害虫
害虫(がいちゅう、英: Pest)とは、人間(ヒト)や家畜・ペット・農産物・財産などにとって有害な作用をもたらす虫。主に無脊椎動物である小動物、特に昆虫類などの節足動物類をいう。駆除には殺虫剤が使われる。英語では「害虫」「害獣」「害鳥」は、いずれも「Vermin」の語で表される。害虫の一覧も参照。
役に立つものは益虫という。
目次
1 害虫による損害
1.1 農作物に対する害
1.2 ヒトやペット本体への害
1.3 食品産業に対する害
1.4 財産に対する害
1.5 家畜に対する害
1.6 文化財に対する害
1.7 心理的な害
2 脚注
3 関連項目
4 外部リンク
害虫による損害
様々な形でヒトに被害を与えるものに対する呼称である。ヒトの生活のあらゆる面で、それを害する虫がいるので、その在り方は様々である。常にヒトに害をなしつづけるものもあれば、偶発的にヒトに害を与える、というものもある。前者であれば、常に配慮を怠る訳にはいかない。吸血性昆虫や、農業害虫がそれにあたる。
ある視点で見たとき、その虫が害をなすのであれば、それを害虫というのであって、別の視点でその虫を見れば、むしろヒトにとっての利益になる、益虫と判断できる場合もある。生物は、互いに複雑な関係をもって生活しており、ある生物種の個体数の増加減少が、生物群集全体に予測できない変化を引き起こす場合もあり得る。駆除の対象とすべきかどうかには、慎重な判断が必要である。野外の、それも人里離れたところに出たときのみ、危険を与えるようなものに対しては、人間側が配慮すべきであろう。
農作物に対する害
農業害虫ともいわれ、きわめてたくさんの例がある。収穫後、保存中の農作物を加害するものは、貯穀害虫という。農業においては、害虫への対応いわゆる害虫防除は、過去より現在に至るまで、もっとも重要な課題の一つでありつづけている。古くは虫送りなど、害虫を追い出す行事があり、最近では農薬を主体とする防除法が発達している。農薬には副作用や環境への影響など、様々な問題もあり、現在では出来るだけ農薬を使わない工夫も行われる。天敵利用など、自然の作用を利用する防除法なども施行されている。
- 農業害虫
バッタ:大量に発生すると、移住性を持つようになる種。飛蝗による蝗害は、アフリカなどで時に甚大な害を与える。
ウンカ:特に稲に対する被害が大きい。
ミバエ:熱帯地方では果樹に大きな被害を与える。ウリミバエは沖縄諸島にいたが、不妊虫放飼という方法で根絶された。
メイガ:様々な植物を食べるものがいる。稲作では、ニカメイガとサンカメイガは、かつて最も重要な害虫であった。
カメムシ:植物の汁を吸う。様々な農産物に様々なものがつく。近年、日本ではツヤアオカメやチャバネアオカメが大発生する年があり、問題になっている。
アブラムシ・カイガラムシ:植物の汁を吸う。いずれも繁殖力が強く、植物上にコロニーを作り、大きな被害を与える。
アザミウマ:植物の葉や果実の表面を加害する。農薬に抵抗性を持った種類が増加して問題となっている。
ハダニ:植物の葉や果実表皮の汁を吸う。ミカンハダニなどでは、農薬の抵抗性が問題になっている。
フシダニ:植物の新葉や果実に生息する。被害の状況からサビダニと呼ばれるものもいる。
ウリハムシ:コガネムシと同じ甲虫類の仲間で、名前の示すとおりキュウリ、メロン、スイカなどのウリ科植物を食い荒らす害虫。
ナメクジ:様々な植物の葉や果実を食い荒らす。マイマイも同様。
スクミリンゴガイ:イネの葉を食い荒らす。
アメリカザリガニ:水田の畦に穴を開け、イネの根を食い荒らす。
- 貯穀害虫
- コクゾウムシ
- シバンムシ
- キクイムシ
- コクヌスト
- カツオブシムシ
等が該当する。
ヒトやペット本体への害
ヒトやペットの血を吸ったり、噛んだり、刺したり、体表面に付着した病原体を機械的に運搬することによって被害を与える虫は、衛生害虫と呼ばれる。
血を吸うものの中には、重要な病気を媒介するものがあり、世界的に駆除が検討されているものもある。
カ:血を吸う上に、その跡が痒くなる。重い病気を媒介するものがある。ハマダラカ(マラリア)・アカイエカ(日本脳炎)など(血を吸うのはメスのみ)。ハマダラカは日本産ではあるが、現在では旅客機を通してアメリカでも繁殖してしまっている。
ツェツェバエ:アフリカに生息。アフリカ睡眠病を媒介する。
ノミ:ヒトノミは血を吸うだけだが、ネズミノミの仲間にペストを媒介するものがある。
シラミ:コロモジラミが発疹チフスを媒介する。
ダニ:ツツガムシがツツガムシ病を媒介する。
ミヤイリガイ:日本住血吸虫症を媒介する。
刺す事で害を与えるものにはハチや毛虫など、噛みつくものではムカデなど、機械的に病原体を運搬するものとしてはハエやゴキブリなどが挙げられる。ハチの場合、アシナガバチやスズメバチは危険視されがちだが、彼らは肉食で、毛虫などを食べるものであるから、彼らを駆除すれば、毛虫などが繁殖する可能性もある。
他にヒトに害を与える昆虫には、体に毒を持つものがある。たとえば刺すケムシとしてドクガの仲間がある。卵、幼虫(毛虫)、成虫とも体毛に毒を持ち、触れると炎症を起こす。他に体液に毒を持つアオバアリガタハネカクシなどは、燈火に来ることがあり、うっかり体表上でつぶすと炎症や水ぶくれを生じる。
食品産業に対する害
製品に昆虫が混入することは、企業イメージの低下を招き、クレーム、回収などの原因になる。食品製造上、特に留意される昆虫は以下のようなものが挙げられる。
ゴキブリ、ハエなど、一般的に注意されるものの他、僅かな食品カスやそこから発生するカビ等を摂食して繁殖する昆虫も存在する。ヒョウホンムシ、カツオブシムシ、シバンムシ、コクヌストモドキ、ヒラタムシ、コクゾウムシ、チビタケナガシンクイ、メイガ(シンクイムシ)、チャタテムシ、トビムシなど多岐に渡る。
財産に対する害
シロアリ:木造家屋に害を与える。
フナクイムシ:二枚貝の一種で、海水中の木材を喰う。木造船に害を与える。
シミ、シバンムシ:紙製品、書籍などに害を与える。
イガ:衣服を食害する。他に、ヒョウホンムシ、カツオブシムシなど、衣服や毛皮を食害するものがある。
コナダニ:小麦、砂糖などに発生する。
アリ:人家にすむものは、食品や砂糖などを食害し、切手の糊を食害した例もある。
カツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ:乾燥動物性食品、ウールなどの動物性繊維等を食害する。
テントウムシやカメムシなど、物陰で集団越冬する昆虫が、人家を越冬場所に選んだ場合、往々にしてトラブルを引き起こす。
家畜に対する害
アブやカなど、血を吸いに飛んで来るもの、ダニやシラミなどの寄生虫は、様々な家畜に直接の害を与え、病気を媒介するものもある。また、カマキリはミツバチを捕食するため、養蜂場では害虫である[1]。
文化財に対する害
建造物や博物館や美術館などに収蔵される古文書・美術資料などの文化財は多くが紙や布などの有機質材料でできているため、虫害による損傷が発生する。害虫による文化財の損傷は虫損と呼ばれ、文化財への虫損を及ぼす害虫は文化財害虫と呼ばれる。
博物館施設においては文化財に影響を与える照明や湿度、振動や空気質など環境的要因とともに虫害の防止が考慮され、施設内部や収蔵庫は建設の段階から気密性を高くするなど対策がなされ、また定期的に薬剤による燻蒸作業が行われている(一方で、燻蒸薬剤による文化財への影響も考慮される)。薬剤による文化財及び人体や環境への悪影響を避けるため、脱酸素剤または窒素や二酸化炭素などの不活性気体を用いた低酸素濃度殺虫法も利用されている[2]。
古文書は特に発見された段階で虫損が生じていることが多く、損傷状態によっては文書料紙と同質材料を用いての修復が行われる。また、翻刻にあたっては前後の文脈から虫損部分の文字を推測し補われることも多い。
心理的な害
上記のような農作物・財産・人体に与える具体的な害が特に無く、むしろ実際には害虫を捕食するなど人間にとっては益虫である場合すらあるにもかかわらず、外見や動きが気分を害するという主観的な理由により「害虫」に分類される例が近年見られるようになった。不快害虫(専門用語では、ニューサンス/Nuisance)と呼ばれており、クモやゲジ、カマドウマ、ヒヨケムシ、ウデムシ、ヤスデなどが代表例。後天性の恐怖などが引き起こしたものであり、現代的な害虫と言える。
近年では、街路樹に生息する触らなければ概して無害な虫にまで駆除要請が多く、仙台市の泉区役所には10年で苦情が倍増し、過去においてはその時期特有の現象と割り切られていた現象にまで行政に対処が求められてしまい、手一杯の状態になっているという[3]。
脚注
^ “ミツバチのいる農園より”. 香取市 (2016年4月21日). 2017年7月11日閲覧。
^ “書籍の有害生物管理 -IPM(総合的有害生物管理)を中心に-”. 木川りか(東京文化財研究所保存科学部主任研究官). 2016年6月7日閲覧。
^ 街路樹の虫に恐々 苦情10年で倍増 仙台・泉区役所(リンク切れ)
関連項目
- 害虫の一覧
- 農業害虫
- 衛生害虫
- 害獣
- 害鳥
建築物環境衛生管理技術者 - 特定建築物における害虫防除及び環境衛生等の監督を行う者
外部リンク
ウルトラがいちゅう大百科 - KINCHO 大日本除虫菊株式会社
GAICHU.NE.JP 害虫の紹介など
害虫防除技術研究所 防除豊富など