多島海
多島海(たとうかい)は、一定の範囲に多くの島々が点在する海域のこと。
アーキペラゴ(英: archipelago)に対する訳として用いられることがあるが、archipelago には「多数の島からなる海域」(多島海)を指す用法と、「多数の島嶼」(諸島・列島・群島)を指す用法の双方が存在する。[1]
目次
1 名称
2 地理
3 主な多島海
3.1 エーゲ海
3.2 バルト海
3.2.1 フィンランド
3.3 イギリス
3.4 南北アメリカ
3.5 カリブ海
3.6 日本
3.7 フィリピン
3.8 インドネシア
3.9 その他
4 多島海文明
5 人文思想における多島海
6 フィクションにおける多島海
7 脚注
8 関連項目
9 外部リンク
名称
アーキペラゴ(英: archipelago)は、もともとエーゲ海を指していた固有名詞 Αρχιπέλαγος / Arkhipélagos が一般名詞化したもので、英語で語頭を大文字とし定冠詞を付した the Archipelago は、エーゲ海のことを指す。日本語で the Archipelago に対して「多島海」の訳が宛てられることがあるが、もともとの Αρχιπέλαγος 自体には「島が多い」という意味は含まれない。Αρχιπέλαγος はギリシャ語の ἄρχι-(arkhi-、「主要な」)と πέλαγος(pelagos、「海」)からなり、「主要な海」を意味する。
archipelago が名称に用いられる海域(あるいは群島)に、「多島海」という訳が宛てられることがある。
エーゲ海(英: the Archipelago) - 地中海の一部
サーリストメリ(英: Archipelago Sea) - バルト海の一部
地理
土地が沈降するなどして、海水が陸地に浸入してできた複雑な海岸地形を沈水海岸という。この沈水海岸において、更に沈降が進んだり、海面が上昇したりすると、かつての山の頂上部分だけが海面に頭を出し、多くの島ができる。このようにして多くの島々ができた海域を多島海という。ギリシアのエーゲ海をはじめ、地球上には多くの多島海が存在する。
多島海で構成された国としては、インドネシア、日本、フィリピン、ニュージーランド、イギリスがあげられる。そのうち最大の多島海がインドネシアである[2]。
島嶼部性(海岸線の距離を陸地の面積で割ったもの)の観点からは、7000以上の島からなるフィリピンが島嶼部性1位で、次いで6000以上の島からなる日本が2位である(島嶼参照)。
また、狭い地域に集中する2つ以上の島嶼の集まりを島嶼群、島嶼群の集まり、もしくは大規模な島嶼群を諸島、諸島のうち列状に並ぶものは列島、塊状の形状をなすものは群島と呼ばれる。
主な多島海
エーゲ海
エーゲ海は、地中海の東北部にある海域で、ギリシャ半島、アナトリア半島に面し、約 2,500 の島々が浮かぶ。主要な島としては以下が挙げられる。
- タソス島
- サモトラキ島
- レスボス島
- ヒオス島
- イカリア島
- サモス島
スポラデス諸島: スキロス島など- エヴィア島
サロニカ諸島: サラミス島、エギナ島など
キクラデス諸島: ナクソス島、アンドロス島、サントリーニ島など
ドデカネス諸島: ロドス島、パトモス島、コス島など- クレタ島
バルト海
バルト海は、ヨーロッパ大陸本土とスカンジナビア半島に囲まれた海域。
とくに、フィンランドにはサーリストメリとも呼ばれる多島海域(英: Archipelago Sea)がある。
- 域内の島嶼
ボーンホルム島(デンマーク)
ゴットランド島(スウェーデン領で域内最大)
エーランド島(スウェーデン)
オーランド諸島(フィンランド自治領)- ヒーウマー島
サーレマー島(エストニア)などがある。
フィンランド
- フィンランド多島海域
フィンランド湾(ヘルシンキ湾)- 主な島にセウラサーリ、ラウッタサーリ、コルケアサーリ、スオメンリンナ島 (Sveaborg)(要塞島)、サンタハミナ島(軍事島)、オーランド諸島など。
イギリス
ブリテン諸島で構成される多島海国家。グレートブリテン島とアイルランド島の2つの大きな島と、その周囲の大小の島々から成る。スコットランドは本島の周囲に700もの島がある。
- グレートブリテン島
- アイルランド島
- マン島
- ワイト島
- シリー諸島
- オークニー諸島
- シェトランド諸島
- フェア島
- ヘブリディーズ諸島
- アングルシー島
- リンディスファーン島
- アラン諸島
ランディ島(ブリストル海峡内)
チャネル諸島(イギリス海峡内)
南北アメリカ
ハドソン湾
カナダ北東にあり、湾内にはオタワ諸島、ベルチャー諸島、アキミスキ島、サウサンプトン島、コーツ島、マンセル島がある。
バフィン湾
北極圏にあり、バフィン島、グリーンランド、エルズミーア島に囲まれている。
カリブ海
カリブ海は、カリブ諸島(西インド諸島)、フランスやオランダではアンティル諸島とよばれる多島海である。アメリカ合衆国のフロリダ半島南端、および、メキシコのユカタン半島東端から、ベネズエラの北西部沿岸にかけて、少なくとも7000の島、小島、岩礁、珊瑚礁がカーブを描くようにして連なる。
西インド諸島の主要部分は、次の3つの諸島に分けられる。
バハマ諸島約700の島がある。うち、30の島が有人島。
アンティル諸島
- 大アンティル諸島
- 小アンティル諸島
- 大アンティル諸島
- キューバ共和国
イギリス領ケイマン諸島
- ジャマイカ
ハイチ共和国 - イスパニョーラ島西部
ドミニカ共和国 - イスパニョーラ島東部- アメリカ領プエルトリコ自由連合州
- 小アンティル諸島
- リーワード諸島
アメリカ領バージン諸島 - ヴァージン諸島南西部
イギリス領バージン諸島 - ヴァージン諸島北東部- イギリス領アンギラ
セント・マーチン島 - 島の北部はフランス領サン・マルタンで南部はオランダ領シント・マールテン。- フランス領サン・バルテルミー島
- オランダ領サバ島
- オランダ領シント・ユースタティウス島
セントクリストファー・ネイビス - セントクリストファー島、ネイビス島
アンティグア・バーブーダ - アンティグア島、バーブーダ島、レドンダ島
- イギリス領モントセラト
- ウィンドワード諸島
- フランス領グアドループ
- ドミニカ国
- フランス領マルティニーク
- セントルシア
- バルバドス
セントビンセント・グレナディーン - セントビンセント島、グレナディーン諸島
- グレナダ
トリニダード・トバゴ共和国 - トリニダード島、トバゴ島
- リーワード・アンティル諸島
ベネズエラ連邦保護領 - マルガリータ島、アベス島など
オランダ領アンティルキュラソー島(オランダ領アンティルの中心島)- オランダ領ボネール島
オランダ領アルバ
日本
日本も多島海国家である。日本は6,852の島で構成される島国である[3]。日本の領土はすべて島から成っている。
ここでは多島海景観で有名なものを挙げる。
- 松島湾
- 三河湾
英虞湾(伊勢志摩国立公園)
瀬戸内海
- 備讃瀬戸
- 宇和海
浅茅湾(壱岐対馬国定公園)
いろは島(玄海国定公園)
西海国立公園
九十九島地域
平戸・生月地域
五島列島地域
天草(雲仙天草国立公園)- 琉球諸島
フィリピン
大小合わせて7109の島々から構成される多島海国家である。
- ルソン島
- ヴィサヤス諸島
- ミンダナオ島
- スールー諸島
スプラトリー諸島(ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、中華民国(台湾)、中華人民共和国が領有権を主張し、領有権問題を抱える)
インドネシア
世界最多の島嶼を抱え、1万8,110もの大小の島により構成される。
- ジャワ島
- スマトラ島
スラウェシ島(旧称セレベス島)
カリマンタン島(「ボルネオ島」はマレーシア側の呼称。)- バリ島
- ロンボク島
- スンバワ島
- コモド島
- フローレス島
- ハルマヘラ島
- テルナテ島
- ティモール島
- マルク諸島(モルッカ諸島)
- クラカタウ島
ニューギニア島 - 西側半分がインドネシア領。インドネシア国内では「パプア」「イリアン」と呼ばれる。- ビンタン島
その他
チリのパタゴニア太平洋岸にも多島海地域がある[4]。- 韓国全羅南道沿海部には多島海海上国立公園がある。
ニュージーランドも北島と南島の2つの主要な島と多くの小さな島々で構成される。
多島海文明
経済史家の川勝平太(現静岡県知事)は、『文明の海洋史観』[5]や『文明の海へ』[6]といった著書において、近代文明の勃興には海洋国家(ヴェネツィア、ポルトガル、スペイン、オランダ、イギリス)が大きく関与したとし、「海洋史観」を提唱している。そのなかで、「多島海文明」という概念を提出し、世界史は「陸の文明」から、「海洋への離陸期」の近代を経て、「多島海文明」に向かっているとした[7]。また「西太平洋世界は多島海である」とする「西太平洋の多島海文明」についても言及した[8]。
人文思想における多島海
- 人類学者の今福龍太は『群島—世界論』において、カリブ海出身の詩人エドゥアール・グリッサンなどを紹介しながら、「カリブ海の詩人たちは、どこに生まれようと、ついには群島的な出自を持つにいたる。それぞれの故郷である固有の島にたいする生得的な帰属は、あるとき、より広汎で接続的な、カリブ海島嶼地域全体にたいする帰属意識へと置き換えられる。そして彼らの住み処はこの多島海、この群島全体にひろがってゆく。」とカリブ海の詩と多島海との関係について考察している[9]。
フィクションにおける多島海
フィクション作品においても『ゲド戦記』の「アースシー」や『アタゴオル』の「銀しぶき海」など、架空の多島海を舞台にしたり、架空の多島海が登場したりする作品がある。
脚注
^ 研究社新英和中辞典
^ The World Factbook
^ 国土交通省による区分け ⇒ 6,852島(本土5島 ・ 離島6,847島)。 (出典)[1] 国土交通省サイト 離島振興課 離島とは(島の基礎知識) 2009年11月27日閲覧
^ 片岡佳哉BLUE WATER STORY 月刊<舵>2010年5月号
^ 中央公論新社, 1997年
^ 『文明の海へ――グローバル日本外史』ダイヤモンド社, 1999年
^ 『文明の海へ――グローバル日本外史』ダイヤモンド社, 1999年
^ 同書
^ 『群島—世界論』(岩波書店 2008)
関連項目
- リアス式海岸
- ダルマチア式海岸
- 島嶼
島、島国
世界の島国 (領土がすべて島で構成される国の一覧)
大陸、島嶼、半島
世界の地理、アジアの地理、アジア、東アジア
日本の地理、日本列島、日本の地域、本土、離島、四島
- 世界の島の面積順位・英語版
無人島、人工島
外部リンク
NPO法人アーキペラゴ 香川県高松市に本拠におく、四国の多島海固有の社会モデルを再評価するNPO。- ストックホルムの多島海クルーズ
島面積 平成21年10月1日時点 国土地理院
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