するのは高度な技術となる。高速系種目では両スキーの外エッジを足場として安定した直滑降を行っている。縦に降りるとも言う。板を平行にする事を二の字、またはパラレルと言う。
プルークファーレン
板をハの字にし、直滑降する技術。緩斜面〜平らになる地形がない場合、初心者は直滑降に加えこれを習得しなければならない。両開きまたは全制動、単にハの字とも言う。足首の捻りによるテールの押し出しのテクニックが必要な為、脚力の弱い者や雪が重い時はやり辛い。補助として、トッブを合着させる「トライスキー」の器具使用や、トップを手で摘んで滑らせてやると良い。ファーレンとは乗り物に乗って進むと言う意味のドイツ語。ハの字とは、板のトップがくっついていて、テールが開いているスタンスの事である。
片プルーク
上記の通り、両開きが難しい場合はより体重を掛けて雪を退かせる本技術がある。片制動、レの字とも言う。初心者レッスン、シュテムの導入、山岳スキー、パトロールなどで多用する技術である。
シュテムファーレン
直滑降とプルークボーゲンが出来た者はこの二つを組み合わせて、本技術を行う。シュテムとは本来制動を意味するドイツ語であるが、板を平行からハの字に動かす動作そのものもシュテムまたはシュテム動作と呼ぶ。それのファーレンであるので、直滑降に始まり、テールを開いたり閉じたりする運動となる。これにより迎え角を調整でき、スピードコントロールに繋がる。両開きが難しい場合は片開きでも良い。その場合は片シュテムと呼ぶ。
プルークボーゲン
単にボーゲンとも呼ばれる。ハの字スタンスを取り、加重と迎え角による制動を掛けながら交互に重心を移動させてターンする技術である。ハの字(プルーク)を作ることにより次のターンの迎え角ができているため、重心を交互に移動させるとターンができる。安全のための制動系技術のひとつであり、状況に応じて全てのスキーヤーが用いる基本技術である。一般的にボーゲン=初心者というイメージがあり、初級者はボーゲンを卒業してパラレルへ移行したがることがあるため、結果的にボーゲンが未熟な中級者もいる。上級者が使う連続小回りターンはスキー板の反動、センターポジション、左右のリズムをタイミング良く組み合わせる事が必要で、このすべてを一緒に練習出来る基本技術でもある。したがって本技術の練習を積んでいる中級者は早く上級者へ移行でき、長年上級者の技術へステップアップ出来ない中級者は本技術が未熟とも言える。
斜滑降
板を平行に保ち、フォールラインに対して板を斜めに位置させ、そのまま斜め方向に滑走する技術。トラバースとも言う。
横滑り
板を平行に保ち、フォールラインに対して板を直角ないし斜めに位置させ、膝を谷側に傾けることでエッジを緩めて板の長手方向に対し横に滑走する技術。方向は、フォールライン方向、斜め前、斜め後ろと3通りある。
一時期、SAJ1級の試験科目がゲレンデシュプルングから横滑りに変わった事がある。20mほど斜めに横滑りをしてキックターン後、今までとは逆方向へ20mほど斜めに横滑りをしてゴールするだけの単純なものであったが、センターポジションに乗れていない人や両足の微妙なコントロールが出来ない人は苦戦していた。しかし1級を受験する技量のスキーヤーにとってはボーナス種目でもあった。
その横滑りは現在、改めて1級の種目において行われている。斜滑降でスタートし、外向傾姿勢を取りながら斜め前横滑りをし、ピボットにて向きを変える事を4回繰り返す。
準正指の種目においては、上記に加え、真下横滑り4回が加わる。
プルークターン
プルークボーゲンと違い外足に加重した後、ずらさずに外腰をターン前方に押し出すようにして外スキーを滑らせる運動を行うターン技術である。カービングの導入などに使う。近年、滑走プルークとも呼ばれるようになった。
シュテムターン
後述のステップターンに含む
パラレルターン
板を平行にしたままターンする技術。プルークボーゲン、シュテムターンの次に習得される技術である。ターン前半からの外足加重により、軽くなった内足の膝を返してエッジを外し、両足を同調させて平行のままターンする。制動要素の多い基礎パラレル(ずらし)と、推進要素の多い実践パラレル(カービング)に分類される。しかしながら実際の滑走では両者の中間的なものが多く見られる。プルークボーゲン、シュテムターンと同じで外足荷重が基本である。シュテムターンを習得すれば、大抵の斜面と雪質を降りることができるが、シュテムは素早いターンや狭いところが苦手である。コブや高速でのターンに対応する為にはパラレルターンが必要になってくる。ずらす時は密脚、カービングの時は開脚とスタンスを使い分けるとそれぞれの滑りがやりやすい。
ショートターン(ウェーデルン)
早いリズムで外スキーから次の外スキーまで踏み換えながら滑る技術。パラレルターンの小回り的といえるが、後述のテールを振るウェーデルンを取得する課程においてプルークボーゲンで早いリズムでターンをおこなうプルークウェーデルンもある。主に上級者のターン技術。1980年代に入り海外のスキー板の滑走性能が飛躍的に進歩して従来のひねり運動にあまり頼らずサイドカーブによるカービングターンで弧を描くウエーデルンが日本職業スキー教師協会(SIA)のインストラクターを中心に使われていたが[要出典]、全日本スキー連盟(SAJ)の御用達であったオガサカやカザマ等の国内のスキー板は従来のずらし操作の性能が優れていたため[要出典]、SAJのデモンストレーターも左右に振り出すウエーデルンが主体で、SIAで主流となっていたカービングのウエーデルンを認めるのが遅れた要因と思われる[要出典]。
1990年代に入り国内外のトップスキーレーサーが使っていたカービングターンが実現可能なカービングスキーが普及し、カービングターンが認知されるようになった。つまりカービングスキーができる前の1980年代から従来のスキー板によってカービングターンは実現されていたが、広く認知されたのはカービングスキーが一般的となり一般上級者でも実現可能となった1990年代後半からで、全日本スキー連盟でも90年代後半に入り、ウエーデルンを教程から削除し、使用しなくなった。これはウェーデルンという言葉の意味がもともとドイツ語で「犬が尻尾を振る」という意味であるためで、この時期に登場したカービングスキーによるショートリズムでも丸いターン弧を刻むことができ、ずらしてターンを刻むという意味に合わなくなったためである。よって従来ロングターンをパラレルターン、ショートターンをウェーデルンとしていたのをそれぞれパラレルターン大回り、パラレルターン小回りと呼ぶようになった。しかし日本職業スキー教師協会(SIA)では独自の教程を設けており、現在でも使用している。また、捻り(と反動)を使ったショートターンと弧を描くショートターンの2つが使えると、より実践的であらゆる斜面に対応できる。
ステップターン
ステッピングターンとも呼び、踏み出しと踏み蹴りの二つがある。
- 踏み蹴り
- ターンの切り替え時に外スキーを踏み蹴って内スキー(次の外スキー)に乗り込んで行き、減速せずにターンすることができる。
- 踏み出し
- 切り替え時に内スキー(次の外スキー)を山側に踏み出し(重心は外スキーと内スキーの間)、乗り込んでスキーを押しずらしていく。スタンスを「ハの字」(プルーク)にして踏み出した場合を特にシュテムターンと呼ぶ。
前者の踏み蹴りはかつてアルペンレースでポールをクリアしていく時に多用されたが、サイドカーブのあるカービングスキーの普及により、踏み蹴らなくともエッジ角度を強めるだけでスキーが切れ上がるようになったため軌道を変える必要がなくなり、以前よりは使わなくなってきている。後者の踏み出しにおけるシュテムターンの場合は初級者が外スキーの踏み換えを覚える際やレベルに関わらず斜面状況が悪い場合に安全に滑り降りるための技術として多用される。
スキッディングターン
パラレルターンの一種であり、山スキーに踏みかえた後に、スキー板をずらして制動しながら回旋してから山まわりに移行することでターンする技術。ターンの外足がプルークターンやシュテムターンと近い動きをするため、パラレルターンの中では易しい技術であり、また安全を重視して滑る技術でもある。
カービングターン
パラレルターンの一種であり、ターン開始時に脚をターン内側に傾けて、意図的な加重や外力を利用した加重によってスキー板をたわませて曲面を作り、これを雪面に食い込ませることで足場を作ってターンする技術。スキッディングターンと異なり板の制動要素が少ないため、高速滑走が可能となる。パラレルターンの中では難しい技術であり、1990年ごろまではごく一部のスキーヤーのみの技術であったが、カービングスキーの登場により一般スキーヤーにも可能な技術となった。なお、カービングとは「彫る(CARVE)」の意味であって「曲がる(CURVE)」の意味ではない。実際に完全なカービングターンで滑ることができる状況は限られており、圧雪され、かつ大会バーンのように一般スキーヤーから隔離されて安全性が確保された状況のみである。通常はスキッディングターンを組み合わせて滑る場合が多い。
クローチング
高速滑走時にとる姿勢。主にアルペンレースの大回転以上の高速系で用いる。板は平行に肩幅かそれより若干広く開き、足首と膝を屈曲して腰を落とし、上半身は前に倒す。腕は軽く曲げた状態で前方に突き出し、手の平を上に向けてストックを握り、ストックは脇から身体に沿わせるように後方に出す。顔は前方を見る。直滑降か、脚を左右に傾けて行うクローチングターンと呼ばれる浅いターンが基本的な滑りとなる。
ジャンプターン
山岳スキーなどにおいて極端に狭い斜面などにおいてターンする際にジャンプして板を浮かしながら板の方向を変える技術。
キックターン
斜面で静止状態で方向転換するための技術。両方の板をフォールラインに対して垂直方向に揃えてエッジを立てて静止している状態から、谷足を爪先を上にするように持ち上げ、板のテールを前方に出す。その状態から板のトップを谷側を経由して後方に持っていき山側の板と逆方向で並行になるように着地させる。これによって、脚は極端な爪先開きの体勢となる一方、上体は谷を向く方向。次いで、山足を持ち上げて身体の捻れを解くように谷側に移動させて両方の板が並行になるように着地させる。これによって方向転換が完成する。
狭義の滑走技術ではないが、急斜面や狭い場所、スキーレッスンなどにおいて安全な方向転換のためには欠かせない技術で、初心者の段階から習得を求められるものである。
階段登行・開脚登行
斜面を登るための技術。階段登行は、両方の板をフォールラインに対して垂直方向に揃えたまま、山足をさらに斜面の上へと、脚を上下させることで移動し、次いで谷足も同様に移動することを繰り返す。開脚登行は、斜面を上に見る方向で正面を向き、爪先を開いた状態で両方の板の内エッジを雪面に食い込ませることで足場を確保し、双方の足を交互に前方に出すことで登っていく。両方の技術が可能な場所では開脚登行のほうが大きく踏み出すことができるために効率的に登ることができるが、急斜面では開脚登行は安全に行うことが難しくなるため、階段登行のほうが有効な技術となる。
これもまた狭義の滑走技術ではないが、現実のゲレンデでは斜面の登り返しが必要となる場所もあり、また滑走中に転倒したり物を落としたりすれば止まって引き返す必要があるため、こうした技術は滑走を続けるためには必須で、初心者の段階から習得を求められるものである。
SAJ バッジテスト・SIA 技術検定
SAJ(全日本スキー連盟)、SIA(職業スキー連盟)はスキーヤーの技能レベルを客観的に判断する独自のスキーバッジテストや技術検定を設けている。
競技
山岳スキー技術として誕生したアルペンスキーは、次第に如何に速く斜面を滑り降りるかという競技に発展した。現在ではヨーロッパを中心に非常に人気の高い競技スポーツとなっており、特にオーストリア、スイスなどアルプスの国々では国技であり、勝者は国民的英雄である。
第4回冬季オリンピックから正式競技として採用されている。
概要
山を滑り降りる速さを競う競技であるが、コースには旗門と呼ばれる2本1組の旗またはポールが並べられ、その旗門を順番に通過しながら滑り降りる。旗門を通過できなかった場合は失格となる。種目によって、旗門数、旗門のインターバル、コース長、標高差が大きく変わってくる。
1回の滑走または2回の滑走の合計タイムで順位を競う。
種目
滑降 (Downhill)
スーパー大回転 (Super Giant Slalom, Super G)
大回転(Giant Slalom)
回転 (Slalom)
複合 (Combined, CB)
- 滑降1本と回転2本の合計タイムを競う。基本的に2日間に分けて行う。
スーパー複合 (Super Combined, SC)
- 2004-2005年シーズンのワールドカップからの新種目。1日で滑降1本と回転1本を行い、その合計タイムを競う。
アルペンスキー・ワールドカップでは、CBよりも主流になっており、オリンピックでも、2014年ソチオリンピックからCBに代わって採用されている。
大会
世界第一線級の国際大会は、オリンピックの他に次のようなものがある。
アルペンスキー世界選手権
- 2年に1度、オリンピックの前後のシーズンに開催される。全種目一発勝負で行われ、各種目の勝者が世界チャンピオンである。
アルペンスキー・ワールドカップ
- 毎シーズン、ヨーロッパを中心に世界各地を転戦し、複合を除く各種目を5〜10レース行い、各レースの順位はもとより、シーズン通しての総合成績を競う。各種目の順位の他、全種目総合の順位も決定し、ワールドカップの勝者こそ真の王者と言える。
- オリンピックアルペンスキー競技
コース
自然の山の地形を最大限に活かすアルペンスキーのコースは、それぞれに特徴がある。コース長、標高差、最大斜度はコースによって様々であり、旗門のセットは毎回違うため、陸上競技のような世界記録というものは存在しない。ただし、滑降競技のように毎回ほぼ同じコースレイアウトでレースが実施される場合、歴史あるコースではコースレコードというものが存在する。
世界的に有名なアルペンスキーのコースとしては、オーストリアのキッツビューエル、スイスのウェンゲン、アーデルボーデンなどがあり、日本にはオリンピックや世界選手権の舞台となった、八方尾根や雫石、志賀高原などがある。
チェアスキー
下肢等に障害のある競技者においては、座席とスキー板をサスペンション等で連結したチェアスキーを使用して行う。
著名なプレイヤー
註
^ 大修館書店編集部「最新スポーツルール百科2007」大修館書店、2007年、p.292.
^ SALOMONウェブサイト「メンズ:スキーブーツ」・NORDICAウェブサイト「BOOTS / MEN'S」・LANGEウェブサイト「BOOTS」各種などにおけるブーツの画像にはバックル位置調節のためのビス穴が見受けられ、実際に調節可能となっている。
^ レーシングスーツと重ね着することを前提としたウェアは、ブーツを履いたままでも素早く脱ぐことが出来るよう、裾部まで開放できるファスナーを備えたものが多い
^ 滑降競技用スーツにプロテクターを組み込むことは禁止されている。
^ 何度かの改定を経ているが、2009年のルールでは10mm水柱の圧力をかけた場合に1平方メートルあたり毎分30リットル以上の空気を通さなければならない。
- ^ abcd参考資料:日本スキー教程「安全編」p.63/山と渓谷社刊 ISBN978-4-635-46022-4
^ 2015/2016シーズン全国スキー安全競技会調べ、参考資料:日本スキー教程「安全編」p.63/山と渓谷社刊 ISBN978-4-635-46022-4
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