Well-defined
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数学における well-defined は、ある概念が数学的あるいは論理学的に特定の条件を公理に用いて定義・導入されるとき、その定義(における公理の組)が自己矛盾をその中に含み持たぬ状態にあることを言い表す修飾語句である。また、ある概念の定義をする場合、そう決めることによって、何も論理的な矛盾なく上手くいくということ(定義の整合性)が確認されているということを言い表す言葉である。文脈により、「うまく定義されている」「矛盾なく定まった」「定義可能である」などと表現されることもある。Well-defined でないことは、未定義 (undefined) であることとは異なる。
Well-defined は「状態」を表す形容詞であるが、日本語の定訳はなく慣例的に形容詞と動詞の複合語に訳されるか、そのまま形容動詞的に「well-defined である」といった形で用いる。名詞形 well-definedness などもあり、これを well-defined 性と記すことはできるが日本語訳としてこなれたものは特には存在しない(文脈によっては「定義可能性」などで代用可能である)。
概要
以下の二つが示せたとき、定義が well-defined であるという[1]。
- (1) 定義で使われる方法が実際にうまくいく。
- (2) 定義がもともとの対象から複数定まる対象を経由して行われる場合、結果がもともとの対象にのみ依存する。
一つの対象のある表示に対して定義が満たされるが、別のある表示については満たされない状況であるとか、一つの対象の異なる表示を考えると定義の示す結果がそれぞれの表示に対して異なるといった状況であるならば、与えられた定義はその対象自体に対する定義として不適切 (ill-defined) である。
例
例えば、写像あるいは(一価の)関数 f は代入原理と呼ばれる条件
- a=b⟹f(a)=f(b){displaystyle a=bimplies f(a)=f(b)}
を満たす対応(一意対応)でなければならないから、同値類に対する写像をその代表元を用いて定義しようとする場面などでは well-defined 性が問題になる。典型的なものが、代数学において商代数系(商群や商環、商ベクトル空間など)の演算を導入する場面に現れる。また例えば、−1 の整数 n 乗は n の偶奇のみによって定まるから、Z/2Z の元 a に対して (−1)a は well-defined である。
より原始的な例として、2つの集合 A, B に対し、その和集合 A ∪ B 上の関数 f を次のように「定義」しよう:
- f(x)={0if x∈A1if x∈B{displaystyle f(x)={begin{cases}0&{text{if }}xin A\1&{text{if }}xin Bend{cases}}}
このように f を定義しようとすると、A にも B にも属するような元 x が存在するとき、その値 f(x) を定めることができない。つまり、A ∩ B が空集合でないとき、この「関数」f は well-defined ではないのである。もちろん、共通部分が空であれば、関数 f はきちんと定まっている、すなわち f は well-defined である。
少し複雑な例として、環上の加群の2つの鎖複体の間の射から、それらのホモロジー(これは鎖複体から定まるある商加群である)の間の準同型が誘導されるのであるが、このときも well-defined 性が問題になる。準同型が誘導されることを示すためには、上述の一意性に加え、写像の行き先が実際に終域に入っていることも確かめなくてはならない。
解析学における例を挙げると、実数 a > 0 の実数 x 乗を、x に収束する有理数列 {xn}∞
n = 1 を用いて
- ax:=limn→∞axn{displaystyle a^{x}:=lim _{nto infty }a^{x_{n}}}
と定義するときにも、well-defined 性が問題になる[1]。すなわち、右辺の極限について、きちんと収束することと、それが {xn} の取り方によらずに一意的に定まることを確かめなくてはならない。
参考文献
- ^ ab雪江明彦 『代数学1 群論入門』 日本評論社、2010年。ISBN 978-4-535-78659-2。