禁錮





禁錮(きんこ)とは、自由刑に作業義務等による区分を設けている法制度において作業義務を科さない刑罰のうち長期のものである。作業義務のある懲役や作業義務のないより短期の拘留と区分する。


なお、アメリカ合衆国、イギリス、フランスなど自由刑に区分を設けない法制度の刑種について公的な資料などでは「拘禁刑」と表現されている[1]。これらの国では長期の禁錮と短期の拘留のように刑種が別の区分になっていない。また、アメリカ合衆国やイギリスなどの拘禁刑には刑務作業が定められている場合があるものの、日本などの懲役刑が刑務作業を刑罰の内容としているのに対し、アメリカ合衆国やイギリスなどの拘禁刑は刑務作業を刑罰の内容として位置づけているものではない[2](後述)。




目次






  • 1 概説


    • 1.1 刑の区分


    • 1.2 漢字の表記


      • 1.2.1 一般での表記






  • 2 日本の禁錮


    • 2.1 法令での表記


    • 2.2 内容


    • 2.3 種類


    • 2.4 科刑状況


    • 2.5 禁錮以上の刑に関する欠格条項




  • 3 脚注


  • 4 関連項目





概説



刑の区分


禁錮は日本など自由刑に作業義務の区分がある法制度において所定の作業義務を科さない刑罰のうち長期のものである。作業義務の有無により懲役と区分する(禁錮の場合でも申請により作業を行うことはできる)[1]。また、作業義務を科さない刑罰のうち禁錮よりも短期のものは拘留という。


なお、自由刑に区分を設けない法制度の刑種については公的な資料などでは「拘禁刑」と表現されている[1]。日本語訳では便宜的に重罪の自由刑に「懲役」や「禁錮」の訳、軽罪の自由刑に「拘禁刑」の訳が当てられることもあるが、いずれも法制度上の作業の強制等を伴うものではない場合があり法制度に関する資料では「拘禁刑」と訳されている[1]。アメリカ合衆国の自由刑であるImprisonmentやイギリスの自由刑であるCustodIai Sentenceなどの刑も公的な資料などでは「拘禁刑」と訳される[3]。これらの自由刑には刑務作業が定められている場合があるため便宜的に「懲役」と訳されることもあるが、日本などの懲役刑が刑務作業を刑罰の内容としているのに対し、アメリカ合衆国やイギリスなどの拘禁刑は刑務作業を刑罰の内容として位置づけているわけではない[2]



漢字の表記



一般での表記


代用表記と言われると、戦前「禁固」という表記は全く使われなかったかのように思われがちだが、決してそうではない。明治期に発行された書籍にも極少数ながら「禁固」の表記が確認できる[4]。「禁固」は、それほど一般的な表記でなかっただけの話にすぎない。2010年11月30日に内閣告示された新しい常用漢字表では「錮」の字が含まれたので、以後は戦前と同じように、ルビなしで使うことが許容されることになった。マスメディアでも「禁錮」が用いられるようになっている。



日本の禁錮



法令での表記


法令での表記は時代によって変遷がある。制定時期と改正時期の違いにより、同一の法律内に複数の表記が混在しているものもある[5][6]



禁錮

単純に漢字表記したもの。戦前から1947年頃まで、及び2010年頃以降に制定された法令。検察庁法20条など。

禁こ、

「こ」を平仮名書きして、傍点を付したもの。1948~1954年頃に制定された法令。電波法107条など。戦後、政府は国語国字改革を推進し、当用漢字や常用漢字を定めるなど、法令・公文書・新聞・雑誌および一般社会で使用すべき漢字を限定した。その中には「錮」は入れられなかったため、平仮名に置き換えられた。

禁錮こ

「錮」に、ルビを付したもの。1955年頃~2010年頃に制定された法令。表外漢字であっても、交ぜ書きすると読みづらいとされたことから。法令内に複数回「禁錮」が出てくるときは、すべてにルビを振っている法令と、最初の1回だけにルビを振っている法令がある。

禁固

「錮」を「固」で代用表記したもの。改正刑法草案(1974年)で使用されたが、実際に成立した法令での使用例はない。マスメディアや一般社会では広く用いられてきた。














































































内容


禁錮は、自由刑の一種であり、受刑者を刑事施設に拘置する刑罰である(刑法13条)。


同じく自由刑である懲役との制度上の違いは、懲役では「所定の作業」を行わなければならないのに対して、禁錮ではただ拘置(監禁)することのみが定められていることにある。


しかし、願い出により刑務作業を行うこともできる(「請願作業」あるいは「名誉拘禁」などといわれる。刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律93条、刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則56条)。受刑者の大部分が作業への従事を望むのが実情で、2017年3月31日時点では受刑者の88.8%が作業に従事していた[7]。このため懲役と禁錮を区別する意義は薄いとする議論(自由刑単一化論など)も存在する。なお、調髪(男子の場合、丸刈り)の強制や全裸での身体検査が科されることは禁錮でも懲役でも同じである。


禁錮は強制労働が無いといっても独房の中で自由に動き回ることは許されておらず、就寝時以外は一日中看守の合図により正座と安座の繰り返しとなる。常に看守に監視され、不用意に動くと厳しく指導される。故に過酷な精神的負担を伴うので、捉え方によっては懲役より厳しいとする意見もある。願い出により刑務作業を行なうことが可能となっているのはこのためである。


古くは、禁錮は政治犯や過失犯に科されるもので、懲役は破廉恥罪(殺人、窃盗など道徳的に非難されるべき動機により行われる犯罪)に対して科されるものとする理解があった。その名残りとして、政治犯的性質を持つ内乱罪の法定刑には懲役がない。しかし、現代においては必ずしもこのように解釈されているわけではなく、例えば、過失犯は非破廉恥罪であるが懲役刑が科されることもある。



種類


禁錮は無期と有期とがある。



無期禁錮

無期禁錮は、死刑、無期懲役に次いで重い刑である。日本国の刑事法において法定刑として無期禁錮が定められている罪は、内乱罪(首謀者及び謀議参与者等)、並びに爆発物使用罪(爆発物取締罰則第1条)及び爆発物使用未遂罪(爆発物取締罰則第2条)のみである[8]

なお、死刑を減軽する場合は、無期の懲役若しくは禁錮又は10年以上30年以下の懲役若しくは禁錮となっているが、これは禁錮に当たる罪と同質の罪について、死刑を減軽する場合に無期又は10年以上30年以下の禁錮にするとされると考えられるため、懲役に当たる罪と同質の罪(例:殺人、外患誘致など)について、死刑を減軽する場合は無期又は10年以上30年以下の懲役となり、無期又は10年以上30年以下の禁錮にすることはできないと考えられる。同様に、無期禁錮を減軽する場合は、7年以上30年以下の禁錮として処断する(刑法68条、刑法71条など)。

有期禁錮

有期禁錮は、原則として1ヶ月以上20年以下である(但し、刑を加重する場合には30年まで、減軽する場合は1ヶ月未満にすることができる)。したがって、例えば「無期又は3年以上の禁錮に処する」罪の場合に有期禁錮を主刑として選択した場合には、裁判所は、原則として「3年以上20年以下」の範囲内で量刑を行うこととなる。


有期懲役と刑の軽重を比較するときは、「有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の二倍を超えるとき」は禁錮のほうが重い刑であるとされている(刑法10条)。

3年以下の禁錮刑を言い渡す場合においては、情状によって、その刑の全部又は一部の執行を猶予することができる(執行猶予)。



科刑状況


禁錮判決が確定した件数は次のとおりである[9]。95パーセント以上が執行を猶予されており、実刑判決の割合は低い。実刑判決でも大半は3年以下である。無期禁錮は、少なくとも1947年以降に言い渡された者はいない[10]


























































































































総数 有期実刑 一部執行猶予 全部執行猶予
2002年
3,510
233

3,277
2003年
4,017
254

3,763
2004年
4,215
214

4,001
2005年
3,904
249

3,655
2006年
3,696
237

3,459
2007年
3,547
211

3,336
2008年
3,367
187

3,179
2009年
3,362
193

3,169
2010年
3,351
148

3,203
2011年
3,229
118

3,111
2012年
3,227
105

3,122
2013年
3,174
116

3,058
2014年
3,124
73

3,051
2015年
3,141
73

3,068
2016年
3,193
56
0
3,137
2017年
3,065
68
0
2,997

※刑の一部執行猶予制度は2016年6月に導入されたが、2017年までに一部執行猶予を言い渡された者はいない。



禁錮以上の刑に関する欠格条項


禁錮以上(死刑、懲役、禁錮)の刑に処せられた場合について、法律や法令で欠格事由としている例があり、俗にいう「前科者」も「禁錮以上の刑に処せられた者」(または執行猶予中の者)を指すことが多いが、より厳格な例として「罰金以上の刑に処せられた者」(交通違反など)まで含まれることもある。


















































禁錮以上の刑に関する欠格事由
禁錮以上の刑に処せられて刑期満了 禁錮以上の刑に
処せられた者[11]
になっていない者 から2年経過しない者 から3年経過しない者 から5年経過しない者
国家公務員 国家公務員一般職
外務公務員
国会職員
裁判所職員
自衛官
国会議員[12]

運輸安全委員会委員長又は委員
検察官
国家公安委員会委員
裁判員
裁判官
人事官
精神保健審判員
電波監理審議会委員
土地鑑定委員会委員
日本放送協会経営委員会委員
公害健康被害補償不服審査会委員
運輸安全委員会委員
保護司
検察審査員[13]
地方公務員 地方公務員一般職
収用委員会委員
人権擁護委員
地方自治体首長[12]
地方議会議員[12]
海区漁業調整委員会公選委員[12]

固定資産評価審査委員会委員

教育委員会委員
都道府県公害審査会委員
都道府県公安委員会委員
公務員以外 特定独立行政法人職員
特定地方独立行政法人職員
株式会社取締役[12]
商工会議所会員
労働金庫役員[12]
農業協同組合役員[12]
宗教法人役員
農林中央金庫役員[12]
社会福祉法人役員
医療法人役員

特定非営利活動法人理事
特定非営利活動法人監事

商工会役員
適格消費者団体役員
日本スポーツ振興センター役員
地方競馬全国協会役員
地方競馬全国協会運営委員会委員
公益社団法人理事
公益社団法人監事
公益社団法人評議員
公益財団法人理事
公益財団法人監事
公益財団法人評議員
港湾運営会社役員
銀行等保有株式取得機構役員
国民生活センター紛争解決委員会委員
警備員

日本銀行役員
日本中央競馬会経営委員会役員
校長
教員
学校法人役員
国家資格 郵便認証司
介護福祉士
海事代理士
技術士
情報処理安全確保支援士
社会福祉士
精神保健福祉士
保育士

税理士
社会保険労務士
行政書士
公認会計士
司法書士
土地家屋調査士
中小企業診断士

建築士
水先人
宅地建物取引士
貸金業務取扱主任者

弁護士
弁理士
教育職員免許


脚注



  1. ^ abcd“諸外国の制度概要(資料6)”. 法制審議会. 2018年5月4日閲覧。

  2. ^ ab“第2回行刑改革会議”. 法務省. 2018年5月4日閲覧。


  3. ^ “諸外国の制度概要(資料1)”. 法制審議会. 2018年5月5日閲覧。


  4. ^ 絵本石山軍記. 第2篇 巻之6-10や憲法志料. 5篇 巻1(1877-1884刊)など。


  5. ^ 法制執務コラム集 - 参議院法制局


  6. ^ 電波法(1950年制定)では107条に「禁こ、」がある。改正で追加された99条の3にはルビ付きの「禁錮こ」があったが、後の再改正でルビが除かれて「禁錮」となった。


  7. ^ 『平成29年版 犯罪白書』第2編 第4章 第2節 - 法務省


  8. ^ 法定刑として禁錮が定められている罪 - 法務省


  9. ^ 検察統計年報・「審級別確定裁判を受けた者の裁判の結果別人員」 - 法務省


  10. ^ 犯罪白書


  11. ^ 刑法第34条の2により、刑期の満了後(満期での出所後)に、「罰金以上の刑」に処せられないまま10年以上経過した時は、欠格事由の対象外となる。そのため、必ずしも一生にわたって欠格事由を有するとも限らない。

  12. ^ abcdefgh刑の執行猶予中の者を除く。


  13. ^ 自由刑については刑期が1年以上の者のみ。



関連項目










  • 法律上の身柄拘束処分の一覧



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