モルゴス

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冥王モルゴス


モルゴス(Morgoth)は、J・R・R・トールキンの中つ国を舞台とした小説、『シルマリルの物語』の登場人物。




目次






  • 1 概要


    • 1.1 名前


    • 1.2 肩書


    • 1.3 能力


    • 1.4 外見


    • 1.5 メルコールの弱体化




  • 2 来歴


    • 2.1 世界の創造前


    • 2.2 世界の創造


    • 2.3 灯火の時代


    • 2.4 二本の木の時代及び第一紀


    • 2.5 太陽の第一紀


      • 2.5.1 アングバンドの包囲


      • 2.5.2 包囲網敗れる


      • 2.5.3 シルマリルの奪還


      • 2.5.4 マイズロスの連合


      • 2.5.5 フーリンの子らの物語


      • 2.5.6 フーリンの彷徨


      • 2.5.7 ドリアスの滅亡


      • 2.5.8 ゴンドリンの没落


      • 2.5.9 エアレンディルの航海






  • 3 脚注





概要


エル・イルーヴァタールによって作られたヴァラールの一人で、神々の王マンウェとは兄弟の関係にあった。彼の本来の名前はメルコール(Melkor)であった。メルコールはヴァラール、引いては全アイヌアの中でも最大の力を持つ存在であり、力と知識において最も優れた資質を与えられていた上、他のヴァラールの資質をも幾らかずつ併せ持っていた。だがこの力を悪しき方向に使い、マンウェの王国(アルダ)を力で奪い取る事に費やし、アルダに回復不能な傷を負わせた。この反逆を持ってメルコールという名は奪い去られ、彼は最早ヴァラールの一員としては数えられない。


マイアールの中には彼の力に畏怖し、仕える者も現れた。彼はアルダの内と云わず外と云わず多くのマイアールを堕落させた。その中でも強大なものがサウロンであり、それよりも卑小なもの達がバルログであった[1]


彼は『シルマリルの物語』における邪悪な者たちの首魁であり、尚且つ『ホビットの冒険』や、『指輪物語』にまでおけるアルダの諸悪の根源でもある。



名前


彼の本来の名前であるメルコールは、クウェンヤで「力にて立つ者」(He Who Arises In Might)の意である。このメルコールをシンダリンで表したものがベレグーア(Belegûr)になるが、シンダール・エルフ達にとって初めて会った時から敵であった彼に、この名前が用いられることは一度もなかった。故に彼らはベレグーアを捩ってベレグアス(Belegurth)と呼んだ。これは「大いなる死」(Great Death)を意味する。メルコールの名を奪い取られた後、モルゴスと呼ばれるようになったが、これはシンダリンで「黒き敵」(Black Foe)もしくは「暗黒の敵」(Dark Enemy)を意味する。この他にシンダリンで「圧制者」(the Constrainer)の意味を持つバウグリア(Bauglir)の名で呼ばれることもある。


なおモルゴスと名付けたフェアノールがシンダリンを知っている筈がないので(彼はシンダール・エルフと交流がない)、本来はクウェンヤで「黒き敵」と呼んだ筈である。原作者のトールキンは、モルゴスのクウェンヤ形について幾つかの案を出しており、モリンゴット(Moringotto, Moriñgotho)[2]、またはモリコット(Morikotto)になるだろうと記している[3]。しかし明確にどれが正解かは述べていない。 



肩書


彼の最も代表的な肩書(タイトル)は「冥王」である。「冥王」(Dark Lord)という単語が世に初めて用いられたのは『指輪物語』のサウロンだったが、本来はモルゴスこそが初代の「冥王」に当たる。彼はアイヌアとしては極寒と灼熱を生じさせた者だったが、彼がアルダに害を加える上で最もよく用いたのが暗闇であった。本来は暗闇は生者にとって恐れる必要のないものであったが、彼はこの暗闇を全ての生ある者にとって甚だしい恐怖に満ちたものへと変えてしまった。故に彼は「冥王」と呼ばれるようになったのである。この他にエルフ達からは「大敵」(Great Enemy)や「暗黒の王」(Lord of the Darkness)などと呼ばれた。


彼自身が称したものとしては「世界の王」(King of the World)や、人間の英雄フーリンに対して名乗った「アルダの運命の主」(Master of the fates of Arda)、「長上王」(Elder King)がある。しかし「長上王」はマンウェの肩書であり、モルゴスの詐称に過ぎない。


『シルマリルの物語』には出てこないが、『中つ国の歴史』シリーズにのみ登場するものとしては、「北方の暗黒の力」(the Dark Power of the North)、「地獄の王」(Lord of Hell)、「虚言の王」(Lord of Lies)、「災禍の王」(Lord of Woe)、「地獄の民の君主」(Prince of the People of Hell)などがある。



能力


彼の力は全アイヌア中、最強と言ってよいものであった。原作者のトールキンは、メルコールの元来の性質はより遥かに強大なものとして造られたと、後の"フィンロドとアンドレス"の草稿にて書いている。彼はエル・イルーヴァタールを除けば最大の力を持つ者であり、他のヴァラールが皆一丸となって挑んでも、彼を制御することも縛鎖につける事も不可能であった[4]。全盛期のメルコールはただ睨みつけるだけで、マンウェの気力を挫くことすら可能だったという[5]


しかしここで重要な事がある。彼の力は確かに膨大なものではあったが、エルとは異なり所詮は有限のものに過ぎないという点である。彼は無分別に力を空しく浪費したり、他者を堕落させたり配下に力を分け与えたり、邪悪な生き物を創ることなどによって、少しずつその力を減じていったのである。この事の詳細はメルコールの弱体化を参照されたい。


彼のその絶大な力は、原初のアルダの形成期の時に最も発揮された。彼は自身の欲望や目的に沿うように捻じ曲げようとし、各所で盛んに火を燃やしたのである。そして若いアルダが炎で満ちると、そこを我が物にしようとした彼は、他のヴァラールがアルダを形造ろうとするのを妨害し始めた。彼らが陸地を造り上げると、メルコールが破壊し、彼らが谷を穿つとメルコールが埋め戻してしまった。山々を積み刻み上げると、メルコールがこれを崩した。海を作るため深く掘ったなら、メルコールが海水を周囲に溢れさせてしまった。かくの如くヴァラールが仕事を始めても必ず、それを元に戻すか損ねてしまったのである。このためアルダは当初ヴァラールが思い描いていたものとは異なるものに仕上がってしまった。これらの混乱が統御されるのは大分後の事となる。


彼はその強大な力を用いて2つの山脈を隆起させた。中つ国の極北に造られた鉄山脈(エレド・エングリン)と、中つ国の南東部に造られた霧ふり山脈(ヒサイグリア)である。前者は彼の最初の大規模地下要塞であるウトゥムノの防壁として築かれ、後者は狩人神オロメが中つ国内部に分け入るのを妨げるために築かれた。また後者は、『ホビットの冒険』及び『指輪物語』にも登場し、トーリン達やフロド達一行が霧ふり山脈越えを敢行しようとしたことや、ドワーフがモリアの王国を山脈内に築いたことでも知られる。またアマンから帰還した直後に鉄山脈の南側に、第二の大規模地下要塞として造り直されるアングバンドを掘った時に出た大量の土砂と礫、それと地下溶鉱炉から出た大量の灰や鉱滓を積み上げた、サンゴロドリムの塔と呼ばれる連峰を築くことになる。第二代冥王となったサウロンが精々山を破壊できる程度の力であるのと比べれば、最強のアイヌアである彼の力が如何程のものであったかがこの事からもわかるだろう。


彼は、山々の頂から山々の下なる深い溶鉱炉に至るまで、冷気と火を支配していた。そして彼が座している所には暗黒と影が周囲を取り巻いており、その暗闇は優れた眼を持つマンウェとその召使たちでさえも見通すことは出来なかったという。またイルーヴァタールから人間が贈り物として賜った"死"に、影を投げかけて暗黒の恐怖と混同させ、"死"を忌避すべきものとしてしまったのも彼の仕業であった。


メルコールは他のヴァラールの中でもアウレと最も似ていた。才能や考えること、新しい物を作り出す事でその技を賞賛される事を共に喜んだ。しかしアウレがエル・イルーヴァタールに忠実であり、他者を妬むことはなく、自らの制作物に執着する事がなかったのに対し、メルコールはアウレを妬み、羨望と所有欲に身を焼くようになっていった。結果彼は他者の作品を破壊するか、模造するか、醜く作り変えるかの何れかしかできなくなってしまった。そのメルコールが創りだしたのが、邪悪なオークやトロル、竜のような怪物たちである。エルフの古賢やエント達に言わせると、オークは捕らえたエルフを醜く捻じ曲げ変質させたものであり、トロルはエントの模造物であるという。しかしこれは彼らの間での通説であり、実際の所オークやトロルの成り立ちは不明なところが多い。ただ、モルゴスが深く関わっていることだけは確かである。



外見


メルコールが最初に目に見える形を取った時は、彼の心中に燃える悪意と鬱屈した気分のため、その形は暗く恐ろしかった。彼は他のヴァラールの誰よりも強大な力と威厳を見せてアルダに降り立った。だがその姿はさながら、頭を雲の上に出し、その身に氷を纏い、頭上に煙と火を王冠のように戴き、海を渡る山のようであった。そしてその目の光たるや熱を持って萎らせ、死の如き冷たさで刺し貫く炎のようであったという。


弱体化した後に彼が取っていた姿は、ウトゥムノの圧制者としての丈高く見るだに恐ろしい暗黒の王の姿である。ウトゥムノが出来て以降、彼はアマンに囚われていた一時期を除き、ずっとこの姿を取っていた。
上のエルフの上級王フィンゴルフィンとの一騎討ちの際は、黒い鎧で身を包んでおり、頭には鉄の王冠を戴き、地下世界の大鉄槌グロンドと、紋章のない黒一色の巨大な盾をその手に携えていた。エルフ王の前ではモルゴスの姿はまるで塔のようであったという。


なおアマンで取っていた姿は詳細はなく、ヴァラとして尤もらしい姿をしていたとくらいしか書かれていない。



メルコールの弱体化


トールキンはこのメルコールの弱体化というアイディアについて、二つのパターンを考えていた。その内の一つが出版された『シルマリルの物語』や『終わらざりし物語』にもあるように、アルダを侵食するために、数多い下僕に悪意と力を注ぎ込んで繰り出し、己の力を空虚さの中に浪費してるうちに、本来は並ぶ者のなかったメルコール自身の力は少しずつ損なわれ、弱まっていった、というものである。この結果諸力の戦い(諸神の戦い)でウトゥムノを攻略したマンウェは、要塞の最深部でメルコールと相見えたが、二人とも大いに驚愕したという。マンウェはメルコールの眼光で最早怯むことがなかったため、メルコール個人の力が衰えたことに気付いたためであり、逆にメルコールはそんなマンウェを見て、自身の力がマンウェよりも弱体化したことを見て取ったためであった[6]。そして彼はトゥルカスと組み打ち、投げ飛ばされ敗北を喫するのである。


もう一つの案は、メルコールがアルダそのものを支配するために、自己とアルダを同一化しようと試みた、というものである。これはサウロンと一つの指輪との関係に似ている。だがそれよりも遥かに広大で尚且つ危険な方法であった。つまりアルダ全てが(祝福された地アマンを除いて)メルコールの"要素"を含むこととなり、穢れてしまったからである。このためアマン以外の地で生まれ育つものは、大なり小なりメルコールの影響を受けてしまう事になった。しかしこの事と引き換えに、モルゴスは彼が持っていた膨大な力の殆どを失ってしまった。故に中つ国全てがいわば「モルゴスの指輪」となったのである。ただサウロンとモルゴスの指輪の違いは、サウロンの力は小さいが集約されているため指に嵌めることができ、彼は昔日にも増してその力を発揮できるが、モルゴスのそれは彼の膨大な力が中つ国遍くに散逸してしまっており、彼の直接的なコントロール下にはないという点である。そしてその膨大な力を差し引いて残った余り物―それが即ちモルゴス他ならないということは、彼の肉体に宿る霊が酷く萎びて零落してしまった事を意味した。しかしこのためにモルゴスを完全に滅ぼそうとするならば、アルダそのものを完全に分解しなければならないというジレンマが生じてしまった。ヴァラールがモルゴスとの全面的な戦いになかなか乗り出さなかったのはこのためである[7]


どちらのアイディアが最終的なトールキンの意図、つまり正典となったのかは曖昧模糊としており(後期には後者の方に関しての考察が多いが)、出版された『シルマリルの物語』では前者の案を採用している。何れにせよ弱体化したモルゴスはこの結果、永遠に"受肉"してしまいアイヌアなら誰でもできる、肉体を棄てて不可視の姿に戻ることさえできなくなったのである。トールキンの草稿によると、第一紀末のモルゴスの力は第二紀のサウロンよりも劣るものであったという[8]


弱体化および受肉し、堕落してアイヌアとしての力を殆ど失ったモルゴスに残されたのは、巨人の如き体躯(ogre-size)と怪力(monstrous power)[9]と幾許かの魔力、あと元ヴァラとしての威光は久しく痕を留めたため、彼の面前では殆どの者が恐怖に落ち込むこととなった。とは言え、彼は受肉したことにより傷付くのを恐れ、自身が戦いに巻き込まれるのを可能な限り避けるようになり、専ら下僕たちや卑劣なカラクリを用いるようになっていった。宝玉戦争において、彼が自ら戦場に現れて武器を振るったのはただの1度だけであり、その殆どをアングバンドの深奥に引き篭もって過ごしたため、弱体化後のモルゴスの能力的な描写があるのは僅かなものでしかない。彼はサンゴロドリムから火と煙を吹き出させ、時には火焔流を流出させたり、炎を太矢のように遠く飛ばし堕ちた箇所を破壊したりすることが出来た[10]。フィンゴルフィンとの決闘の際には、大鉄槌グロンドを高々と振り上げ雷光の如く打ち下ろし、大地を劈いて大きな穴を開け、そこからは煙と火が発したという。また人間の英雄フーリンを魔力で金縛りにし、彼の家族たちに呪いをかけ、後に一家全員の運命を破滅に追い込んでいる。ただこれは文字通りモルゴスの呪いの魔力なのか、彼の下僕であるグラウルングを用いて結果的にそうなるように仕向けたのか、線引が難しいところがある。


実の所、メルコールの持っていたオリジナルの力が減じてゆき、弱体化してゆくというアイディアは、後期クウェンタ・シルマリルリオン(LATER QUENTA SILMARILLION、LQ)の『アマン年代記』にて初めて見られるもので[11]、初期クウェンタ・シルマリルリオン(EARLY QUENTA SILMARILLION、EQ)には見られないものであった。EQは中つ国の歴史』シリーズの5巻に当たり、LQは10巻から11巻に当たるが、LQで物語として改変・執筆されたのはトゥーリン・トゥランバールの死辺りまでで、それ以降の部分(ゴンドリンの没落や怒りの戦いなど)はEQを用いざるを得なかったため、これは特別厄介な問題を引き起こした。即ち古い時代に書かれたEQと、より発展した構想のもとに書かれたLQの間では看過しがたい不調和が生じたということで、これはクリストファー氏も認めている[12]。この不調和には様々な設定の差異などがあるが、その一つとして『シルマリルの物語』の終盤部分は、メルコールの弱体化というアイディアが無い時代に書かれたものだということに留意する必要がある。



来歴



世界の創造前


世界が始まる前、最も力あるアイヌアとして誕生したメルコールは、不滅の炎を求めてしばしば独り虚空に入った。彼には、エル・イルーヴァタールが虚空のことを全く顧みないように思われたため、それに不満を抱き、彼を創造した者を見倣って、意志ある者達を創りだし虚空を満たしたいと考えるようになった。だがそれには神秘の火、不滅の炎が必要だったのであるが、彼はそれを見出すことは出来なかった。何故ならばその火はイルーヴァタールと共にあったからである。しかしこの単独行動が過ぎるあまり、彼は次第に同胞たちと異なる独自の考えを抱くようになっていった。



世界の創造


そして世界創造の歌、無数のアイヌアの聖歌隊による音楽、即ちアイヌリンダレが歌われた際、主題が進むに連れ、メルコールは心中に彼独自の、イルーヴァタールの主題にそぐわぬことを織り込もうという考えを起こした。メルコールは自分に割り当てられた声部の力と栄光を、さらに偉大なものにしたいという欲望が湧き起こったのである。そして世界創造前に抱いた考えの一部を彼の音楽に織り込んだのであった。すると彼の周囲には不協和音が生じ、他のアイヌアの旋律を乱し、中にはメルコールの音楽に調子を合わせるアイヌアも出始めた。こうして彼の不協和音はイルーヴァタールの主題とぶつかることとなった。するとイルーヴァタールは第二の主題を提示し新たな音楽が始まったが、またもメルコールの不協和音がこれと競い合い、最後には勝ちを制した。しかしイルーヴァタールが提示した第三の主題は全く相容れない二つの音楽が同時進行するような仕儀となり、最後にはイルーヴァタールの主題がメルコールと同調者達の不協和音さえも取り込んで一つの音楽として完成するようになっていた。そしてこの時イルーヴァタールはメルコールを叱責したが、彼は恥じ入ったものの考えを改めることなく、むしろ密かに心に怒りを懐いた。
イルーヴァタールがアイヌアの音楽の産物であるエア(Eä、アルダを含む世界全てを指す)を幻視させると、アイヌアの内最も力ある者の多くがアルダに心を奪われたが、その最たるものがメルコールであった。最も彼はアルダに赴いてイルーヴァタールの子らのために準備を整えるよりも、実の所アルダの支配者となりたかったのであるが。そして歌の主題が実在となって地球即ちアルダが誕生すると、彼が生じさせた極寒と灼熱を統御するという口実を己自身に信じこませて、アルダに降った多くのアイヌアの一人となった。そしてヴァラールがアルダを仕上げるのは自分たちの仕事であると気づき、その大事業にとりかかった時、メルコールはアルダを我が物にしようとし、他のヴァラにそう宣言した。しかし兄弟であるマンウェに窘められて一旦は退き、他の場所に立ち去り、そこで自分の好き勝手をしたものの、彼はアルダの支配を諦めてはいなかった。そこでヴァラールが目に見える諸力として肉体を纏い、美しく地上を歩く姿を見て嫉妬に燃え、自らも肉体を纏うと同胞たちに戦いを挑んだ。しばらくはメルコールが優勢だったが、トゥルカスが参戦するとアルダからの逃走を余儀なくされた。



灯火の時代


アルダの外なる暗闇に追いやられたメルコールは、トゥルカスを憎悪しつつ密かに機会を伺っていた。その間にヴァラールは世界に秩序をもたらし、ヤヴァンナの種子も蒔かれ、メルコールの火も鎮められるか、あるいは原初の山々の下に埋められた。そして世界には光が必要となったため、アウレが二つの巨大な灯火を造り、そしてヴァルダが灯火に明かりを点け、マンウェがこれを清めた。ヴァラールはこの灯火を南北にそれぞれ据え付けた。この灯火が据え付けられた柱は、後の世の如何なる山々も及ばないほどの高さであったという。その灯火の下ヤヴァンナの種子はたちまち芽吹き生い茂り、獣たちも現れ出た。そして中つ国にかつてあった大湖に浮かぶアルマレンの島に彼らの宮居を築き、宴を開き、「アルダの春」と呼ばれる平和な時代を謳歌し始め、如何なる禍も懸念せずにいた。しかしメルコールはこれらのことをすべて把握していた。何故ならば彼が堕落させた数多のマイアールがスパイとして働いていたからである。彼らの長はサウロンであった[13]。やがてトゥルカスが心地よい疲れから眠り込んでしまうと、機会到来と見たメルコールは堕落させた聖霊たちをエアの館から呼び出し、灯火も朧な中つ国の遥か北方に鉄山脈を築き、その山々の地の下深くに穴を掘り、大規模な地下要塞を造り始めた。これこそウトゥムノである。この地よりメルコールの禍と憎悪の瘴気が流れでて、「アルダの春」は台無しとなった。植物は病んで腐り、水は淀み腐敗し、獣達は角や牙ある怪物となり大地を血で染めた。ここに至りヴァラールもようやくメルコールが活動を再開したことを悟り、彼が潜んでいる場所を探し求めたが、メルコールは彼らが準備を整える前に奇襲を仕掛け、アルマレンを照らしていた二つの巨大な灯火を破壊してしまった。このときアルダがこうむった被害は甚大で、陸は砕け海は荒れ狂い、灯火は破壊の炎となって流れ出た。このためヴァラールが最初に構想した世界は決して実現しなくなってしまった。復讐を終えたメルコールは速やかにウトゥムノに撤退し、災害の鎮圧で手一杯のヴァラールには彼を追撃する余裕はなかった。かくして「アルダの春」は終わりを告げた。アルマレンの彼らの宮居は完全に破壊されたため、やむなくヴァラールは中つ国を去り、西方大陸アマンに移り住んだ[14]。そしてメルコールを警戒し、ペローリ山脈即ちアルダで最も高いアマンの山脈を防壁として築いた。とは言え神々は完全に中つ国を見捨てたわけではなく、ウルモの力はメルコールの暗黒の地にあっても絶えざる水の流れの形をとって配慮され、ヤヴァンナ、オロメの二者はアマンから遠く隔たった暗黒の地にも時折訪れた。前者はメルコールのもたらした傷を少しでも癒すため、後者はメルコールの怪物を狩るためであった。メルコールはそんなオロメを恐れ疎んじ、彼の侵入を妨げるため霧ふり山脈を隆起させた。そして鉄山脈の西方、北西の海岸から然程遠くない所にはヴァラールの攻撃に備えて城砦と武器庫を造った。これはアングバンドと名付けられ、副将サウロンをその守りに当たらせた。この暗黒の時代にメルコールによって変節させられた、邪悪なる者達や怪物たちが数多く育ち跋扈するようになり、以後久しく世を悩ますこととなる。そしてこの後長期間に渡り中つ国はメルコールの支配下にあり、彼の暗黒の王国は絶えず中つ国の南方へと拡大していった。



二本の木の時代及び第一紀


ヴァラールが新たにアマンに築いた国ヴァリノールには彼らの都ヴァルマールが築かれた。そしてこの都の正門の前に緑の築山があり、ヤヴァンナはこれを清めるとその地で力の歌を歌った。この歌により生まれいでたのが世に名高い二つの木である。至福の地アマンはこの木によって美しく照らされたが、その光は中つ国にまでは届かなかった。未だ中つ国はウトゥムノにいるメルコールの暗闇の下にあった。そこでヴァラールは会議を行い、やがて目覚めるであろうイルーヴァタールの子らのために、中つ国をこのままにしておいてよいものか、と意見を出し合った。しかしマンドスの最初に生まれる者達は暗闇の中に目覚め、まず星々を仰ぎ見るという宿命があり、さらに大いなる光(太陽のこと)が現れる時彼らは衰微するのだという発言から、ヴァルダはアルダに降りきたってから今までになかった大事業に取り掛かった。二つの木から零れ落ちる露を受け溜める、ヴァルダの泉からテルペリオンの銀の雫を掬い取り、それを元に幾つもの新しい星々を天に輝かせ、そしてメルコールへの挑戦として滅びの印である<ヴァラールの鎌>すなわちヴァラキアカと呼ばれる7つの強力な星々(要は北斗七星のこと)を天に嵌め込んだ。この難事業を長いことかけてヴァルダがやり遂げた時、エルフはついにクイヴィエーネンの湖の畔にて目覚め、第一紀が始まったと言われる[15][16]。警戒に抜かりのないメルコールは早速彼らに気づき、エルフを惑わそうとし、黒い狩人の姿をした召使たちを送り込み、これらはエルフを捕らえては貪り食った。このため、狩りに出かけたオロメは偶然彼らと邂逅し彼らをエルダール(星の民)と名付けて、親愛の情から近づいたのだがエルフたちの多くは彼を恐れて逃げ出すか、隠れるかして行方知れずとなった。しかし勇気あるエルフは踏み止まりオロメが暗黒の下僕などではないことを見て取った。そしてエルフたちはみな彼の方に引き寄せられていったのである。しかしメルコールの罠に落ち込んだ不運な者達は、確かなことは殆ど知られていないものの、ウトゥムノの地下深くに囚われて、彼の魔力で捻じ曲げられオークと化したのだと、後の賢者たちの間では信じられている。オロメからこのエルフの目覚めはヴァリノールにも伝えられ、ヴァラールは大いに喜んだ。しかし喜びの中にも惑いの気持ちもあった。そこで彼らはメルコールからエルフ達を守るためにはどうすればいいのか、長い時間をかけて話し合った。そしてマンウェはイルーヴァタールの助言を仰ぐと、ヴァラールを召集し、如何なる犠牲を払おうともメルコールに対して戦を仕掛け、エルフたちをかの影から救い出すべきだと宣言した。これを聞きトゥルカスは喜んだが、アウレはその戦いで被る世界の傷を思って心を傷めた。そしてヴァラールは軍備を整え軍勢を率いてアマンから出撃した。メルコールはアングバンドでまずヴァラールの攻撃を迎えたが、これに抗し得ず陥落し、このため中つ国北西部は甚だしく破壊された。メルコールの召使いたちはヴァラール軍に追われてウトゥムノに遁走した。次いでウトゥムノの攻城戦にかかったがこれは長く苦しいものであった[17]。ウトゥムノは地の底深く掘られ、穴という穴はメルコールの火と夥しい召使いたちで満たされていたからである。しかし遂にウトゥムノは破られ、要塞の屋根は引き剥がされ、地下坑は皆むき出しとなり、要塞最深部での激しい戦いの末、メルコールはトゥルカスに組み伏せられ、アウレの造ったアンガイノールの鎖によって縛り上げられた。こうして世界はしばしの間、平和を得ることになる。しかし、ウトゥムノ以北は徹底的に破壊されたものの、ヴァラールがウトゥムノ攻めを急いだあまり、アングバンドは完全な破壊は免れた。このためメルコールの下僕たちの中にはヴァラールの追求を遁れた者も大勢居た。メルコールの副官サウロンは遂に見つからなかった。またこの戦いの余波で中つ国北西部の地形は激変し、海岸線はあらかた破壊され、広大な高地が隆起したり、大海が広く深くなるなど中つ国が被った被害は甚大なものであった。


ヴァリノールに連行されたメルコールはマンウェの足許に平伏して許しを請うたが、却下されマンドスの砦に投獄された。彼は三期の間ここに幽閉された。その後再びヴァラールの玉座の前に引き出された彼は、ヴァラールの栄光をその目にして嫉妬の念を懐き、諸神の足許に侍っているエルフたちを見て憎悪でその心中は膨らんでいった。しかし彼はマンウェの足許にへりくだって許しを請い、改心したふりをして見せた。そこでマンウェは彼を赦したものの、ヴァラールはすぐには警戒は解かなかったため、メルコールは已むを得ず、他のヴァラやエルダールを助けたり助言を与えたりして、少しずつ周囲の警戒を解していった。そしてしばらくの後、メルコールは自由にアマンを動きまわっても良いという許可が与えられた。マンウェにはメルコールの悪が矯正されたように思われたからである。しかしウルモとトゥルカスは彼の改心を信用しなかった。


メルコールはエルダールが自身の没落の原因となった事を決して忘れては居なかった。それ故彼らとヴァラールを離間させようと考えるようになる。彼は心中に憎悪の念を抱きつつ、それとは裏腹に親愛の情を装ってエルダールに近づき、彼らのために惜しみなく知識や力を提供した。しかしマンウェとヴァルダに最も愛されているヴァンヤール・エルフは彼を怪しむことをやめなかったため、彼らを堕落させることは難しかった。またファルマリの方は逆にメルコールの方が全く気にもかけなかった。彼にとっては役に立ちそうもないと見たからである。しかしノルドール・エルフは彼のもたらす知識を大いに尊び耳を傾けた。この事からメルコールはノルドール族に目を付けた。そんな時フェアノールが最も世に知られるエルフの作品、大宝玉シルマリルを完成させる。その輝きを目にしたメルコールは世の何よりもシルマリルを渇望した。そして身を焦がすようなその欲望に駆られた彼は、何としてもフェアノールを滅ぼし、ヴァラールとエルフを離間させようと工作に精を出すようになる。彼は時間をかけて虚言の種を蒔いていった。ヴァラールは嫉妬心からエルダールを中つ国から引き離したのだ、これから現れる人間たちに広大な中つ国を任せ、エルフ達は自分達の監視下に置いておくのだ、弱い人間ならば後々支配するのは容易いことだからだ、と。無論これは全く根拠の無いことだったのだが、ノルドール族の中には完全に信じる者、あるいは半信半疑な者が大勢続出するようになった。こうしてメルコールの工作は実りつつあった。フェアノールの心中には新天地を望む気持ちが炎のように燃え盛ったからである。さらにメルコールはフェアノールに異母弟のフィンゴルフィンとその息子達が、ノルドールの上級王フィンウェとその長子フェアノールに取って代わろうとしていると吹き込んだ。その一方で、フィンゴルフィンとその弟フィナルフィンには、フェアノールが父親の愛情を独占し、二人を追放しようと画策していると吹き込んだ。そしてメルコールは武器の造り方をノルドールに語った。彼らが刀剣や槍、斧といったものを造り始めたのはこの頃だと言われている。こうしてノルドールの叛意を焚きつけ、一族の不和を煽り相争わせるまではかれの目論見どおりになったが、フェアノールが刀を抜いてフィンゴルフィンを恫喝したことで、ヴァラールが介入することとなり、この際の審判で事の真相が明らかとなり、メルコールの悪意が明らかとなった。しかしフェアノールは抜刀した罪で12年の間フォルメノスに追放されることとなった。メルコールはその悪意が顕になったことを悟ると身を晦まし、トゥルカスの追手から逃れると密かにフェアノールの許へ訪れた。そして偽りの友情を装って、フェアノールをこの境遇から救い出そうと、彼に逃亡を勧めたがその際の発言でシルマリルへの欲望を見抜かれたメルコールは、フェアノールに面罵された上に立ち去るよう命じられ門扉を眼前で閉じられた。こうして恥をかかされたメルコールの心はドス黒い怒りに塗り潰されたが、ヴァラールの追跡を案じてその場を去った。フィンウェは急使をヴァラールの許に送り、オロメとトゥルカスが追跡に飛び出たが、メルコールは北方へ逃走したという情報がもたらされ、二人は全速力で北に向かったが、彼の消息を見出すことは出来なかった。


メルコールは首尾よく追っ手を撒いた。北方に向かうと見せかけ、実は引き返して遥か南に去っていたからである。この頃の彼はまだアイヌアなら誰でもできる、姿を変えることも、肉体を棄てて不可視の姿に戻ることも可能だったからである。最もこの能力はそのうちに永遠に失われることになるが。そしてペローリ山脈の東の山麓の裾野にあるアヴァサールを訪れた。そこには闇の大蜘蛛ウンゴリアントが棲息していたからである。かの雌蜘蛛は光を吸い上げ闇の糸を紡ぐ事が出来た。そしてその紡がれた暗黒の蜘蛛の巣には最早如何なる光も届かなくなっていたため、彼女は飢餓に瀕していた。メルコールはここで彼女を探しだすと暗黒の王の姿をとった。そして二人はアマンを襲う計画を練った。ウンゴリアントは本心を言うと諸神に挑むのは大変な危険を伴うため、恐怖から些か気が進まなかったのだが、メルコールが示した報酬に釣られて力を貸すことを承諾した。そしてメルコールとウンゴリアントはアマンを急襲した。丁度その時ヴァリノールは祝祭の季節であったため、ほぼ全住民はマンウェの御許であるタニクウェティル山頂の宮居に赴いており、都は無人であった。メルコールとウンゴリアントは二つの木の前に来ると、メルコールが黒い槍で二つの木を髄まで刺し貫いた。木は深傷を負って樹液が血のように流れ出た。ウンゴリアントはそれを吸い上げたうえ、二つの木の傷口に口を当て樹液を一滴残らず飲み干した。そしてウンゴリアントの体内にある致死の猛毒が木に入って二つの木は枯死した。それでもまだ足らず彼女はヴァルダの泉をも飲み干した。そして見るもおぞましい巨大な姿に膨れ上がり、黒い煙霧を吹き出した。その姿はメルコールさえ恐れをなすほどであった。


こうしてウンゴリアントの放つ闇でヴァリノールの国は大混乱に陥った。その隙にメルコールはフォルメノスを訪れ、祝祭に参加していなかったフェアノールの父フィンウェを殺害して、シルマリルとその他のエルフの宝石の全てを奪い、北方へと逃走した。この報せを聞いたフェアノールはメルコールをモルゴスと呼んで呪った。そして彼は闇の中へと走り去っていった。これより後メルコールはその名で呼ばれることはなく、モルゴス、黒き敵などと呼ばれるようになる。オロメの軍勢とトゥルカスがモルゴスを追跡するため直ちに出撃したが、ウンゴリアントの黒雲と闇の中では何も見えず、結果的に彼らの追跡は空しく終わった。モルゴスとウンゴリアントは、軋み合う氷の海峡ヘルカラクセを渡って中つ国へ逃亡した。モルゴスは彼女を撒いてアングバンドに逃げ帰るつもりだったのだが、ウンゴリアントはそれを許さなかった。報酬を要求する彼女に、モルゴスは渋々エルフの宝石をくれてやると、彼女は次々とそれを貪り食った。ウンゴリアントはさらに大きさを増し闇を吹き出したが、彼女はまだ満足しなかった。そして遂にシルマリルを要求したのである。モルゴスは激高し、自分が力を与えてやったからこそ、今回のことは上手くいったのだからシルマリルは決して渡さないと拒絶した。しかしモルゴスから出て行った力の分だけ、ウンゴリアントは大きくなり、モルゴスは小さくなっていた。その為ウンゴリアントを制御できず、彼女の紡いだ暗黒の蜘蛛の巣に囚われ、宝玉はおろか自分自身の息の根を止められそうになった。その時モルゴスは山々をも揺るがすほどの恐ろしい絶叫を上げた。その叫びをアングバンドの地下深くで主の帰還を待っていたバルログ達が聞きつけ、彼らは火を吐く嵐のごとくやって来て、その炎の鞭でウンゴリアントの蜘蛛の巣をズタズタに切り裂くと、ウンゴリアントを追い払った。一命を取り留めたモルゴスはアングバンドに新たに地下要塞を築き、城門の上にサンゴロドリムの塔を打ち建てた。そしてシルマリルを巨大な鉄の王冠にはめ込むと、世界の王を称して中つ国に君臨した。


モルゴスはアングバンドに帰還すると直ぐ様戦支度を始めた。彼の不在の間、副官サウロンが闇の中で十分な数のオークを繁殖させていたからである[18]。そこでモルゴスはオークの力と残忍さに加えて破滅と死を渇望する心を植え付けて、彼らを中つ国北西部即ちベレリアンドへと送り出した。そして彼らは大挙してシンゴル王の領地を襲った。これがモルゴスとエルフの間で初めて行われた戦であった。モルゴスとエルフの大きな戦いはこれを皮切りに全部で五度行われることとなる。


  • ベレリアンド最初の戦い

この戦いはシンゴルを除く、アマンに赴いたことがない暗闇のエルフ達と、モルゴスのオークたちとの間で行われた。オーク達は広い範囲を襲撃して回ったため、シンゴルはエグラレスト(ファラス)の統率者キーアダンとの連絡を絶たれてしまったため、オッシリアンドのエルフ王デネソールに助けを求めた。デネソールは救援に答え、援軍を率いてシンゴル王とともにオークを挟み撃ちにし敗北せしめた。敗走したオーク達は北へ逃げたが、そこではドワーフ達が待ち構えており、これによりほぼ全滅の憂き目にあった。この戦いでエルフ側は勝利を得たものの、犠牲も大きく、特にオッシリアンドのエルフ達は、王デネソールを始め多数が討ち死にを遂げた。また西方ではオーク側が勝利を収め、キーアダンは海岸際まで撤退せざるを得なかった。
この戦いの結果からシンゴル王は周囲の者たちを領地内に集めると、妻のメリアンの力で影と惑わしの見えざる壁(メリアンの魔法帯)を張り巡らせた。これはマイアであるメリアンよりも大きな力を持つものでもない限り、シンゴル夫妻の意思に反して通行することは不可能なものであった。以後この魔法帯の内なる地はドリアスと呼ばれるようになる。


丁度この頃、モルゴスに父を殺されシルマリルを盗まれた、フェアノール一党が中つ国にやって来る。彼らはその途上で船を手に入れるために、同族であるテレリたちを殺戮した。この同族殺害の罪と、シルマリルを取り戻すために立てたフェアノールの誓いは、後々まで彼らに重くのしかかることとなる。彼らは中つ国に到着すると船を焼き捨ててしまった。フェアノールは後続のフィンゴルフィン達をわざと見捨てたのである。フィンゴルフィンは船が燃える赤々とした光を見て兄が自分を裏切ったことを知った。そしてこの光にモルゴスも気付き、フェアノールが自分を追ってきた事を知る。そこで彼は今だ十分な備えができていないであろうことを見込み、オークの軍勢を差し向けた。ここにべレリアンド第二の合戦が勃発する。


  • ダゴール・ヌイン・ギリアス(星々の下の合戦)

この戦の時には、まだ月が昇天していなかったためにこう呼ばれた。ノルドールは不意を突かれた上に数で劣っていたものの、たちまちの内に大勝利を収めた。何故となれば、彼らは二つの木の光をその眼で見た上のエルフだったからである。この時キーアダンを包囲していたオーク達が援軍として差し向けられたが、これはフェアノールの息子ケレゴルムが感付いて逆に急襲し壊滅せしめた。この合戦は10日間に及び、べレリアンド征服を目指して彼が用意した全軍勢の内戻ってきたのはわずか一握りであった。この結果には流石のモルゴスも唖然としたという。しかしモルゴスにとっては慰めとなることも起こった。当のフェアノールがこの戦で命を落としたのである。彼は仇敵への復讐の念と憤怒の余りオークの残党を追うのに入れ込み、味方を引き離して突出し過ぎたのである。これを見たオーク達は反転して攻めに転じ、さらにアングバンドからバルログ達が出てきた。そしてフェアノールはモルゴスの王土ドル・ダイデロスで包囲された。彼は獅子奮迅の戦いぶりを見せたが、遂にはバルログの長ゴスモグによって致命傷を負わされた。その時フェアノールの息子たちが軍を率いてやって来たため、モルゴス軍はフェアノールを放り出して撤退した。


フェアノールが死んだ直後に、モルゴスはエルフ側に使者を遣わして、敗北を認めて和睦の話し合いを申し込んだ。シルマリルを1個引き渡しても構わないという条件付きである。これにフェアノールの長子マイズロスは十分警戒して、双方共に決められた以上の軍勢を引き連れてきたが、モルゴス側の方が多かった上にバルログもいたため、マイズロス以外の者は皆殺しにされ、彼は生け捕りにされた。そして彼を人質としたのであるが、フェアノールの息子たちは誓いに縛られていたため、モルゴスへの戦いを止めることは出来なかった。そこでモルゴスはマイズロスの右手に鉄の枷をはめサンゴロドリムの絶壁にぶら下げた。


しかしこの時、月と太陽が空に出現する。これらは二つの木の忘れ形見ともいうべきもので、ヴァラール達の手で造られ、清められたものであった。この二つの光は共にモルゴスにとっては予期せぬ痛打であり、憎悪の対象となった。そこで彼は月の舵を取るマイア・ティリオンに、影の精たちを差し向けたが撃退された。しかし太陽の船を導くアリエンのことは非常に恐れ、為す術がなかった。モルゴスには最早それだけの力がなかったのである。弱体化した彼はアリエンの目に見られることと、彼女が舵を取る太陽の燦然とした輝きに長く耐えられなかったのである。また、モルゴスの召使であるオークやトロルにとっても陽光は致命的であった。彼は自分と自分の召使いたちを暗闇で覆って陽光から身を隠すようになり、モルゴス自身はますます地面から離れられず、暗い砦の奥に篭もるようになった。彼の国土は全て煙霧と一面の黒雲に包まれるようになった。そしてフィンゴルフィン一党がヘルカラクセを渡って、艱難辛苦の末に中つ国に辿り着いたのもこの頃であった。彼らはアングバンドの城門前まで来ると、これを激しく叩いてトランペットを吹き鳴らし、サンゴロドリムを揺るがしたが、フィンゴルフィンはフェアノールと違い用心深かったので直ちに兵を引きミスリムの湖へと向かった。



太陽の第一紀


太陽が初めて昇った時、ヒルドーリエンでイルーヴァタールの次子である人間が目覚めた。モルゴスの間者たちはこれに気づくと、すぐに彼のもとに注進した。モルゴスはこのことを大事件と考え、副将サウロンにエルフとの戦いの指揮権を委ねると、暗闇の中密かにアングバンドを出発し自ら中つ国奥地に乗り込み、人間の心に影を投げかけた。そして恐怖と虚言を持って人間をエルダールの敵として東から彼らを攻撃せしめようと企んだ。しかしこの企みはなかなか上手く行かず完全には成就しなかった。この時点では人間は数が少なすぎたからである。そこでモルゴスは、あとの事を彼よりも劣る少数の召使いたちに任せて、アングバンドに戻ってしまった。


フィンゴルフィンの長子フィンゴンはマイズロスの親友であったため、彼が囚われの身になっていることを知ると単身、救出のためにサンゴロドリムの山をよじ登った。そこでマイズロスを発見するものの、近くによることは出来ず、マイズロスはフィンゴンに自分を射殺すよう頼む有様であった。そこでフィンゴンがマンウェに哀れみをこうと、大鷲の王ソロンドールがやって来てフィンゴンをマイズロスの近くまで運んだ。しかし魔法の鉄枷は外せなかったため、仕方なく右手首を切断し彼を助け出すことに成功した。フィンゴンはこの勲で名を上げ、そしてマイズロスがノルドールの上級王の王権をフィンゴルフィンに譲り、フェアノールが船を焼いて見捨てた所業を謝罪したために、両王家は再び団結することとなった。


ノルドールはドル・ダイデロスに見張りを置くと各地に使者を送った。シンゴル王はドリアスの魔法帯を彼らに開こうとはせず、フィナルフィンの血を引くものだけを中に入れることを許した。フィナルフィンの妻は、シンゴルの姪に当たるエアルウェンであったからである。そしてシンゴルはノルドール族にヒスルムとドルソニオン、それと無人の荒れ地であったドリアスの東の地に住まうことを許した。フェアノールの息子たち、特にカランシアはこれを聞いて怒ったが、マイズロスが窘め、その後間もなくマイズロス達はミスリムを去って、東の方の広い土地に移った。彼らはここにマイズロスの辺境国を築いた。太陽の出現から50年後、フィンゴルフィンの息子トゥアゴンとフィナルフィンの息子フィンロドは共に南に旅行した。その際夢という形でウルモの啓示を受け、何時か来るモルゴスの攻撃に備え、しっかりとした要塞を作るべきだという意味に受け取った。


ある時フィンロドとその妹ガラドリエルがシンゴルの許を訪れた時、フィンロドはシンゴル王の王宮<メネグロス>(千洞宮)を目の当たりにして、自分もこのような王宮を築きたいと考えた。そこでシンゴル王に相談した所、ナログ川の深い峡谷とその西側にある洞窟群のことを教えてくれ、道案内を付けてくれた。こうしてフィンロドはナログの洞窟群にメネグロスを模倣した王宮を後に築いた。これがナルゴスロンドである。この地を作るに当たり青の山脈のドワーフの手を借りたが、フィンロドは十分な報酬を支払った。その御礼にフィンロドのためにドワーフは後の世にも名高いナウグラミーア(ドワーフの首飾り)を贈った。


同じく夢の啓示を受けたトゥアゴンはウルモ自身からシリオンの谷間に行くよう命じられ、ウルモの案内で、環状山脈の内側にあるトゥムラデンという隠れた谷間を見出した。そしてその谷間の真中に石の丘があり、トゥアゴンは故郷ティリオンの都に倣った都市の設計にとりかかった。これが後のゴンドリンである。


ガラドリエルは兄フィンロドの王国には行かず、ドリアスに留まりメリアンとの語らいに興じる日々を過ごしていた。だが彼女はアマンでの出来事は二つの木の枯死、シルマリルの盗難、フィンウェの殺害には触れたものの、同族殺害やフェアノールの誓いのことなどは触れずに置いた。メリアンはマイアとしての洞察力でガラドリエルが何かを隠していると悟ったが、それ以上の追求はしなかった。この事については後に予期せぬ形でシンゴルの耳に入ることとなる。


モルゴスはノルドール族が戦争のことは余り念頭に無いようで、遠くまで旅に出たりと逍遥しているという間者の報告を聞き、敵の軍事力と警戒を試そうとした。北方の地は地鳴り鳴動し鉄山脈は火を吐いた。そしてアングバンドの大門前の大平原<アルド=ガレン>をオーク達が怒涛のように渡ってきた。ここにべレリアンド第三の会戦が起きる。


  • ダゴール・アグラレブ(赫々たる勝利の合戦)

オーク達は西はシリオンの方を侵犯し、東はマイズロスとマグロールの土地に侵入したが、フィンゴルフィンとマイズロスは警戒に抜かり無く、オークの本隊の狙いはドルソニオンであることに気付き、これを襲おうとしているところを両側から挟撃し、モルゴスの召使たちを敗退せしめアルド=ガレンを渡って追撃し、アングバンドの大門前で一兵残らず殲滅した。かくの如くこの合戦は大勝利に終わったが、同時に警告ともなり、モルゴスに対する包囲を縮め、見張りを強化した。アングバンドの包囲の始まりである。



アングバンドの包囲


このアングバンドの包囲は400年に渡って続いた。しかしこの包囲は完全なものではなかった。なぜならサンゴロドリムの城塞は、湾曲する鉄山脈から突き出るように築かれていたので、両側をこの山脈に守られていたため、これを超えて包囲することはノルドールには不可能であった。それに鉄山脈の北は常冬の雪と氷の大地であったからである。このためモルゴスは後背部には憂いはなく、彼の手下はアングバンドの大門ではなく北方側の秘密の入口から出入りしてベレリアンドに侵入した。またモルゴスは配下のオークに命じて、西方から来たエルフの中で生け捕りに出来るものがいたら、生きたままアングバンドに捕らえることにした。そうした捕虜の中には、モルゴスの面前で黒々とした恐怖に落ち込み威圧され、彼の思い通りになる者たちもいた。そうしてモルゴスはフェアノールの誓いや同族殺害のことなど様々なことを知ることが出来た。


モルゴスは、このフェアノールに率いられたノルドール族による同族殺害に、さらに嘘の尾鰭をつけ毒を含んだ噂としてシンダール族の間に流した。シンダールは用心が足らず、言われた言葉をそのまま受け取ったため、モルゴスは彼らに狙いを絞ったのである。キーアダンは賢者であったためこれらの噂は悪意によるものと看て取ったが、出所はモルゴスではなくノルドールの諸王家の間での妬みによるものと勘違いした。彼は自分が聞いたことをドリアスのシンゴル王に伝えた。シンゴルは激怒して、その場にいたフィナルフィンの息子たちをなじった。フィナルフィン一党は同族殺害に加わっていないものの、フィンロドは黙して語らなかった。それを釈明するとなれば、他のノルドール族を非難することになるからである。しかし弟アングロドは耐えられず、また以前ドリアスに使者として赴き帰ってきた際、カランシアに言われたことが遺恨となり、その場で真実を語りフェアノールの息子たちを非難した。この結果シンゴルは、フィナルフィンの子たちは縁者として以前通り扱い、また、フィンゴルフィン一党とは彼らがヘルカラクセでの苦しみで、罪を贖ったとして親交を保つことにした。しかしフェアノール一党への怒りは収まらず、彼らの言葉(即ちクウェンヤ)をベレリアンドで使うことを一切禁じた。このためノルドールも日常的にシンダリンを使わざるを得ず、クウェンヤは伝承の言葉として生き続けることとなった。


ダゴール・アグラレブから100年後モルゴスはフィンゴルフィンに奇襲を仕掛けた。彼は鉄山脈の北方からオークを送り出し、そこから西へ大きく迂回して南下し、ヒスルムに押し入るつもりだった。が、そこに至る前にフィンゴン率いる部隊に襲われ、オークの殆どは海へと追い落とされた。これによりモルゴスはオークだけではノルドールを滅ぼすことは不可能だと悟り、別の方法を模索することとなった。


その再び100年後、北方の火竜(ウルローキ)の祖グラウルングがアングバンドの大門から出撃してきた。この時の彼はまだ若竜で、成竜の半分にも達していなかった。しかしそれでもエルフ諸侯を仰天させるには十分だった。彼らは竜から逃げだし、グラウルングはアルド=ガレンを蹂躙した。しかしフィンゴンが一団の弓騎兵でこれを追い包囲すると、一斉に矢を浴びせかけた。グラウルングは身を完全に鱗で鎧うほど成長してなかったため、飛んでくる矢に耐えられず、アングバンドに逃げ帰った。この勲でフィンゴンは大いに名を高めた。モルゴスは早過ぎるグラウルングの出撃に大きく機嫌を損じたと言われている。そしてこの後200年に渡り長い平和が続き、ベレリアンドのエルフ達は繁栄することとなる。


ノルドールがベレリアンドに来て300年以上経った平和な時代に、ナルゴスロンドの王となったフィンロドはシリオンの東に旅をし、青の山脈(エレド・ルイン)の山並みに向かった。夕闇の訪れる頃、彼はそこでベレリアンドにやってきた人間、ベオルらの一族と出会った。彼らはそこで親交を結びフィンロドを主君としフィナルフィン王家に忠誠を尽くすこととなり、アムロドとアムラスの国に住む場所を定めた。しかしオッシリアンドのエルフらは人間を嫌い彼らを冷遇した。そのため次にやって来たハラディンの一族は北上してカランシアの収めるサルゲリオンに定住した。カランシアは人間の存在を殆ど歯牙にもかけていなかったからである。マラハ(Marach)の一族が最後にやって来たが、彼らは背が高く好戦的な輩だったので、オッシリアンドのエルフ達も手が出せなかった。しかしマラハの一族はベオルの一族と友好関係にあったため、そちらの近くへと移り住んでいった。人間の来訪はエルフにとっても興味深いことで、フィンロド以外の様々なエルフ達が人間のもとを訪れた。しかしシンゴル王は人間の来訪を歓迎せず、ドリアスは人間に対しては閉ざされたままであった。そして<第二の民>という意味であるエダインという言葉が彼らに使われ、後にエダインはエルフの友である三氏族についてのみ使われることとなる。フィンゴルフィンはノルドールの上級王として彼らを歓迎したため、多くの人間の若者がエルダールの王侯貴族に使えた。その中のマラハ(Malach)は14年間ヒスルムに定住しアラダンの名を与えられた。そして約50年後には何万という人間が西方のノルドール三王家の土地に入った。ベオルの一族はドルソニオンに来てフィナルフィン王家の土地に定住した。マラハの一族は後にはハドルの一族と呼ばれるようになり、ドル=ローミンに定住することとなる。またハラディンの一族は後にオークに襲われたことで、ハレスという名の女性に導かれてブレシルの森へと移っていった。しかし人間の間には不平分子もいて、エルダールを恐れかつ彼らに使えるのを良しとしないものも多かった。西の地に光明があると聞いて来てみれば、実際は暗黒の王とエルフたちの戦争の真っ最中であったため、それを厭うてエレド・ルインを再び超えてエリアドールに戻っていくものや、遥か南の方へと去っていった者たちも多くいた。こうした者達を除いて、エルダールのもとに集った人間たちは知識と技能を教授され、その智慧と技は勝っていき、ついにはエレド・ルインの東に住み、エルダールに会ったことも教えを受けたことのない、他の全ての人類を凌駕するに至ったのである。


この頃隠れ王国ゴンドリンはアマンのエルフの都ティリオンにも比す程の美しい都となった。しかしゴンドリンの中でも、最も美しいものはトゥアゴン王の娘イドリルであった。環状山脈の中ではゴンドリンの民も増え栄えていったが、200年ほど経つとトゥアゴン王の妹アレゼルはゴンドリンに倦み、広大な大地と森林に強く心を惹かれるようになった。そして彼女は王の許しを得ると、昔の友人フェアノールの息子ケレゴルムに会いに行こうとした。しかしそこへ行くにはドリアスを通らねばならず、彼女はフィナルフィン王家の者ではなかったため通行は許されなかった。そこでアレゼルは無謀にもナン・ドゥンゴルセブの危険地帯を通過しようとした。そこは昔バルログらから逃れたウンゴリアントが一時期棲み着いていた場所で、今も彼女の子孫の大蜘蛛達が徘徊する所であった。ここで大蜘蛛に襲われたアレゼルは護衛のものとはぐれてしまったが、運良く窮地を脱しケレゴルムとクルフィンの住んでいた場所に到着した。しかし折り悪く、二人は留守であった。そのため二人が帰ってくるまでそこに留まっていたが、ある時遠くまで馬を進めすぎた時、<暗闇エルフ>と呼ばれるシンゴル王の縁者エオルに見つかり、彼女に魅入られ我が物にしたいと思ったエオルは、魔法を用いて彼女を自分の住まいに引き寄せた。アレゼルはそのままそこに留まった。二人は結婚したからである。アレゼルにとっては意外なことにこの婚姻は不本意なものではなかったようで、そこでの生活もそれなりに気に入っていたようであった。そして4年後に二人の間に子が生まれる。この子はアレゼルから密かにクウェンヤでローミオンと名付けられ、エオルは息子が12歳になったのを機にマイグリンと名付けた。マイグリンは外見は母方のノルドール族に似ていたものの、内面は父方の性格を濃く受け継いでいた。しかしマイグリンは父よりも母を慕っており、母からノルドールの話を聞かされてはそれに憧れていた。マイグリンは父に母方の同族と会ってみたいと言ってみたが、エオルはノルドール族を嫌っていたため許されなかった。またアレゼルの方も縁者に再び会いたいという気持ちが募ってきた。やがて長の年月が経ち、ある時ドワーフ達の祝宴に呼ばれてエオルが出かけた際、マイグリンとアレゼルは脱走を図った。二日後に帰ってきたエオルはこれを知ると直ちに追いかけ、必死になって二人を探した。そして運の悪いことにアレゼルとマイグリンが乗り捨てた馬の嘶きから、エオルは隠れ王国に通ずる秘密の通路を探しだすことに成功し、ゴンドリンに連行されてきた。エオルはマイグリンを連れて出て行く権利を主張したがそれは聞き入れられなかった。隠れ王国に通ずる道を知ってしまったからである。トゥアゴン王はエオルにここに永久に留まるか死を選ぶか迫った。エオルは後者を選ぶと同時に、隠し持っていた投槍をマイグリンに投じたが、アレゼルが息子の盾になった。大した傷は追わなかったものの、この槍には毒が塗られていたため、アレゼルは命を落とした。それ故エオルは切り立った絶壁から投げ落とされ処刑された。しかしこのマイグリンが後にゴンドリンの破滅のもととなるとはこの時誰も予想し得なかった。



包囲網敗れる


ノルドールの上級王フィンゴルフィンは民も増え国力も増大し、同盟者の人間も得たことから、アングバンド襲撃を考えるようになった。しかし各王国の現状に満足していた他のノルドール達は、それがそのまま続くことを期待し、重い腰を上げようとはしなかった。中でもフェアノールの息子たちにはその気がなかった。もしアングバンドを攻めるなら、勝つにせよ負けるにせよ、甚大な損害を被ることは必至だからである。ノルドールの公子たちの中で王に同意したのはアングロドとアイグノールだけであったという。この二人の王国ドルソニオンはサンゴロドリムに最も近い地であったため、モルゴスの脅威は常に心を占めていた。しかし結局この計画は実現せず、このまま包囲を続けることとなった。そしてフィンゴルフィンが中つ国に来て455年を経た時、モルゴスがついに動いた。第四の合戦が起きたのである。


  • ダゴール・ブラゴルラハ(俄に焔流るる合戦)

月のない冬の夜、アルド=ガレンの平原を見張っていたノルドール族は、数が少なく、騎兵たちの中でも眠りの中にいる者たちが殆どであった。その時突然サンゴロドリムから火炎流が流れだし、炎の大河となってバルログよりもずっと早く流れ下って全平原を覆った。鉄山脈も火焔を噴出し、その毒煙は生あるものの命を奪った。こうしてアルド=ガレンの草原は滅び、火で舐め尽くされた跡には、灰土に覆われる不毛の地しか残らなかった。この後アルド=ガレンの名は変えられてアンファウグリス(息の根を止める灰土の地)と呼ばれるようになる。そして多くのノルドール族がこの炎で焼け死に、黒焦げとなった骸を晒すこととなった。この火の川はドルソニオンの高地や、エレド・ウェスリンが堰き止めたものの、山腹の森に火がつき山火事となって煙による混乱がもたらされた。こうして戦は始まった。この火の川の跡に今や成竜となった竜祖グラウルングが先頭を切って進んできた。その龍尾に続くのはバルログたちであり、さらにその後ろにはノルドールがかつて目にしたことがないほどの、オークの大軍が押し寄せてきた。襲撃の矛先をまともに受けたアングロドとアイグノールは討ち死に、ベオル家のブレゴラス及びこの一族の戦士の大多数が戦死した。しかしブレゴラスの兄バラヒアは西のシリオンの山道で戦っていた。そこには南方から急遽馳せ参じたフィンロド王が味方の軍勢から切り離されて包囲され、落命するか虜囚の身になるかの瀬戸際であったところを、バラヒアが勇敢な部下とともに駆けつけ血路を開いて救出したのである。こうしてフィンロドは生きてナルゴスロンドに戻ることが出来た。この時彼は謝礼にバラヒアに自分の指輪を与え、バラヒアの一族が困難に落ちいった時は必ずこれを助けるという誓いを立てた。ヒスルムの軍勢は多くの戦死者を出して、エレド・ウェスリンの砦に退却したが、オーク達から何とか砦を守り切った。ハドル家の長金髪のハドルは主君フィンゴルフィンの後衛を守って討ち死にした。彼の次男であるグンドールも同じく死んだ。しかし高く堅固な山脈が火の川を堰き止めたのと、オークもバルログも北方のエルフと人間の剛勇を打ち負かせなかったため、ヒスルムは最後まで攻略されずに残った。しかしフィンゴルフィンは夥しい敵に包囲され、味方の軍勢から切り離されてしまった。フェアノールの息子たちは戦いに利あらず、彼らの王国があった辺境の地は敵の強襲で余すところ無く敵の手に落ちてしまった。アグロンの山道で敵に大きな損失を与えたものの、ケレゴルムとクルフィンは敗北を喫し南西方に遁れ、ナルゴスロンドに辿り着きフィンロド王のもとに避難場所を求めた。しかし彼らは北方の同族の許に留まっていたほうがよかったかもしれない[19]。マグロールの守る山間やカランシアの守るサルゲリオンはグラウルングが来たためこれに抗しきれず、彼らは遁走した。グラウルングはその火と恐怖で、アムロドとアムラスが守っていた東べレリアンドの奥地まで荒らしまわった。マイズロスのみはこの上ない剛勇を持ってヒムリングの大砦を守りきり、マグロールはそこへ合流した。カランシアはアムロド・アムラスと合流すると南に遁れ、オッシリアンドのエルフの助けを得て抵抗を続けた。この後べレリアンドでは、第五の合戦まで大きな合戦はないものの、頻繁に戦が起きるようになっていく。この第四の合戦はモルゴスの猛攻撃が下火になった春の訪れと共に終わったと考えられている。


  • モルゴスとフィンゴルフィンの一騎討ち

この時ヒスルムに届いた一報はドルソニオンは滅び、フィナルフィンの息子たちは敗北し、フェアノールの息子たちの領土は壊滅したという内容であった。これを聞いたフィンゴルフィンはノルドールは最早滅亡する(少なくとも彼にはそう思われた)という絶望と憤怒に駆られ、彼は愛馬ロハルロールを駆り単身敵陣に突入した。アンファウグリスの灰土の中を疾風の如く駆け抜ける彼を、狩人神オロメその人がやって来たと勘違いし、敵は驚き惑うて逃げまわった。憤怒に燃える彼の目はヴァラールのように輝いていたからである。こうして彼はアングバンドの大門に辿り着くと角笛を吹き鳴らし門扉を強打し、モルゴスに一騎討ちを挑んだ。フィンゴルフィンはモルゴスを名指しして罵倒した[20]ために、モルゴスその人は気乗りしなかったが、配下の諸将の手前応じざるを得なかった。彼は黒い鎧を纏い、大鉄槌グロンドと黒い盾を構えて決闘に臨んだ。モルゴスの巨体はエルフ王の上に影を落としたが、フィンゴルフィンは星のように光を放った。彼の鎧には銀が被せてあり、青い盾には水晶が嵌めこまれていたからである。そして彼の愛剣は氷のように煌めくリンギルであった。モルゴスは何度もエルフ王に打ちかかったがその度に素早く躱され、逆に7度斬りつけられ傷を負わされた。その度に苦痛の叫びを上げるモルゴスに、アングバンドの軍勢は狼狽するばかりであった。しかしエルフ王は徐々に疲弊してゆき、モルゴスは盾を構えて迫った。三度王は粉砕されんとして膝を突き、三度立ち上がりボロボロになった盾と兜を上向けて立ち上がった。しかし周囲の大地はグロンドが振り下ろされた際の、地面を劈いた穴や裂け目だらけであったため、彼は躓きモルゴスの足許に仰向けに倒れた[21]。モルゴスは好機とばかりに左足を敵の首にかけへし折った。しかし死の間際、フィンゴルフィンは死力を振り絞り、愛剣リンギルでモルゴスの足を深く突き刺した。そのためモルゴスの足からはドス黒い血が吹き出し、大地の穴を満たした。こうしてノルドールの上級王、武勇に最も優れていたフィンゴルフィンは死んだ。モルゴスはエルフ王の亡骸を折って狼どもに与えようとしたが、鷲の王ソロンドールが飛来して顔を鉤爪で引っかき、フィンゴルフィンの遺体を運び去った。戦争におけるモルゴスの勝利は大きかったが、彼自身が負った傷はこの後も癒えることはなく、モルゴスは以後片足を引き摺るようになり、顔にはソロンドールによって付けられた傷が痕となって残った。


フィンゴルフィンの死後悲しみに暮れながらも、フィンゴンはノルドールの上級王を継承した。そして息子のエレイニオン(ギル=ガラドとも呼ばれる)[22]をファラスのキーアダンのもとに送った。


今やドルソニオンは滅んだが、バラヒアはそこから逃げようとはしなかった。バラヒアの民は大勢死に、生存者も残り少なくなってしまった。そしてこの国の森は恐怖と幻影に覆われた魔の森と化し、タウア=ヌ=フインと呼ばれるようになった。そこでバラヒアは婦女子をブレシル、またはドル=ローミンへと避難させ、自分たちは絶望的な環境でも頑強にゲリラ的抵抗を続けたのである。


ダゴール・ブラゴルラハから2年経過しても、西方のシリオンの水源近辺の地域は依然としてノルドール族の手にあった。ウルモの力がこの水の中にあったため、トル=シリオン(第一紀のミナス=ティリスとも呼ばれた)は難攻不落であったからである。しかしモルゴスの召使の内で最も枢要な地位にあり、最も恐るべきものとされたサウロンが、トル=シリオンの守護者であるオロドレスを攻撃してきた[23]。この強襲にエルフ達は耐えられず、オロドレスはナルゴスロンドへと遁走した。この辺りはサウロンの第一紀での活動に詳しい。


この頃ブレシルに移住していたハレスの一族は、最初のうちこそ北方の戦の影響を受けずにいたが、第四の合戦後はオークたちも南にまで姿を現すようになり、屡々戦闘が行われた。ハレスの一族はシンゴル王はともかく、ドリアスの国境警備隊とは親交を保っていたため、警備隊長のべレグがシンダールの大部隊を率いて救援に駆けつけ、ハレスの一族と共にオーク軍を壊滅させた。このためオークはそれから暫くの間南方には攻め寄せてこなかった。丁度この時ハドルの一族のフーリンとフオルは、ドル=ローミンではなくブレシルにいた。母親がハレスの一族出身だったからである。この兄弟もオークとの戦闘にわずか13歳で従軍したのだが、共にオークに捕らえられるか殺されるかの危機に陥った。しかしシリオンの川にはウルモの力が強く働いていたため、濃霧が立ち昇り二人を間一髪のところで脱出させたのである。その後二人は大鷲王ソロンドールに見つかり、配下の大鷲によって救助され、隠れ王国ゴンドリンへと運ばれた。彼らはそこで一年の間暮らした後、王に暇乞いを告げた。彼らは空からやってきたため、秘密の入口を知らないことからトゥアゴン王も許しを与えた。王と異なり二人を嫌っていたマイグリンは当て擦りを言ったが、兄弟はここで過ごした一年は決して他言しないと王に誓った。そして二人は来た時と同じように大鷲に運ばれてゴンドリンを去った。二人は一年もの間何処にいたのか、一族縁者両親からも聞かれたが決して答えなかったため、父親のガルドールはそこで尋ねることをやめて、推測し本当のことを考え当てた。この兄弟の不思議な話はモルゴスの間者の知るところとなった。


モルゴスは第四の合戦で大勝利を得たが、不安は拭えなかった。フィンロドとトゥアゴンの消息が杳として知れないからである。ナルゴスロンドは名前だけしか知らず、ゴンドリンに関しては名前も含めて何一つ情報を持っていなかった。そこで彼は間者をべレリアンドに放つ一方、オークの主力部隊を呼び戻した。自分がまだ正確な情報を握ってない状況では、決定的な勝利を掴むことは難しいと考えたのである。第四の合戦から7年後モルゴスはヒスルムを攻めた。エイセル・シリオン包囲戦ではドル=ローミンの領主ガルドールが戦死したが、彼の息子フーリンはオーク達の大多数に仕留めるとエレド・ウェスリンから追い払い、アンファウグリスの遥か遠くまで追撃した。しかしフィンゴン王の方は衆寡適せず、北方から攻めてきたアングバンドの大軍に手こずっていたところだったが、ファラスのキーアダンの援軍が到着したことで、エルフ側が勝利を収めた。その後フーリンがドル=ローミンの領主となり、ハドル王家を継承しフィンゴンに忠誠を誓った。彼は妻にはベオル王家からモルウェンを貰い受けた。そしてちょうどこの頃ドルソニオンのバラヒア一党が滅ぼされた(サウロンの第一紀での活動参照)。


西方を抑えたモルゴスのオーク達は、容赦なく敵の拠点を1つずつ落としていった。多くのノルドール・シンダールが囚われてアングバンドに連れて行かれ奴隷としてこき使われた。またモルゴスは諸国間に虚言の種を蒔いた。そしてそれは屡々同族殺害の呪いゆえに鵜呑みにされた。時代が暗くなるに連れて、ベレリアンドのエルフたちは恐怖と絶望故に、理性的な判断が難しくなってきたからである。モルゴスはエダインとエルダールを離間させようと務めたが、エダイン三王家は耳をかそうとはしなかった。このためモルゴスは彼らを激しく憎み、エレド・ルインの向こう側にいる褐色人(東夷)に使者を送った。この褐色人の中でも有力な部族がボールとウルファングの一族で、べレリアンドにやって来た彼らはエルダールに使えた。ボールの一族はマイズロスとマグロールに仕え、ウルファングの一族はカランシアに忠誠を誓った。これはモルゴスの狙い通りであった。エダイン三王家と東夷の間には親愛感は殆ど存在しなかったと言われている。



シルマリルの奪還


バラヒア一党は滅ぼされたが、ベレンのみは命を拾うことが出来た。ベレンは父の亡骸を埋葬すると父の仇を追った。そして真夜中にオークの野営地を見出し、そこでオークの隊長がフィンロドの指輪が嵌ったバラヒアの手を見せびらかしていた。森の生活に馴染んでいたベレンは、敵に気取られることなく近づき、突然隊長に斬りつけバラヒアの手を取り返し、一目散に逃げ出した。オーク達は急なことに慌てふためき、統率が取れていなかったため、ベレンは上手く逃げおおせた。


その後4年ほどベレンは孤独な放浪者としてドルソニオンにいたが、彼一人でもモルゴスに対して抵抗活動を続けた。彼の勲はべレリアンドに広く知られるようになり、ついにモルゴスは彼の首級にフィンゴンにも劣らぬ賞金をかけた。が、オーク達は彼を積極的に探さず、むしろ恐れて逃げまわる始末であった。そのためサウロンが指揮を執る羽目になり、巨狼や悪霊たちの軍勢を伴ってやって来た。さしものベレンもこれには及ばず、ついに父の眠る地を見捨てて脱出することとなった。彼はエレド・ゴルゴロス(恐怖の山脈)を登り、そこから南下してドリアスに行こうと決心した。この旅は凄絶なものであり、エレド・ゴルゴロスの断崖とその麓に横たわる太古の暗闇、その先にはサウロンの呪術とメリアンの魔力が渦巻くナン・ドゥンゴルセブの荒野、そしてそこに生息するウンゴリアントの子孫たち―これらを突破したことはベレンの勲の中でも特筆すべきものであったが、彼はこの事を語ることはなかった。その時の恐怖が余りにも凄まじかったからである。その旅の苦しみによろめくようにドリアスに入ってきたベレンは、そこでシンゴルとメリアンの娘ルーシエン・ティヌーヴィエルと運命の出会いを果たす。


ルーシエンとベレンは互いに深い恋に落ち、度々二人でネルドレスの森を逍遥した。しかし定命の存在であるベレンと、不死のエルフであるルーシエンの間には大きな隔たりがあり、これは彼女にとって大きな苦悩となった。そんなある日二人が逢瀬を楽しんでいるところを、彼女に横恋慕していたエルフがそれを見かけ、シンゴル王に密告した。王は激怒した。どんなに立派なエルフの公子でも、娘とは釣り合わないと考えるほどに娘を溺愛していたからである。ましてや相手は死すべき定めの人の子である。王はベレンを捕らえて玉座の前に引っ立てようとしたが、ルーシエンが自ら彼の手を取って賓客のように連れてきた。王は蔑みを込めてベレンを詰問したが、メリアンは無言であった。そこでベレンは平たく言えばルーシエンを嫁に貰い受けたいと堂々と言ってのけたのである。シンゴルは怒髪天を衝く思いであったが、ルーシエンにベレンを虜囚にしたり死罪にしたりしないと事前に誓っていたため、彼を殺すことは出来なかった。シンゴルに出来たのは、ベレンに対して実の所お前はモルゴスの間者ではないのかと、当て擦りを言うだけであった。それに対しベレンはフィンロドの指輪を高々と掲げて見せ、自分は間者などではないと、シンゴルの侮蔑を否定してみせた。そこでメリアンがシンゴルに彼は運命によって魔法帯を通り抜けここに来たのであって、彼の運命はシンゴルの運命とも深く関わっていると忠言する。やがてシンゴルは怒りを抑え、ルーシエンが欲しいならその代わりにモルゴスからシルマリルを奪ってこいという、究極とも言える無理難題をベレンに申し渡した。要はお前はとっとと死ねと言っているようなものである。しかしベレンは余裕綽々で笑いながらそれを承諾すると、メネグロスを去った。


ベレンはシンゴルの前で大見得を切ったものの、全く良い知恵は浮かばず、どうすればよいのか途方に暮れながら、自然と南方へ向かっていた。彼はそこでナルゴスロンドのエルフの衛士達に発見され、指輪を見せることでフィンロド王のもとに連れて行ってもらった。そしてベレンの話と彼が苦境に陥っていることを聞くと、かつて彼が立てた誓言ゆえにベレンを助けねばならないと考えた。しかしナルゴスロンドにはケレゴルムとクルフィンがおり彼らもシルマリルの所有権を主張した。その上でフェアノールの誓言とその恐ろしさを雄弁に語り、ナルゴスロンドの民を恐れさせた。そして彼らは出来うるならフィンロド一人を送り出し、ナルゴスロンドの王位を簒奪しようという腹黒い企みを持ったのである。フィンロドは自分と共についてくる者を募ったが、僅か10人だけであった。そしてフィンロドは弟のオロドレスに王位を譲ると、ベレンと10人の忠実な配下とともに出立した。この先の彼ら一行の運命はサウロンの第一紀での活動にある通りである。


ベレンが投獄された頃、ルーシエンは激しい胸騒ぎを覚え母であるメリアンに相談に行った。メリアンはマイアとしての力でベレンがトル=イン=ガウアホスの地下牢におり、助かる望みはないことを知った。ルーシエンはこうなったら自らベレンを助けに行こうと決心した。しかし助力を求めたエルフが王に密告したため、ブナの大樹の遥か上方に木の家が造られ、彼女はそこに押し込められた。しかしルーシエンは持てる魔法の力を使って、髪の毛を非常に長く伸ばし、その髪の毛で魔法の外套を織った。この影のような外套は身を包むと身隠しの効果があり、また相手に被せれば眠らせる魔力を秘めていた。そして残った髪房でロープを拵えるとそれを伝って降り、樹下にいた番人たちは眠りの魔法で無力化させ、ドリアス脱走に成功した。しかしドリアスの森の西の外れでケレゴルムとクルフィンの兄弟と、彼らが連れていたヴァリノールの猟犬フアンに発見されてしまう。ルーシエンは彼らがノルドールの公子であったため、自分の身分を正直に明かしてしまう。陽光の下での彼女の美しさが余りにも際立っていたため、ケレゴルムは彼女に恋慕の情を覚え、ベレン一行のことを既に知ってるのはおくびにも出さず、彼女をナルゴスロンドへと誘った。そこで彼女は謀られたことを知った。兄弟は彼女の身の自由を奪い、外套を取り上げ、誰とも口を利かせないようにしたのである。この兄弟は、ベレンとフィンロドをこのまま死なせ、ルーシエンとケレゴルムを無理矢理婚約させることで、ナルゴスロンドとドリアスの両王国を勢力下に置き、ノルドールの諸侯の中でも最も力ある者になろうと考えたのである。この二人に王位を継いだオロドレスは抵抗できなかった。民心は兄弟に支配されていたからである。しかし猟犬フアンは誠実であったため彼女に好意を寄せ、彼女の話を聞くうちに同情し、主人たちの腹黒い考えに反抗することにした。そして彼女の外套を咥えてくると彼女を背に乗せナルゴスロンドを脱走した。この先の彼女とフアンの顛末はサウロンの第一紀での活動にある通りである[24]


二人はフィンロドの亡骸を埋葬すると、再び自由の身となってしばしの間二人きりの時間を過ごした。フアンはケレゴルムの許へ戻ったが、主従関係は破綻してしまった。ナルゴスロンドはサウロンの捕虜となっていた多くのエルフ達が戻ってきたことにより状況が変わり、その顛末を聞かされたことで彼らの王であったフィンロドの死を嘆き、民心は再びフィナルフィン王家に向かいオロドレスに従った。そして腹に一物持っていたケレゴルム兄弟を殺害しようとする者もいたが、これはオロドレスが許さなかった。その代わりに二人はナルゴスロンドから追放された。この時クルフィンの息子ケレブリンボールは父親と袂を分かった。追放された兄弟が北へ馬を進めていた所、折り悪くベレンとルーシエンと行き会った。ケレゴルムは馬に鞭を入れ全速でベレンを轢こうとし、一方クルフィンはルーシエンを抱え上げ自分の鞍に乗せた。しかしベレンは轢かれる寸前に跳躍し、傍を掠めて去ったクルフィンの馬に飛び乗った。そして背後からクルフィンの首を掴んで強く引いた。二人は落馬し、ルーシエンは投げ出され草の上に横たわった。ベレンはクルフィンを絞め落とそうとしたが、そこへケレゴルムが槍を構えて突進してきた。この時フアンはケレゴルムと絶縁し、彼に跳びかかり遁走させた。ベレンはクルフィンからアングリストと言う短剣を奪うとクルフィンを投げ飛ばした。クルフィンはベレンを罵りながらケレゴルムの馬に乗り、去ってゆこうとした。しかし隙を見て、クルフィンは弓矢をルーシエンに向けて射た。1本目はフアンが空中で咥えて防いだが、2本目はベレンがルーシエンの前に盾となり彼の胸に刺さった。怒ったフアンが兄弟を追いかけたため彼らは恐れて逃げた。そしてフアンは薬草を咥えて戻ってきた。この薬草とルーシエンの癒やしの術、それと彼女の愛のおかげでベレンは全快した。そしてドリアスに戻ってきた後、日も出てない早朝にベレンはルーシエンをフアンに託すと、馬を駆ってアンファウグリスにまでやって来た。彼は一人でアングバンドに向かうつもりだったのである。しかしルーシエンがフアンの背に乗ってベレンの後を追いかけてきていた。彼らはその道中、サウロンの島でドラウグルインの皮衣とスリングウェシル(英語版)という吸血蝙蝠の外被を取ってきた。そこでフアンの助言で、ベレンはドラウグルインの皮衣に身を包みルーシエンはスリングウェシルの皮翼を身に纏った。そしてルーシエンの魔術によって彼らは巨狼と吸血蝙蝠に変身したのである。


二人はアンファウグリスを抜け、アングバンドの大門の前まで来た。だが、そこには恐ろしい門番カルハロスがいた。しかし母方のマイアの力が突然ルーシエンから発揮され、カルハロスは眠りに落ちた。そしてベレンとルーシエンは城門をくぐり抜け、迷路のように入り組んだアングバンドの中を駆け抜け、ついにモルゴスの玉座の前に到着した。ベレンは狼に偽装したままモルゴスの玉座の下に逃げこむように入った。しかしルーシエンは、モルゴスの視線により偽装を解かれ、彼の凝視を受けることとなった。彼女は暗黒の王の視線にも怯まず自分の名を名乗り、吟遊詩人のように御前で歌を歌いましょうと申し出て、歌い出した。そんな彼女の美しさをとくと目の当たりにしたモルゴスは、アマンから逃亡して以来、彼が考えたどんな企みよりも腹黒い下心を懐いた。彼はその下心故にヘマをやらかす。というのも彼女をしばらく自由に歌わせたまま、その美しさを眺めながら、自分の邪な思いに密かな喜びを覚えていたためである。その時彼女は暗がりに身を移しそこから歌を歌った。ルーシエンの歌は限りなく美しく、分別を失わせる力があったため、モルゴスは彼女の姿を求めて視線を彷徨わせているうち、判断力が鈍ってきた。モルゴス麾下の将たちも微睡み始め、モルゴスも眠気に襲われ頭を垂れた。そこへルーシエンが眠りの外套を投げかけ夢を注いだ。ついにモルゴスは完全に眠りに落ち、玉座から転げ落ちそのまま床に突っ伏した。モルゴスの鉄の王冠は転げて、彼の頭から外れた。ベレンは狼の外衣を脱ぎ捨てるとアングリストを用いてシルマリルを一つ切り取った。そのときベレンの心に欲が出て、誓言以上のことを、即ちシルマリルを3つとも切り取ってやろうという考えが頭をもたげた。しかし、これは残りのシルマリルの運命ではなく、アングリストの刃は折れ、その破片は眠りこけているモルゴスの頬に突き刺さった。彼は呻き声を発し身じろぎした。その途端ベレンとルーシエンは恐怖に襲われ、城門まで一目散に逃げ出した。しかし城門では既にカルハロスが眠りより目覚め、憤怒の形相で待ち構えていた。ルーシエンは疲れきって最早この巨狼を鎮める力は残っていなかったため、ベレンが彼女の前に進み出てシルマリルを突きつけた。シルマリルの光は不浄を許さぬ聖なる光だからである。しかし意外なことに、カルハロスは突き出された聖なる宝玉をしげしげと眺めると、ベレンの右手ごとシルマリルを食ってしまった。シルマリルに内側から焼かれたカルハロスは苦痛の余り二人の前から逃げ出した。そしてカルハロスの猛毒がその身に入ったベレンは死にかけていた。ルーシエンは毒を吸い出し手当をしたが、背後ではモルゴスの軍勢のざわめきが聞こえてきていた。そんな時にソロンドールとその配下がやって来て二人を空へと運んでいった。大鷲たちは二人をドリアスの国境まで運ぶとそこで下ろした。フアンもそこへ来た。長い間ベレンは生死の狭間を彷徨っていたが、ルーシエンの愛により奇跡的に一命を取り留めた。二人は再び森の中を逍遥した。ルーシエンはこのまま二人でずっと凄すのもいいと思っていたが、ベレンは誓言のこともありそうはいかなかった。そのため二人はドリアスのメネグロスに戻った。そしてシンゴルの玉座の前でベレンはもう今はない右手を見せ、シルマリルを手に入れたことを告げた。そして二人の探索の話を残らず聞かされたシンゴルは驚嘆し、二人の愛と結びつきは運命であると認めざるを得ず、ついに二人の婚約を認めた。しかしシルマリルの力が加わったカルハロスが、魔法帯を突破し、メネグロスに近づいていることを知らされたベレンは、まだ探索は終わってないと、狼狩りに参加することにした。この狼狩りでカルハロスは不意打ちをしシンゴル王に襲いかかった。その時ベレンが槍を構えて王の盾となったが、カルハロスは槍を押しのけベレンに喰らいついた。その時フアンがカルハロスに跳びかかり、両者は激しい戦いの後、相討ちとなった。マブルングが狼の腹から宝玉を取り出すとベレンの左手にそれを握らせた。そしてベレンはそれをシンゴル王に渡し、探索が成就したことを告げると、ついに黙して語らなかった。狼狩りの一行を迎えたルーシエンは、命の灯がまさに消えようとしているベレンを両の腕で抱くと口付けし、西方の彼方で待つように告げた。それを聞いてベレンは逝った。しかし「レイシアンの謡」はここでは終わっていない。


死せる人間の魂はこの世界を離れ、イルーヴァタールのみ知る所へと去ってゆく運命であったが、ベレンの魂魄はマンドスの館に留まり、この世を去りかねていた。ルーシエンへの愛ゆえである。そしてルーシエンも愛する人を失った悲嘆の余り、彼女の魂はついに肉体から抜け出てマンドスの館へとやって来た。彼女はマンドスの前に跪いて歌を歌った。マンドスの前で歌われた彼女の歌は、この世の言葉では例えようもない美しい歌であると同時に、他の死せる者の悲しみにもいや増すほどに、この上なく深く悲しい歌でもあった。ルーシエンが歌ったこの歌は、アルダに住む人間とエルフのことを歌ったもので、彼女の目からは涙が零れ落ちた。マンドスはそれを憐れに思い(彼がこうも心を動かされたことは後にも先にもないという)ベレンを連れて来て、ルーシエンがベレンの今際の時に告げたよう、二人をまさに西方の彼方にあるこの館で引き合わせたのであった。しかし困ったことに、マンドスには死んだ人間の魂を永遠にこの館に置いておくことは出来ず、さりとて人間の運命を変える権限は彼にはなかった。そこで彼はイルーヴァタールと唯一話のできるマンウェの御許に赴くと、彼に相談した。マンウェはイルーヴァタールの啓示を仰ぎ、二つの選択肢をルーシエンに提示した。一つ目は、マンドスの館からルーシエンのみ復活し、ヴァリマールに赴いてこの世の終わりまでヴァラールとともに住むことで、彼女の味わった艱難辛苦の全てを忘れ去ることが出来るというものであった。ただしベレンはそのままこの世を永遠に去ることとなる。二つ目は、ルーシエンもベレンも復活できるという異例のものであった。ただしルーシエンは最早不死のエルフではなく定命の存在となり、中つ国に戻りそこで暮らすこととなるが、いずれ再び死ぬこととなり、彼女もまた人間の運命と同じく、この世を永遠に去ることになるというものだった。


彼女は二つ目の選択肢を選んだ。エルダールとしての全ての権利を放棄して、どんなことがあろうともベレンと二人でともに生きてゆこうと決心したのである。この結果、全エルフの中で彼女のみが真の死を経ることになったのであった。しかし彼女の選択によって二つの種族は結ばれることとなるのである。


ベレンとルーシエンはこの後中つ国に戻り、ドリアスに赴き1度だけシンゴル夫妻と対面した。それから二人はドリアスを立ち去り、オッシリアンドに入り、やがて緑の島<トル=ガレン>に住んだ。そしてディオル・アラネルという名の子を儲けた。



マイズロスの連合


このベレンとルーシエンの勲を聞いたマイズロスは、アングバンドが必ずしも難攻不落ではないことを知って、勇気を取り戻した。ここで彼らが再び団結して事に当たらねば、モルゴスは順々にエルフの王国を滅ぼしていくだろうと確信した。それを防ぐためマイズロスは全エルフに向けて「マイズロスの連合」と呼ばれる提唱を行った。しかしフェアノールの誓言と同族殺害の呪いが、この提唱を邪魔した。ナルゴスロンドのオロドレスはケレゴルムとクルフィンの件で、出兵を断った。また今だにかの場所はモルゴスに名前しか知られていなかったため、秘密を守って隠密行動を取ってさえいれば、ナルゴスロンドを防衛し得ると確信していた。そのためナルゴスロンドからはグウィンドールという武勇の誉れ高い公子に従ったごく僅かな者しか参加しなかった。彼がオロドレスの意向に背いたのは、ダゴール・ブラゴルラハで兄ゲルミアを失っていたからである。ドリアスからは殆ど助けは来なかった。提唱前にフェアノールの息子たちは誓言故に、シルマリルの引き渡しをシンゴル王に要求していたからである。それにケレゴルムとクルフィンがルーシエンに対して働いた無礼も忘れてはいなかった。その怒りで胸が煮えたぎる思いをしていたシンゴルは、要求も提唱も皆撥ね付けた。メリアンはシルマリルを引き渡した方がいいと忠告したのだが、シルマリルの輝きを眺めれば眺めるほど、これをいつまでも手許に置いておきたいと気持ちが、シンゴルに生じていたのである。マイズロスはこのシンゴルの対応に何も言わなかったが、ケレゴルムとクルフィンは自分たちが勝利を占めた暁には、シンゴルもその民も皆殺しにしてやると公言した。しかし、シンゴルの配下で武勇で名高いマブルングとベレグだけは、この提唱に応じた。戦人である彼らは戦場に出ないのを良しとしなかったため、シンゴルはフェアノールの息子たちには仕えないという条件付きで、二人の出陣を許可した。


このように上手くゆくか怪しい提唱だったが、意外なところから助力を得た。エレド・ルインのドワーフたちである。ノグロドとベレゴストのドワーフ達が多量の兵士と武器を援助したのである。そして東夷のボールとウルファングの一族も東国からその仲間を呼び寄せた。西の方ではマイズロスの親友たるフィンゴンがヒスルムで配下のノルドールとハドルの一族の人間たちと共に提唱に加わった。ブレシルではハレスの一族が族長ハルディアの下、提唱に加わった。これらの情報は、隠れ王国のゴンドリンのトゥアゴン王にも達した。


しかしマイズロスはまだ機が熟さぬ内に攻撃を急いだ。べレリアンドの北方地域全域からオークが掃討され、ドルソニオンも敵の手から解放された。今やエルフ達が決起したという警告を受けたモルゴスは、対抗するため謀を練った。彼は多くの間者や謀反の用意がある工作員達を、フェアノールの息子たちの内部に送り込んでいたため、それを使うこととした。


ようやくマイズロスはエルフ・人間・ドワーフの中から集められるだけの兵力を糾合し終え、東西からアングバンドを挟撃することにした。まずマイズロスがアンファウグリスに兵を進め、モルゴス軍を応戦のため引きずり出し、そうなったらフィンゴンがヒスルムの山道から打って出て、敵軍を挟み撃ちにすることで粉砕することを考えた。決起の合図はドルソニオンの大狼煙であった。


夏至の日の朝トランペットが吹き鳴らされ、東西にそれぞれの旗印が掲げられた。上級王フィンゴンの許にはヒスルムの全ノルドールに、ナルゴスロンドのグウィンドール麾下のノルドール、そしてファラスのエルフに、ドル=ローミンの人間の大部隊がいた。その中には剛勇を誇るフーリンとフオル兄弟がおり、ブレシルからはハルディアが一族の多くを率いて来ていた。大軍勢である。フィンゴンはサンゴロドリムの方を見やると、黒雲に包まれ、黒煙が立ち上っていることで、この挑戦をモルゴスが受ける気でいることがわかった。その時不安がフィンゴンの心に起こった。彼は東の方を見て、マイズロスの軍が進軍してくるのがエルフの鋭い視力で見えないかと探し求めたが、それは見えなかった。その頃マイズロスは東夷のウルドールから、アングバンドから軍が襲撃してくるという偽報を受けたため、出陣が遅延していたのである。ところがこの時、不意に歓声が西で沸き起こった。何と意外なことにフィンゴン王の弟トゥアゴン王がゴンドリンから1万の兵を率いて出陣してきたのである。フィンゴンの士気は否が応にも高まり声高く叫び、彼の大音声は山々に木霊した。


敵側の計画をすべて把握していたモルゴスは、間者がマイズロスを引き止め、敵側の連携が崩れるのを期待し、一見大軍と見える軍勢(彼の全軍から見れば一部分にすぎない)をヒスルム方面へ出陣させた。この時士気が高まっていたノルドール族は、これをアンファウグリスにて迎え撃とうとしたが、モルゴスの姦計を用心したフーリンが異を唱えた。そしてオーク達が攻撃を仕掛けてくるの待つこととした。しかしアングバンドのヒスルム方面軍指揮官はどんな手段をとってでも、フィンゴンの軍勢を誘い出すよう厳命されていた。そこでモルゴス軍はヒスルム軍の直ぐ目の前までやって来て彼らを挑発した。しかしフィンゴン側は挑発に乗らず無視したため、オーク達の嘲りの声も段々下火になってきた。そこで指揮官は数人の使者と共に一人のエルフの捕虜を送り出した。彼はナルゴスロンドの貴族ゲルミアで、拷問で盲目にされていた。アングバンドの使者は、こういった捕虜たちが幾らでもアングバンドにはいる。助けたかったら早くしないとこうなるぞ、と告げてゲルミアを手足を順に切断し最後に首を切り落として去った。


折悪しく、その場にはゲルミアの弟グウィンドールがいた。兄の死に様を見せつけられた彼は狂気の如き怒りに駆られ、馬に飛び乗ると走り出た。他にも多くの騎手が続き、彼らは使者たちを皆殺しにし、さらに敵陣深く斬り込んでいってしまった。これを見て他のノルドールの軍勢も否応なく出撃し、フィンゴンも白き兜をかぶると、トランペットを鳴らさせた。第五の合戦の始まりである。


  • ニアナイス・アルノイディアド(涙尽きざる合戦)

ヒスルム軍は一斉に踊り出て猛攻撃を開始した。その攻撃の凄まじさたるや、アングバンドの西方軍は援軍の到着を待たずしてたちまち全滅させられた。フィンゴンの軍勢はグウィンドール麾下のナルゴスロンドのエルフ達を先頭に、アンファウグリスを通過するとアングバンドの大門前にたどり着き、そこを守る守備兵を壊滅させると門扉を激しく叩いた。モルゴスはこの音を聞き地の底深い己の玉座で震え慄いたという。しかしここでフィンゴン軍は罠にはめられた。サンゴロドリムに数多くある秘密の入口から、モルゴスが主力部隊を出撃させ、不意に打って出たのである。ナルゴスロンドのエルフ達はグウィンドールを除いて皆殺しにされ、彼は生きながら捕らえられた。というのも、フィンゴンは敵主力部隊との戦いのため彼を助けることが出来なかったのである。そして無数の死傷者を出してフィンゴン軍はアングバンドの城門から撃退された。フィンゴンの軍勢は退却戦に移り、殿をつとめたハルディアとブレシルの男たちの大半が討ち死にを遂げた。


五日目に入って、エレド・ウェスリンはまだ遠く、夜も暮れてきた頃、オーク達はヒスルム軍を包囲し次第に追い詰めた。しかし朝になるとともに、ゴンドリンの主力部隊を率いてトゥアゴン王が救援にやって来た。彼らは南方に配置されていたことと、早まった攻撃に出ないよう用心していたのである。ゴンドリン軍はオーク達の包囲を突破しトゥアゴンは兄フィンゴンの許へ辿り着いた。その場にはフーリンもいた。彼らの再会は激戦の最中とはいえ、喜ばしいものであった。こうしてエルフ達の士気も再び高まった。また丁度この時東方からマイズロスのトランペットが聞こえてきた。フェアノールの息子たちがようやく動いたのである。彼らはアングバンド軍の後方を襲った。この時全軍が忠実であったなら、エルダールは勝利を収めることもできたかもしれなかった。アングバンド軍は浮足立ち、逃走する者も出始めていたからである。


しかし、ここぞとばかりにモルゴスは最後の戦力を解き放った。狼や狼乗り、バルログたち、竜たちとその祖グラウルングが来襲したのである。この恐るべき軍勢はマイズロスとフィンゴンの間に割って入り、両軍の合流を妨げた。しかしこの合戦で、モルゴス軍にとって何よりも大きな力を発揮したのは裏切りであった。これがなければ狼やバルログや竜がいかに猛威をふるおうとも、モルゴスは目的を達し得なかったであろう。腹黒いウルファングがモルゴスと通じていたのが露見したのはこの時だった。東夷たちの多くは嘘偽りと不安に耐えられず逃げ出したが、ウルファングの息子たちはモルゴス側に加担してフェアノールの息子たちに突然襲いかかった。そしてこの混乱に乗じて自分たちはマイズロスの軍旗へと迫った。しかしその一方、もう一つの主要な東夷の部族であるボールの一族は、エルフ諸侯への忠誠を貫き、ウルファングの息子たちを迎え撃った。結果裏切りを指導した呪わしきウルドールはマグロールの手で殺され、ウルファストとウルワルスはボールの息子たちが討ち果たした。そのためウルファングの一族は、モルゴスの約束した褒賞を結局受け取ることは出来なかったのである。しかしウルドールが前もって東国から集めておいた凶悪な人間達の伏兵が新手として攻め寄せてきた。そしてマイズロスの軍勢は総崩れとなり、ボールの息子たちのボルラド・ボルラハ[25]・ボルサンドは全員が討ち死にを遂げた。しかしフェアノールの息子たちは傷を追ったものの、落命した者はおらず、ノルドールとドワーフの生存者を周りにかき集めて、どうにかドルメド山まで逃げ切った。


東軍の殿を務めたのはベレゴストのドワーフたちであった。彼らドワーフ族はエルフや人間よりも火熱に耐えられ、また戦場では大きな恐ろしい面を被る習慣があり、これらが役立って彼らは竜たちに猛然と立ち向かったのである。もし彼らがいなければグラウルングとその眷属たちによって、ノルドールの生存者は皆焼かれて死んでいたかもしれない。ドワーフ達はグラウルングを取り囲むと大鉞で斬りつけた。この重い一撃には、グラウルングの堅固な鱗も完璧な防御とは言えなかった。このため猛り狂ったグラウルングは、ドワーフ王アザガールに突進し、これを押し倒しその上に這い登った。その時アザガールは今際の際に、最後の力を振り絞って、グラウルングの柔い腹部に短剣を深く突き刺した。この深手にグラウルングはたまらずアングバンドに一目散に逃げ帰った。そしてその係累たちも慌てふためいてその後を追って退却していった。


片や西の戦場では、フィンゴンとトゥアゴンの兄弟が味方の軍勢の3倍以上もの敵兵相手に、波状攻撃を受けていた。一方そこにはバルログの王ゴスモグが来ていた。かれはフィンゴンを囲むエルフ軍に、軍勢をなだれ込ませることでトゥアゴンとフーリンを引き離した。そして孤立したフィンゴンに襲いかかった。近衛兵達の亡骸に囲まれて、フィンゴンはただ一人勇敢にゴスモグと戦っていたが、別のバルログが彼の背後に回り込み、火の鞭を彼に巻きつけた。そこへゴスモグの黒い鉞が脳天に振り下ろされ、フィンゴンの兜は割れ、ノルドールの上級王は討ち死にを遂げた。灰土に横たわった王の遺骸を、敵は矛で散々に打ちのめし、彼の王旗は血溜まりの中で踏みにじられた。


フーリンとフオル兄弟とハドルの一族の戦士たちは、トゥアゴンを囲んで何とか踏みとどまっていた。そしてモルゴスの軍勢はシリオンの山道は抑えることがまだできないでいた。そこでフーリンはトゥアゴンに撤退してくれるよう懇願した。トゥアゴンはゴンドリンも発見されて滅ぼされるに違いないと、半ば捨て鉢になっていたが、フオルがゴンドリンは最後の望みであり、そこからエルフと人間の望みが生まれること、フオルとトゥアゴンの間から新しい星が生じることを、死を前にした予見で告げた。マイグリンはこれを聞き決して忘れなかった。トゥアゴンはそこで二人の忠告を受け入れ、ゴンドリン軍の生存者全てと、兄フィンゴンの臣下で集められるだけのものを集めると退却を始めた。彼の大将である泉のエクセリオンと金華家のグロールフィンデルが左右を警護してゴンドリンへと向かっていった。そしてドル=ローミンの人間たちとフーリン・フオルは殿を守って敵を寄せ付けなかった。このためトゥアゴンは無事にゴンドリンへ退却することが出来た。しかし残された者達は、敵軍に包囲され次々と死んでいった。フオルも6日目の夕方頃に毒矢で目を射抜かれて討ち死にした。ハドル家の勇敢な男たちはみな殺され、屍の山となった。フーリンただ一人が最後まで生き残り、両手で斧を振るってゴスモグを護衛するトロル達を屠っていった。彼は一人屠る度に自らを鼓舞する声を上げ、それは70回にも及んだという。しかしついに彼は生きながら捕らえられた。ゴスモグは彼を縛り上げ、笑いものにしながらアングバンドまで引きずっていった。モルゴスの命で、オーク共は戦死者達の骸や彼らの武器武具を尽く集めて、アンファウグリスの真ん中に積み上げて大きな塚山を作った。これは小山のようで遥か遠くからも眺めることが出来た。エルフ達はこれをハウズ=エン=ヌギンデンと名付けた。<戦死者の丘>の意である。またはハウズ=エン=ニアナイスとも呼んだ。こちらは<涙の丘>の意である。しかし灰土に覆われ何も育たないアンファウグリスの中で、やがてこの丘には草が萌え出て、ここだけは緑の草が再び青々と伸びて生い茂ったのであった。そしてこの地を好んで踏もうとするモルゴスの配下は誰もいなかった。


かくして第五の合戦、ニアナイス・アルノイディアドは終わった。

モルゴスの勝利は大きかった。軍事的にはもちろん、人間が人間の命を奪い、エルダールを裏切る者も出たからである。このため団結して対抗しなければならない筈の者達の間に恐怖と憎しみが起きてしまった。この時からエルフ達の心は、エダイン三王家を除いた人間たちから遠ざかってしまったのである。


フィンゴンの王国は滅亡し、フェアノールの息子たちはオッシリアンドのエルフのもとに身を寄せ、古の勢威も栄光もない、荒々しい森の暮らしをする羽目になった。ブレシルは大量の戦死者を出したものの、ハルディアの息子ハンディアが族長となり、ごく一部が森に守られて暮らしていた。しかしヒスルムには一人もフィンゴンの兵は戻らず、ハドル家の男たちも戻らなかった。モルゴスは彼のために働いた東夷をヒスルムに送り込んだ。彼らは肥沃なべレリアンドの地を望んだのだが、モルゴスは無視した。彼はヒスルムに東夷を閉じ込めそこを離れることを禁じた。これが彼らの裏切り行為への報奨であった。ヒスルムに残っていたエルダールは北方の鉱山に連れて行かれ、奴隷とされた。


オークと狼たちは今や北の地だけでなく、南にまで下ってきてベレリアンドにも侵入し、オッシリアンドの国境にも入り込むようになったため、安全な場所はもう殆ど無かった。ドリアスとナルゴスロンドは持ちこたえていたが、モルゴスはこれらには殆ど注意を向けなくなっていた。存在が知られていなかったからか、まだ攻撃対象として順番が巡ってきてなかったからかもしれない。今では多くのエルフがファラスの港に遁れキーアダンの許へ避難した。そしてエルフは水軍を編成し敏速な上陸・撤収を繰り返して、敵を攻撃し悩ませた。そこで翌年の冬が来る前にモルゴスはヒスルムとネヴラストを超えて大軍を送り、ファラス地方を荒らしまわった。そしてブリソンバールとエグラレストの2つの港は包囲され、敵に多大な損害を与えたがついには陥落した。キーアダンの民の大半は殺され、奴隷にされた。しかしキーアダンやフィンゴンの息子ギル=ガラド、その他少数の者は船で海に遁れ、バラール島に避難場所を作り上げた。また彼らはシリオンの河口リスガルズの地にも港を建設した。


モルゴスの思いは絶えずトゥアゴンへと向けられていた。惜しくも彼を逃したことと、今やモルゴスの仇敵の中で滅ぼしたい者の筆頭となっていたからである。というのもトゥアゴンはフィンゴルフィン王家の者であり、フィンゴン亡き今は、彼が全ノルドールの上級王であったからである。また彼は、モルゴスが支配しようとしても出来なかった「水」、それを司るウルモの庇護を受けていた上、彼の父フィンゴルフィンの剣によって癒えない傷を負わされたからである。そして何よりアマンの地にいた頃、ヴァリノールでトゥアゴンを見た時モルゴスの心に影がきざし、自分の破滅は将来彼から齎されるのではないか、という予感を覚えたからであった。


そこでモルゴスはフーリンを前に連れてこさせた。彼がトゥアゴンと親しいことを間者を通じて知っていたからである。最初モルゴスはその凝視によって彼を威圧しようと試みたが、彼はこれに屈せず、むしろ反抗してみせた。そこでモルゴスは鎖による拷問を試みた後、二つの選択肢を示した。ここより解放され自由の身となるか、モルゴス軍の指揮官となりその地位と権力を享受するか。但し引き換えにゴンドリンの所在を白状せよ、と。それにフーリンは罵りで応じた。次にヒスルムにいる妻子縁者のことを持ちだして脅してみたが、これにもフーリンは屈しなかった。とうとうモルゴスは怒り、フーリン一家に災いと絶望と死、そして何処へ行っても破滅を齎すという呪いを吐きかけた。対してフーリンは、嘘吐きのお前にそんな力などないと、歯牙にもかけず嘲った。そのため彼はサンゴロドリムの高みにある石の椅子に座らされると、モルゴスの魔力で金縛りとなり、再度呪いの言葉を吐きかけられ、そしてモルゴスの歪んだ眼と耳で持って、妻子と一族の行く末を否応なく見せつけられることになるのであった。



フーリンの子らの物語


ドル=ローミンの領主フーリンの妻はモルウェンといった。この二人の間に生まれた子がトゥーリンで、彼はニアナイス・アルノイディアドが終わった時まだ8歳であった。トゥーリンにはラライスという名の妹がいたが、彼女は3つになる時病で死んだ。そしてこの時モルウェンは三人目の子を懐妊していた。ニアナイス・アルノイディアドの後、東夷たちがこの地に入り込み無法を働いたが、ドル=ローミンの奥方は東夷たちの間で、あの女は白い魔物(エルフのこと)と付き合いのある魔女だという噂が飛び交い、危険視され、彼らはフーリン家の者とその館には手を出そうとはしなかった。東夷たちはエルフを恐れていたのである。故に彼は多くのエルダールが避難場所としている南方の山岳地帯を恐れ、近づこうとはしなかった。こうしたことから東夷たちは略奪の後北へ引き上げていった。フーリンの館はドル=ローミン南東にあったからである。とは言え、今や彼女たちの生活は貧しくなっていた。彼女たちは殺されることこそなかったものの、土地・財産は奪われてしまっていたからである。もしもフーリンの縁者のアイリンからの密かな援助がなければ、彼らは飢え死にしていたことだろう。アイリンはブロッダという名の東夷の頭目に、力ずくで妻とされていたのである。しかしモルウェンはこのままの状況では埒が明かない事に気付いており、最も恐れていたこと―ドル=ローミンの正当な継承者であるトゥーリンが東夷の奴隷になることを避けるため、彼を密かに南方へ送り出しシンゴル王に匿って貰えないだろうかと考えた。なぜならバラヒアの息子ベレンは彼女の父方の縁者で、フーリンの友人でもあったからである。そこでニアナイス・アルノイディアドの翌年モルウェンは、トゥーリンに年老いた二人の下僕を付けて山の向うに送り出した。ドリアスに向かうために。この母との別れがトゥーリンの悲しみの始まりであった。


そしてモルウェンは子を産んだ。女の子であった。彼女は娘にニエノールと名付けた。その頃トゥーリン一行はついにドリアスの国境に辿り着いていた。そこで彼らは国境守備隊の隊長ベレグと出会い、メネグロスへと案内された。シンゴルは昔と違って今や、エダイン三王家に好意的になっており、トゥーリンを快く迎え入れると、驚くべきことに己の養子とした。人間の中にあって最強の者、フーリン・サリオンに敬意を表するためである。そしてトゥーリンの下僕の一人がドル=ローミンの奥方に、このことを伝えるためにと出立すると、シンゴルはエルフの護衛を付けてやった。彼らは無事にモルウェンのもとに到着し、トゥーリンのことを伝えた。この時エルフ達は女王メリアンの招きを伝えて、モルウェンにもドリアスへ来るよう促したのだが、彼女は自尊心とニエノールのことからこれを丁重に拒み、使者のエルフ達が帰還する時、ハドル家の重代の宝器の中でも最も貴重なものである、ドル=ローミンの竜の兜を託した。


トゥーリンはドリアスでの少年時代を、ネルラスという名のエルフ乙女とよく過ごした。彼女からドリアスについてトゥーリンは多くのことを学び、またシンダール語も彼女から学んだ。この頃はトゥーリンにとって明るい一時であった。しかしトゥーリンが少年から青年になると、ネルラスと会うことは次第に少なくなっていった。それでもネルラスは陰から彼を見守っていたのだが。9年の間トゥーリンはメネグロスで過ごした。彼の親族の消息は使者を通じて度々齎され、妹ニエノールが美しく成長していることや、それがモルウェンの心痛を和らげていることを伝え聞いたのである。そしてトゥーリンは人間の中で最も丈高く成長し、その膂力と勇気は国内に知れ渡るようになった。彼はベレグに弓矢の技に森の知識、そして剣術を学んだ。このように彼をよく知るものからは愛情・友情を得たが、彼自身は陽気な性質ではなく、滅多に笑うこともない陰気な所があったので、友人は多くはなかった。特に彼を嫌う者の中にサイロスという名のエルフがいた。彼はべレリアンド最初の合戦でデネソールに仕えていたものである。デネソールの死後、彼はオッシリアンドではなくドリアスに避難してきたのであった。彼はトゥーリンに巧みに悪意を隠して嫌味を言ったり、侮蔑の言葉を投げかけた。トゥーリンはこれに終始沈黙を持って答えたが、これがさらにサイロスの癇に障った。


17歳になった時、新たなトゥーリンの悲しみが起きた。ドル=ローミンから使者が戻ってこなくなったのである。今やモルゴスの覆う影はヒスルム全土にまで達していたためである。トゥーリンは家族のことを思うと思い悩んだ。彼はシンゴル王の前に参じると剣と鎧、そしてドル=ローミンの竜の兜を賜るよう願い出た。それは叶えられたが、彼が冥王を撃とうとしていることを知ると、シンゴル夫妻は忠告してそれを諌めた。そこで彼は忠言に従い北の国境へ出向き、エルフ部隊に合流し、オークや他のモルゴスの召使いたちと戦うようになった。彼は常に先陣を切って敵を屠った。その大胆さからドル=ローミンの竜の兜の再来がドリアス以外の国々でも囁かれるようになった。この頃戦士としてトゥーリンが敵わなかったのは、彼の師であるベレグ・クーサリオンただ一人であった。二人は戦友となって共に戦った。


そして3年後、トゥーリンは戦いに疲れて、休息を取ろうとメネグロスに帰ってきた。しかし荒野から戻ってきたばかりの彼は髪は茫々武具も衣服もくたびれ果てており、そんな彼が食卓についたところをサイロスが嘲って、ヒスルムの男たちがこんなにも野蛮で荒々しいのなら、女達は髪の毛以外身を覆うものもなく走り回っているに違いないと、侮蔑の言葉を投げかけた。これにはトゥーリンも激怒し、杯を取るやサイロスの顔面に投げつけた。彼はひどい傷を負い、ひっくり返った。そこへトゥーリンは剣を抜いて迫ったが、これはマブルングによって阻止された。翌日トゥーリンが国境警備隊に戻ろうとしていたところを、剣と盾で武装したサイロスが待ち伏せしており、背後から襲いかかった。しかし百戦錬磨の戦士となっていたトゥーリンはこれを躱すと、素早く剣を抜き、打ちかかった。そしてサイロスの盾を砕き、剣を持つ手を傷つけて、彼を無力化した。その上で昨日の侮蔑のお返しにサイロスの衣を剥ぎ取り、身を覆うのは髪の毛だけにすると、剣でもって追い回した。サイロスは狂ったように悲鳴を上げながら逃げまわったため、他のエルフ達も何事かと集まってきたが、二人はすごい速さで駆け抜けていったため、ついていける者は殆どおらず、追いかけられたのはマブルング他数名であった。彼は追いかけながら、必至にトゥーリンに思いとどまるよう説得したが、トゥーリンはそれを無視した。そしてサイロスはエスガルドゥインの川まで追い詰められ、恐怖のあまり跳躍を試みたものの、対岸への着地には失敗し、悲鳴とともに落ちていき、水中の大岩に当たって砕けて死んだ。その結果を見届けたトゥーリンが振り返ると、そこにはマブルング他何名かのエルフ達がやって来ていた。彼はトゥーリンにメネグロスに戻り、王の裁きを待つよう伝えた。しかしトゥーリンはこれを断った。サイロスは王の助言者の一人であったからである。マブルングは心中トゥーリンに同情していたため、友として戻るよう勧めた。しかしそれでも囚人となるのを恐れたトゥーリンは断り、立ち去った。もしトゥーリンを生きたまま捕らえようとするなら、マブルング側にも犠牲者が出るのは避けられないためである。そしてトゥーリンは逃亡し無法者となったのである。


その頃ドリアスではトゥーリンに対して裁断が下されようとしていた。シンゴル王はサイロスも嘲笑の言葉を投げかけたりと非はあるが、死に至らしめる程の罪には見合わないと考え、トゥーリンが王に赦しを請わず国を出て行ったことを聞き、養子縁組を取り消すとまで発言した。だがそこへベレグがネルラスを連れて来て、彼女が王に彼女の見たこと、即ちサイロスがトゥーリンに不意打ちを仕掛けたことを言上した。これにより審判の場は一変し、皆がトゥーリンに同情的になった。そして王はトゥーリンの過失を赦し、再び王宮に迎え入れることを許可した。しかしネルラスは泣き出し、彼は見つかるだろうかと嘆いた。王もなにか良い手立てはないものかと思案に暮れていたところを、べレグが王に対して、自分がトゥーリンを必ず探し出して連れてくると応え、一人出立した。


その頃トゥーリンは自らを王に追われる無法者になったと信じこみ、西を目指してドリアスを抜けると、テイグリン南部の森に入った。ニアナイス・アルノイディアド以前には、ハレスの一族が点在して生活していた場所である。だが今では彼らの多くは死に絶え、生存者はブレシルへと落ち延びていた。そしてニアナイス・アルノイディアド以降は荒廃した時代となったため、付近一帯はオークと無法者が跳梁跋扈していた。敗残兵に罪人、荒廃した土地を捨ててきた人々、追放者、これらは略奪を繰り返す無法者と化していた。彼らはガウアワイス(狼人)呼ばれ忌み嫌われていた。その中の50人ほどは徒党を組み、オークに劣らぬほど嫌われていた。その悪名高い一党にトゥーリンは出会うこととなった。彼らは通行料を要求し、払えないなら死んでもらうと脅してきたが、トゥーリンはそのうちの一人を即座に殺してみせることで、後釜に入った。そして本名は明かさずネイサンと名乗った。程なく彼は一目置かれるようになった。剣の腕が立ち、森の知識も豊富で、欲が薄く、自分の取り分を殆ど要求しなかったからである。このように無法者仲間から信用されるようになったが、恐れられるようにもなった。彼らには理解できない突然の怒りのためである。トゥーリンは自尊心故にドリアスには帰れず、ブレシルのハレスの一族のもとに下るつもりもなく、かと言ってドル=ローミンには戻れなかった。冥王の影の下にある彼の地に、単独で赴くのはあまりにも危険過ぎるからであった。それゆえトゥーリンはガウアワイスの一員として留まらざるを得なかった。しかし彼らの非道な行為を見て見ぬふりをする時、憐憫の情や羞恥心から怒りの感情が頭をもたげたのである。そして春が来たが、このまま森の民の家々の近くに根城を構えるのは危険なことであった。何時彼らが団結してガウアワイスに抵抗してくるか知れないからである。そこで南へさっさと行くべきだとトゥーリンは思っていたが、それを首領フォルウェグがしないのを不審に思っていた。そんな折、散歩に出ていたトゥーリンはたまたま森の民の若い娘を襲おうとしていた首領を斬り捨ててしまう。そこを無法者の一員アンドローグ[26]に見られてしまうが、彼の命は助けた。この結果ガウアワイス内で揉めたものの、前首領に不平が溜まっていたこともあって、トゥーリンを新しい首領とすることに決まった。そして彼らはその地方を離れた。


ドリアスから幾人もの探索者が放たれ、トゥーリンが出奔した都市に探索に当たったが、探索は失敗に終わった。というのもまさか無法者の徒とつるんでいるとは、夢にも思わなかったからである。結局彼らは皆帰参した。べレグのみがひとり孤独な探索を続けた。そしてトゥーリンに助けられた森の民の娘からついに足がかりを得たのである。べレグは追跡を開始したが、トゥーリンは移動の際ほとんど手がかりを残さぬよう、水際立った術を用いて妨げたので、ベレグですら彼らの探索には手を焼いた。痕跡を見つけ、野生の生き物から聞き出した情報からその場へ行ってみると、既にもぬけの殻となっていた。


それから程なくオーク達がテイグリンを渡って南にやって来た。ブレシルの民の抵抗を受けながらも、オーク共は森の民の許へ略奪にやってきた。ベレグによる注意を受けていたため先に送り出していた婦女子は、ブレシルに逃れていたため助かったが、遅れて出立した男たちはオークに遭遇し、戦いとなり打ち負かされた。幾許かの者が辛うじてブレシルまで逃げ切ったが、多くの者は殺されるか捕虜となった。そしてオークは家屋敷を略奪して回ると、火を付け、西に戻って街道を使い北方へ戻ろうとしていた。これを無法者の斥候が察知した。捕虜はどうでもよく、略奪品目当てゆえである。しかしトゥーリンは相手の規模がわからない以上、無闇に襲うのは危険だと判断したが、無法者たちは耳を貸そうとはしなかった。そこで仕方なくトゥーリンはオルレグという名の無法者を伴って偵察に出た。その間はアンドローグが一党の指揮をとることとなった。だがオーク達は街道近くが、ナルゴスロンドの領域に近いことを知っており、その見張りを恐れてもいた。そのため略奪後でも浮かれておらず、用心深くなっていたためトゥーリンとオルレグは発見されてしまった。オーク達はナルゴスロンドの斥候と勘違いし、たちまち二人を追い回し始めた。トゥーリンは彼らの様子から、ナルゴスロンドのエルフを大変恐れているのを見抜き、オークを欺いて西へと逃げた。オルレグは途中で多量の矢を浴びて死んだが、俊足とエルフの鎧を身に纏っていたトゥーリンは無事逃げ果せた。オーク達はナルゴスロンドのエルフがやって来るかもしれないとの恐れから、捕虜を皆殺しにすると慌てて北へと逃げていった。


三日間たっても首領とオルレグが戻らないことから、無法者たちは出立を促したがアンドローグがこれを制していた。そんな時彼らの前に一人のエルフが不意に姿を表した。ベレグであった。彼は何の武器も持たず、敵意のないことを示すため掌を彼らの方に向けていた。しかし無法者たちは恐怖し、アンドローグの打った輪縄がべレグの両腕を絡めとった。ベレグは友として参った自分になぜこんな仕打ちをするのかと、ネイサンの名を呼んだが、ウルラドという名の無法者が彼は今は此処にはいないことを告げた。そしてアンドローグが、長らく自分たちを付け回していたのがベレグであると確信すると、彼を木に縛り付けた。彼は詰問したがベレグは、自分はネイサンと名乗る男の友人で、彼に吉報を携えてきたとしか答えなかった。アンドローグは彼を殺そうとしたが、多少は心根の良い者たちが反対し、アルグンドは、もし首領が戻ってきた時に友人と吉報を奪われたと知ったら、自分たちは後悔することになると言って制止した。だがアンドローグはベレグをドリアス王の間者に違いないと決め付けた。それから二日間が経過すると流石に男たちも痺れを切らし、エルフを殺そうとした。その時丁度トゥーリンが帰ってきたのである。彼はベレグを見ると衝撃を受け、涙をはらはらと流しながら駆け寄った。そして友を縛っている縄目を断ち切ると、ベレグを掻き抱いた。無法者仲間から事の次第を聞いて、自分の行ってきた無法無道な行為に自責の念が芽生え、今後トゥーリンは人間とエルフ以外しか襲わないと誓った。そこに縛めから解かれたべレグが、サイロスの一件は不問となったことを告げ、ドリアスに戻ってくれるよう頼むが、彼は黙りこんでしまった。翌朝もう一度ベレグはドリアスに戻るよう説得したが、トゥーリンは自尊心からドリアスへの帰還を拒んだ。それに無法者仲間に対しても愛情があることから、今更彼らを見捨てるわけにも行かないと告げ、トゥーリンは自由にやってゆきたいと、自身の手勢を従えて戦うことを決意する。そしてベレグに残ってくれるよう懇願するが、ベレグはそれは出来ないと答え、今やオーク達はディンバールにもやって来て、ブレシルの人間も難儀しているから、自分はそこへ戻るつもりだと言う。そこで自分に会いたければディンバールに来て自分を探せと伝える。トゥーリンはそれに黙って耐えたが、不意にエルフの乙女のことを口に出し、彼女に証言してもらったのに自分は彼女を思い出すことが出来ない、なぜ彼女は自分を見ていたんだろうかと独りごちる。これにはべレグも驚き、トゥーリンが幼い頃ネルラスとともに過ごしていた日のことを告げる。しかし子供の頃のことはもう朧気でよく思い出せないと答えるトゥーリンに、ベレグは大きく嘆息し、中つ国には武器によらぬ傷もあるのだと言い、エルフと人間はやはり出会うべきではなかったのだと嘆いた。そして別れの際何故かアモン・ルーズが目に入ったことから、トゥーリンはベレグに、自分に会いたければアモン・ルーズに来て自分を探せと伝え、二人は友情を懐きながらも悲しい気持ちで別れた。


べレグはメネグロスに戻ると、シンゴル夫妻に事の顛末を全て言上した。シンゴルは溜息をつくと、トゥーリンに対してどうすればいいのかと、悩んだ。そこでべレグは暇乞いをした。彼は出来る限りトゥーリンを守り導く決心をしたのである。シンゴルはそれを許可し、別れに際して望みの品を与えると言った。ベレグは名剣を一振り所望した。今やオークの数は多すぎて、彼の大弓だけでは間に合わなくなってきたのと、ベレグの持っている剣ではオークの鎧を貫くのが難しくなっていた。それに対しシンゴルは武器庫に所蔵している剣のうちから好きなものを選べ、と言いベレグはアングラヘルを選んだ。この剣は非常な名剣で、これに匹敵するのはアングウィレルという対になる剣のみであった。この二振りの剣は隕鉄で出来ており、鍛えた刀匠は、ゴンドリンで処刑された<暗闇のエルフ>エオルである。彼はナン・エルモスの住む許可をシンゴルから得る代わりに、嫌々アングラヘルを献上したのだった。アングウィレルの方はエオルが自分用にとっておいたが、マイグリンが脱走時に勝手に持ちだした。ベレグがアングラヘルを拝領すると女王メリアンがその刃を見て、その剣には邪気が篭っており、それを鍛えた刀鍛冶の黒い心が潜んでいるため、使い手を愛することはないだろうと忠告する。それでもべレグはこの剣を選んだ。そしてメリアンからはレンバスを大量に与えられた。


ベレグはこれらの授けられた物を携え、北のディンバールへ戻っていった。そしてアングラヘルは鞘から抜かれることを喜んだ。やがてオーク共が駆逐され戦いが鎮まると、冬にベレグはそこを去り、二度と戻らなかったのである。


ベレグが去ってから、北方のオークは以前にも増して大部隊で街道を南下してテイグリンを渡るようになり、無法者一行は狩るよりも狩られることの方が多くなってきた。そこでトゥーリンはより安全な巣窟を探さねばならないと痛感し、シリオンの谷間を抜けて西へと向かった。ここまで遠出するのは一向にとっても初めてのことであった。そんな中雨宿りをしている時、3つの人影を目撃する。大声で止まるよう命じたが、人影はそれに従わず逃げようとしたため、アンドローグが矢を射かけた。2つの人影はそのまま逃げたが、1つは逃げ遅れトゥーリン達に捕まった。それは小ドワーフで名をミームといった。ミームは命乞いをし、身代金の代わりに、誰にも見つからぬ隠れ家を共にしてもよいと申し出たため、トゥーリンはそれを受け入れた。翌日彼らはミームに続いてアモン・ルーズへ向かった。アモン・ルーズは禿山でシリオンの谷とナログの間の荒れ地の外れにあり、岩を覆うセレゴンという深紅の花以外何も生えていなかった。ミームは秘密の入口に着くと、一行をバル=エン=ダンウェズと名付けた洞窟の中へと案内した。ここでミームは自分の息子キームが死んだことをもう一人の息子イブンから知らされる。アンドローグの放った矢がキームの命を奪ったのである。トゥーリンはこれを申し訳なく思い、もしも富が手に入ることでもあれば金塊で息子の命を贖おうと申し出た。ミームはこれを聞くとトゥーリンを眺め、その旨承ったことと、気持ちが少しは和らいだことを告げた。だがアンドローグに対しては、再び弓矢を手に取らば弓矢によりて死ぬという呪いをかける。こうしてバル=エン=ダンウェズにおけるトゥーリンの日々が始まる。


ある年の真冬が近づく頃、未曾有の大雪が北方から齎され、アモン・ルーズも深い雪に覆われた。アングバンドの力が増大するにつれて、ベレリアンドの冬は厳しさが増していると人々の間で噂された。そんな厳しい寒さの最中、ベレグ・クーサリオンが再びトゥーリンの許へ訪れる。ベレグは彼の竜の兜を携えてきていた。それによってトゥーリンの考えが変わることを期待したからである。しかしトゥーリンはドリアスに戻ろうとはしなかった。ベレグは彼への愛情に負け、彼もトゥーリンの仲間になることになった。無法者仲間にレンバスを与えることで活力を与え、怪我人や病人も治療した。たちまち彼らは癒やされた。ベレグは弓の腕前も優れて、力も強く、遠目も効いたので、無法者仲間からも尊敬を受けるようになった。しかし小ドワーフは過去にべレリアンドのエルフに追い立てられ、殺されたことがあったためミームはベレグを憎んだ。トゥーリンは再び竜の兜を身につけると自らをゴルソル(恐るべき兜の意)と名乗り、バル=エン=ダンウェズを拠点に戦いを開始した。オーク達は南方の地域、ベレリアンドに入る道を探っていたが、トゥーリンに率いられたガウアワイス達はそれを襲撃するようになった。竜の兜と強弓が再起したという噂は遍くに伝えられた。流離人となりつつも、モルゴスに抵抗する意思を持つ多くの者たちが、再び勇気を取り戻しトゥーリンとべレグの許へ集まってきた。テイグリン川とドリアス西境に挟まれた地域はドル=クゥーアルソルと呼ばれるようになった。<弓と兜の国>の意である。トゥーリン一党は一大勢力に膨れ上がり、アングバンドの影響は後退した。メネグロスやナルゴスロンド、そして隠れ王国ゴンドリンにすら二人の武勇の誉れは響いた。トゥーリン一党に対しナルゴスロンドからは、その秘密の場所を守るため、軍事的な支援はできないものの、必要な物は何であれ提供しよう、と申し出が来た。全てが上手く言ってるように見えたが、ベレグは先のことを考えて度々警告した。だがトゥーリンは考えを変えず、ここで力を蓄えた後にドル=ローミンへ向かう旨を告げた。やがて二人のことはモルゴスの耳にも入り、竜の兜故にフーリンの息子の存在は明らかになってしまった。彼はアモン・ルーズ近辺に間者を大量に放った。


その年も暮れる頃、ミームとイブンは冬の蓄えのため、荒れ地に赴いたところを捕らえられた。そして秘密の入口をまたも案内させられる羽目になった。こうしてバル=エン=ダンウェズは敵に売られた。ミームの案内で、オーク達は敵が寝静まっているところを襲ったのである。トゥーリンの仲間の多くは寝ているところを襲われ殺された。中には階段を使って丘の頂に逃れた者もおり、彼らはそこで討ち死にするまで戦った。アンドローグもそこで勇敢に戦ったがオークの矢で致命傷を負った。しかしトゥーリンは戦闘中に網を被せられ、身動きの取れなくなったところを連れ去られた。当たりに静けさが戻った頃、ミームが姿を現した。そして山頂に斃れた死者たちを見渡したが、一人生存者がいた。ベレグであった。そこでミームは憎悪の念からベレグを殺そうと、死者の傍らにあったアングラヘルを手に近づいたが、ベレグはよろめきながら立ち上がり、アングラヘルを奪い返すと逆にそれを突きつけた。ミームは仰天して山頂から逃げ去った。ベレグはひどい傷を負っていたが、彼は中つ国のエルフでも力強い者である上、癒やしの術にも長けていたので死ななかった。回復した彼は埋葬しようとした死者の中にトゥーリンがいないことに気付き、彼がオークたちに連れて行かれたことに気付いたのである。そこで彼は追跡を開始した。相手の足取りを追う術にかけて彼の右に出るものは、中つ国広しといえども一人もいないほどであった。彼は眠らずに急行したのに対し、オーク達は勝利に浮かれて北上するにつれ、追跡を恐れなくなっていたため、その足取りは遅かった。オーク達の居所ももはや然程遠くはなかった。そんな時ベレグは道中タウア=ヌ=フインで一人のエルフを発見する。それはナルゴスロンドのグウィンドールであった。そこでグウィンドールにレンバスを与え活力を取り戻させ、通過したオークの部隊の話を聞くと、その中にたいそう背の高い人間の男がいたと彼は言った。そこでトゥーリンを助けるために自分が来たことを話すと、彼は一端は諦めることを勧めるが、ベレグはそれでもトゥーリンを見捨てず助けにいく決心であると言うと、彼も助力を申し出た。アンファウグリスの不毛の地まで来るとオーク達は、狼を見張り番に立てて酒盛りを始めた。その頃エレド・ウェスリンに稲妻が走り、西から風が吹き始めていた。オークが眠った所でベレグはその強弓で狼を一匹ずつ確実に仕留めていった。そして二人は野営地に入ると、縛られたトゥーリンを発見し、綱を切ると抱き上げてそこから運びだした。そこから少し上った茨の茂みまで来ると、これ以上彼を運べず二人はトゥーリンをそこで下ろした。嵐は近くまで来ていた。ベレグはアングラヘルを抜くと、トゥーリンの手足の縛めを切った。しかしこの時運命の力が強く働いた。足の枷を切った時アングラヘルの切っ先が、トゥーリンの足を少し刺したのである。彼はそれで目を覚ました。すると何者かが抜き身の剣を引っさげて、自分の上に屈みこんでいたのだ!彼はオークが再び彼を苦しめに来たと早とちりし、暗闇の中で掴みかかると敵の剣を奪い取り、彼の上に屈みこんでいた何者かを斬り殺したのである。しかしその時一閃の稲妻が頭上を走り、自分が斬った者の顔を照らした。それはベレグの顔であった。トゥーリンは石と化したように動かず、それを見つめ、傍らのグウィンドールは稲光に照らしだされるトゥーリンの顔の凄惨さに言葉もなかった。オーク達は嵐のため野営地全体が大変な騒ぎとなっていたが、トゥーリンはグウィンドールの危険を告げる声にも全く反応せず、ベレグの亡骸の傍らにいつまでも座り込んでいた。朝が来て嵐も去ると、オーク達はトゥーリンの捜索を諦めアングバンドへと帰還していった。トゥーリンは魂が抜けたように呆然と座り込んでいた。グウィンドールはトゥーリンを促すとベレグを埋葬した。傍らには彼の強弓ベルスロンディングが置かれた。しかしアングラヘルはグウィンドールが取り置き、無益に土の中にあるよりはモルゴスの召使に恨みを晴らすとよいと言った。そしてこの先必要だったためレンバスも取り置いた。


こうして最も信義に篤い、べレリアンドの森の技にかけては右に出るもののいないベレグ・クーサリオンは、彼の弟子であり親友であった者の手によって最期を遂げたのである。この悲しみは一生トゥーリンの中から消えることはなかった。


グウィンドールは自失した状態のトゥーリンを導くと、その場を離れ、彼を守って案内を務めた。二人は長い道の果て、ついにエイセル・イヴリンに到着した。エレド・ウェスリンの下にあるナログ川の水源である。ここでグウィンドールはトゥーリンにこの水を飲むことを勧めた。何故ならばイヴリンの泉にはウルモの力が宿っていたからである。その水を飲んだトゥーリンは正気を取り戻すと同時に、涙をはらはらと流した。ここで彼は亡きべレグに捧げる歌を作って歌った。そこでグウィンドールは彼にアングラヘルを手渡した。その刀身は黒々としていて大きな力を秘めていたが、今は刃は鈍っていた。そしてトゥーリンはグウィンドールの自己紹介を聞くと、父フーリンのことを尋ねたが、グウィンドールは彼の姿は見てないが、モルゴスに公然と抵抗したため、彼と彼の肉親に呪いがかけられたという噂を聞いたと答えた。彼らはエイセル・イヴリンを立ち去ると、南に旅を続け、ナルゴスロンドへとやって来たのである。


ナルゴスロンドでは王女フィンドゥイラスが、グウィンドールの恋人であったため、彼らの帰還を喜んだ。そこでグウィンドールに免じて、トゥーリンもナルゴスロンドに滞在することを許された。しかしグウィンドールが彼の紹介をしようとした所、トゥーリンはそれを遮り、自分のことをウーマルスの息子アガルワインと名乗った。即ち<凶運の息子にして血に汚れたる者>の意である。エルフたちはそれ以上問い詰めようとはしなかった。やがてトゥーリンはオロドレスの覚えめでたくなった。彼はまだ若く、母親譲りの美貌の持ち主であった上、その所作はドリアスにあって洗練されており、彼はエルフの中にあっても、ノルドールの公子と勘違いされてもおかしくはなかった。それ故彼はアダンエゼル(エルフ人間の意)と呼ばれることが多かった。ナルゴスロンドの優れた刀鍛冶たちは、彼のためにアングラヘルを鍛え直した。刀身は黒いままだが、刃は青白い火の如く輝き、トゥーリンはこの剣をグアサング(死の鉄剣)と名付けた。彼はその剣とドワーフの鎖帷子、そして敵に悟られぬよう竜の兜は身に帯びず[27]、武器庫で見つけたドワーフの仮面を身につけて戦いに出た。彼の示した武勇と剣の腕は殊に優れていたため、彼はモルメギル(黒の剣の意)とも呼ばれるようになった。敵はその剣と仮面を見ただけで逃げるようになった。


トゥーリンはオロドレス王に重用されるようになり、王の会議でも発言権を得たが、グウィンドールは常にトゥーリンの意見に反対した。彼はアングバンドに囚われていたことがあり、モルゴスの手口を多少なりとも知っているからであった。例え幾つかの勝利を勝ち得ても、モルゴスはそれによって強敵の場所を悟り、十分な力を集めて、そこに破壊の鉄槌を振り下ろすのだ、と。今や秘密の中に行動するのが最良のことであり、ヴァラールが来るまでそうやって持ちこたえることだ、と発言した。対してトゥーリンはヴァラールなどは当てにならず、小さくとも勝利を重ね、束の間であっても栄光を勝ち取るべきであり、例え最期に敗れようともせめて彼の者に一矢報いるべきだ、と主張した。また人間の命はエルフと違って短く、逃げ隠れするよりは、戦に打って出る方が良いとも述べ、それによって成された勲まではモルゴスも消すことはできないと反駁した。対してグウィンドールはキーアダンの許で船が造られて、西方へ使者が度々送られていることを述べ、トゥーリンが自分自身の誉れに執われており、そして同じやり方をナルゴスロンドの国民に要求していると非難した。結局両者の意見が相容れることはなかった。


王女フィンドゥイラスはフィナルフィン王家ならではの美しい金髪の持ち主であった。トゥーリンは彼女を目にしたり、共に過ごしたりすることに喜びを覚えるようになっていった。というのも、彼女は故郷ドル=ローミンの女性たちのことを思い出させたため、彼に肉親や縁者のことを懐かしく感じさせたためである。そして彼女の方も次第にトゥーリンに好意を抱くようになり、彼女の方から彼を探すようになった。二人で語らう時、彼女はあまり見たことのないエダインのことについて尋ね、彼は快くそれに答えたりしたが、自分の故郷と係累については一切触れなかった。フィンドゥイラスは彼を異性として好ましく思っていたが、トゥーリンは、幼いころに亡くした妹ラライスの面影を彼女に見出しただけであって、異性として見ているわけではなかった。彼はフィンドゥイラスに、あなたのような美しい妹がいればよかったと言い、それにフィンドゥイラスは彼を慕う心を隠して、自分にもトゥーリンのような頼もしい兄弟がいればとよいと思うと答えると、アガルワインの名は相応しくない上に真の名とも思えないと言い、以後彼女は彼をスリン(秘密の意)と呼ぶと告げた。これを聞いてトゥーリンはぎくりとし、それは自分の名ではないと言った。


フィンドゥイラスの想いはグウィンドールとトゥーリンの狭間で揺れ動いていたが、次第に後者の方へ傾いていった。しかしこれは彼女の心を苦しめた。グウィンドールのアングバンドでの受難のことを考えると、彼にさらに苦しみを与えることは、彼女の望むところではなかったからである。それでもトゥーリンへの愛は日増しに増していった。しかしそこではたと、ベレンとルーシエンのことが思い出され、トゥーリンはベレンのような人間ではない事に気づいた。彼がフィンドゥイラスに向ける愛情は男女間のそれではなく、別の類のものであると薄々感じていたためである。そのためフィンドゥイラスの心は曇りがちになった。それを見たトゥーリンは、グウィンドールのアングバンドに対する発言で彼女が恐れをなしたのだろう、と勘違いした。トゥーリンはフィンドゥイラスに、グウィンドールの言葉を恐れないよう、モルゴスの手のものは皆撃退してみせると励ましたが、それにフィンドゥイラスは、ナルゴスロンドが失われないか、トゥーリンの出陣の度に胸が重くなるとだけ答えた。


この頃トゥーリンは彼に対するグウィンドールの友愛が冷え始めているのを感じ取っていた。そしてアングバンドで受けた苦しみから癒やされつつあったのに、また悲哀の中へと戻ってしまったように見えるを不思議に感じた。そこで彼はおそらく王の会議で、彼の発言に自分が反対ばかりしており、王も自分の発言を重視するようになったからだろうと考えた。ただ、それでもトゥーリンの方は考えの違いはともかく、グウィンドールに対して友愛の念は変わらなかったし、アングバンドでの一件から深く彼を憐れんでいた。そこで彼はグウィンドールに励ましの言葉をかけたが、彼はトゥーリンを見つめ何も言わなかった。そこでトゥーリンはなぜそのように見るのか尋ねた上で、自分がグウィンドールの助言に反対したのは確かだが、男として自分の信義は曲げられないといった意を伝え、だが自分は彼に対する恩義は忘れてはいないとも付け加えた。グウィンドールはそれに答えて、トゥーリンは忘れてはいないと言うが、彼の行為と助言で自分の故郷と同胞は変わりつつあることと、彼の影が皆を覆い、彼のせいで自分は全てを失ったと言った。トゥーリンにはその答えがよくわからなかったが、王に重用されるようになった自分を妬んでいるのだろうと推測した。


ある時、グウィンドールは暗然としてフィンドゥイラスに言った。自分は今でも彼女を愛しているが、彼女はそれに捕らわれることなく、自らの愛の導く所へ行かれよ、と。しかし用心するべきであるとも言った。イルーヴァタールの長子と次子の間で縁組をするのは賢明ではない。彼らの命は短く、すぐにこの世を去ることになる上、ベレンとルーシエンのような例外はそうそうあるものでもなく、またトゥーリンはベレンではないと。そしてグウィンドールは彼の真の名を、フーリンの息子トゥーリンであることを告げ、フーリンとその一家にはモルゴス・バウグリアの呪いが下されていると警告した。それに対してフィンドゥイラスは今でもグウィンドールのことは愛しているものの、より大きな愛、トゥーリンに捕らわれてしまったことを告げると同時に、トゥーリンは自分を愛してはいないし、愛そうという気にもならないだろうと答えた。そこでグウィンドールはならば何故トゥーリンはフィンドゥイラスを探し求めるのかと問いかけるが、それには彼も慰めを必要としているからだと彼女は答える。そして三人の中に不実な者がいるのならそれは自分であるとも告げた。


その後トゥーリンは、グウィンドールとフィンドゥイラスの間で何が起きたかも知らずに、彼女が憂いを帯びた表情を見せていたため、よりいっそう優しくなった。が、彼女は彼に言った。何故自分から本当の名前を隠すのか、彼の素性を知れば尊敬の念は増し、より深く彼を理解できたであろうにと伝えた。そして彼女は彼の真の名を知ったことを告げる。これを聞いたトゥーリンは、激怒してグウィンドールに詰め寄った。何故自分の本当の名を洩らしたのか、自分の運命を呼び出したのか、それから隠れようと自分はしているのに、と。グウィンドールはそれに運命はトゥーリン自身の中にあり、名前にあるわけではないと答えた。


モルメギルが本当は、フーリン・サリオンの息子トゥーリンであることがオロドレスの耳に入ると、彼はトゥーリンを大いに礼遇した。そして増々王から重用されるようになった。トゥーリンはナルゴスロンドのエルフたちの戦い方、秘密の中に行動するといった戦術を好まず堂々とした合戦をしきりに懐かしんだ。そして王の会議で度々それを提案し、遂にそれが通ってしまい、ナルゴスロンドは隠密裡に戦うことを止め、フィンロドの城門からナログの川に大橋をかけ、堂々と進軍していくようになった。グウィンドールはこれを無謀だと言って反対したのだが、彼の言葉に耳を貸す者は最早いなかった。そしてナルゴスロンドの軍はアングバンドの軍を打ち負かし、モルゴスの召使どもはナログ川とシリオンの川に挟まれた全域から追い出された。モルメギルの武勲は更に名高いものとなった。しかしこれによって遂にナルゴスロンドの所在がモルゴスに知られてしまい、彼の次のターゲットとなるのである。


ナルゴスロンドの軍勢のためにモルゴス軍が一旦退いた時、モルウェンとニエノールはこの猶予期間にようやくドル=ローミンを離れ、長旅を経てドリアスにまでやって来た。しかし彼女は落胆した。既にトゥーリンはそこにはいなかったからである。またドル=クゥーアルソルが滅びて以来、竜の兜の噂も絶えて久しかった。しかしシンゴル王はモルウェン母娘を賓客としてもてなした。


その頃、ナルゴスロンドにゲルミアとアルミナスという二人のエルフがやって来た。彼らはキーアダンの許から派遣され、水の王ウルモから啓示を受け、ナルゴスロンドに災厄が迫っていると告げた。エレド・ウェスリンの山麓とシリオンの山道を探索したが、モルゴスの軍勢がサウロンの島に集結していると話した。トゥーリンはそのことならもう既に聞き及んでいると答えた。しかし使者たちは、水の王の啓示を述べた。北方の邪悪なるものがシリオンの水源を汚したこと、ウルモの力は流れる水の上流から退くこと、ナルゴスロンドの城門を閉ざし外には出ないこと、誇りである大橋は叩き壊してナログの川に落とせと。オロドレスはヴァラたるウルモの言葉に心乱れたがトゥーリンはこれに一切耳を貸さず、二人の使者をぞんざいに扱った。その扱いたるや使者たちが彼は本当にハドル家の人間なのかと疑わずにはいられなかった程であった。今やトゥーリンはそれだけ自尊心の高い人間となっており、石の橋を叩き壊すなどということは論外であった。


それから間もなくブレシルがオークの軍に襲われ、ハンディア王が殺された。ブレシルの人間たちは敗北し森の中へ敗走した。そしてついにモルゴスは集結させていた大軍を、ナログ地方に向けて解き放った。ウルローキのグラウルングもアンファウグリスを超えてやって来た。彼はシリオンの谷間を通過すると、エイセル・イヴリンを汚し、次いでナルゴスロンドの領土に入り込みナログの川とテイグリンの川に挟まれた平原を焼き尽くしたのである。対してナルゴスロンドの兵士たちは勇ましく出陣して行き、その日トゥーリンは久々に竜の兜を被った。彼とオロドレス王が騎首を並べて進むと、兵士たちの士気はいや増した。しかしモルゴスの軍勢は偵察隊の報告よりも遥かに多く、その上大竜グラウルングがいた。竜の兜に守られたトゥーリンを除いて、グラウルングの接近に耐えられるものは一人もいなかった。エルフ達は退けられ、ギングリスとナログの二つに川に挟まれたトゥムハラドに追い詰められ、その合戦で敗北を喫した。王オロドレスは最前線で討ち死にを遂げ、グウィンドールは致命傷を負った。トゥーリンが彼を助けに来たため、兜への恐怖から敵は逃げ去った。彼はグウィンドールを助けつつ戦場から抜け出した。そこでグウィンドールは、前に自分がトゥーリンを助けたことの逆になったと言いつつも、自分はもう死んで中つ国を去らねばならないから、無駄なことだと言った。そしてトゥーリンをあの日助けたことが不運で恨めしく思われると話した。それがなければ彼は愛と命脈を保っていたであろうし、ナルゴスロンドもまだ存続し得たから、と。そこで自分はもう見捨てて、急ぎナルゴスロンドへ向かうようトゥーリンに言った。死を前にした予見の力からか、フィンドゥイラスのみがトゥーリンをモルゴスの呪いから救い出せる、と彼に伝え別れを告げた。トゥーリンはナルゴスロンドへと急行したが、オークの軍勢とグラウルングは彼に先んじており、トゥーリンが到着した時には既に、ナルゴスロンドは略奪されていた。城門前にかけられた大橋を渡って、ナログの深い川を易易と渡ることが出来たからである。トゥーリンの提案した石の橋は味方にとって今や災いとなってしまった。殺害を免れたエルフの婦女子たちは、モルゴスの許へ奴隷として連れて行かれるため城門前のテラスに集められていた。トゥーリンは敵を薙ぎ倒し剣を振るいながら、囚われた女性たちの方へと進んでいった。丁度その時グラウルングが城門から姿を現した。彼はトゥーリンとその竜の兜を認めると、よくぞやって来たなと声をかけた。そしてグラウルング自身その竜の兜の魔力を恐れていたため、トゥーリンからその守りを取り去ろうと試みた。竜は彼を嘲りつつ、彼を自分の従者であり家来であると呼んだ。何故ならば自分を模した飾りを取り付けた兜を身に帯びているからだ、と言って挑発した。トゥーリンはそれに答えて、世迷い事を、この竜の飾りはお前を嘲って造られたものだと返し、さらにこの兜を帯びた者が自分に滅びを齎すのではないかと、恐れ続けることになるだろうと煽った。しかしグラウルングはそれならいま眼の前にいる者ではなく、別の名の者を待つことになるなと答え、自分はフーリンの息子トゥーリンを恐れてはいない、奴は顔を晒して自分を見ることも出来やしない臆病者だと嘲笑した。竜の恐怖は凄まじかったため、それまでトゥーリンは兜の面頬を下げて、彼の目を見ないよう注意していたのだが、自尊心から愚かにもこの嘲弄に乗ってしまい、面頬を跳ね上げ竜の目を直視してしまった。すると彼は竜の目の魔力のため金縛りとなってしまった。そしてグラウルングは彼を嘲ると共に呪言を吐きかけ、お前の母と妹はドル=ローミンで惨めな生活を送っているぞと嘘を吹き込んだ。その間にオーク達は捕らえたエルフ女達を連れて行った。その中にはフィンドゥイラスもいて、彼女は必至にトゥーリンに呼びかけたが、竜の呪縛下にある彼には届かなかった。そして竜は呪縛を解くと身内の所へ急ぐよう囃し立てた。竜の呪言の影響下にある彼は、フィンドゥイラスの呼ぶ声にも耳を貸さず、ドル=ローミンへの道を急いで行った。グラウルングは声高に笑った。主モルゴスに命じられた仕事を果たしたからである。それから大橋を叩き壊してナログ川に沈めると、フィンロド秘蔵の財宝を尽く集めて奥の広間に積み上げ、その上でとぐろを巻いた。


トゥーリンはドル=ローミンまで休むことなく歩き続けた。今やドル=ローミンは東夷の支配下にあり、彼は用心深く、頭巾を深くかぶり歩いた。そして目指すフーリンの館についに辿り着いた。だがモルウェンは既に去り、今や東夷のブロッダがその屋敷を略奪した後で、そこは廃屋となって人っ子一人いなかった。ブロッダの屋敷はフーリンの屋敷の直ぐ側に立っており、かれはそこへ赴き一夜の宿を借りた。ブロッダの妻アイリンによってそれは与えられた。彼はそこで昔の使用人と運良く出会うことができ、一端外に出て、モルウェンもニエノールもすでにここにはいないこと、その行き先はアイリンしか知らないと教えられた。そこでトゥーリンはブロッダの屋敷内にズカズカと入り込むと、自分はアイリンの縁者であるとブロッダに告げた。そしてアイリンに母と妹のことを聞いたが、立ち去ったとしかアイリンは答えられなかった。そこで酒と憤怒で真っ赤になったブロッダが、死にたくなければとっとと出て行けと脅しをかけたが、トゥーリンは黒の剣を抜き放ちブロッダに突き付けて、アイリンに真実を言うよう迫った。そこでモルウェンの館はブロッダに荒らされ、彼女は一年以上も前にドリアスへ発ったこと、モルウェンはドリアスにいるはずの息子と会う予定であったことを告げた。しかし目の前にいるトゥーリンがモルウェンの息子なら、一切が歪んでしまったようだと言った。これを聞いてトゥーリンは狂気に侵された如く笑った。グラウルングの呪言が解けて、謀られたことがわかったからである。不意にドス黒い怒りにとらわれた彼はブロッダを投げつけ、投げ落とされた彼は頸骨が折れて死んだ。そして客として来ていた他の東夷三人を切り捨てたところで、他の東夷達が向かってきたが、召使とされていた多くのドル=ローミンの民達が彼の救助に向かい、双方で戦いとなり、多数の犠牲者が出たものの、その場にいた東夷は一人残らず殺された。トゥーリンの昔の使用人も致命傷を負い、彼に別れを告げると息絶えた。そしてアイリンはトゥーリンに急いで出立するよう促した。彼が一族に死と破壊を運んできたからである。東夷達は速やかに復讐に来るであろう。彼女はトゥーリンに彼が起こした事態を自分が引き受けねばならないこと、それと彼の短慮な行いを咎めた。それにトゥーリンは叔母上の心は弱いと答えると、モルウェンの許まで連れて行こうと申し出たが、彼女は拒否した。そして再び早く逃げるよう勧めた。トゥーリンは何人かの仲間とともにブロッダの館をぬけ出すと、東夷の山狩りを遁れて遠くまでやって来た。その時遥か遠くに火の手が見えた。アイリンが館に火を放って自害したのである。それを見たトゥーリンに、仲間はアイリンは決して弱くなかったこと、辛抱強くドル=ローミンの生き残りに出来ることをしてくれていたことを告げる。そして一行は山中の隠れ家まで辿り着き、備蓄されていた食料をトゥーリンに手渡すと、シリオンの谷間へと南下する下り道で別れた。今やトゥーリンが来たことで、ドル=ローミンの生き残りは狩られる身となったからである。


トゥーリンは生まれ故郷を去り、苦い思いを懐いてシリオンへと下っていった。彼が戻ったがゆえに、生き残っていた同胞に、更に大きな苦しみを与える羽目になったからであった。唯一の慰めは黒の剣が南方で振るわれていた頃、そのためにモルウェンとニエノールがドリアスに脱出する猶予が出来たのだ、ということであった。トゥーリンは二人はこのままシンゴル夫妻に預かってもらおう、彼処なら安全だし、自分は行く先々に影を投げかける人間なのだからと独りごちると、彼はドリアスには向かわず、遅まきながらフィンドゥイラスを探すことにした。彼は用心深くフィンドゥイラスを探し求めた。北に続くシリオンの山道でオーク達を待ち伏せしようとも試みたが、全て無駄な努力であった。そんな最中テイグリンの川を南に下っていたトゥーリンは、ブレシルの森のハレスの一族と遭遇した。彼らはオークとの戦いの最中で、包囲されていた。オークのほうが数が勝っていたため、彼らが助かる見込みは殆どなさそうだった。そこでトゥーリンは大人数の伏兵がいるように見せかけて、オーク達を襲った。オーク達は算を乱して逃げ出した。トゥーリンのグアサングはそれだけ恐れられていたからである。そこでハレスの族は攻勢に出て、トゥーリンと共にオーク達を殆ど討ち取った。その水際立った腕前を見たハレスの族は、トゥーリンに是非とも住まいを共にして欲しいと頼み込んだ。しかし彼はナルゴスロンドの姫君を探しているのでそれは出来ないと断った。すると彼らは痛ましげに彼を見つめ、ドルラスという男が、もう彼女を探す必要はないと告げた。理由を尋ねるトゥーリンに、オークの軍勢が捕虜を引き連れ、テイグリンの渡り瀬を通過しようとしたところを、彼女たちを救出するために、ブレシルの男たちが待ち伏せを仕掛けた際に、オークどもは卑怯にも捕虜の女達を皆殺しにしたと答えた。そしてオロドレスの娘フィンドゥイラスは、槍で木に磔にされたとも付け加えた。トゥーリンは衝撃を受け、なぜそれが姫とわかったとだけ尋ねた。ドルラスは姫が息を引き取る前に、モルメギル、フィンドゥイラスはここにいる、とモルメギルに伝えて、そう言い残すと彼女は事切れたと答えた。そこで彼らはその場所、テイグリンの畔に塚を築き姫を葬った。それから既に一月を経ていた。トゥーリンは自分をそこへ連れて行ってくれるよう頼んだ。そのため彼らは姫が葬られた塚へと彼を案内した。トゥーリンはそこで悲しみの余り、倒れ伏し気を失った。その時ドルラスは彼の持っていた黒の剣と、ナルゴスロンドの姫君を探していたという彼の用向きから、この男こそモルメギル、即ちフーリンの息子トゥーリンであると気付いた。それ故彼らはトゥーリンを担ぎ、彼らの住処へと運んでいった。


その頃ハレスの族は繰り返される戦闘で、その数を大きく減らしていたため、ブレシルの森深くに住処を築いていた。ハンディアの息子ブランディアが族長となり統治していたが、彼は幼い頃より足が不自由であったため、武人ではなく、代わりに癒やしの術を身につけていた。ブランディアは担ぎ込まれたトゥーリンを見て、不吉な思いに捕らわれたが、それでも彼を自分の家に引き取って癒やした。春が巡り来た頃、トゥーリンはようやく元気を取り戻し、病床から起き上がれるようになった。彼は自分の所業と過去を思い、その暗い影と縁を切り、ここで平和に暮らそうと思った。名前と絆を断ち切ることで、それが出来ると考えた。そこで彼は今までの名を全て捨て去り、自らをトゥランバールと名付けた。クウェンヤで<運命の支配者>の意である。そして他の者達に自分をブレシルの人間と思って欲しいことと、他にあった名前はもう忘れてくれるよう頼み込んだ。とは言え、名前を変えたからといって性格まで変わるわけでもなく、モルゴスに対する怨みは忘れられなかったため、彼は志を同じくする仲間と時々オーク退治に出かけた。だがこれはブランディアの気に召さなかった。彼は隠れ潜むことによって、己が民の存続を図っていたからである。トゥーリンはトゥランバールの新たな武勇が、ブレシルに復讐を招くようなことが無いよう気をつけるため、黒の剣と竜の兜を仕舞い込み、弓矢と槍を使って戦った。しかし彼はフィンドゥイラスの眠る塚、今やハウズ=エン=エルレス(エルフ乙女の塚)と名付けた地に、オークが近づくようなことは断じてさせなかった。


一方その頃、モルウェンとその娘ニエノールはドリアスで、シンゴル王と妃メリアンの庇護の下、安全に暮らしていた。だがそんな時ナルゴスロンドからの知らせがドリアスに達した。トゥムハラドの合戦で生き残った者たちが、シンゴルの許へと避難してきたからである。彼らの言うことは様々であったが、黒の剣がドル=ローミンのフーリンの息子トゥーリンだ、ということだけは一致していた。これを聞いたモルウェン母娘の悲しみは大きかった。モルウェンはこのような疑念を抱かせることこそまさにモルゴスの仕業であり、真実を知ることもままならないのかと嘆いたが、トゥムハラドの合戦で彼が竜の兜を身に帯びていたことを聞くと[28]、真実だと悟り居ても立ってもいられず、メリアンの忠告にも耳を貸さずに、我が子を探すためにドリアスを発った。ただ娘のニエノールにはドリアスに残るよう言いつけた。シンゴルはマブルングを始めとした一隊を呼び集め、モルウェンを追い彼女を警護するよう、そして可能なら連れ戻すよう申し付けた。マブルング一隊はシリオン川の傍で彼女に追いつき、帰る意志はないか問うたが、モルウェンは物狂いのようになってそれを撥ね付けた。そのため仕方なく共に川を渡ったが、その時に彼女の娘ニエノールも一行に紛れ込んでいたことが露見した。モルウェンは即刻戻るよう命じたが、彼女は従わなかった。実の所ニエノールはトゥーリンを探そうと思ったわけではなく、自分が母親の行くところについて行くと言うことで、娘にも危険が振りかかる恐れが生じる事を案じさせ、出来得ればモルウェンをドリアスに引き戻そうと考えたのである。しかしモルウェンはその自尊心故に戻ることを拒否し、ついてくるよう娘に言った。マブルングはそれに呆れつつも、王命故に彼女らを警護せざるを得なかった。こうしてモルウェン一行は三日間進み続けてナログ川の東方にまで近づいた。そこでマブルングはアモン・エシアという山にモルウェン母娘と護衛騎士を残し、自らは偵察隊を率いて隠密裡にナルゴスロンドの方へ近づいて行った。しかしグラウルングはとうに彼らの接近に気づいていた。竜の眼は遠目の利くエルフのそれを上回り、アモン・エシア山頂に幾人かが残っていることまで見抜いていた。マブルングたちがナログ川の激流を渡れるところを探している最中に、突如グラウルングは打って出た。竜はナログの流れに身を浸したため辺りはたちまち蒸気で包まれ、マブルング達は盲になるほどの蒸気と竜の悪臭にたまらず、殆どの者がアモン・エシアの方角へ逃げ出した。だがマブルングは豪胆であったため、グラウルングがナログ川を乗り越えた際に、脇に退き隠れてその場に留まった。彼はトゥーリンに関しての事実を集めよとの王命も受けていたので、グラウルングが去ったら直ぐ様ナルゴスロンドの王宮内を探索しようと決意した。ナログ川を渡ったグラウルングはそのまま東へと進んだ。竜の来襲に気付いた護衛騎士達は、慌ててモルウェン母娘を連れて東へ全速力で逃げ戻ろうとした。しかし竜が起こした蒸気と悪臭が風に乗ってアモン・エシアに到達し、彼らを包み込んだため、馬たちが混乱して制御できなくなり、てんでバラバラに逃げ出す羽目になってしまい、そのためモルウェンが娘の名を叫びながら、霧の中に消えていっても何も出来なかった。以後彼女は行方知れずとなる。しかし娘の方は、落馬したものの幸い無傷ですんだ。彼女はそこで考えアモン・エシア山頂に戻るのが賢明だと思われた。いずれマブルング達が戻ってくるだろうと考えたからである。彼女は臭気と濃霧の中、山の方へ見当をつけて登り始めた。そのうちにようやく霧も薄れ明るい日光の中、頂に着くことが出来た。そして西方を見ると目の前にグラウルングの巨大な頭があった。丁度竜は反対側から這い登ってきていたのである。そして彼女は竜の邪眼を見てしまった。彼女はハドル家の血を引く強い意思の持ち主であったため、暫くの間竜に抗った。しかしグラウルングは持てる力を発揮し、彼女の目的と素性とを知った。竜は笑うとその邪視の魔力で彼女の心を闇で覆い、そして忘却の呪いをかけた。そのため彼女は意思を奪われ、自分が何者かさえもわからなくなり、身動きすることも出来なくなってしまった。そうするとグラウルングは満足したように己の巣へと戻っていった。一方マブルングはこの間フィンロドの館を探索していたのだが、竜の戻ってくる気配に気付くと直ぐ様そこから撤退した。しかし、途中で竜の嘲りとニエノールがどうなったかを聞かされて、急いでアモン・エシア山頂へ向かった。そこには様子のおかしくなったニエノールが一人佇んでいた。彼女は何の反応もせず、手を引けばただ大人しく付いて来るだけであった。マブルングはこの探索行の結果に臍を噛む思いで山を降りていった。ドリアスへと戻る途中、マブルングの仲間だった三人が二人を見つけ、一行はのろのろと進みようやくドリアスの国境付近にまで来た。そこで一行は疲れから眠り込んでしまった。そこを折悪しくオークの一隊に襲われた。オーク達は北方の暗黒の力が増大するに連れ、最近ではドリアスの境界近くをも徘徊するようになっていたのである。オークのおぞましい声にニエノールは目を覚まし、恐怖に駆られて逃げ出した。オークどもは彼女を追ったが、目が覚めたエルフたちも追いかけ、オークたちと戦闘になった。そして残らずオークを斬って捨てた後、二エノールを探したが彼女は最早見つからなかった。


その頃トゥランバールことトゥーリンは、数人の仲間とともにオーク退治に出かけた。その帰りに南方から稲妻と豪雨を伴った嵐がやってきたので、彼らはテイグリンの渡り瀬を使って近くの宿場へと道を急いだ。その時稲妻の閃光に照らしだされ、フィンドゥイラスの塚の上に横たわる乙女の亡霊らしきものが見えたため、トゥーリンは思わず震え慄いた。しかし仲間たちが駆け寄って見ると、それは人間の娘でまだ息があった。彼らは彼女を担ぎ上げ、トゥーリンは自分のマントを彼女に着せかけて(どういう理由か彼女は何も身に着けていなかった)、自分たちの小屋まで連れて行った。そこで彼女を介抱すると、彼女は意識を取り戻した。彼女の視線は彷徨うように彼らに向けられていたが、トゥーリンを眼に止めると表情に光が差し、彼女の心は安らぎを覚えた。彼女は彼から離れたくないと思った。そしてトゥーリンは彼女に食べ物を与え、彼女が食べ終えると、氏素性やどうして彼処にいたのかなどと色々尋ねた。だがそれらに彼女は何も答えられず、さめざめと泣いた。そこで彼は無理にそれ以上問い詰めるようなことはせず、彼女を仮の名前としてニーニエル(涙の乙女の意)と呼んだ。以後ブレシルの民から彼女はそう呼ばれることとなる。翌日、彼らは彼女を伴って、彼らの住処であるエフェル・ブランディアへと向かった。しかしその途上ニーニエルが瘧にかかったように震え出し、高熱を発した。彼らが住処に到着するとそこで彼女は長いこと病の床につくこととなった。その間に彼女はブレシルの婦人から言葉を習い覚え、ブランディアの癒やしの術により快癒した。しかしハウズ=エン=エルレスの塚の上にいた事や、それ以前のことは何も思い出すことが出来なかった。ブランディアは彼女に物を教えるため、二人で森を歩くことが多くなり、次第に彼女に惹かれていったが、彼女の心は常にトゥランバールに向けられていた。やがてトゥーリンもニーニエルを難からず思っていたので、向けられる好意に応えるようになっていった。この頃ブレシルの民たちはオークに悩まされることがなくなってきていたので、トゥーリンも戦いには行かずその平和を享受しているうちに、ニーニエルに結婚を申し入れた。しかしニーニエルは彼を愛しているにも関わらず、この時はその申し入れを一旦断った。というのもブランディアが引き止めたからであった。それは決して恋のライバルとしての妬みからではなく、何とも言えぬ不吉な予感がしたからであった。そして彼はトゥランバールと名乗っているが、真の名はフーリンの息子トゥーリンであると明かした。何故かその名を聞いた時、彼女の面には影が差した。トゥーリンは振られるとは思っていなかったので、意気消沈したが、彼女からブランディアに待つよう忠告を受けたからだと聞くと不愉快になった。しかし翌年の春トゥーリンは再度求婚し、もし受け入れられねば自分はここを去り、荒野の戦いに戻ると断言した。彼女はついに受け入れ婚約し、夏至の当日に式を挙げた。ブレシルの民は二人のために美しい家を建てて送った。二人は幸せの内にそこに住んだ。だがブランディアは苦しみ、彼の心は影に覆われた。


トゥーリンがブレシルに来て三年の後、ナルゴスロンド王国全域を支配下に置いたグラウルングは、竜王のごとく振る舞い、オークを招集するとブレシルへの攻撃を開始した。グラウルングの主たるモルゴスは、エダイン三王家の最後の一つが、未だブレシルに留まっていることを知っていたからである。モルゴスが彼らの存在を見逃すはずがなかった。結局ブランディアの隠れ潜んで民を存続させる、という考えは所詮無駄な足掻きであった。しかしオーク達が来襲した際、トゥーリンは戦には出なかった。ニーニエルの懇願に負けたからであった。彼は本拠地が攻撃された時のみ出陣すると、彼女に約束していたからである。だが今回のオークの来襲は今までと違い、ブレシル攻略を目的としたものだったから、ドルラスや彼の仲間は苦戦した。そこでドルラス達はトゥランバールに対して、ブレシルの民の一人であるならオークと戦うべきであると非難した。止む無くトゥーリンはグアサングを取り出すと、ブレシルの男たちを大勢率いてオーク共を完全に敗北せしめた。生き残った少数がナルゴスロンドに帰り着き、グラウルングに事の次第を報告した。竜はそれを聞いて激怒したが、黒の剣がブレシルにいるというオークの報告についてつらつらと考え、しばらく伏したまま動かなかった。その年の冬は平和のうちに過ぎ、トゥランバールの武勇を皆讃えた。しかしトゥーリンは坐して思案に耽った。今や黒の剣の所在は明らかとなった。これが吉と出るか凶と出るか。試練の時である。真にトゥランバール―<運命の支配者>となって、定めに打ち勝つか、それとも敗れるか。何れにせよグラウルングは殺す。彼は決意した。己の運命に逃げず立ち向かうことを。


翌年の春ニーニエルは身籠った。その頃エフェル・ブランディアに、ナルゴスロンドからグラウルングが出撃した、という噂がもたらされた。トゥーリンは偵察隊を送り出した。今やハレスの族は彼の差配に従い、ブランディアに注意を払うものは殆どいなかった。夏が近づく頃、竜はブレシルの国境近くで横たわり、住民たちに恐慌をもたらした。グラウルングは北のアングバンドへ帰るのではなく、ブレシルを襲うつもりでいることが明らかであったからである。だが使者の報告で、グラウルングがナルゴスロンドからこちらへ向かって一直線に進んで来ていることを聞くと、トゥーリンの心に望みが生じた。もしこのまま真っ直ぐにブレシル目指して竜が進むのなら、途中にある深い峡谷を超えなければならないからである。トゥランバールはブレシルの民に、全軍でこの竜にあたっても勝ち目はないこと、必要なのは狡知と幸運と少人数の腕利きだけだと述べ、他の者達には最悪の状況、竜にこの地が蹂躙されるのに備えて避難の準備をするよう言った。不安に惑う民たちに、トゥーリンはグラウルングがアザガールの一撃で逃げ帰った故事を引き合いに出し、彼はこれからグアサングを持って全力で竜の腹を狙うことを告げた。グアサングを引き抜き、高く掲げたトゥランバールは、ブレシルの黒き刺と呼ばれ喚声を受けた。そして自分と行動を共にする強者を募った。ドルラスがすぐに前に進み出たが、他に名乗り出るものはいなかった。そこでドルラスは人々を非難し、民の面前でブランディアの助言など役に立たぬと嘲りつつ、ハレス家の誉れのために働こうというものはいないのか、と叫んだ。ブランディアはこれに対して苦い思いを味わいつつも黙って耐えた。だがブランディアの身内であるフンソールがドルラスを叱責し、ブランディアにハレス家のために自分が彼の代わりに行くと言った。トゥーリンは三人で十分だろうと言いつつ、自分はブランディアを蔑ろにしているわけではなく、彼の賢さと癒やしの術は後々必要になるだろう、とフォローした。だがこれらの言葉はブランディアの苦い思いを一層強くさせただけであった。彼はフンソールにトゥランバールと行ってもよいが、許しは与えない、彼の影はフンソールに禍を呼ぶだろうとだけ言った。それからトゥランバールはニーニエルに別れを告げた。彼女は不安と悲しみで泣き崩れ、彼に取り縋った。しかしトゥーリンは自分は決して死なないと彼女に告げ、ドルラスとフンソールを伴って出立した。三人は遠くに竜から立ち上る煙を認める場所まで来た。卸も最後の斥候が待っていて竜はテイグリンの縁まで来ていることを伝えた。それを聞きトゥランバールは喜んだ。竜が迂回してテイグリンの渡り瀬に向かっていたなら、望みは潰えていたからだ。そして連れてきた二人に向かって、黄昏時になったらテイグリンに忍び寄り、気取られぬよう川までいけたなら、峡谷の底へ降りて激流を渡り、竜が動くときに通る道に出る、と言った。今やグラウルングは巨体であるゆえに、カベド=エン=アラスの峡谷を飛び移ろうとしているであろうから、そこを下から竜の土手っ腹を狙うという作戦であった。これを聞きドルラスは尻込みした。カベド=エン=アラスの峡谷は危険な場所だったからである。胆力のある健脚な男なら日中は渡れるかもしれないが、それを真夜中に渡河しようなどとは、この上なく危険なことであった。だが反対しても無駄であった。そして夕闇が落ちると彼らは行動に移った。


残されたニーニエルは不安の余り、このまま坐して待つ気にはなれず、結果を見届けるためトゥランバールの後を追った。そしてブレシルの民の多くも彼女に賛同し、彼女とともに出発していった。ブランディアは無謀であると言って止めたが、一団は聞き入れなかった。このため怒った彼は領主の地位を放棄し、トゥランバールを後釜に据えるがいいと言って、自分を歯牙にもかけなかった民への愛情を捨て去った。そしてニーニエルへの愛のためだけに松葉杖と滅多に挿さぬ剣を腰に、彼女たちの後を追ったが、足が不自由な彼は一団から遥かに遅れてしまった。


辺りが闇の帳に覆われた頃、ついにトゥーリン一行はカベド=エン=アラスに到達し、激流の流れる音が、他の音を消し去ってくれることを期待して、峡谷を這い降りて底に到着した。だがそこでドルラスの心は怯んだ。テイグリンの川は激流であり、しかも川には大きな石や岩が突き出していたからだ。それでもトゥーリンは先頭に立って進み、ついにこの流れを渡りきった。続いてフンソールも渡りきった。彼はハレスの族の中でも武勇において人後に落ちない者だったからである。しかしドルラスは渡ることが出来ず、引き返して森に隠れ潜んだ。テイグリンを渡りきった二人はドルラスに構わず、グラウルングの寝ている場所に向かって北上する道を探り始めた。峡谷は暗く狭くなり、手探りで進む中、二人はついに上方に火のちらつきを見つけると同時に竜の巨大な鼾を聞いた。そこで崖っぷちに近づくため、闇の中手探りで登り始めた。竜の腹を狙うためである。その時大きな音がし峡谷に谺した。グラウルングが眠りから覚め、ついに動き始めたのである。ブレシルを襲撃するために。だが事はトゥーリンの思い通りに運んでいた。竜は火を吐きながら、まず頭の部分を峡谷に渡し、その鉤爪で向こう岸になる崖をしっかり掴むと、次いでその長い体を向こう側に引きずり始めたからである。二人は大胆かつ迅速に動く必要に迫られた。というのも、竜の吐く炎は免れたものの、グラウルングの進路からは逸れた所にいたため、竜の真下まで急いで崖を横断しなければならなくなったからである。危険も顧みず、トゥーリンはよじ登って竜の真下まで行こうとしたが、その熱と悪臭に足がよろめき、崖から落ちそうになった。しかし後に続くフンソールが彼の腕を掴んで落下を防いでくれた。トゥーリンは思わず、大した胆力の持ち主だと彼を賞賛し、彼をパートナーにしたことが幸いしたと言った、その直後に大岩が崩れ落ちて来て、フンソールを直撃し彼は水中へと落ちていった。これが彼の最期であった。トゥーリンは自分に投げかけられた影が、新たな犠牲者を生んだことを嘆きつつも、一人竜に立ち向かうことを決心した。彼は持てる限りの意志と力を奮い起こし、そして竜とその主への憎しみから、グラウルングが峡谷を渡り終える前に、崖の横断に成功し、竜の真下まで来た。その時丁度竜の体の中央部が上を通り過ぎようとしているところだった。その巨体は重さの余り、トゥーリンの頭上すれすれまで撓んでいた。そこでトゥーリンは黒の剣を引き抜くと、竜の腹に柄まで通れとばかりに深く刺し貫いた。グラウルングはその致命的な一撃に、絶叫を発した。竜が断末魔の苦しみにのたうった際、トゥーリンの手からグアサングはもぎ取られた。竜は苦しみの余り向こう岸にまでその身体を投じ、悶え咆哮を上げると、その苦悶から暴れ回り、周囲を火と巨体で破壊すると、ようやく煙と焦土の中に長くなってピクリとも動かなくなった。トゥーリンは凄まじい疲労を覚えたが、這うように再度渡河すると、もと来た崖をよじ登った。そして竜の断末魔の場に来ると、ついに仕留めた仇敵をつくづくとうち眺めた。そこで彼は竜に近寄ると、腹に足をかけ、グアサングの柄を握り引き抜こうと力を入れた。その際にナルゴスロンドの城門前で、彼を嘲弄したグラウルングの言葉をもじって竜を嘲ると同時に、別の名の者を待つ必要はなかったなとも蔑んだ[29]。そして彼は剣を引き抜いたが、その時竜から吹き出した黒血が、その毒で彼の手を焼き、痛みに思わず彼は声を上げた。そこへ、まだ死んでいなかったグラウルングが邪眼を見開き、トゥーリンを凝視したため、彼は意識を失って、死んだように竜の側に打ち倒れた。


グラウルングの断末魔の叫びはニーニエルたち一行のもとにまで響いた。そこで皆恐怖し、竜が襲撃者を打ちのめし、勝利を収めたのではないかと疑った。しかしその場から敢えて動くようなことはしなかった。というのも、グラウルングが勝利したならばブレシルの拠点、エフェル・ブランディアへと向かうだろうと聞いていたからである。そこで彼らは竜の気配を伺っていたが、様子を探りに行くほどの剛の者はいなかった。ニーニエルはグラウルングの声を聞くと同時に、心が闇で覆われただ身を震わせるだけだった。そこへブランディアがやって来た。彼はようやく一団に追いついたのである。その場で、竜が川を渡ったことと、ブレシルの黒い棘と他の二人は死んだのだろう、という話を聞いた彼はニーニエルを憐れんだ。だがふと、黒の剣は死んだがニーニエルは生きている、そして竜はブレシルの拠点へと行ってしまっただろうと考え、彼はその間にニーニエルを連れて、共に逃げ出そうとした。自分を蔑んだ民のことはどうでも良かった。そこで彼女の手を取ると、テイグリンの渡り瀬に続く道を下っていった。その時彼女は立ち止まり何処へ行くのか尋ねた。ブランディアは竜から逃げるために遠くへ一緒に逃げるのだ、と答えたが、彼女は夫の元へ連れて行くのだとばかり思っていた、自分は夫を探すからブランディアは好きな様にすればいいと言うと、彼を置いてさっさと竜の渡河した方向へ進んでいった。ブランディアは呆気にとられていたが、一人で行ってはいけないと制止しつつ、慌てて自分も彼女の後を追った。だが彼はその足の不自由さ故に引き離された。どんどん先を進む彼女はハウズ=エン=エルレスに着いた。すると不意に恐ろしさに襲われ、一声叫ぶと背を向けマントを脱ぎ捨てて、白い衣装を月光に煌めかせながら、川沿いに南方向へ向けて走りだした。ブランディアは山腹からその姿を認め、彼女の通る道と出会う方向へと向かった。それでも彼はまだ彼女に追いつけなかった。そしてニーニエルはついに竜と彼女の夫が横たわっている場所にやって来たのである。月は冴え冴えとした光を投げかけ、辺りを照らしていた。彼女は竜の体と側に倒れている男を眼にした。彼女は恐怖も忘れて、最愛の夫であるトゥランバールの許へ駆け寄ると必死に声をかけ介抱した。だが応えはなかった。彼女の叫びを聞きつけたブランディアもその場に辿り着いた。しかし彼は動けなかった。というのも、ニーニエルの声に反応してグラウルングが身じろぎしたからである。竜はその邪眼を彼女に向けると断末魔に喘ぎながら言った。また会ったな、フーリンの娘ニエノールよ、喜ぶがいい、ついに兄妹が相見えたのだからと。そしてここにいるのが彼女の兄トゥーリンに他ならず、様々な禍事を行く先々で齎す者で、その中でも最悪の行為は、彼女自身が肚の中に感じているであろうと告げた。こうしてグラウルングは死んだ。ニーニエル、今やニエノールは愕然として座り込んだ。竜の死とともに忘却の呪いが取り払われ、すべての記憶が戻ってきた。彼女は恐怖と苦悩で震えた。それを聞いていたブランディアは恐ろしさの余り、木に縋り付いた。それからニエノールは突如跳ね起きると、トゥーリンを見下ろして別れを告げた。さようなら、二重に愛するお方よ、と。そして彼女は半狂乱になってその場を離れた。ブランディアは待つよう制止したが、彼女はもう全てが遅いと答えて彼の前から走り去り、カベド=エン=アラスの崖の縁に来ると、テイグリンの川に向かって呼ばわった。水が自分を抱きしめてくれるよう、ニエノール・ニーニエルを海まで運び去ってくれるよう。そうして彼女は崖から身を投げ、轟く激流の中へ消えたのである。


ブランディアは恐ろしさの余りその場を離れた。道中ドルラスと出会い、この男が仲間を見捨て、森に隠れ潜んでいたことを知り激高した。そして黒の剣をそそのかし、竜を呼び寄せ、フンソールの死を招いたのはお前のせいだと詰ると、ドルラスを斬り殺した。そして民のもとへ戻ると、竜とトゥランバールが死んだことを吉報だと述べ(これに民は彼は気が触れたのではないかと疑った)、さらにニーニエルも死んだことを伝えた。そして二人が実はフーリンの子で兄妹であったことも。そしてニエノールは川に身投げしてしまったから、トゥーリンの墓を作ろうと一団はその場を離れた。


ニーニエルが走り去るのと同時にトゥーリンは身じろぎした。彼女の声が聞こえたような気がしたからである。だが彼は疲労の余りこんこんと眠り続けていた。そして暁頃に眼を覚ました。ふと竜の毒血で焼かれた手を見やると手当がしてあった。それなのに地面に置き去りにされていたのが彼には解せなかった。そして疲れきった身でグアサングに縋りつつ、もと来た道を戻っていった。その時に彼を埋葬しようとしていたブランディア一行と行き会ったのである。人々は彼を見ると驚き恐れて後退った。亡霊ではないかと思ったのである。それにトゥーリンは自分は生きていること、竜は倒したことを言うと、誰かがブランディアを愚か者と呼んだ。彼が偽りの話をしたと思ったのである。しかしトゥーリンは、毒血で負った傷の治療をしてくれたのがブランディアだと勘違いし、愚か者呼ばわりした者を叱責した。そして知りたいことはたくさんあるが、まずニーニエルはどこにいるのかと尋ねた。しかし皆それに答えられず、ブランディアがここにはいないと答えた。彼女は死んだのだと告げた。それに対してブランディアに好意を持たないドルラスの妻が、ブランディアは気が触れているから聞き流せ、とトゥーリンに言った。トゥーリンの死を吉報だと言ったりしたのだからと付け加え、ニーニエルの話も何処まで本当やらと疑問を呈した。そこでトゥーリンはブランディアに近づくと、自分の死がいい知らせとはどういうことだと詰め寄り、ニーニエルのことで自分に嫉妬しているのか曲がり足めと侮辱した。ブランディアの心は怒りの方が憐れみに勝り、ニーニエルは身投げして死んだと言い、しかしそれはトゥーリンのせいであり、彼から逃げるため、彼に二度と会わぬためだからだと言った後、彼女がフーリンの娘ニエノールだと明かした。そしてグラウルングの死の間際の言葉を再現してみせ、トゥーリンに対して彼は彼の身内にも、彼を匿った者達にも禍をもたらす者だと言い返した。これを聞いたトゥーリンは、グアサングを握ると残忍な眼でブランディアを見た。というのもブランディアの言葉に、自分に追いつこうとしている運命の足音を聞いたからである。けれども彼の心はそれを認めようとはしなかった。ブランディアは己の死を予感したが怯まずに、自分は死を恐れはしない、愛するニーニエルを探しに行き、彼女を再び見出すのだと言った。激怒したトゥーリンは、偽りを吐くお前が見出すものはグラウルングだ、お前の魂の友である長虫とともに闇の中で朽ちるがいい!と叫びブランディアを斬殺した。それから彼は走り去るとハウズ=エン=エルレスにたどり着き、フィンドゥイラスの名を呼び良い智慧を授けてくれるよう叫んだ。これからドリアスに向かってグラウルングの最期の言葉を確認すべきか、それともどこか戦場に死を求めるべきか、何れがより禍をもたらすのか彼にはわからなかったからである。丁度そこへマブルングが完全武装した一隊を引き連れてやって来た。彼らはブレシルの黒い棘を目指してグラウルングが出撃した事を聞き及び、力を貸すためにやって来たのであった。しかしトゥーリンから竜を斃したことを聞き及ぶと、エルフ達は驚嘆し大いに彼を褒めそやした。しかし彼はそれに構わず、ドリアスにいるはずの肉親について尋ねた。エルフ達は答えなかったが、ようやくマブルングがモルウェン母娘に訪れた凶運について話した。こうしてついに運命がトゥーリンを捕らえたこと、ブランディアを殺したのは不当なことであったことを彼は知った。トゥーリンは憑かれたように高笑いして、全くひどい冗談だと叫んだ。そしてマブルングたちに自分の前から失せろと繰り返すと、 ああ、呪われよ、呪われよ、呪われよ!メネグロスも、マブルング達の用向きも呪われてあれ!と狂気に侵された如く叫び、彼らの前から走り去った。後に残された者達は呆気に取られたが、マブルングはなにか恐ろしいことが起きたに違いないと考え、トゥーリンを助けるため彼を追いかけた。しかしトゥーリンは彼らの遙か先を走り、追いつけなかった。彼はカベド=エン=アラスにまで来ると、グアサングを引き抜き、剣に向かって問いかけた。グアサング、死の鉄よ!汝は如何なる血にも怯まぬであろう。汝、トゥーリン・トゥランバールを受けるや?速やかに我が命を奪うや?すると驚くべきことに、黒き剣は答えを返した。然り、と。汝の命を速やかに奪ってやろう、と刀身から冷たい声が響いた。そこでトゥーリンは地面に剣の柄を立て、グアサングの切っ先に身を投じた。黒き剣は彼の命を奪った。そこへマブルング達がやって来て竜とトゥーリンの亡骸を眼にした。ブレシルの民も来たことで彼らから一部始終を聞き、トゥーリンの狂気と死の原因を知って、驚きに打たれた。やがてマブルングが悲痛な口調で、自分もまた運命の網に捕らわれてしまった。こうして自分の言葉でトゥーリンを死に追いやってしまったのだから、と言った。それから彼らがトゥーリンを担ぎあげると、黒の剣が粉々に砕けているのを見た。エルフと人間は多くの木々を集めると、竜の骸を焼き灰にした。そしてトゥーリンが倒れていた所に高い塚山を築くと、彼をそこに葬った。グアサングの破片も傍らに埋められた。それら全てをなし終えるとエルフと人間の詩人が哀悼の唄を歌い、大きな灰色の石を塚山の上に立てた。そこにはドリアスのルーン文字で、


              トゥーリン・トゥランバール ダグニア グラウルンガ

                      ニエノール・ニーニエル


と刻まれた。しかしその塚山に彼女はいない。テイグリンの激流が、彼女を何処かへと運び去ってしまったからである。


かくしてべレリアンドの全ての物語詩の中で、最も長いフーリンの子らの物語は終わる。



フーリンの彷徨


こうしてトゥーリン・トゥランバールは死んだが、モルゴスのハドルの族に対する彼の悪意はまだ満足していなかった。フーリンの妻は気狂いとなって荒野を彷徨い、息子と娘は非業の死を遂げたにも関わらず、彼はまだフーリンに敵意ある仕打ちをしようと考えていた。フーリンは不幸な運命にあった。彼はモルゴスの呪いの成果を、かの暗黒の王の歪んだ眼と耳を通じて、まざまざと見せつけられたからである。そしてモルゴスはシンゴルとメリアンによって成された全てのことに、邪悪な光を投げかけようと努力していた。というのも、彼は二人を憎み恐れていたためである。そして時至れりと考えた彼は、フーリンの子らが死んでから一年後、フーリンを束縛から解放し、何処へでも好きな処に行って良いと告げた。モルゴスはこの行為を、打ちのめされた敵に対しての、寛容さによるもののように装ったが、実の所彼の目的は、フーリンへのさらなる悪意のためであった。フーリンは、モルゴスの言うこと成すことは何であれ殆ど信じなかったが、冥王の嘘にひとしおの怨みを懐きつつ、彼は悲しみのうちに出立した。


フーリンがアングバンドに囚われていた期間は28年にも及び、解放された時には彼は60歳となっていたが、彼の負うた悲しみの重さにも関わらず、今なお彼の中には強い力が秘められていた。



ドリアスの滅亡


フーリンがメネグロスを去った後、シンゴルは玉座に座したままナウグラミーアを見つめていた。ふとその時に、これを作り直してシルマリルをそこに塡め込もう、という考えが心に浮かんだ。シンゴルはシルマリルを手に入れてからというもの、時が経つに連れ、彼の思いは絶えずフェアノールの宝玉に執らわれるようになっていて、最早メネグロスの宝物庫に大事に仕舞うだけでは飽きたらず、常に身につけていたいという気持ちになっていたからである。そこで彼はこの仕事をドワーフの職人に任せることにした。その頃のドワーフ達はエレド・ルインの彼らの都市からベレリアンドに旅をしており、サルン・アスラド(石の浅瀬)でゲリオン河を渡り、そうしてドリアスにまでやって来ていた。何故ならば、金属細工と石工の腕前にかけては、シンダール・エルフはドワーフには及ばなかったため、メネグロスの宮殿では彼らの業が大いに必要とされたからである。しかし今では、ドワーフ達は昔のように少人数でやって来ることはなく、道中の危険から身を守るために、充分に武装した大部隊でやって来るようになっていた。そしてメネグロスにはドワーフ用の居住スペースや工房が用意されていた。丁度その時は、ノグロドの優れたドワーフの工人たちがドリアスにやって来ていたので、シンゴルは彼らを召し出し、もし出来るのならナウグラミーアを作り直して、そこにシルマリルを塡め込んで欲しいと伝えた。ドワーフ達は彼らの父祖の傑作と、フェアノールの宝玉に魅入られた。そしてこの二つを我が物とし、自分たちの国に持ち去りたいという強い欲求に駆られた。しかし彼らはそれをおくびにも出さず、その仕事を引き受けた。この仕事は長いことかかった。その間、シンゴルは一人でドワーフ達の仕事場を訪れては、絶えずその進捗状況を見守っていた。やがて、ついにエルフとドワーフの各作品の中でも、最も優れたものがここで一つとなり、この上なく美しい芸術品が世に生み出されたのである。


シンゴルは早速これを手に取り頸にかけようとした。しかしドワーフ達はその手を押さえると、この首飾りを自分たちに引き渡すよう要求した。彼らは、この首飾りは今はもう亡い、フィンロド・フェラグンド王に対して贈呈されたものであって、シンゴル王にどうして所有権があるのかと問うてきた。ドル=ローミンのフーリンがナルゴスロンドから王の許へ持ち来たっただけではないかと言うのである。これに対してシンゴルは彼らの本心を読み取り、シルマリルを己が手に入れんがために、自分たちに都合のよい口実をこじつけ、難癖をつけていることを見抜いた。彼は激怒し自尊心から、べレリアンドの上級王たるこの自分に、野卑な種族であるドワーフが、よくもそんなことを要求してのけたなと言うと、自分は発育不全の種族であるお前たちの先祖が目覚めるよりも遥か昔に、クイヴィエーネンの畔で目覚めたのだぞ、と彼らを侮辱した。そして報酬なしで今すぐにメネグロスから立ち去るよう命じた。ドワーフ達はシルマリルへの欲望から、王の言葉に激高し猛り狂った。そして彼らはエルフ王を取り囲むと彼を殺めたのである。こうしてドリアス王エルウェ・シンゴルロは、メネグロスの地下深くで独り死んだのであった。


シンゴルを殺したドワーフ達は、ナウグラミーアを奪うと、メネグロスを出て東に逃れようとした。しかし王を弑した者達の殆どが逃れることは出来なかった。王の死の報せはドリアス中にすぐに行き渡り、復讐のための追跡部隊がドワーフ達に追いつき、これを殺したからである。ナウグラミーアは奪い返されて、悲しみに沈む王妃メリアンの許へと届けられた。しかし追手の追跡を逃れて、エレド・ルインのノグロドに命からがら帰り着いた者が二人いた。二人はメネグロスでの事の詳細は語らず、ただ報酬を惜しんだエルフ王によって殺された、とだけ報告した。殺された者の身内や仲間たちは、悲しみの余り鬚を掻き毟って泣くと同時に、激しい怒りが心に燃え盛った。彼らは復讐するため、ベレゴストのドワーフたちに援助を乞うたが、これは断られ、逆に思い止まるよう説得されたのだが、ノグロドのドワーフたちはそれには耳を貸さず、復讐のため大軍を組織して、ドリアスに向けて進軍していった。


一方その頃、ドリアスでは大きな変化が起こっていた。王妃メリアンは、シンゴルとの別れがさらに大きな別れへとなること、ドリアスの命運は最早尽きようとしていることを知った。というのも、メリアンはもともとはエルフではなく、聖霊たるアイヌアのマイアールに属する者であって、ただエルウェ・シンゴルロへの愛のためだけに、エルフの姿をとってこの地に縛られて来たのである。そしてその仮の姿でアルダに及ぼす力を得て、ルーシエンを産み、彼女の魔法帯によってドリアスは守られてきたのである。しかし今やシンゴルは死に、彼の魂魄はマンドスの館へと去っていた。そして彼の死とともに、メリアンは変わってしまい、彼女の守りの力もドリアスの地から失せてしまった。以後メリアンはマブルングを除き、だれとも口を利かなくなり、シルマリルに注意するよう、オッシリアンドにいる自分の娘とその夫に至急伝えるよう言い残すと、中つ国から姿を消してしまい、西の海の果てにあるヴァラールの国に、去っていってしまったのである。こうして魔法帯の消えたドリアスにドワーフの軍勢は易易と侵入した。彼らは殆ど抵抗を受けなかった。何故ならドワーフ軍は多数で猛々しく、対してシンダール・エルフの指揮官達は、王と王妃が急にいなくなったため、不安と絶望で何も出来ず、右往左往するばかりだったからである。ドワーフ達はそのまま進軍するとメネグロスに入り、ここに上古の代でも最も嘆かわしいことが起きたのである。ドワーフ達は多くのシンダールを殺し、シンゴルの宮殿で略奪をほしいままにし、シルマリルも奪われたからである。武勇に長けたマブルングも宝物庫の前で討ち死にした。この事は後々の世まで両種族の間での確執となる。


その頃ベレンとルーシエンは、オッシリアンドの最南に位置する川の中島トル・ガレンに住んでいた。彼らの息子ディオル・エルヒールは、ガラドリエルの夫ケレボルンの縁者ニムロスを妻とし、二人の間にはエルレードとエルリーンという二人の息子とエルウィングという名の娘がいた。ドワーフの大軍が石の浅瀬でゲリオンを渡ったという報せは、オッシリアンドのエルフたちにも伝えられ、そこからベレンとルーシエンにも伝わった。更にドリアスからも使いが来て、メネグロス内でドワーフ達が働いた狼藉が伝えられた。そこでベレンは立ち上がり、トル・ガレンを去るとディオルを伴って北へ向かった。オッシリアンドのエルフたちも多数彼に従った。メネグロスからの帰途についたノグロドのドワーフたちが、再び浅瀬にさしかかった時、彼らは不意打ちを受けることとなった。ドリアスでの略奪品を背負ったドワーフ達が、ゲリオンの土手を登った時、森中にエルフの角笛が響き渡り、一斉に矢が射かけられた。この最初の一撃で多くのドワーフが死んだ。しかしこの待ち伏せを遁れたドワーフもおり、彼らはエレド・ルイン目指して逃げたが、エント達が現れドワーフ達を森に追い込み、全滅させた。


この合戦でベレンは彼の最後の戦いを行った。彼はノグロドのドワーフ王を討ち取ると、ナウグラミーアを奪いとった。しかしドワーフ王は死に瀕しながら、ドリアスの財宝全てに呪いをかけた。そこでドリアスの宝はアスカール川に沈められ、この時からこの川はラスローリエル(黄金の川床の意)と名づけられた。しかしナウグラミーアだけは、ベレンの手でトル・ガレンに持ち帰られた。ドワーフどもが殲滅されたことを知ってもルーシエンの嘆きが止むことはなかった。しかしナウグラミーアとシルマリルを身に帯びた彼女は、彼女の美しさも相まって、トル・ガレンの地を至福の国の如くに変えたとされる。束の間ではあるものの、これ以上に美しく光に満ちた場所は、この世には存在しなかったと言われている。


一方ベレンとルーシエンの息子ディオルは、二人に別れを告げると妻や子供たちと共に、メネグロスへと出発し、無事到着した。シンダール達は彼らの来訪を喜び、王と身内の死や、いなくなった王妃を嘆いていた日々から立ち上がった。そしてディオルを王に戴きドリアスの王国を再建しようと務めたのである。そんなある秋の夜のこと、メネグロスに一人のエルフがやって来た。彼はオッシリアンドからやってきたエルフで、ディオルに目通りを願った。彼はディオルに無言で宝石箱を手渡すと、直ぐ様去っていった。箱の中にはナウグラミーアがあった。ディオルはこれを見て、ベレンとルーシエンは今度こそ本当に死んで、この世を去ったことを知った。後の世の賢者達が言うにはシルマリルの輝きが二人の死を早めたのだという。この宝玉を身に着けたルーシエンの美しさは、生者必滅の地にあって、あまりにも輝きが強すぎたのである。そしてディオルは今や父母の形見となった、ナウグラミーアをその身に付けるようになった。


シンゴルの世継ぎであるディオルがシルマリルを身に帯びているという噂は、ベレリアンドに四散したエルフの間でも知られるようになり、フェアノールの息子たちの耳にも入った。そこであの恐ろしいフェアノールの誓言が、再びその効力を発揮した。放浪していた七人は再び集まると、ディオルの許に使者を出し、シルマリルを引き渡すよう要求した。ディオルはこれに対し無視を貫いた。そこでケレゴルムは兄弟たちを煽動し、手勢を率いてドリアスに奇襲を仕掛けた。ここに二度目の同族殺害が行われたのである。ケレゴルムはディオルの手にかかって死に、クルフィンとカランシアも命を落とした。しかしディオルと妻のニムロスも殺された。ケレゴルムの召使い達は、幼いエルレードとエルリーンを捕らえると、無情にも森に置き去りにし、餓死するにまかせた。マイズロスはこのことを悔いて、ドリアスの森を何日もかけて探したが、幼い兄弟の姿を見出すことは出来なかった。こうしてドリアスは完全に滅ぼされ、再建不能となった。しかし滅亡させたフェアノールの息子たちも、求めていた物を手に入れることは出来なかった。というのも生き残った者達はシリオンの河口に遁れ、その中にはディオルの娘エルウィングもいた。今や彼女がシルマリルの持ち主となっていたのである。



ゴンドリンの没落


フオルの妻リーアンは、ニアナイス・アルノイディアドの2ヶ月前に彼と結婚し、子を懐妊した。


そこでモルゴスは、トゥアゴンと親しい人間の戦士フーリンを捕縛して28年の間拘禁し、その後慈悲を装って解放した。トゥアゴンに呼びかけるフーリンの行動によって隠れ王国ゴンドリンの所在をつかんだモルゴスは、ついにこの残り少ないエルフの拠点を陥落させた。しかしこのとき、トゥアゴン王の孫に当たるエアレンディルは無事に落ち延びていたのである。



エアレンディルの航海


成長したエアレンディルとその妻エルウィングは、大海を渡ってアマンにたどり着き、ヴァラールに中つ国の窮状を訴えて救いを求めた。こうしてヴァリノールからかつてない規模の軍勢が出撃し、西方からの干渉はもはやないと高をくくっていたモルゴスに決戦を挑んだ。モルゴスは全兵力で迎え撃ち、最終兵器の空飛ぶ竜まで投入したがついに破れた。再びアンガイノールの鎖で縛られたかれは、夜の扉の向こうの虚空に放逐され、エアレンディルによって見張りを受け続けることになった。


こうしてモルゴスはもはやアルダに手を出すことはできなくなったが、かれがエルフや人間の心に撒いた悪の種は決して消えることはなかった。


やがて起こるアルダ最後の戦い、ダゴール・ダゴラスにおいて虚空より帰還し、ヴァラールらとの戦いでマンドスの館から戻ったトゥーリンに心臓を貫かれ滅びるといわれている。



脚注





  1. ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.10 Morgoth's Ring』1993年 Harper Collins, 410頁


  2. ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.10 Morgoth's Ring』1993年 Harper Collins, 194および294頁


  3. ^ J.R.R. Tolkien, Patrick H. Wynne 『Vinyar Tengwar, Number 49』 2007年 Elvish Linguistic Fellowship 24-25頁


  4. ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.10 Morgoth's Ring』1993年 Harper Collins, 390頁


  5. ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.10 Morgoth's Ring』1993年 Harper Collins, 391頁


  6. ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.10 Morgoth's Ring』1993年 Harper Collins, 391頁


  7. ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.10 Morgoth's Ring』1993年 Harper Collins, 398から403頁


  8. ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.10 Morgoth's Ring』1993年 Harper Collins, 394頁


  9. ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.10 Morgoth's Ring』1993年 Harper Collins, 403頁


  10. ^ これはサウロンとオロドルインの関係に非常に似ている。というよりもむしろ、モルゴスとサンゴロドリムの関係が元になっていると言った方が正確かもしれない。


  11. ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.10 Morgoth's Ring』1993年 Harper Collins, 393頁


  12. ^ J.R.R.トールキン 『新版 シルマリルの物語』 評論社 2003年 8頁


  13. ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.10 Morgoth's Ring』1993年 Harper Collins, 52頁


  14. ^ アルダ初期において、メルコールのみでヴァラールを退却せしめ、中つ国の外へと追い出したことは注目に値する、とトールキンは記している。 J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.10 Morgoth's Ring』1993年 Harper Collins, 390頁


  15. ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.10 Morgoth's Ring』1993年 Harper Collins, 51頁


  16. ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.11 The War of the Jewels』1994年 Harper Collins, 342頁


  17. ^ この攻城戦には7ヴァリノール年、即ち約70年もの月日がかかっている、とトールキンは記している。 J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.10 Morgoth's Ring』1993年 Harper Collins, 75頁


  18. ^ J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.10 Morgoth's Ring』1993年 Harper Collins, 420及び421頁


  19. ^ トールキンの後期のアイディアでは、この合戦の2年後に起きるサウロンのトル=シリオン攻めを、ダゴール・ブラゴルラハと同時期に起きたものにするという案があった。その時トル=シリオンを守っていた、フィンロドの弟オロドレスは絶体絶命の危機に陥っていたが、この時南西方に逃れたケレゴルムとクルフィンが配下の騎兵に加えて、道中集められるだけ集めた軍勢でサウロンに立ち向かったため、オロドレスは命拾いをしたというものがある。しかしこの結果サウロンの力の前に、ケレゴルムとクルフィンと僅かな供回りだけを残して軍は壊滅し、トル=シリオンは奪われた。この働きがあったために、二人はナルゴスロンドで歓迎され両王家の痼は忘れ去られた、と出版されたシルマリルの物語よりも自然な流れになっている。J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.11 The War of the Jewels』1994年 Harper Collins 54頁


  20. ^ 出版された『シルマリルの物語』では簡潔にしか触れてないが、フィンゴルフィンの罵倒は『中つ国の歴史』シリーズではより詳細に書かれている。彼の罵倒内容は以下の通り。「姿を現せ、汝臆病者の王よ、そなた自身の手で戦え!巣穴に住まう者よ、奴隷の主にして、嘘吐きのこそつく者め、神々とエルフの敵よ、来い!汝の意気地のない顔をこの眼でしかと見てくれようぞ」J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.11 The War of the Jewels』1994年 Harper Collins 55頁


  21. ^ 『中つ国の歴史』での「灰色の年代記」では、アングバンドの鉄槌即ちグロンドによって大地に打ち倒されたとなっている。J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.11 The War of the Jewels』1994年 Harper Collins 55頁


  22. ^ エレイニオンはオロドレスの息子であるという設定もある。しかし『シルマリルの物語』中において、オロドレスとエレイニオンの間に血縁関係を示唆するような箇所は何処にもない。エレイニオンとの深い関連性が見受けられるのは、フィンゴンとキーアダン、第二紀に入ってからのエルロンドくらいである。


  23. ^ ここで何故副官たるサウロンが出張ったのか、『シルマリルの物語』ではハッキリとした理由は示されていないが、『中つ国の歴史』シリーズによれば3巻の『レイシアンの謡』16頁及び117頁ではモルゴスからサウロン(この時点ではスーという名であった)にメリアンの魔法帯を破壊してこいとの命令が下されたため、5巻の『Lost Road』283頁では、グラウルング(この時点ではグロームンドという名であった)もウルモの力の前にシリオンを渡る冒険はできなかったためとある。クリストファー・トールキンは前者の方を複数の箇所で見ることが出来、非常に興味深いと述べている。


  24. ^ 実はこの顛末に関しては、トールキンの中では別のアイディアもあった。フアンがルーシエンを助けるのは同じだが、彼女の眠りの外套を忘れてきてしまうのである。そこで彼女らは一計を案じる。ルーシエンの歌に気付いたサウロン(ここではスーの名になっている)の島へ何と彼女は助けを求めるのである。サウロンは彼女を招き入れるが、眠りの外套を忘れたためにサウロンに魔法をかけることは出来ないため、彼女はそこで作り話をするのである。ケレゴルムとクルフィンとフアンに捕らえられたが、何とか脱出して逃げてきた。しかしフアンに追われているとフアンへの嫌悪を装った。話を聞いたサウロンは、彼自身もフアンを嫌っていたため、あの兄弟ならさもあらんと信じこんだ。そこでさらにルーシエンは彼女を追うフアンが道中体調を崩したらしく、森の中で横たわっているようだと話す。これを聞き好機到来と見たサウロンは巨狼に変身すると、彼女の道案内でフアンが不意打ちを仕掛けようとしている所へ誘われる。そこで不意打ちを受け、サウロンの供回りはあっという間に殺され、碌な戦闘も起こらずサウロンは喉をフアンの牙で咥えこまれてしまう。あとの展開は『シルマリルの物語』と同じである。J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.3 The Lays of Beleriand』1991年 Harper Collins 256-257頁


  25. ^ 実は彼は『指輪物語』前に書かれたEQではボロミアという名であった。そう、ボロミアは当初東夷の名前だったのである。J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.5 The Lost Road and Other Writings』1987年 Harper Collins, 134,151,287頁など他多数


  26. ^ 彼にはアンドヴィーア(Andvír)という息子がいて、彼も無法者の一員にいたと『中つ国の歴史』にはある。彼は後のバル=エン=ダンウェズにおける虐殺を生き延び、シリオンの港へと避難し、そこでディーアハヴェルがナルン・イ・ヒーン・フーリンを作るのを手伝ったとある。おそらくドリアス出奔後から無法者としての生活、その後ゴルソルとして活動するまでのトゥーリンのことを話したのだろう。J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien 『The History of Middle-earth, vol.11 The War of the Jewels』1994年 Harper Collins, 311頁及び314から315頁


  27. ^ 刊行された『シルマリルの物語』では竜の兜はバル=エン=ダンウェズの虐殺以降登場しない。しかしトールキンはこれを後々まで登場させる意図があった。だがそのためにはトゥーリン救出の際に、兜も取り戻されていることにしなければならない。この点に関しては些かの問題はあるが、ここではトールキンの意図に従うこととする。J.R.R. トールキン クリストファー・トールキン 『終わらざりし物語』上巻 2003年 河出書房新社 215-216頁


  28. ^ これも『シルマリルの物語』と展開が異なるが、トールキンが意図していたものに従った。J.R.R. トールキン クリストファー・トールキン 『終わらざりし物語』上巻 2003年 河出書房新社 216頁


  29. ^ これも『シルマリルの物語』と展開が異なるが、グラウルングを退治した際も彼は龍の兜を身に帯びていて、竜の死の際に別の名の持ち主に関して竜を嘲るとの意図があったようである。ここではそれに従う。J.R.R. トールキン クリストファー・トールキン 『終わらざりし物語』上巻 2003年 河出書房新社 216頁






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