サケ















サケ

Salmon (breeding color).jpg
オスどうしの争いや河川への遡上で背と腹の肉の一部がむき出しになり、ウイルスや細菌により白く変色した産卵期のオス(上)。下はメス。


分類

















































:

動物界 Animalia


:

脊索動物門 Chordata

亜門
:

脊椎動物亜門 Vertebrata

上綱
:

魚上綱 Pisciformes


:

硬骨魚綱 Osteichthyes


:

サケ目 Salmoniformes


:

サケ科 Salmonidae


:
サケ属 Oncorhynchus


:

サケ(またはシロザケO. keta


学名

Oncorhynchus keta
Walbaum, 1792
英名

Chum salmon、Salmon



0歳の稚魚(2004年5月 札幌市豊平川さけ科学館)




遡上する鮭(2005年11月)




産卵後の死骸。生息個体が特に多い小規模河川の河口部では、産卵期に多数見られる。ホッチャレとも呼ばれる。




孵化したてのサケ






























































































































サケ(切り身、生)[1]
100 gあたりの栄養価
エネルギー
120 kcal (500 kJ)

炭水化物

0 g

食物繊維
0 g

脂肪

3.77 g

飽和脂肪酸
0.84 g
一価不飽和
1.541 g
多価不飽和
0.898 g

タンパク質

20.14 g


ビタミン

ビタミンA相当量

(4%)
30 μg

チアミン (B1)

(7%)
0.080 mg

リボフラビン (B2)

(15%)
0.180 mg

ナイアシン (B3)

(47%)
7.000 mg
ビタミンB6

(31%)
0.400 mg

葉酸 (B9)

(1%)
4 μg
ビタミンB12

(125%)
3.00 μg
ビタミンC
(0%)
0 mg
ビタミンE
(7%)
1.09 mg

ミネラル
ナトリウム
(3%)
50 mg
カリウム
(9%)
429 mg
カルシウム
(1%)
11 mg
マグネシウム
(6%)
22 mg
リン
(40%)
283 mg
鉄分
(4%)
0.55 mg
亜鉛
(5%)
0.47 mg

他の成分
水分
75.38 g
ビタミンA
99 IU
コレステロール
74 mg



  • 単位

  • μg = マイクログラム • mg = ミリグラム

  • IU = 国際単位



%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。
出典: USDA栄養データベース(英語)

サケ(鮭 Oncorhynchus keta)は、サケ目サケ科サケ属の魚。狭義には種としてのO. keta の標準和名であるが、広義にはサケ類一般を指すことが多い。


ここでは種としての「サケ」、通称「シロザケ」について解説する。




目次






  • 1 別名


  • 2 生態


    • 2.1 分布


    • 2.2 生活史


    • 2.3 食物連鎖




  • 3 漁獲


    • 3.1 漁法


    • 3.2 鮭児




  • 4 料理


  • 5 アイヌとサケ


  • 6 文化


  • 7 自治体の魚


  • 8 その他


  • 9 脚注


  • 10 参考資料


  • 11 関連項目


  • 12 外部リンク





別名


生鮮魚介類として流通する場合にはシロサケ、アキサケ、アキアジ(アイヌ語の「アキアチップ(秋の魚の意味)」に由来する[2]。)などの名称も用いられる[3]。このほかの別名としてイヌマス、サーモン、メジカ、トキシラズ、岩手県では南部鼻曲り鮭、ブナ(いずれも河川に遡上したものを指す)などがある。トキシラズ(時知らず)は産卵期以外の時期に取れる季節外れの鮭の呼称。産卵のために栄養が疲弊していないので旬のものより美味いとも言われる。


上記呼称を含めて地方名も多く、アキザケとアキアジは北海道や青森県、秋田県、トキシラズとナツザケとラシャマスは北海道で使われる。なお、一部ではシャケとも称される[4]が、シャケとサケの関係については諸説ある。


「サケ」の語源については「サケ類」も参照のこと。



生態


遺伝的には地域差より河川毎の差が大きく、同一河川での年級毎(年ごと)の差は小さい。これは、高い母川回帰性のため河川間の交雑が起き難く、回帰個体の年齢にバラツキがあり年ごとの交配が行われていることを意味する[5]


飼育下では標津サーモン科学館が淡水でのメスの成熟にも成功し、次世代を得たことがあり、2009年(平成21年)には千歳サケのふるさと館が2例目の淡水でのメス成熟と産卵の成功例となった。また、2012年(平成24年)には富山県立滑川高等学校が国内3例目の成功例となる淡水でのメス成熟と成熟卵の抱卵を確認するなど、生態の研究が進められている。



分布


生息域は北太平洋(ベーリング海、オホーツク海、日本海を含む)と北極海の一部[6]


日本近海のサケの圧倒的多数は、安定した漁業資源確保のために北海道・東北地方を中心に人工的に採卵・放流される孵化場産シロザケが占めている。稚魚の放流が行われず、自然産卵のみのサイクルが維持されている河川も北海道、北陸・近畿・山陰地方にいくつか存在する。


日本で定常的に遡上が認められる南限の河川は、太平洋側は千葉県の九十九里浜に注ぐ栗山川であり、「酒(サケ)は銚子(ちょうし)に限る」ということわざの語呂合わせから太平洋側の南限は銚子付近といわれる[7]。日本海側は島根県の江の川の支流濁川で、その他オホーツク海沿岸、北極海の一部、ユーラシア大陸側は朝鮮半島以北の日本海沿岸、ベーリング海沿岸、アメリカ合衆国オレゴン州の河川に遡上・繁殖する。


近縁のカラフトマスとは分布や産卵期が重複し、産卵床の至適条件が似ているため交雑が生じ交雑個体が捕獲されることがある。交雑個体はサケマスと呼ばれ外見は双方の特徴を併せ持っている[8]。産卵床が作られる河床環境は、カラフトマスよりも流速が遅く砂礫質で湧水のある河床が選ばれる[9]。また、サケの稚魚が日中移動するのに対し、カラフトマスは主に夜間移動することが報告されている。


日本でサケとして販売されている輸入品サケ類の一部は、元来は自然分布域ではなかった南アメリカ大陸のチリで、日本の国際協力機構(JICA)の支援により養殖されたものがある[10]が、シロザケではなく海面養殖されたニジマスやギンザケである[11]



生活史


日本での遡上は高緯度地域ほど早く10月から12月で、北海道・東北地方の川が主であるが、本州中部から西部の日本海側や関東地方の川にも遡上し産卵する。水温8℃では、60日程度かかって孵化し50日程度で腹部の卵嚢の栄養分を吸収し終わると浮上する。浮上時は体長5cm程度でプランクトンを主とした捕食を開始する。浮上後から海水耐性が発達していて、3月から4月頃に日中に群れで移動し降海する[12]


日本系シロザケでは降海した当年魚は北海道沿岸を離れ夏から秋には千島列島のごく沿岸かオホーツク海[13]の水温8℃前後の水域を生活域とし、水温が5℃程度になると北西太平洋の限られた水域[14]に移動し越冬をする。越冬後はアリューシャン列島からベーリング海中部を餌場として表層から100m程度の水深まで分布し、秋には体長37cm程度まで成長する。水温が低下する冬期はアラスカ湾を主な生活の場[14]としながら夏はオホーツク海から北部太平洋[15]を回遊する生活を成熟まで繰り返す。河川生活期の餌はえり好みをせず、口に入る大きさのカゲロウ、トビケラなどの水棲生物を[16]、海洋生活期の餌は、稚魚期には主にウミノミ類、カイアシ類、オキアミ類[17][16]、成長するとホッケ類、イワシ類(コヒレハダカ)、他のサケ科魚類の稚魚などと考えられている。なお、成長しても夏はプランクトン、秋はイワシ類と季節で変化しているとの調査報告がある[16]


1-6年の海洋生活で成熟した個体は、母川に向け回帰し産卵活動を行う[18]。南下回帰時のルートは千島列島沿いとされ、1974年の調査では水深 5m から20m 程度の浅いところを泳いでいた[19]。産卵期の成魚の全長は平均で70 - 80cmだが、大きい個体では90cmを超えることもある。なお、成熟速度が著しく高く(早熟)、海洋回遊2年で母川へ回帰するオス成魚は、50cmに満たない。親魚は川を上っている間、餌を食べない。オスはその間に体高が高くなり(背っぱり)、上下の両顎が伸びて曲がる(鼻曲がり)。産卵・放精後の親魚は、1か月以上生きて産卵床を守るメスの個体もあるが、大半は数日以内に寿命が尽きて死ぬ。また、産卵期になると寿命が近く免疫力が低下するため、遡上中のみならず、まだ海中にいるものでも水カビ病に感染し上皮が白く変色することがある。個体によっては一見すると、まるで真っ白な別の魚のように見えることもある。



食物連鎖


河川生活期は摂食可能な水棲生物を[16]、海洋生活期は周囲に生息する餌としやすい生物を利用している[16]。一方、サケ幼稚魚を捕食者としている生物は、汽水域でウグイ、海洋でホッケ、ヒラメおよびカラフトマスが確認され[20]、サクラマスも捕食している可能性が指摘されている[21]。また、海鳥類のウトウとウミネコは重要な捕食種と考えられている[20]。更に、河川遡上後のサケはヒグマの主要な食料と認識されているが、ヒグマの栄養源のうちサケが占める割合は北米沿岸部の個体群では栄養源全体の30%以上であるのに対し、知床半島に生息するヒグマでは栄養源全体の5%にすぎなくなっているとされ遡上減による生態系への影響が懸念されている[22]



漁獲


日本系サケと若干のマス類は、先史時代から漁獲の対象となってきた。


かつて山内清男が縄文文化が東日本でより高度に発達した理由をサケ・マス資源の豊富さに求める説を唱えた。この説に対し当初は批判が多かったが、その後の発掘調査において東日本各地の貝塚でサケの骨が発見されるにおよび評価されるようになった。なお、平安時代の「延喜式」にも日本海沿岸諸国からの河川遡上魚の献上の記事が載せられている。また、江戸幕府(松前藩)によるアイヌ統治時代には、コンブとサケはアイヌ民族から和人への重要交易品目であった。後、サケの回帰性に着目した越後国村上藩(現在の新潟県村上市)の下級武士、青砥武平治は、宝暦13年(1763年)に「種川の制」を敷き、三面川にサケの産卵場所を設置した人工川を設けて、サケの自然増殖に努めた。


日本におけるサケの人工孵化と放流は、1876年(明治9年)茨城県の那珂川で試験的に行ったのがはじまりで、1888年(明治21年)に千歳川に中央孵化場が建設され本格化した。回帰率は、北海道沿岸では概ね5%であるが本州太平洋側では3%、本州日本海側では1%程度、回帰数は1997年(平成9年)から2007年(平成19年)までの10年間の平均で年間6270万匹である。



漁法


日本による沖合漁業については、1950年代に発効した国際条約をきっかけに再開され、1970年代に漁獲量がピークを迎えたとされる。その後1990年代には「北太平洋における溯河性魚類の系群の保存のための条約」(1993年発効)により活動海域が日本とロシアの沿岸200海里以内に制限されることになり、2007年(平成19年)度の沿岸漁業での漁獲量は21万トンで、定置漁業権に基づいて行われる定置網での漁獲が90%以上を占め中心となっている。ちなみに、日本全体の定置網漁の38%がサケ・マス類である。なお、北海道の千歳川流域では、産卵のために川に上るサケをインディアン水車により捕獲しているが、これは稚魚の人工孵化を行うための親魚確保が目的であり、一定量の捕獲に限られている。



鮭児


けいじと読む。けんちと呼ばれることもある[23]。知床〜網走付近で11月上旬、中旬に漁獲されるあぶらののった若いサケである。通常のサケと見分ける箇所は幽門垂である。腹を開けて胃袋の下側についている幽門垂の数を調べることで、その数が220個程度あれば「鮭児」である場合が多い。卵巣、精巣が未成熟である。漁獲量は普通のサケ1万匹に対して1 - 2匹程度しかなく、幻のサケといわれている。その身は大変に脂が乗っており(脂肪率が通常のサケの2 - 15%に対し、鮭児は20 - 30%である)、美味である。このため、高級食材として珍重されている。水産庁所轄の独立行政法人水産総合研究センターさけますセンター(現・水産総合研究センター北海道区水産研究所)の調査では、「鮭児」の遺伝子の解析結果より、日本の河川で生まれたものではなく、アムール川系のものであることが判明している[24]



料理




刺身





石狩鍋




焼き鮭と鮭茶漬け






サケは程よく油がのったクセのない身をもち、加熱すると独特の食感があらわれる。それらの特徴を引き立たせる様々な料理がある。


サケの身は赤いが、生物学的には体側筋が遅筋から成る赤身魚ではなく、速筋から成る白身魚に分類される。サケの赤色は遅筋の色の原因である酸素結合性タンパク質、ミオグロビンによるものではなく、餌として摂取された甲殻類の外殻に含まれるカロテノイドであるアスタキサンチンによる。産卵直前には皮膚と卵に赤色が移り、身肉は本来の白っぽいものになる。このアスタキサンチンは抗酸化作用などが注目され、多くのサプリメントや健康食品に利用されている。[25]


生食

生食には、ノルウェー産などの完全養殖物のタイセイヨウサケが使用されることが多い。衛生管理の行き届いた無菌状態の生簀で完全養殖したタイセイヨウサケは日本へ輸出時に冷凍し、解凍される。



  • 刺身(必ず冷凍し、解凍したものを用いる。もしくは衛生管理の行き届いた無菌状態の生簀で完全養殖したもの。寄生虫を恐れられていたサケの刺身食が始まったきっかけは、1980年代後半にノルウェーの養殖業者が日本へ輸出向けに考案した後者製品である)、ルイベ(冷凍状態の刺身)、寿司、海鮮丼、マリネ

サケ類には裂頭条虫科のサナダムシや、アニサキスといった寄生虫がいることが多いため、冷凍処理を行わないものを生食すると感染のおそれが高い。アニサキスは鮭の身を加熱するか、ルイベのように(日本の厚生労働省や各国の公的機関が通達する手順で)一旦冷凍することで死滅する。死骸になってもゴムのような弾力があるが、見た目(寄生虫の死骸を口に入れるという心理的抵抗感)を除いて魚肉とともに食べても基本的には問題なく害もないが、アレルギーがある場合もあるので食べない方が良い。


寿司屋などで食される刺身は、生け簀で養殖された個体か原則的に冷凍されたものを解凍したものである。


  • 氷頭(ひず:頭の軟骨)をたたきにしたチタタプ(アイヌ料理 citatap 肉や魚のたたき)


汁物・鍋料理




  • あら汁・潮汁


  • 石狩鍋:石狩地方発祥のサケと豆腐、野菜などを味噌で煮込む鍋。


  • 十勝鍋:道東地方で食され、石狩鍋に豚肉を入れたもの。


  • 三平汁:塩引きした鮭(新巻鮭)のあら、切り身を野菜と煮込む汁物。


  • すり身、つみれ団子





焼き物




  • 塩焼き、ムニエル、ポワレ、バター焼き、ホイル焼き


  • ちゃんちゃん焼き:バターを引いた鉄板に鮭の身を並べ、まわりにキャベツ・ネギ・もやし等を配して焼き、甘塩辛い白味噌を塗って食べる。





揚げ物


  • サケフライ、サーモンバーガー




漬物



  • 新巻鮭、飯寿司、塩辛、切り込み、めふん、氷頭なます




乾物



  • 燻製、スモークサーモン、鮭とば、ふりかけ、お茶漬けの素(お茶漬け海苔)




缶詰


  • 水煮、サケ缶(醤油煮)、サケの中骨



魚醤


サケの内臓などを原料に、塩と麹で仕込み、熟成させて作る。たくさんのサケの内臓が、産業廃棄物として処分されていたが、調味料として使用することで価値をつけることができた。


産卵期に入ったものは旨み成分であるアミノ酸類や脂肪分が卵や白子の形成に使われてしまうため、ルイベや焼き物、煮物料理には上記の鮭児や沖合いの漁場を回遊中のトキシラズのほうが美味であるが、山漬や新巻など長期塩蔵加工するものには脂肪分が少なく脂焼けしにくいことから、遡上を開始する前後のブナ模様が発現しはじめた個体のほうが適している。


焼いた塩鮭は、日本の朝食の典型の一つと考えられることもある。旅館、民宿などでは海苔、生卵などと共に焼いた塩鮭が出されることも多い。焼いた塩鮭は他にも、握り飯の種や弁当のおかずなどにも用いられることが多い。塩味をつけたサケの身を崩したものはフレークとして、お茶漬けの具、ふりかけ、サラダなどにも用いられることがある。秋田県の中央部~県南部では、焼いた塩鮭のことを「ぼだっこ」と呼ぶ。これは、佐竹義宣が関ヶ原の戦いの後に出羽国秋田郡へと転封された際、鮭の身の色を見て常陸国で食べた猪肉を思い出し「牡丹色のようだ」と言ったことが広まり、「牡丹っこ」が変化したものという説がある。


卵は塩漬けをした筋子として、あるいは粒をほぐしたイクラとして鮨などに用いられる。また雄の精巣(白子)は、DNAを豊富に含むため、抽出原料として核酸ドリンクや固形の健康食品のほか、医薬用、工業用に使われることが多い。


鮭の心臓は「どんぴこ」という名称で三陸沿岸で昔から食べられている。心臓のみならず肝臓の食感も、潮の香りの漂う鶏のモツといったところで、刻みネギとともにしょうゆ又は塩胡椒で味付けしたバター焼きや串焼きにすると美味である。また鮭の頭部の軟骨は「氷頭」(ひず、ひゅうずとも)言われ、これもマイナーながら通好みの食材として好まれている。氷頭は酢の物、膾として食べることが多い。頭部のゼラチン質の部分や眼の周りの脂肪分は焼き物や煮物にすると美味である。他にバター焼きにする、シチューの具に使うなどの調理法がある。この軟骨からプロテオグリカンを低コストで大量抽出する技術を、青森県の弘前大学と商社の角弘が開発し、サプリメントなどに利用されている[26]


稚魚はイカナゴのように、佃煮にすると美味である。


近年では鮭の背骨(中骨という)を柔らかく煮てそのまま食べられるように加工された物も存在する。これは主に缶詰として流通される。鱗は海洋性コラーゲンの製造原料になる。


このように捨てる部位がほとんどなく、内臓や骨なども料理の出汁になるのを含めれば事実上無駄になる部分はない貴重な魚ともいえる。また、前述の鮭の回帰性を発見した青砥武平治を生んだ新潟県村上市には、100種類以上にも及ぶ鮭料理が伝わっている。



アイヌとサケ



北海道のアイヌ民族は鮭をカムイチェプ(神の魚)、またシペ(本当の食べ物)と呼び、生活の大半をその恵みに依存していた[27]


漁期が近づけば天空の天の川を見上げて「天の石狩川」「天の天塩川」など、その地一番の大河になぞらえ、どこが一番濃く見えるかで漁の豊凶を占った。白老や登別付近では、頭がハゲたカラスが現れれば、豊漁の兆しとしてよろこんだ。


やがて最初に上って来た鮭を捕らえるや、それを神に捧げる「アシリチェプカムイノミ」(新たなる鮭の祈祷)を行い、イナウとトノト(どぶろく)を共に捧げて祈った。サケは回転式の銛「マレク」で突くか、ウライ(簗)で捕らえ、水量のあるところでは2艘の丸木舟の間に網を張って漕ぎ、サケを追い込む「ヤーシ漁」(網漁)を用いた。W字型をした天空のカシオペヤ座は2艘の舟と網に似ていることから、アイヌは「ヤーシ・ノッカ」(網曳き形の星)と呼ぶ。暴れるサケはそれ専用に作られた神聖な棍棒「イサパキクニ」で打って止めをさす。鎌などで引っ掛けることは神を冒涜するものとされた。漁期には物忌みが守られ、生理中の女性は川に近づくことを許されなかった。


サケは河口のコタンで独り占めはせず、上流部へもいきわたる様に節度を持って獲る。そしてチポロ(イクラ)やウプ(白子)を持った美味いサケを狙うのではなく、産卵を終えて弱ったサケ「ホッチャレ」を重点的に獲った。来年への資源確保も重要だが、脂肪が抜けきった「ホッチャレ」のほうが乾燥保存に向く、という事情もあった[28]


こうして獲られたサケは、一部を当座の食用に回すほかはすべて保存食に加工した。腹を割いて内臓を取り除き、戸外の物干し棚にかけて乾燥させる。屋内の囲炉裏の上に吊り下げ、燻製にする。あるいは雪の中に埋めて凍らせる。乾燥サケを「サッ・チェプ」(乾いた魚)、もしくは「アタッ」と呼ぶ。食べる際は水に戻し、魚油を加えて旨味を足しながら煮込む。凍ったサケが、有名なルイベである。食べる際はマキリ(小刀)で大まかに切り分け、ヤナギの串に刺して火にあぶって解かし、少量の塩で味をつけて食べる。塩は交易でのみ得られる貴重品なので、保存料として大量には使えなかった。アイヌの伝統的な食文化に、塩引き鮭、新巻鮭は存在しない。


アイヌの代表的な鮭料理としてはルイベのほか、「チェプオハウ」(鮭の煮込み汁)、「チタタプ」(エラと白子のたたき)、「チポロサヨ」(イクラ粥)が挙げられる。特に白米のチポロサヨは鮭の漁期に貴重な白米が入手できてこそ作られる料理であり、大変なごちそうだった。



文化



  • 年取り魚 - 東日本では、年末年始に食べる文化。


自治体の魚



  • 県の魚

    • 岩手県(1992年2月21日制定)制定名は『南部さけ』[29]


  • 市の魚


    • 千歳市(1996年11月1日制定)


    • 宮古市(2006年6月6日制定)[30]





その他



  • サケから取れる白子を利用することで、鉱石からレアアース採取を容易にできるようになる手法を広島大学[31]とアイシン・コスモス研究所らの研究グループが開発した。白子に含まれるリン酸がレアアース(特にツリウム・ルテチウム)吸着を高めることがわかったためである。白子に化学的処理を施せば、あらゆる種類のレアアースにも対応できることもわかっていると報道された[32]


  • 福島県の奥会津には「鮭立」という地名がある。同地にある「鮭立磨崖仏」という洞窟は、昔住んでいた修験者の法印宥尊が江戸時代に起きた天明の飢饉の惨状を知り、五穀豊穣と疫病退散を祈って数十年の歳月をかけてつくったと伝えられている。



脚注


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  1. ^ Basic Report: 15079, Fish, salmon, chum, raw Agricultural Research Service , United States Department of Agriculture , National Nutrient Database for Standard Reference , Release 26


  2. ^ 『漢字百話 魚の部 魚・肴・さかな事典』 大修館書店、1987年11月1日。ISBN 4-469-23045-6。


  3. ^ “魚介類の名称表示等について(別表1)”. 水産庁. 2013年5月29日閲覧。


  4. ^ サケ(シロサケ)/サーモンミュージアムマルハニチロ(2018年1月31日閲覧)


  5. ^ シロサケ集団におけるIDHおよびLDHアイソザイムの地理的分布 日本水産学会誌 Vol.45 (1979) No.3 P.287-295, doi:10.2331/suisan.45.287


  6. ^ サケ(シロサケ)/サーモンミュージアムマルハニチロ(2018年1月31日閲覧)


  7. ^ 森田 保『千葉県 謎解き散歩』新人物往来社、2011年、ISBN 978-4-404-04079-4、P245-247


  8. ^ 市村政樹、柳本卓、小林敬典 ほか、北海道東部根室海峡周辺で採集された「サケマス」のDNA 分析による交雑判別 日本水産学会誌 Vol.77 (2011) No.5 P.834-844, doi:10.2331/suisan.77.834


  9. ^ サケとカラフトマスの産卵環境 (PDF) 独立行政法人 水産総合研究センター さけますセンター


  10. ^ チリ水産養殖プロジェクト JICA、2018年1月31日閲覧


  11. ^ 出村雅晴、魚粉価格の動向と養殖漁業への影響 農林中金総合研究所


  12. ^ サケ稚魚の生態調査(5)降海期に於けるサケ稚魚の行動について 北海道さけ・ますふ化場研究報告


  13. ^ 上野康弘、石田行正、日本系シロザケ幼魚の夏季の分布と回遊経路 (PDF) Bulletin of the National Research Institute of Far Seas Fisheries (33), 139-147, 1996-03

  14. ^ ab浦和茂彦、日本系サケの回遊経路と今後の研究課題 (PDF) さけ・ます資源管理センターニュース, 2000, No.5


  15. ^ 北西太平洋における冬季のサケ・マス分布 北海道大學水産學部研究彙報,26(1): 87-98 (PDF)

  16. ^ abcdeサケは海で何を食べているのでしょう? (PDF) 水産総合研究センター salmon情報第6号 2012(H24)年3月


  17. ^ 北海道太平洋沿岸域におけるサケ幼稚魚の摂餌特性と餌料環境に関する研究 さけます資源管理センター研究報告第7号1-104頁(2005) (PDF)


  18. ^ シロザケ 北海道立総合研究機構水産研究本部 (PDF)


  19. ^ 南千島、エトロフ島沖合における南下回遊期のシロザケ(アキザケ)の遊泳行動 (PDF) 遠洋水産研究所報告

  20. ^ ab長澤和也、帰山雅秀、日本沿岸水域における魚類と海鳥類によるサケ幼稚魚の捕食 北海道さけ・ますふ化場研究報告 1995, (45), p.41-53


  21. ^ 田子泰彦、降海期サクラマス幼魚によるサケ稚魚の捕食試験 富山水試研報 15号, p.1-10(2004-03)


  22. ^ “知床ヒグマ“サケ離れ” 開発で遡上減響く 栄養源のわずか5% 京大院生ら実態解明”. 北海道新聞 (北海道新聞社). (2014年7月20日). http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/552322.html 


  23. ^ コトバンク鮭児とは[1]


  24. ^ 鮭児(ケイジ)とは


  25. ^ 独立行政法人水産総合研究センター さけますセンー (2007年5月11日). “さけますQ&A”. 2008年4月15日閲覧。


  26. ^ プロテオグリカン応用研究プロジェクト弘前大学(2018年1月31日閲覧)


  27. ^ 萱野茂「アイヌ料理」154頁。


  28. ^ 萱野茂「アイヌ料理」159-160頁。


  29. ^ “岩手県のマーク、花、鳥、木、魚などを紹介します。”. 岩手県ホームページ. 2014年7月17日閲覧。


  30. ^ “宮古市の花、木、鳥、魚”. 宮古市ホームページ. 2014年7月18日閲覧。


  31. ^ DNAや白子を用いた レアアースの分離・回収広島大学 研究助成金事業報告書 平成26年


  32. ^ 「サケの白子」でレアアース分離・回収 広島大とアイシン・コスモス研 SankeiBiz 記事:2013.5.18 閲覧:2015.6.18




参考資料



  • 帰山雅秀著、日本水産学会監修 『最新のサケ学』(B6) 成山堂書店〈ベルソーブックス〉、2002年10月28日。ISBN 9784425851010。

  • 水産庁 水産総合研究センター (2006年3月31日). “平成15年度 国際漁業資源の現況”. 2008年4月15日閲覧。

  • 水産庁 水産総合研究センター (2006年4月10日). “平成17年度 国際漁業資源の現況”. 2008年4月15日閲覧。

  • アイヌ文化保存対策協議会・編『アイヌ民俗誌』、第一法規出版、1969年。


  • 萱野茂「アイヌ料理」、『日本の郷土料理』1巻(北海道・東北I)、ぎょうせい、1986年。

  • 岸上伸啓・編『世界の食文化』20巻(極北)、農山漁村文化協会、2005年。


  • 更科源蔵『歴史と民俗 アイヌ』]社会思想社、1969年。

  • 更科源蔵『アイヌ伝説集』、みやま書房、1981年。


  • 萩中美枝・畑井朝子・藤村久和・古原敏弘・村木美幸『聞き書きアイヌの食事』(日本の食生活全集48)、農山漁村文化協会(農文協)、1992年。



関連項目







  • 食物アレルギー

  • 千歳サケのふるさと館

  • 標津サーモンパーク

  • 鮭の日



外部リンク



  • 独立行政法人水産総合研究センター さけますセンター
    • 入江隆彦、北日本の太平洋海域に出現する離岸期サケ稚魚の起源と回遊経路 日本水産学会誌 Vol.51 (1985) No.7 P.1103-1107, doi:10.2331/suisan.51.1103


  • サーモンミュージアム(鮭のバーチャル博物館)


  • サケ (シロザケ) 日本系 (PDF) 水産庁•水研総合研究センター


  • 【探訪】江戸時代からの伝統鮭漁 新潟県三面川 産経新聞撮影

  • 帰山雅秀、サケ科魚類の生活史戦略と個体群動態に関する研究 日本水産学会誌 Vol.72 (2006) No.4 P628-631, doi:10.2331/suisan.72.628



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